6話〜冒険者ギルドへ
もうちょい粘ろうかと思ったのですが、誰も「2話目投稿しろよ」っと言ってくれなかったので勝手に投稿しますorz
ですが、朝の投稿後からブクマが9も増えた上に2話投稿した昨日のPVを早くも超えました。
お読みいただきありがとうございます!
本日2話目の投稿です、お楽しみ下さいませーーー。
「ここが商業の大都市、【ダイナスバザール】か」
凄まじい人の群れの中を歩きながらバーンダーバが呟いた。
道行く人々はまるで浮浪者のような格好をしたフェイとバーンダーバをチラチラと見て顔を顰めている。
フェイはその視線に気づいているがバーンダーバは全く気づいていない。
気にしていないのかもしれないが。
バーンダーバはそれどころでは無かった。
こんなに沢山の人の群れを魔界で見ることは無い、現界に攻め入って最初に驚いたのは緑の生い茂る大地。
次に驚いたのが人の数だ。
なるほど、確かにこれだけ大地が肥沃ならば人の数がこれだけ多くても食料が足りないということは無いのだろう。
思考はそのまま、人間の王が魔界に対して食料を出し惜しんだ事に及んだ。
あんな事がなければ、魔王様が死ぬことは無かった。
これだけ肥沃な土地が広がり、これだけ食料に溢れているというのになぜあんなことになったのか・・・
「どうしました? バーンダーバさん」
いつの間にか険しい顔になっていたバーンダーバにフェイが不安そうな顔を向ける。
「いや、なんでもない」
『大方、こんなに食料があるならなぜ魔界へ送るのを渋ったのか。 そんな事を考えていたのだろう?』
フェムノがバーンダーバの胸中を見事に言い当てた。
聖剣フェムノは雑踏の中で話し声を上げては注目を集めるのでバーンダーバとフェイの脳内に念話で直接喋りかけている。
「まぁ、そんな所だ」
バーンダーバは否定しなかった。
「それよりフェイ、街中で私の名前を呼んでいて、もしも誰かが気付いては事だ。 これからはバンとでも呼んでくれ」
「はい、わかりました、えーっと、バンさん?」
フェイが呼びにくそうに呼んだ。
「バンでいい、さて、先ずはどこに行こうか。 フェムノ、何か知恵を貸してくれ」
『まったく、そうだな。 自分達の食い扶持を手に入れるのではなく、大量の食料を手に入れるなら、方法はいくつかある。 が、まずは大きく分けて2つだろう』
土地を買い、そこを開拓して作物を作って魔界へと運ぶ。
金を稼いでその金で食料を買い、魔界へと運ぶ。
フェムノが2つの案を出す。
『次に金を稼ぐ方法だが』
奪う。
誰かに雇われて給金を貰う。
自分で事業を興して稼ぐ。
有望な事業に投資して稼いで貰う。
『こんな所か』
「凄いですね、フェムノさん、とっても頼りになります!」
フェイが手を叩いて賞賛する。
「うむ、見事だ。 フェムノがいれば出来そうな気がしてきた」
『褒めた所で私も実際に大金を稼いだ事が無いどころか、鉄貨1枚稼いだことは無い』
少し嬉しそうにフェムノが謙遜した。
「いや、私1人では右も左もわからなかった、頼もしい限りだ」
「そうですね、私もお金をいっぱい稼ぐなんて考えた事ないですし。 バン、方法はどうしますか?」
バーンダーバは顎に手を当てて考えるポーズをとった。
「そうだな、まず、奪うのは論外だ」
『ふむ、ならば、結論は出ている。 事業を興すのも、事業に投資するにも纏まった金がいる。 それに、お前は知らなすぎる。 先ずは誰かに雇われてでも金を稼ぐ事を覚えた方がいい』
「なるほど、それじゃあ。 フェイ、仕事をするにはどうすればいい?」
「そうですね、バンはなにか得意な事はありますか?」
言われてまた首を傾げる。
「得意な事か、私は今まで、戦う以外にはなにもしてこなかった、それ以外に得意な事は・・・ 思いつかないな」
「じゃあ、冒険者はどうですか? 魔物を倒したり、薬の材料になる草や花、鉱石等を取ってきたりする職業です。 実は私も冒険者ギルドに登録してるんですよ」
フェイは胸元から首からチェーンで下げている冒険者ギルドのライセンスであるプレートを出してバーンダーバに見せた。
『我もそれがいいと思う、先ずはやってみろ、バーンダーバ』
「あぁ、フェイ、どこへ行けばいい?」
「冒険者ギルドで登録をすれば依頼を受けられますよ」
「よし、ではその冒険者ギルドへと行こう」
フェイが道行く人に冒険者ギルドの場所を聞いて向かった。
