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事後調査


 クルトデス王国、ログラ地区。とある場所に、焼け焦げた建物が存在した。壁一面が黒くすすけており、周囲には割れたガラスが散乱している。燃え残った柱も、役目を失って棒きれのように突っ立っているだけだった。


 「ひどいッスね。これ……」


 背の低い少年が呆然と呟いた。かつてブレンの従士だったアクトだ。その呟きは、隣にいた巨漢のジョーの耳に届いていた。


 「丸焦げって感じだな。グールが通った後は魔力のよどみが残るらしいから、そのせいで建物も燃えたんだろ……さて、調査だ調査。お前ら、始めるぞ」


 ジョーはこのアパート跡地に、部下たちを引き連れてやってきていた。その理由は、グールアパート事件究明のための調査である。既に犯人の死霊術師が死亡しているとはいえ、何か手掛かりが残されているかもしれないからだ。

 特に今回ジョーは、グールたちの発生源をどうにか突き止めたいと思っていた。


 「それじゃ、案内は頼んだぞ、アクト」

 「はいッス! お任せください!」


 ジョーの要請にアクトが元気よく返事をした。今回、ジョーが率いる部隊にアパートの調査が命じられたのは、一つには元ブレンの従士であるアクトが居るからであった。彼はブレンと共にアパートへ侵入し、内部で何が起きていたのかを目撃している。


 「あれ~? 確か、この辺に階段があったはずなんスけど……」

 「階段?」

 「ええ。生き残りの人たちは地下にあるごみの集積場に隠れていたッス。でも、どうしてかそこに降りる階段が、見当たらないッス」

 「……瓦礫で埋もれちまったのかもな。よし。じゃあ任せておけ」


 そういうとジョーは自分の身の丈ほどもある鉄塊めいた大剣を背中から抜くと、焼け跡になったアパートをうろうろと回りだした。そしてある場所に狙いをつけると、大剣をまるでシャベルのように地面に突き立てて、豪快に瓦礫をすくいあげた。


 「ビンゴ! 地面の下にレンガの壁があるぜ。階段ってのはこれだな」

 「すごいッス! ジョーさん、どうしてわかったッスか?」

 「俺の実家が大工でな。地下室を作りそうな場所なんて見当がつく」


 意気揚々とジョーが階段を掘り起こしていく。まるで砂場に穴でも掘るかのようなスピードで、階段はその姿を現していた。


 「ありゃ? 扉が歪んでやがる……それ!」


 歪んで開かなくなった扉も力任せに蹴破る。本来なら他の部下たち集め、丸一日かけて掘り起こす様な作業をあっという間に成し遂げたジョーにアクトは感嘆とした。


 「す、すごいッスね……」

 「まあな。《砕岩の騎士》ってのは、実力あっての呼び名だぜ?」


 それが、ジョーにつけられた二つ名だった。生来の怪力で大剣を振るい、本当に大岩をも破砕している。

クルトデス王国において騎士に与えられる二つ名というのは、実際に成し遂げた偉業や能力に由来するのが決まりである。ブレンと同等の実力を持つジョーもまた、二つ名を与えられた騎士であった。


「まあ、俺の得物じゃ狭いアパートの中で暴れるのは無理だけどな。というか、ブレンが居たとはいえ、お前らよくグールだらけのアパートで戦う気になれたよな」

「そりゃあもう! アニキも実力者を選抜してアパートに乗り込んだッスから! はぁぁ……オレが選ばれたときは、もう……もうっ……!!」


自分が選ばれたことを思い出して恍惚に浸っているアクトにジョーは「あはは」と苦笑いを浮かべた。


「いやでも……実際頑張ったな。お前って確か十六歳くらいだろ? 背だって小さいのによく頑張っているよな。なんでそこまで―――」

「そりゃあもうアニキみたいになりたいからッス!!」


食いつくようにアクトが答える。その様子に「お、おう」としか言えなかったジョーをしり目にアクトはさらに熱く語った。


「多分アニキは覚えてないッスけど、ずっと昔アニキはオレの事を助けてくれたことがあるッス! オレはその時のアニキの背中を見て、アニキみたいな正義の味方の騎士になりたいと思ったッス! アニキは人を助けることに何のためらいもなくて、自分が怪我をするのもお構いなしで、その上優しくて魔術まで使えるしそこまでの才能を持っていながらでも自分の為じゃなくて他人のためにすべての力を―――」

「わかった。わかったよ! お前のブレン談義はまた今度な!」


放っておけばそれこそ無限にしゃべっていそうなアクトを制止して、ジョーは咳払いすると改めて当時の状況を問いただした。


「それで? 生存者たちはこの地下のどこにいたんだ?」

「ここは、アパート全体のごみの集積場になっていたッス。各部屋に備え付けられたダストシュートからここにゴミが集められる仕組みッスね」

「へぇ。便利なもんだな。俺の実家は一戸建て専門だから知らなかったぞ」


感心するジョー。そんな彼を、アクトはあるところへと案内した。鉄製のごみ捨てだ。その蓋を開くとアクトは中を指さした。


 「ダストシュートから出てきたごみは、袋に入れられてこっちの箱にためておくッス。それを管理人が定期的に処分する仕組みになってるッスね。生き残った人たちはこの中に隠れていたッスよ」

