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第十一話 ロジェルト男爵


 「おいアンタ、その人も困っているんだから、その辺にして置いたらどうだ」

 「なにィ?」


 ブレンの声に、貴族の男はいら立ちをむき出しにしながら振り向いた。だが、ブレンの身なりが貴族ではなく平民のそれだと知ったとたん、男はあからさまに態度を変えてブレンを見下し始めた。


 「平民風情が。私を誰だと思っている? ロジェルト・アロガ男爵であるぞ!」


 聞いても居ないのに名乗ったロジェルト男爵は、尊大にふんぞり返りながらさらにまくしたてた。


 「だいたい、貧乏な平民がこの神殿に何をしに来たというのだ? 貴様のような下賤な者の順番は最後に決まっている! 金も払えないのだからな」

 「今は金の話なんかしていない。この神殿の内部は男子禁制だし、たくさん寄付をしているからって優先的に治療を受けられるわけでもない。第一、神殿に寄付していい金額には上限があるはずだろ」


 治癒術師たち曰く、女神アシィナは治癒魔術を修める者たちに対して平等であることを求めるという。しかし、金銭を得ることや金銭を払えない患者を治療しないことは認めても権力者との癒着は認めないなど、その基準は明文化されておらず、かなりあいまいだ。

 しかし、実際に平等性を欠いたために女神によって天罰を与えられたり、治癒魔術が使えなくなった者は数多くいる。そのため神殿は、平等性を保つことに非常に敏感であるのだ。


 「……だから、金持ちの言いなりにならないように寄付の額には上限が―――」

 「知ったことか! ワシは王国大金貨500枚を寄付したのだぞ!!」

 「えぇ……」


 あまりの金額にブレンはドン引きした。王国大金貨とはこの国で使える最高額の貨幣で、一枚あるだけでも平民の一家族が丸一年暮らせる金額である。

 なお、一年で神殿に寄付できる金額の上限は王国金貨一枚分まで。王国大金貨はこれの十倍の価値があるので、この貴族の男は上限の五千倍の額を寄付しようとしたことになる。


 「というか、そんなのとっくに送り返されているはずじゃないのか? どうなんだよ。受付さん」

 「そ、それが勝手に置いて行かれた上に量が多すぎて運ぶ馬車の手配もできないんです」


 当然だが、大金貨は全て金でできており、手のひらほどの大きさもある。それが五百枚もあればどれほどの重量なのかは想像に難くない。


 「ハ! 結局のところお前たちはワシの寄付を受け取っているではないか! さあワシを治療しろ! さっさとフィアレをここに呼べ!」

 「話を聞いていなかったのか? あんたの寄付は受け取れないんだ。それに、ここにはあんたより先に来て順番を待っていた人たちも大勢いる。その人たちを無視して先に診てもらおうなんて恥ずかしくはないのか?」


 得意になるアロガ男爵をブレンは努めて冷静にたしなめようとした。ただでさえ怒鳴り散らすアロガ男爵におびえるレティの為だ。

 しかし、アロガ男爵は違った。冷静なまま説得を続けるブレンの態度に憤ったのかそれとも侮ったのか、おもむろに右こぶしを握り締めるとブレンの顔をめがけて突き出したのだ。

 事の成り行きを見守っていた周囲が息をのむ。とはいえブレンにはほとんどダメージがない。そもそも元騎士であるブレンからしてみれば、運動不足の男が放つこぶしなど、赤子の平手打ちにも劣るだろう。当然、気にも留めないブレンは続けて説得をしようとした。

 だが、そう考えなかった者が居た。レティだ。


 「ごすじんさまああああ!!」


 悲鳴を上げてレティが駆け寄る。その反動でフードが外れ、やせこけた顔があらわになった。

 無理もないことだった。レティはその経験から暴力や怒りに人一倍敏感である。その彼女に、自分を助けてくれた人が殴られても何もするなという事自体が、そもそも不可能だったのだ。


 「なんだぁ? この貧相なガキは」

 「ひっ」


 ロジェルト男爵の注意がレティに向く。その体はレティより大きく、怒りの感情と眼光を向けられたレティはひるんで身動きが出来なくなった。


 「向こうに行ってろレティ! あんたも、話し相手は俺なんだからその子には」

 「平民の分際でワシに指図するのか!? おのれ! 先ほどから甘い顔をしていれば付け上がりおって!」


ロジェルト男爵の怒りが頂点に達する。彼は目の前のレティを蹴り飛ばすために足を振り上げた。


 「平民の分際でェェ!!」

 「おい」


 その振り上げた足を、ブレンは骨ごと踏みつぶした。ゴシャッという凄まじい音とともに、ロジェルト男爵の足は見るも無残に変形していた。


 「ぎゃああああ!!?」

 「テメェ、俺を殴るならまだしも、小さい子供を蹴ろうとするとはな」


 ぐりぐりと男爵の足を踏みにじるブレン。その怒りのまま彼はさらにつづけた。


 「受付への態度も、その子を蹴り飛ばそうとしたこと……お前は自分より弱い奴をいじめて楽しいのか?」

 「は、放せぇ! 平民の分際でワシに説教をするつもりか!!」


 片足立ちになってよろめきながら喚く男爵に、ブレンは足を放してやった。よろめきながらも憎しみをむき出しにして男爵はすごんだ。


 「貴様ァ……! よくもワシにたてついたな!? 後悔させてやる!」

 「やってみろよ。今度はお前のそのブタ面ボコボコに変形させてやる」


 ロジェルト男爵とブレンがにらみ合う。双方の間に緊張が走ったその時、凛とした女性の声が響き渡った。


本作を読んでいただきありがとうございます!


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