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第十三話 引き渡し


 「放せ! ワシはロジェルト・アロガ男爵であるぞ! 貴様らのような下賤な平民や小娘とは違うのだ!」


 喚き散らすロジェルト男爵だったが、もう誰も見向きもしなかった。そしてブレンが神殿の敷地外へ彼を引きずり出すと、ちょうどいいことに、道の向こう側から軽鎧をまとい、胸元に鎖と盾の紋章を入れた一団がやってくる。フィアレの通報を受けて駆け付けた駐屯騎士団だ。


 「駐屯騎士団到着いたしました……って、ブレンじゃねえか。何してんだ?」

 「お、ジョーじゃないか。奇遇だな」

 「あれ、アニキ! お疲れ様ッス!!


 驚いたことに、通報を受けて駆けつけてきたのはジョーとその従士たちだった。その中には元気そうなアクトの姿もある。


 「き、貴様。まさか騎士なのか!? く、ヒャハハハ!」

 「どうした、気持ち悪い」


 ブレンが駐屯騎士団の関係者だと気づき、ロジェルト男爵は勝ち誇ったかのような笑い声をあげた。


 「クビだ! ワシには騎士団上層部の友人がいるのだ! 貴様、二度と騎士として出仕できないものと思え!」

 「悪いな。昨日付でとっくにクビだ」


 すげなく告げるとブレンは放り出すようにロジェルト男爵をジョーたちに引き渡した。


 「こ、このクソガキ……そ、そうだ! おいそこのデカブツ! その無礼者はワシに暴行を加えた犯罪者だ! 捕まえろ!!」

 「ハァ? デカブツって……まさか俺の事か?」


 自分を指さしてジョーが答える。彼の身長はブレンより大きく、ドアや窓の枠にしょっちゅう頭をぶつけている。ちなみにジョー自身はそれをコンプレックスに感じているのだが、そんな事にかまうロジェルト男爵ではなかった。


 「貴様以外に誰が居るデクの棒! 捕まえないなら、貴様はクビだ! ワシの友人に頼めばすぐだぞ! 後ろの貴様らもだ!」


 ロジェルト男爵がジョーの連れてきた従士たちに怒鳴り散らす。しかし


 「捕まえろって言ったって……」

 「なあ、あれって《帯剣の騎士》ブレンさんだよな。この間コワードにたてついてクビになったっていう」

 「グールアパートの事件の時は、一人で百体以上は切り倒したって話だぞ……」


 従士たちは動かない。それはロジェルト男爵が気に食わないからではなく、目の前のブレンを恐れて誰も動かないのだ。


 「ムダだぜロジェルト男爵。ブレンが相手じゃあ俺たちが束になったってかないっこない。そもそもあいつは武器を持っているし」

 「何を言っている! 貴様らが一斉にかかれば……ばかなァッ!?」


 ロジェルトが言いながらブレンに向き直り、そして驚愕に目を見開いた。ブレンの手には、いつの間にか何の飾り気もない鉄の剣が握られていたからだ。


 「ほらな?」

 「武器ならあるぞ? 最も、ジョー以外なら武器無しでも相手にできるけどな」

 「ば、ばかな……いったい、どこから剣を……貴様、騎士でありながら魔術も使えるのか……?」


 わなわなと震えるロジェルト男爵。それもそのはず、魔術の訓練は騎士の訓練と同等に厳しく、両立できるものではない。ブレンは駐屯騎士団、いやクルトデス王国全体で見ても片手で数えるほどしかいない魔術を使える騎士の一人だった。


 「この場でブレンを捕まえられる奴はいないってことです。それじゃあ行きましょうか」


 がっくりとうなだれるロジェルト男爵をジョーが連行していく。しかしジョーはその途中で振り返ると、「そういえば」とブレンに尋ねた。


 「ところでブレン、その子はなんだ? お前の妹か?」


 ジョーがブレンの後ろに隠れているレティを指して尋ねた。まさか馬鹿正直に「奴隷です」と答えるわけにもいかず返答に困るブレンだったが、先にレティが口を開いてしまった。


 「レティは、ごすじんさまの奴隷です。昨日からお世話になっています」

 「ど、奴隷!? おいブレン、お前奴隷なんか雇っても養えないだろ。どういうことだ? それに、奴隷制度は嫌っていたはずじゃないか!」


 ジョーがブレンを問いただす。その表情には友人の行いが信じられないことによる怒りと困惑があった。


 「ああいや違う。この子は怪我をして倒れていたところを保護したんだ。本人の折り合いのためにご主人様って呼ばせているけど、この子を奴隷にするつもりはない」

 「そうなのか? それじゃあどうする。見た感じ女の子みたいだし、アシィナ神殿に預けるのか?」


 その言葉に、ブレンはその手があったかと膝を打った。アシィナ神殿は治療所の他にも貧困層への施しや孤児の引き取りと養育のような慈善活動も行っている。彼女をアシィナ神殿に預ければ、教育を受けさせてやることもできるだろう。

 しかし、ブレンは気が付かなかった。彼がその手段を好意的に受け止めるその裏で、レティがビクリと身を震わせていたことを。


本作を読んでいただきありがとうございます!


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