第二十七話 もてなし
「ごすじんさま。すごい量です……」
「ごちそう……なのか?」
神殿の三階。ブレンとレティは通された大部屋で大量の食事を目の前に息をのんでいた。主食となるパンは一斤がそのままテーブルに乗っかり、なんと肉料理や魚料理まであるので、質素な食事を想像していたブレンとレティは面食らっていた。
「その……フィアレ。寄付してもらったお金でこんなに食っていいのか?」
「心配しなくていいよ。これ全部、私たちで育てたり他の神殿で生産されたものを分けてもらったりしたものだから。それに、私は食べないし」
善意の寄付でこんな贅沢をしていいのか。そんなブレンの懸念を、フィアレは笑いながら否定した。確かに山盛りの料理の向こうには、フィアレの食事と思しい簡素なスープがある。
「それに、いまのぶーちゃんは治癒魔術で傷を治した直後だからたくさん食べて体力を回復しなくちゃ」
「たくさん食べる……? もしかして、ごすじんさまがこれを? 全部?」
どう考えても自分の腕より長く太い一斤のパンを目の前にしてレティが呆然と呟く。しかしブレンはそのパンを掴むとジャムを塗りたくって丸ごとかぶりついた。
「ああ。治癒魔術は治療される本人の体力をかなり消費するんだ。昔戦争があった時には、治癒魔術でケガを治したはいい物の食い物がなくてそのまま餓死した兵士がいたっていう話もある」
言っている間にブレンはパンを一斤食べきっていた。しかし満腹までは程遠く、ブレンは次のパンをナイフで切ると、肉料理やサラダを挟みサンドイッチのようにして食べ始めた。
「レティちゃんもたくさん食べていいよ。お口に合うといいんだけど……」
「えと、じゃあいただきます……」
フィアレに勧められてレティも魚のパイを口に運ぶ。そして少し咀嚼すると、レティは目を見開いて「美味しいです!」と叫んだ。
「ごすじんさまの家で食べた料理もおいしかったけど、こっちも美味しいです!」
「よかった。ぶーちゃんはどう? 美味しい?」
「ああ。これフィアレが作ったんだろ? 美味いよ」
ブレンに称賛されてフィアレはだらしない笑みをこらえられなくなった。うへへと笑い、スープを食べる手を止め、頬に手を当てて笑っている。
「そういえば、フィアレさんは何を食べてるんですか?」
「私のこれは、いくつかの薬草を煎じたものだよ。具は豆とか野菜を入れるの」
「美味しいんですか?」
「ううん、あんまり美味しくないの。もともと精神修行の一環で、贅沢を戒めるための料理だからしょうがないんだけどね」
言いながらフィアレは慣れた様子でスープを食べきった。その様子を見ていたレティだが、ふとあることに引っ掛かりを覚えてブレンに尋ねた。
「ごすじんさま。普段から神殿の人たちはフィアレさんと同じものを食べているのですか?」
「そうだな。確かそうだったはず」
「じゃあ、どうしてこんなご馳走をいっぱい用意してあるんですか? 自分たちは食べないのに」
「ああ、もうすぐ建国祭だからだろ」
「建国祭?」
ああ、とブレンはうなずきながら答えた。既に山盛りに合った料理は消え失せ、レティの分が残っているだけである。ブレンは満足げに背中を椅子に預けるとゆっくりとレティの質問に答えた。
「この国が出来て、もうすぐ300年の節目の年なんだ。この時は神殿もいろいろとご馳走を用意して神に捧げたり、町の人たちにもふるまったりするからこれだけの食材が必要になるんだよ」
「なるほど……じゃあ、昼間に通りがかったお祭り騒ぎも?」
「いや、あれは普段通りの光景だ。建国祭にもなれば、あの人ごみが十倍近くに膨れ上がる」
「十倍!?」
試しにレティは昼間ブレンにお菓子を買ってもらった広場の人ごみが十倍になったところを想像してみた。きっと上から見れば人ごみが豆粒の集まりのように見えるだろう。もしかすると、まともに広場を通ることも難しいかもしれない。
「ねえぶーちゃん。この後、ちょっと二人で話したいことがあるの。いいかな?」
「ん? 別に構わないぞ。でもレティを先に休ませたいんだ。そのあとでもいいか?」
「いいよ。じゃあお部屋に案内するね」
フィアレが立ち上がり、ブレンもまた彼女の後についていく。そのあとをさらに続くレティは、ブレンにそっと耳打ちをした。
「ごすじんさま」
「どうした?」
「あの襲撃してきた人たち、私が狙いだったのですか?」
「……そうだ」
そしてブレンは、サーヴァーたちの事を正直にレティに打ち明けた。彼女を拾ったのと同じ場所、同じタイミングで現れたこと。緑灰色の肌を持つ奇妙な魔法の使い手である事。そして、どういうわけかレティの命を狙い、ブレンとレティは一蓮托生だといった事も。
「……ごすじんさま」
しばし沈黙が続いた後で、レティはにっこりと笑って言った。
「ありがとうございました。私を、守ってくれて」
それだけ。それだけを言うとレティはフィアレの元へと駆けていった。彼女の服の袖をつかんでついていくレティの姿は、もうすっかりなついたように見える。
しかしブレンはレティに何も言えなかった。あのお礼の言葉が、彼にとってこう聞こえたからだ。
私のために、申し訳ありませんでした……と
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