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第十話 アシィナ神殿ハイグラ支部


 木皿を返却した後も、レティは何か新しいものを見つけるたびにブレンを質問攻めにした。彼女が何を質問してもブレンはきちんと答えたので、二人の会話は弾んだ。


 「そういえば、レティはこれからどこに行くんですか?」


 ふと、レティがブレンにそう尋ねた。屋台が立ち並ぶ居住区は既に通り過ぎ、今はレンガ造りの立派な家が立ち並ぶ地区へと差し掛かっていた。

 王都シィルデッドは、王家の住まう王城が中心にあり、その周りを囲うように貴族の住まうハイグラ地区が、それをさらに囲うように平民の住まうログラ地区が存在する。ブレンたちが今いるのはハイグラ地区だ。

 双方の行き来は特に制限されていない。が、行き交う人々の身なりは明らかに異なる。レティはその雰囲気を感じ取ってブレンに尋ねたのだ。


 「そういえば、具体的には教えていなかったな。俺の幼馴染にすごく腕の立つ治癒術師が居てな。今向かっているのはそいつの住んでいる所だ」

 「ごすじんさまの幼馴染さんですか?」

 「ああ。腕は確かなんだ。確か……なんだけどなぁ……」


 ブレンの言葉がしりすぼみに消えていく。その顔は、まるでこれから嵐に備えなければならないかのように憂鬱なものになった。


 「大丈夫ですか?」

 「心配させて悪い。大丈夫だ……多分」


 要領を得ないブレンにレティは首をかしげてついていくのだった。




 「おっきぃ……」

 「ああ。ここが目的地。アシィナ神殿ハイグラ支部だ」


 さらに歩くこと十数分。ようやくたどり着いたのは、貴族たちの住まうハイグラ地区のどの屋敷よりも広い神殿だった。

 神殿の周囲には複数の馬車が停まっており、レティが見たこともないような立派な身なりの紳士や淑女たちが集まっている。


 「ごすじんさま。ここは?」

 「女神アシィナを奉る神殿だ。女神アシィナっていうのは、昔この国に現れた邪神を退治した勇者たちに力を貸した女神様だ。それで、その時の国王が女神教って名付けて国を挙げて女神アシィナを祭るようになったんだ」

 「神聖教会とはちがうのですか?」

 「よく知ってたな。ちょっとややこしいんだが、神聖教会っていうのは女神教を管理する組織の事を外国人が呼ぶときに使う名前だ。俺たちは普通に女神教って呼ぶ」


 そういえば、コワードも女神教ではなく神聖教会と言っていたなと思い出しつつブレンは神殿を指さした。


 「女神アシィナはいろいろなことを司る女神様でな。メインは知恵と工芸なんだけど、そこから派生して戦術や魔術も司るようになった。治癒術師っていうのは、この神殿で修行して治癒魔術を会得した巫覡ふげきのことを言うんだ」

 「じゃあ、この神殿が治療所なんですか?」

 「そういう事。治療を受けたい奴はここで―――」

 「なぜフィアレ殿の治療を受けられないのだ!!」


 突然、受付で騒ぐ声がした。何事かと思ったブレンが見てみると、肥え太った身体を窮屈そうに紳士服へ詰め込んだ貴族の中年男が受付に立つ女性に詰め寄っている。


 「ですから、フィアレ様は本日ご予定があると―――」

 「そんな言い訳は聞き飽きたわい! ワシがどれだけアシィナ神殿に寄付していると思っているのだ! いいから神殿に入れろ!」

 「いけません! 神殿の中に殿方は入ってはいけない規則です! あちらの治療所でお待ちいただいて―――」

 「知ったことか! ええいフィアレ殿を呼べ!!」


 周囲は眉をひそめているが、貴族の中年男はそんな事お構いなしといわんばかりの興奮だ。このままだと受付の女性が危ないかもしれない。


 「あーあ。たまに居るんだよな、ああいうやつ。レティ、ちょっとここに……レティ?」

 「ひうっ」


 ブレンが見下ろすと、レティはおびえていた。涙を浮かべた瞳は、恐ろしい物から目を離せないように貴族の男を注視している。


 「どうした?」

 「あの人、大きい声を出して怒ってて……すごく、怖い……」


 男が怒鳴り声をあげるたびに、レティはおびえて縮こまる。それを見てブレンはレティにハンカチを持たせた。


 「ほら、これで耳をふさいでろ。お前の分と合わせれば両耳をふさげるだろ」

 「あ、ありがとうございます。でも、あの人は……」

 「わかってる。ちょっと行ってくるからそこで見てろ」


本作を読んでいただきありがとうございます!


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