 「なるほど。この中ならグールの目もごまかせるし、鉄だから壊されにくいわけだ……」


 アクトの説明で当時の状況を把握し、納得したジョーは物珍しいのか地下室を見て回った。そして、ダストシュート用のごみ箱のふたを開けてみた時だった。


 「なんだ? 中に何か入ってる」


 おそらく事件当時からそのままだったのだろう袋の中に、何か本のようなものが入っている。取り出してみようと本に触れたジョーは、その瞬間言いようのない不気味な感触を覚えた。


 「おいアクト。明かりを持ってきてくれ」

 「え? どうしたッスか?」


 それまでの態度から一転して、まるで戦闘中であるかのような緊張感をアクトは感じ取った。ただならない気配に不安を覚えつつカンテラを持ってきた彼に、ジョーはゴミ箱の中を照らすように指示する。


 「アクト。明かりを落とすなよ」

 「はいッス……」


 ジョーはゆっくりと、まるで爆博物を扱うかのようにゴミ箱の中のそれを持ち上げる。カンテラの灯りにそれが照らされたとき、アクトは口元を抑えてこみ上げた吐き気に耐えた。


 「な、なんスか。それ……」


 それは、一冊の本だった。だがただの本ではない。おぞましく、悪趣味な装飾がなされている。


 「え? これ……人の、かお……?」

 「それだけじゃねえ。全部人間の皮で装丁されているんだ」


 ジョーの言うとおりだった。それは人間の骨と皮で装丁された本で、開いてみると中のページも紙ではなく人間の皮膚に人間の血でできたインクで作られている。表紙には、同じように赤黒く変色したタイトルが書かれていた。


 「ねくろのみこん……? なんスか? これ」

 「わからん。だがひょっとするとこれは―――」


 その時だった。地上からジョーの従士があわただしく駆け下りてくると、ジョーを呼んだのだ。


 「どうした」

 「大変です! 近衛騎士団がやってきて、アパートの調査を引き継ぐと……」

 「なんだと!? どうして王宮の警備をしているはずの近衛騎士団がこんなところにくるんだ!?」


 驚くジョーだったが、その部下の言う通り、地上には金の装飾がなされた甲冑を身にまとい、剣と王家の象徴であるひまわりをデザインした旗を掲げる一団が居た。

 クルトデス王家と王宮守護を任ぜられる、正真正銘のエリート達。近衛騎士団だ。


 「ジョー・フェンサー。調査のほど、ご苦労であった。後は我々が引き継ごう」

 「ご苦労、だと? まだ初めて一時間も経ってないぜ」


 慇懃な態度の近衛騎士に、ジョーは不機嫌な態度で答えた。不可解にもほどがあったからだ。


 「だいたい、王宮にいるはずの近衛騎士サマがなんでこんなところにいるんだよ。おまけにグールアパート事件の跡地を調査だぁ? 暇つぶしのつもりじゃねえだろうな」

 「ちょ、ちょっと! まずいッスよジョーさん!」


 アクトと同じく部下たちも動揺していたが、ジョーはお構いなしだった。さらに口を開こうとするジョーだったが、それを制する意外な人物が現れた。


 「ご苦労だったねフェンサー君。後は、優秀な彼らがやってくれるそうだ」

 「コ、コワード分団長!? どうしてここに……」


 現れたコワードにジョーは目を見開いて驚いた。期待通りの反応がうれしいのか、コワードは口の端をゆがめながらジョーの肩に手を置く。


 「いやあ、君たちに命令した直後に近衛騎士団が調査すると上層部が判断してね。振り回してしまってすまない」

 「そりゃどうも。で? 俺達には帰れと?」

「その通り。発見したものを全て引き渡して撤収したまえ。それとも、君もクビになりたいかね?」

 「……わかりました」


 不承不承だが、上司であるコワードには逆らえなかった。ジョーは持っていた人間の皮の本をコワードに渡すと、従士たちに撤収を命じる。


 「ちょっと! いいんすかジョーさん! あんな奴に―――」

 「いいから黙って歩け」


 歩き去るジョーをアクトが急いで追いかける。その時アクトは、コワードが小さくつぶやくのを聞いた。


 「ご苦労。それにしてもこれは……素晴らしい……」


 アクトは体中を走るおぞけを感じた。人間の身体でできた悪趣味な本を素晴らしいなどと、どうしてコワードは言えるのか。それに、何かが変だ。具体的には言えないが、違和感がある。


 (こんな時、アニキが居てくれれば……)


 コワードを不気味に感じながら、アクトは改めてブレンが抜けてしまったことを実感するのだった。


本作を読んでいただきありがとうございます!


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