第二十四話 ブレンの本気
青白い光であった。数秒の間視界の全てを塗りつぶす光の中で、しかしサーヴァーは攻撃の手を緩めていなかった。
(壁から光が……いや、今はいい)
光を発したのは神殿の壁や床といった部屋全体だったのだ。特段、ブレンが何かいきなりパワーアップしたようにはサーヴァーには感じられない。
当然、サーヴァーも攻撃を中止するような理由などない。よって彼は黒装束たちに攻撃を続行させた。
しかし、その判断が間違いであったことを、サーヴァーは知る。
「やっとかよ」
不敵に笑うブレン。再び手に剣を召喚する彼だったが、今度は全く違う様子だった。剣は数秒どころか一瞬の間も置かずに手の中に現れ、その次の瞬間にはぐるりと一回転するように刃が閃いていた。
両脇を固めていた黒装束たちが上半身と下半身を切り分けられて倒れ伏す。そのままブレンは正面からくる攻撃をバックステップでかわすとその刹那、前に踏み込んで肉薄し、一刀のもとに全員を切り捨てたのだ。
時間にして五秒足らずの出来事。しかしたったそれだけで、サーヴァーの部下たちは全員が倒れていた。
「バカな……バカな!!」
目の前の出来事が信じられずにサーヴァーが叫ぶ。少なくとも彼の認識では、ブレンは自分たちよりも劣った魔術で挑み、そして今倒されかかっていたはずである。その男が、どうして急に逆転したのか。
やはり壁が急に光った時だろう。すぐさまその可能性に思い至ったサーヴァーはとっさに壁の方へと目を向けた。おそらく、この部屋においてブレンの身体能力を強化したか、あるいは体の調子を戻す何らかの魔術が発動したと考えたからだ。
しかし、そんなサーヴァーの考えはすぐに裏切られた。
「防御結界……だと!? では、この男は強化されたわけではないのか!?」
部屋の中で発動したのは、ただの防御結界だったのだ。ブレンの身体を強化するどころか、部屋が壊れないように補強する結界魔術である。こんなものがブレンの助けになるわけがない。
「やっとか。フィアレの奴、もう少し早くしてくれないかな……」
呟きながらブレンが立ち上がる。その姿を振り返ったサーヴァーはあることに気が付いた。
剣だ。先ほどまでの粗末な鉄剣ではない。うっすらと光を帯び、柄にはサーヴァーにとってなぜか忌々しさを感じさせる浮き彫りがやはり薄く浮き出ている。そして何より、光沢のある刃には、彼らの使う触れただけで道具を劣化させる魔術が効いていない。
「まあいいか。これで俺も、やっと本気で戦える」
「本気だと……?」
ブレンの言っている意味が分からず、サーヴァーにはオウム返しに聞き返すしかなかった。ブレンは「おう」と答えながら口を開く。
「見ての通り、この防御結界は神殿を守るためのものだ。ただしお前たちからじゃない。俺の攻撃からだ」
「お前の、攻撃?」
「そうだ。さっきまでの普段使いの剣とは違うぞ。なにせ下手に出して振るったら、神殿の方がぶっ壊れかねないからな。ほら、俺の周りの壁に跡が残っているだろ?」
サーヴァーは一瞬だけブレンの周りを見た。そしてそこには、ブレンの言葉通り先ほど一回転して黒装束たちを薙ぎ払ったあの攻撃の余波が青白い光の中にまるで高熱で熱せられたかのような橙色の跡となって残っている。
「お前が看破した俺の魔術の弱点。まあ確かにその通りだ。一度に出せるのは一振りまでだし、召喚にも数秒とはいえ時間がかかる。だが」
ブレンは手にした剣をサーヴァーへと突き出した。その覇気と剣から感じるただならない威圧感にサーヴァーは思わずたじろぎ、一歩後ろに下がる。
「もうお前たちの魔術は効かない。この剣は朽ちるような代物ではないし、威力はいま見せたとおりだ」
不敵に笑いながらブレンは剣を構えた。その眼には勝利への確信が映っている。
「さあ、お前たちの神にでも祈っておけ!!」
剣が一閃する。突き出されたブレンの剣をかろうじて受け止め外側へと滑らそうとしたサーヴァーだったが、すぐにそれは不可能なことだと悟った。
(なんという重さだ!!)
ブレンの剣はサーヴァーの剣をがっしりと押さえ込み、外側からじりじりと刃が近づいてくる。しかもその刃から、サーヴァーはまるで火にあぶられているかのような痛みを覚えた。
「貴様、これはまさか魔法剣か!?」
魔法剣。文字通り魔法を帯びた剣である、所持しているだけで神の御業……すなわち魔法を用いることができる規格外の武器であり、世界にそう何本と存在する代物ではない。
「当たらずとも遠からずってところだ。だが、そんな事気にしてる場合か!?」
ブレンがさらに攻撃を加速させる。その一撃一撃が先ほどまでとは別格なほど重く、サーヴァーは防戦を強いられた。
「これは使いたくなかったのだが……!!」
追い詰められたサーヴァーが一度ブレンとの戦闘から離脱しようと距離をとろうとする。しかしブレンはその動きを逃さずさらに追撃を加えようとした。
「我が神よ……疾病と苦痛の主よ! 我が腕に宿り給え!」
サーヴァーが叫んだ瞬間、彼の右腕が異臭とともにすさまじく膨れ上がった。筋が浮き出るほど筋肉が膨張し、鞭のようにしなりながらブレンへと迫る。
「ハアァッ!」
しかし、ブレンの切っ先が裂ぱくの気合とともにサーヴァーの手のひらを捉えた。深々と剣を突き刺しそのまま壁へと押さえ込む。
「これで……終わりだァ!」
手のひらを横なぎに切り裂き、最後の一撃がサーヴァーの首を刎ね飛ばした。
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