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第二話 罵声と名声


 魔物と剣が両方とも消滅したのを確認するとブレンは急いで馬車へと戻る。一方馬車では、レティ以外の御者や乗客たちが一様にブレンに注目していた。


 「お客様、魔物の退治に協力してくださりありがとうございます。お怪我はございませんか?」

 「俺は平気だ。それより、他の人たちへの被害は?」

 「おかげ様で全員無事です。ただその……あの子に関しましては……」


 御者が言葉を濁す。その理由をブレンは察していた。乗客たちがブレンに称賛の眼差しを向ける中で、一部恨みがましそうに逃げてきたあの女の子をじっとにらみつける者たちが居たからだ。


 「レティ、それと君も。怪我はないか?」

 「レティは平気です。ごすじんさま」


 ブレンが居るという安心感から平静を保っていたレティに対して女の子の方はまだビクビクと震えていた。無理もない。先ほどまで魔物に追い掛け回されて殺されかかっていたのだ。

 そんな彼女の前にブレンは膝をつくとゆっくりと落ち着かせるようにして話しかけた。


 「名乗るのが先だよな。俺はブレン。この子は連れのレティ。それで、君の名前は?」

 「えっと……ナナ、と言います。ナナ・カスペルバーグです」


 それでようやく落ち着いたのかナナは大きく息をつくとその場にへたり込んでしまった。


 「カスペルバーグ? ひょっとして―――」

 「ちょっと待てよ! 速くそいつを追い出してくれ!」


 ブレンが御者に頼もうとしたときだった。乗客の何人かがいらだってブレンとナナに詰め寄ったのだ。


 「そいつは魔物に追われていたんだぞ! この馬車に乗せて、俺達が襲われたらどうする!!」

 「そうよ! 迷惑だわ! 次はもっと大勢で襲ってくるかもしれない!」

 「もしそうなったら、責任とれるのか!? えぇ!!」


 怒鳴り散らす乗客たちに対してナナは所在なさげにうつむくばかりだった。だが


 「その時は俺が対処します。それにこの子も助かりたい一心で飛び込んだだけなんだ。もしあなた達なら、どうしていた」

 「そんな話してないだろ! もしお前が失敗したらどうするんだ!!」


 ブレンが低い声でナナをかばい、レティは彼女の身体に寄り添う。しかし彼らは納得できず、ブレンたちに怒声を浴びせた。


「あ、あの。やっぱり私、歩いて帰ります。どうも、ありがとうございました……」

「ほら見ろ! そいつもそういっているんだ、馬車から降ろせ!」

「正気か!? 今度こそ死ぬぞ!」


とうとうナナまでもが責任を感じて馬車を降りると言い出す。このまま水掛け論に発展するかと思われた時だった。


 「あの、お客様。名簿を確認した時にもしやと思ったのですが、あなた様はあの有名な《帯剣の騎士》ブレン・ガンダフ様では?」

 「え? ああ、そうだけど?」


 そのブレンの一言に、乗客たちはいっせいに口をつぐんだ。そしてブレンがストーキングウルフ三体を蹴散らした時以上に目を見張り、信じられないという感情をあらわにしている。


 「え? どうした?」

 「うそ……本物の《帯剣の騎士》……?」


 驚いたことにナナまでもが乗客たちと同じように目を見開いている。その空気を見抜いた御者は畳みかけるように言いつのった。


 「皆様。こちらにいらっしゃるのは駐屯騎士団一と名高い《帯剣の騎士》ブレン・ガンダフ様でございます。王都にお住まいだった皆様も有名はよくご存じでしょう。その方が護衛してくださるのでしたら、お任せしても大丈夫なのではないでしょうか」

 「で、でも……駐屯騎士団をクビになったって」

 「実力不足ではなく規則違反が理由であると伺っております。ブレン様の腕前それ自体は何ら衰えていないかと」

 「むう……」


 御者の言葉に、ナナを非難していた乗客たちもさすがに押し黙る。交渉事をあまりしたことがないブレンだったが、これは説得まであと一歩だと気が付いた。


 「ナナを乗せるよりこの場に留まる方が危険だぞ。この幌馬車には隠ぺいの結界魔術が仕込まれてはいるが、魔力切れを起こせばおしまいだ。早く安全な場所に移動したほうがいい」


 果たしてブレンの説得は功を奏した。とうとうナナを乗せていくことに対して誰も反対の声を挙げなくなったのだ。


 「ありがとうございます。御者さん」

 「いえいえ……あの、あとでサインをいただいても?」


 冗談めかして言った御者が元の席に戻り、再び幌馬車が動き出す。魔物に襲われて動揺していた乗客たちも今はブレンが居るという安心感からか、穏やかな様子で横になり、寝息を立てている者もいる。

 そしてそれはレティとナナも同じだった。だが安心してブレンの膝に頭を預けて眠るレティと違い、ナナは新しく貸し出された毛布をかぶり、寝たふりをしながらじっとブレンの顔を見ていた。

本作を読んでいただきありがとうございます!


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