第二十二話 見知らぬ魔術
「ごすじんさま、すごい……」
アシィナ神殿の二階。そこでレティはフィアレとともに遠見の水盤に映し出されるブレンの様子を見ていた。
レティが感嘆の声を上げたのはブレンが瞬く間に四人を倒して見せたのもあるが、やはりブレンの持つ剣を召喚する魔術の凄さに感動していたというのもある。
「これなら、あの人たちもあっという間に倒せちゃいます!」
「確かに。ブレンさんがこのまま戦い続けられれば、襲撃者たちを倒すことは容易でしょう」
レティに同意しながら、フィアレは同時に他にも用意した遠見の水盤を用いることで神殿の各所に指示を出していた。遠見の水盤を各所に用意することによって、その場所同士での意思疎通を可能にしているのだ。
そんな中、フィアレの元に襲撃者たちに関するある報告が届いた。
「報告します。敵は何らかの魔術を用いて、装備品を劣化させることが出来るものとみられます」
「装備品を劣化?」
「はい。警備兵たちの装備を調べたところ、武器はさび付き、防具も考えられないほど摩耗しておりました。何らかの魔術によるものと思われます」
「わかりました」
遠見の水盤から映像が消える。それまで見ているだけだったレティは気になっていた質問を投げかけた。
「そういえばフィアレさん。魔術って何ですか?フィアレさんもその、魔術師さんなら、あの人たちの魔術が何かわからないんですか?」
レティの素朴な問いにフィアレはそのことかと納得した。いま襲撃者たちはブレンが抑えている。ここで一度自分の頭の中を整理するためにもフィアレはレティの問いに答えた。
「そうですね……私たち魔術師は、風の魔術なら風の神、水の魔術なら水の神というようにある特定の神から加護を授かって魔術を行使します」
「じゃあ、あの武器を錆びさせる魔術も?」
「ええ。しかし、相手が魔術を使うとき、それがどの神の加護なのかが特定できないと魔術の詳細もわかりません。あの襲撃者たちが使っている魔術も、ただ物を劣化させるだけというわけではない可能性もあります」
そう。例えばあれが、ある対象の時間を極端に加速させる魔術だとしたらどうだろう。それが人間にも及ぶのなら、あっという間に殺すことができる。今の時点でそれをしていないという事は、そういう魔術ではないのかもしれないが。
「危ないっていうことですか?」
「そうです。ましてあの魔術が、私たちにとって未知の神に由来するものである場合、最大限警戒しなければなりません。舐めてかかったら即死した、ではお話になりませんから」
言いながらフィアレは記憶と知識の中から該当しそうな神を全力で探していた。しかし、若くして聖女と呼ばれるほどの勉学と訓練を重ねてきた彼女でさえも、心当たりを見つけることはできなかった。
(時間魔術など、よほどでなければ人間の手に余る。しかし神が邪な考えの、しかも神殿を襲うような人間に加護を与える訳がない……)
神の特定を困難にしている理由の一つに、彼らが神殿を襲撃しているという事が挙げられる。これは神に対する明確な敵対行為であり、もし彼らが他の神の手先であれば、それは神と神の戦争すらあり得るほどの非常事態なのだ。
狙いが神殿ではなくレティである事はブレンの口から明言されているものの、たった一人の少女を抹殺するために神殿に攻撃を仕掛け、女神アシィナに敵対するのだろうか。
(まっすぐ神殿の二階に向かっているのね……)
フィアレの元には既に襲撃者たちとの交戦記録が報告されていた。遭遇地点や彼らの挙動からするに、襲撃者たちがまっすぐ神殿の二階へ、レティの元へと向かっているのは間違いない。
「一体何が……」
「ごすじんさま!!!」
フィアレの思考はレティの悲鳴によって中断された。ほとんど反射的に、遠見の水盤へと目を向ける。
レティがしがみついたことで揺らめく水面。そこには、襲撃者の凶刃に貫かれたブレンの姿が映っていた。
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