第一話 真夜中の遭遇
森の中のかすかな悲鳴に気づいたのはブレンだった。馬車の中で寝ころんでいた身体をばねのように跳ね起こすと幌から顔を出して周囲を伺う。
「うみゅ……ごすじんさま? どうかされましたか?」
眠い目をこすってレティが尋ねる。ゆっくり眠っていた彼女にブレンは静かに近寄ると頭を撫でた。
「ごめん、うるさかったな。悲鳴みたいなのが聞こえたんだ」
「ひめい……? そ、それって、誰かが大変な目に会っているんじゃ!?」
誰かが襲われている。そのことにレティは一気に目が覚めるとにわかに慌てだした。
「ご、ごすじんさま! 急いで助けないと!」
「落ち着け。とりあえず御者に相談して―――」
ブレンが言うや否やだった。突然馬車が急停止すると、馬のいななきが眠っていた乗客たちをたたき起こしたのだ。
幌馬車の荷台がざわめきに満たされる。そこへ馬車を操っていた40代くらいの御者が顔をのぞかせると申し訳なさそうに口を開いた。
「お客様方。レダホースが魔物の気配を察知したので、しばらく停車いたします。この馬車の安全は結界魔術により保障されておりますので、しばらくお待ちください」
乗客たちは不安げな顔を見合わせるが、特に御者に対して不満をあげる者はいない。しかしブレンは険しい表情のまま森の中をにらんでいる。
「嫌な予感がするな。レティ、馬車の中に―――」
「ご、ごすじんさま。何か来ます!」
レティがおびえた視線を森の中に注ぐ。その次の瞬間、ブレンは剣を呼び出すと幌馬車から飛び出していた。
それと同時に、真っ暗な森の中から悲鳴と共に誰かが駆け出してきた。女の子だ。
「た、助けてくださぁぁい!!」
「こっちだ! 誰か、この子を引っ張り上げてくれ!」
ブレンが叫ぶ。それに反応した数人の大人たちが森から飛び出してきた女の子を馬車の中へと引っ張り上げたその時、森の中からまだらな緑色の体毛をしたオオカミたちがぬるりとはい出てきた。
「ス、ストーキングウルフ!? どうしてこんなところに!!」
そう叫んだのは御者だった。ストーキングウルフは名前の通り臭いを追いかけてどこまでも追いかける魔物である。不都合なのは臭いを追いかける魔物であるため、視覚的に隠ぺいする幌馬車の結界ではストーキングウルフからは逃げられないことだ。
「に、逃げてください! そいつらは魔物で、かまれたらひとたまりもありません!!」
「バカ! あんたが逃げ込んだからあいつらこっちに来るだろうが!」
「ひっ! やめて!!」
馬車の中で怒号が響く。半ばパニックに陥りかけた数人の乗客が女の子に掴みかかったその時、彼女の袖をつかんで引っ張る者がいた。レティだ。
「あぁ!? なんだお前は! そいつに味方するのか!? えぇ!?」
女の子を放り出そうとした男の一人が怒鳴る。しかしレティはわずかにおびえて体をすくませながらもできるだけその男を無視し、女の子を見上げて言った。
「あ、あの私やっぱり離れます! ここに居たらご迷惑を―――」
「お姉さん」
取り乱す女の子をレティがなだめる。彼女はしっかりとした視線で女の子を見つめると確信をもっていった。
「ごすじんさまは大丈夫です。とっても強いですから」
それからレティは乗客たちを見渡して同じことをもう一度言う。こんな時に何を言っているのかと乗客たちがいぶかしんだ瞬間だった。馬車の外から「ギャンッ」と獣が悲鳴を上げたのだ。
「な、なんだ!?」
乗客たちのうち何人かが外を覗く。するとそこには、剣を手にオオカミたちを追い回す男の姿があった。言わずもがな、先ほど飛び出したブレンだった。
ブレンはオオカミの首を斬り飛ばすと勢いそのままとびかかってきたオオカミの牙を革のアームガードで受け止める。そうして捉えたオオカミの鼻っ面を左拳で殴りつける。たまらずオオカミは口を放して飛び降りるが、そこをブレンは思い切り腹をけり上げて一度浮かすと、胴体に深々と剣を突き刺してとどめを刺した。
「す、すげぇ」
誰かがそう呟いたことだが、それはそのまま乗客たちの本心でもあった。そして瞬く間に仲間の二頭を殺して見せた目の前の人間に恐れをなしてもう一頭が逃げだした。
「逃がすかよ」
だが無意味だった。ブレンは左手で照準を合わせるとそのまま大きく振りかぶった右腕で剣を投擲する。そして剣はそのまま背面に突き刺さると毛皮も肉も貫いてストーキングウルフを絶命させた。
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