たどり着いた建物は石造りの二階建てで酒場と宿屋が併設されていた。
中へ入ると中央のギルド受付カウンターがまず目に入り、右手側が仕切りも無くそのまま酒場があった。
酒場のカウンターの中にはウェイターが1人立っていてグラスを磨きながらこちらに注意を向けた。
汚い格好を見て顔を顰めている。
カウンターには1人の客が朝も早いというのに酒を飲んでいた。
他には冒険者が依頼ボードの前に数人いる。
フェイとバーンダーバを見ていやらしい笑いを浮かべていた。
「先ずは宿で旅の埃を落としましょう、バンはお金持ってますか?」
「いや、すまない、まったく無いんだ」
「では、ここは私がお支払いします。 大丈夫です、いくらかは持っていますので」
「すまない、世話になるな」
「いいんです、気にしないでください」
2人は冒険者ギルドの受付嬢にぺこりと頭を下げて前を通り過ぎた、フェイが向かったのは左側の宿の受付をしている中年女性の方だ。
向かおうとしたら依頼ボードの前にいた冒険者が道を遮ってきた。
「おいおいきったねーな、なんだよその格好!」
「ひでー匂いがするな、くせーから出てってくれよ!」
2人組の男が難癖を付けてくる。
「あぁ、すまない、随分とあっちこっちを彷徨い歩いていたんでな。 かなり汚れている、これから埃を落とすところだ」
バーンダーバが難癖を付けられているとは思えないようないい笑顔で対応する。
「あぁ!? ヘラヘラしてんじゃねーぞ? 出てけっつってんだよ!」
「それは困ったな、埃を落とした後は冒険者登録をしたいんだが」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃ」
「しつこいねあんた達っ! いい加減にしなっ!」
宿屋の受付のおばちゃんが2人組を怒鳴りつけた。
「いい加減にしないとギルドマスターを呼ぶよ!」
物足りなそうな顔をしたが2人組は舌打ちをして去っていった。
「ありがとうございます」
フェイがおばちゃんに頭を下げる。
「いいんだよ、すまないね。 アイツら依頼を失敗したらしくてイラついてんのさ」
「そうだったのか、慰めればよかったのか」
バーンダーバはそんな事を真面目な顔で言った。
「あははは、そーさね。 お兄さん腕が立ちそうだね」
「いや、そんなことは無い」
バーンダーバは肩をすくめる。
「こんな所で長い事受付してるからね、なんとなく分かるのさ。 部屋を借りたいのかい?」
「すみません、お湯をお借りしたいのですが」
「部屋はいいのかい?」
「はい」
「なら、今日はサービスしとくよ。 悪かったね」
「いえ、そんな、悪いですよ」
フェイが財布からお金を出そうとする。
「いいから、1度言ったんだから今さら貰えないよ。 行った行った」
おばちゃんはカウンターの奥を指さした。
フェイは「ありがとう」と言ってカウンター横の通路を奥へと入っていく。
バーンダーバも「ありがとう」と言って後に続いた。
通路の突き当たりでフェイが「では」と言って別れた。
右側が女性用、左側が男性用だ。
バーンダーバが入っていくと脱衣場があり、そこで服を脱いだ。
服は散々虚ろなままに彷徨い歩いたせいで埃まみれであちこちが破れていた。
「新しくせねばならんな」
そんな独り言を呟きながらふろ場に入る。
中は円形で中央に大きな釜があり、それを囲むように椅子と桶が置かれていた。
椅子の一つに座り、桶で湯を掬って体にかける。
バーンダーバは大きく息をついた。
垢や埃と一緒に色んな物が流れていくような心地だった。
もう一度湯を掬い、桶の中の湯に映った自分の顔を見つめる。
とんがった耳、切れ長の眼、髪の色は黒、エルフの血が入っているので髭は生えていない、歳は100を超えているが長命なエルフと魔族の混血なので見た目には20代の前半に見える。
両手で湯を掬って顔を洗った。
自分の顔を見るとこれからどうなるのかという、不安にも期待にも似ている感情に心が満たされた。
もう一度顔を洗い、悩みを払うように体を清めた。
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「ありがとうフェイ、生き返ったような心地だ」
風呂から上がり、酒場のカウンター席に座っているとフェイがやってきた、風呂上がりで顔が赤い。
先程の2人組の姿は無かった。
