第二十五話 奇妙な印
残心というのは、ブレンが母親から最初に教わったものである。それは所作ではなく心構えであり、斬り終えた後の姿勢を維持しながらもサーヴァーに対して全集中を注いでいる今のブレンであった。
ゴトン、と重たい音を立ててサーヴァーの首が落ちる。やがて壁に寄り掛かるように胴体が崩れ落ち、横に倒れるとそのまま動かなくなる。完全に絶命したのだと確信してブレンはようやく剣を手放した。
「ぶーちゃん、聞こえる!? 大丈夫!?」
「ごすじんさま! ごすじんさま!!」
レティとフィアレの叫びが聞こえる。ブレンは顔を上げ、聞こえることを示すように右手を高く上げた。
「勝った……? 勝った! フィアレさん! こすじんさまの勝ちです!!」
レティが歓声を上げる。ブレンも同じ心境だ。もしも神殿の防御魔術がもう少し遅れ、ブレンの本領を発揮できないまま戦闘が継続していれば、首を切り落とされていたのはブレンの方だったのだから。
「さて、あとはフィアレ達に任せるか」
ブレンの仕事は襲撃者の撃退までである。後始末はフィアレに任せようと思ったブレンは、ふと最後にサーヴァーが叫んだ言葉に引っ掛かりを覚えた。
「確か……『疾病と苦痛の主』だっけか? どこかで聞いた覚えがあるんだけどな……」
同時にブレンは、サーヴァーがそれを我が神と呼んでいたことも思い出した。彼がその身に宿らせていた神こそがその『疾病と苦痛の主』なのだろうか。
しかし、耳慣れない名前である。少なくとも、クルトデス王国に神殿を持つ神々にそのような異名を持つ神はいない。
「フィアレに聞けばわかるか……腹の傷も治してほしいし。死体は……中庭に並べておくか」
ブレンは死体を担ぐと中庭へと運び出した。頭上から光が差し込むそこに死体を並べると、襲撃者達の容貌がまたはっきりと分かった。
皆一様に緑灰色の肌をしていた。それに、襲撃者たちは年齢や性別がバラバラなのだ。男も女も、更に若い女性や中年の男までいる。ブレンと対峙した際のまるで一つの生き物のように感じさせた攻撃とは裏腹に、襲撃者たちは多様な人物で構成されていた。
そしてもう一つ、彼らにはブレンの目を引くある特徴があった。ブレンがそれに気が付いたのは、死体を綺麗にそろえ、顔を確認していく中での事であった。
「変だな。この死体、どいつもこいつも額に変な印がある」
サーヴァー以外の死体には、全て額に印があったのだ。〇にはみ出る×を重ねただけの簡単な記号で、ともすると子供の落書きにも見える。しかしブレンは、この印にどこか見覚えがあった。
「これ……そうだ思い出した。グールアパート事件の時に、グールにつけられていた印だ」
ブレンがそれを覚えていたのは、珍しいからという理由からだった。通常、死霊術師がグールを作る際、死体に何か印をつけることはない。死霊術でグールを作るには死体に死霊術で縛った霊魂を埋め込むだけでいいので、死体に手を加えることはないのだ。
なお、ブレンはこのことをコワードに報告していたが、コワードは相手にしなかった。証言したのがブレンのみという事もあったが、『粛正大結界』によってグールが全て消滅してしまい、調査のしようがなかったからである。
「どうしてこの印がこんなところに……うっ、イタタタ……」
もう少しよく見たかったブレンだったが、腹を刺された傷が痛みだした。刃はブレンの筋肉を突き破り、内臓まで達している。戦闘中は気合でごまかしていたし、毒のような成分は防御結界が展開されたときに除去されていたが、このまま放置しておけば命に関わるだろう。
「と、とにかく一度フィアレのところに戻るか。アイタタタ……」
腹を抑え、痛みをこらえながらブレンが戻っていく。そんな痛みのさなかにも、勝利し、レティやフィアレ、この神殿を守り抜くことができたという達成感をかみしめていた。
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