第二十三話 サーヴァーの実力
「殺し方だと?」
確信を持ったサーヴァーの言葉とともに、黒装束たちの雰囲気が明らかに変わるのをブレンは感じ取っていた。最初は感じられた敵側の余裕が今はもうない。
四人を倒した時点で怖気づいた気配も何もない時点で統率の取れた集団であることはブレンも理解できていた。しかし、この切り替えの早さはどうだ。もう既にブレンがただ者ではないことを前提とした態勢に入っている。
「そうだ。君はもう我々に勝てない。ここで死にたまえ」
「冗談じゃない。そんな簡単に殺されてたまるかよ!」
返すとともにブレンは集団へと斬りかかった。自分の殺し方を見つけたなどと豪語するサーヴァーだが、部下たちを奮い立たせるためのはったりである可能性もある。
いずれにせよ、ブレンには先手を取るしか他に道はなかった。敵が一部の油断さえも捨てた以上、何としても先手を取ることでこれ以上の不利を避けなければならないからだ。
「行くぞ」
サーヴァーの号令とともに黒装束たちが動き出す。今度は先ほどと違い、ブレンを迎え撃つような構えだ。その構えに、ブレンはねばりつくような殺気を覚え、自分の身体に毒蛇が絡まっているような感覚を覚える。
しかしその直後、ブレンは相手の予想外の剣筋に意表を突かれた。
「なんだ!?」
振っていない。ブレンを刺すにせよ胴を切り払うにせよ、明らかに威力も速度も乗っていない剣がブレンに近づく。そこでブレンは何か恐ろしい予感に剣を引っ込めようとした。しかし
「もう遅い」
黒装束たちが突き出した剣のうち一つがブレンの剣に触れる。それだけで触れた個所からブレンの剣はさび付いていき、ボロボロになってしまった。
「くそっ、また交換して……」
「そこだ」
剣を投げ捨てようとしたブレンを挟むように黒装束たちのうち二人が動いた。攻撃するのではなく、ブレンの動きそのものを封じるように両脇をガードする。腕を上げられないブレンは次の瞬間、真正面から斬りかかる相手を視認した。
(挟み撃ちか……いや、そうじゃない!)
その時になって初めて、ブレンは敵が本当に自分の殺し方を見出したことに気が付いた。ねばりつくような殺気。大蛇が自分に巻き付くかのようなあの感覚は勘違いではなかったという事を、ブレンは刺されながら確信していた。
「ぐっ……」
「ごすじんさまぁ!」
どこからかレティの悲鳴が聞こえた。遠見の水盤を通して自分が刺されるところを見たのだろう。
ぼんやりと頭の片隅でそう考えながら、ブレンは片膝をついた。
「君の剣を召喚する魔術だが、やはり一度に出せる剣は一振りまでという事か」
淡々とサーヴァーが告げる。ブレンの沈黙を肯定と受け取ったのか彼はさらに推測をつづけた。
「君は新しい剣を召喚する際、いちいち剣を壊していた。もしやと思ったのだが、まさか大当たりだったとはな。また、新しく剣を作るのにも二秒ほど時間がかかる。いやむしろ、その程度の魔術でよく健闘したものだよ」
先ほどの動きは、ブレンの魔術をつぶすためのものだった。ブレンの剣を錆びさせて戦えなくし、なおかつ両脇を固めることで剣の交換を不可能にする。サーヴァーはブレンの魔術の弱点を見抜き、その弱点を的確につく攻撃をしてみせたのだ。
慇懃に拍手をしながらサーヴァーは言葉だけでブレンを称賛した。だがその目元や覆われてわからない表情からは、明らかにブレンへの嘲りが感じ取られる。
そしてサーヴァーは、出来の悪い生徒を教えようとする教師のような態度で続けた。
「得意になって魔術を見せすぎたのだよ、君は。帯剣の騎士などと呼ばれてはいたが、君を支える魔術はいつでもどこでも剣を取り出せるというちょっと便利な程度の魔術だ。我々の真なる魔術……否、魔法とは違う」
「魔法……?」
「そうとも。お前たちの使う劣った魔術とは根底からして異なる力。神の御業を人の術式に貶めるのではなく、自らが神そのものと合一する偉業。みたまえ」
そういうとサーヴァーは黒装束の腕をはだけた。そしてあらわになったその腕に、ブレンは驚愕に目を見開いた。
それは、明らかに人間の腕ではなかった、緑色と灰色が混ざり合って死蝋化したような肌。それを覆いつくすように同じ色の水膨れが小さくびっしりと浮かび上がっている。
「神々しいだろう? 我々の身体は既に神の身体である。余人の目に触れぬように普段はこの黒い聖衣で隠しているのだが、君の健闘をたたえて特別に見せてやっているのだよ」
「カエルみてえな色しやがって……」
腹を刺された痛みをこらえながらブレンは立ち上がった。足元が妙にふらつく感覚に、ブレンは刃に毒のようなものが仕込まれていたのだとすぐに察した。
「何が偉業だよ……お前たちだって毒なんかを使っているじゃねえか……」
「偉業だとも。我らの刃は神の刃。ゆえに振り下ろされるのは文字通りの神罰だ。君がそれを受けてまだ立っていられるとは驚きだったがね。しかし、あの戦いは魔術での戦いだった。であれば、我々に分があるのは道理だろう」
衣服を整えたサーヴァーが剣を構え、それと同時に他の黒装束たちも一斉に剣を構える。狙いはブレンの首、心臓、頭……全員が別々の、しかし致命傷となる場所を狙いすましている。
「君はここまでだ。死にたまえ」
死刑執行人のようにサーヴァーが告げる。黒塗りの刃がブレンの命をめがけて踊りかかる。
しかしその刹那、ブレンとサーヴァー、そして黒装束たちの視界はまばゆい光に包み込まれた。
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