荷物に着替えが入っていたらしく、今はボロボロの旅人ではなく、町娘のような格好だ。
「見違えたな、最初に会った時は酷い格好だった」
バーンダーバの言葉にフェイは口を尖らせた。
「それはバンだってそうでしたよ」
「ははは、確かにな。 それに、私はまだボロのままだ」
「じゃあ、初任給は服を買いますか?」
「そうだな」
「それじゃあ、冒険者登録をしましょう」
2人で冒険者ギルドの受け付けに歩いていった。
「お二人共見違えましたねー」
10代後半程の受付嬢が2人ににこやかに話しかける。
「えぇ、久しぶりのお湯でスッキリしました」
フェイもにこやかに返す。
「お似合いですねー、カップルで冒険者ですかー?」
「いやっ! そうじゃないです! この街へ来る途中で会ったばかりで!」
フェイが真っ赤になって否定した。
「あら、そうだったんですかー? 凄く仲睦まじい感じだったので、すみませーん」
「そうですか? あはは、そんなんじゃないです。 今日はこの人の冒険者登録をしたいんですが」
フェイがバーンダーバを指さす。
「はい、かしこまりましたー。 登録料に4イマ銀貨いただきます」
「あっ、それは私が」
フェイがカバンから少し大ぶりな銀貨を取り出した。
「すまないフェイ」
「いえ、気にしないでください」
フェイとバーンダーバのやり取りを面白そうに受付嬢は眺めている。
「はい、確かに、ではお名前は?」
「バンだ」
「戦士ですか? 魔法使いですか?」
受付嬢はにっこりと微笑んでバーンダーバに問いかけた。
「ふむ、どう言えばよいか。 魔力で具現化した弓で戦うのだが・・・」
「魔力の弓ですか・・・ あまり聞いた事がありませんね、うーん。 そうですねー、弓手ですので戦士として登録しておきましょう」
カリカリと羊皮紙に書き込んでいく。
「すまない」
「いえいえー、気にしないでください。 年齢はわかりますか?」
「すまない、分からない、100は超えていると思う」
「エルフ族ですもんねー、エルフ族の方って年齢に無頓着で分からない人が多いんですよー。 長生きですもんねー」
どんどんと羊皮紙に書き込んでいく。
「すまない」
「あはは、気にしないでくださいよー。 では、少々お待ちください」
受付嬢は奥へと入っていった。
しばらくして戻ってくるとチェーンのついたプレートを持っていた。
「お待たせしました、このプレートに魔力を流し込んで貰えますか? そうするとその人の纏う魔力や闘気等を測ってプレートの裏にレベルが表示されますので、それに応じたランクの依頼を受けて貰う形になります。 最初からレベルだけが高くても高ランクの依頼は受けられないんですけどー」
バーンダーバがプレートを受け取り眺める、そこには【バン】【戦士】【依頼達成ランク・F】【レベル】等が細かい字で記載されている。
プレートに魔力を流すとレベルの部分の隣に数字で666と現れた。
「見せていただけますかー?」
バーンダーバがプレートを見せると受付嬢の顔がアレ? という顔になった。
プレートを振ったり指でトントンと叩いたりする。
「すみません、不良品みたいですねー。 こんなの初めて見ました、ちょっとまってて下さいねー」
そう言ってもう一度奥へと引っ込み、また別のプレートをもってやってきた。
「すみませんねー、もう一度お願いします」
バーンダーバが受け取って魔力を流し込む、レベルの数字はまた666と表示された。
受付嬢はそれを見て目をパチパチさせている。
「えーっと、何者ですか?」
受付嬢は顔にダラダラと汗をかきはじめた。
その顔に先程までの笑顔は無い。
「その、何者と言われたら困るのだが、私はエルフと魔族の混血なのだ。 そのせいでコレの数字が上手く機能しないのかもしれん。 それでは冒険者にはなれないか?」
「まぞっ! 」
受付嬢は大声を上げそうになって自分で口を手で抑えて周りをキョロキョロと見る。
「魔族がなんでこんなところに? えーっと、すみませんが、私の手に余りますのでこのギルドのマスターに会って貰えますか?」
立ち上がってバーンダーバとフェイを2階への階段へ受付嬢は案内した。
先に立って受付嬢が階段を登っていく、それをバーンダーバとフェイが顔を見合わせて不安気な表情であとに続いた。
お読みいただきありがとうございました。
流石に3話投稿は出来ません。
申し訳ございませんが明日の投稿をお待ちくださいませ。
朝の8時頃を予定しています。