第三十一話 ブレンの決意
フィアレもレティも、驚いてブレンを見ていた。特にフィアレはとっくに決まりかけていた話をブレンがひっくり返したので、驚き以外にも若干いらだったようだった。
「ブレンさん? 何を―――」
「確認させてほしいんだけどフィアレ。あいつらはいったいどこから入ってきたんだ?」
ブレンが指摘したのは、襲撃者たちの侵入経路だった。レティが乱入していたので指摘しそこなっていたのだが、ブレンはずっとその点が心に引っかかっていたのだ。
「アシィナ神殿には警備兵がいるし、出入口といえば正面玄関か裏口くらいしかない。第一、神殿全体に邪悪な存在を寄せ付けない結界が張り巡らされていて、邪神の加護を受けているあいつらが入れるわけがない」
「……つまり?」
「神殿は厳重で侵入は難しい。でも、内部に侵入を手引きした奴が居れば、話は別じゃないか?」
ブレンが指摘するが、フィアレは特に驚いた様子もなく彼の話を聞いていた。驚いたのはむしろレティの方で、彼女は神殿の中に裏切り者が居ることにショックを覚えたようだった。
「そんな……だって、みんな優しかったです。それに、神殿を守ろうとみんな一丸になっていました!」
「そうですね。それにブレンさん。もし神殿に裏切り者が居たとして、その人はいったいどうやってあの襲撃者たちと連絡を取っているのですか? それに、今日ここにあなた方が来ると知っていたのは預言を受けていた私と当事者であるあなた達だけであるはず。手際が良すぎるのでは?」
「それは俺にもわからない。だが、裏切り者の可能性がある以上レティを大神殿に預ければ絶対に安全とは言い切れないだろう」
今度はフィアレが口をつぐむ番だった。神殿内に裏切り者が居るなど彼女にとっても信じがたく、また考えたくもない事だった。しかしその信条とは裏腹に彼女はその可能性について考えないわけにはいかなかい。
「ですが、やはりあなただけでは……」
「力不足かもしれないのはわかっている。でも、俺がレティを守ることには意味があるんだ」
「意味、ですか?」
フィアレが問いかける。ブレンはちらとレティを見て、そして彼女の事を思い出した。初めて会った時、おびえていた彼女、卑屈なまでに奴隷であることを強調して自分を守ろうとしていた彼女。だが、自分だって痛い目に会うのは嫌なくせに、自分のせいで回りが痛い思いをするのは避けようとする。
「俺は一度、レティを守ると約束した。それなのにここで俺がレティを手放せば、この子を守ってやれる人はいないと言っているようなものになるだろ。やると言ったのにやらずに放り出すのはこの子に対して嘘をついて裏切ることになる」
「ごすじんさま……でも、レティのせいでごすじんさまが……」
レティがブレンをいさめようとした。自分のせいで傷つくことはないと。自分のせいで、痛い思いをさせたくないと叫ぼうとした。
「断言するけどな、レティ。お前はきっと大神殿でも同じように言うぞ」
「え?」
「戦いの最後に、サーヴァーは何か奥の手を出そうとしていた。焦っていた隙をついてなんとか勝てたけど、あの奥の手が何かによっては俺が負けていたかもしれない」
ブレンが思い出したのはサーヴァーの腕が異様に膨れ上がるシーンだった。隙だらけだったサーヴァーが相手なので勝利できたブレンだったものの、サーヴァーを突き刺した時にブレンは剣を通して彼の中で膨れ上がる力を感じていた。
「はっきり言える。サーヴァーは少なくとも全力ではなかった。俺のことを舐めていて、最初から本気ではなかったんだ。もし奴が生きていたとしたら、次は全力でレティを奪いに来るぞ」
「ですから、それを神殿で迎え撃てば……」
「違う。今はレティの話をしているんだ」
あくまで敵を打破することを考えるフィアレと違って、ブレンはレティの事を考えていた。彼の中で理性は敵を倒すための事を考えていたが、心はレティの事を案じていたのだ。
「戦闘になれば必ず負傷者が出る。今回よりもきっと、もっと大勢だ。負傷者が出れば、またレティは自分の事を責めるだろう。それじゃあ、この子の心は救われない」
自分のせいで誰かが傷つく。それは自分がいること自体が悪であると宣告されるようなものだ。
だから、それを否定する人間が居なければならない。
「俺が戦う。レティを守り、この子を狙うやつを全滅させて、そうしてこの子が安心して暮らせるようにしてやる。そのためには、俺が一番近くにいなくちゃならない」
「それなら、一緒に大神殿に来ればいいのでは?」
「さっきも言っただろ。裏切り者の可能性がある以上、それは危険だ」
そこまで言って、ブレンは膝をつくとレティに視線を合わせた。そして瞬き一つせずに強く彼女を見つめる。彼女の不安を切り払うように。
「レティ。俺はお前のことを投げ出したりしない。絶対に見捨てない。だから、俺の隣にいてくれ。お前だって普通に生きていていいんだって、俺が証明する」
「ごすじんさま……」
じっと、レティがブレンを見つめる。彼女は迷っている。本当にこれでいいのか。自分のせいでまたブレンが傷つくのではないか。
「や、やっぱり、ごすじんさまが危ない目に会うのは―――」
「……レティさん。それ以上言うのは、ブレンさんへの侮辱になりかねませんよ」
はっとしてブレンとレティが声の主を見た。驚くべきことに、フィアレがブレンを後押ししたのだ。
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