48話〜魔法陣の魔法使い・ジャスハン
「待っていろ」
顔も上げずに男は羽根ペンをインクに浸して羊皮紙の上を走らせている。
部屋の中は大量の紙で満たされていた。
大小はあるものの、全て正方形。
その羊皮紙にはどれも魔法陣が描かれている。
円が描かれて円の内側には複雑な紋様や文字が書いてある。
待つこと数分、男が「はぁ」とため息をついて顔をあげた。
「待たせたな、えーと、なんだったか?」
男が頬をかいて尋ねる。
「北の荒野の迷宮産の魔法素材をお持ちしました、カルバンでございます」
カルバンは商人ギルドの証を見せながら自己紹介をした。
「あぁ、そうだったな。 私はジャスハンだ、今は魔法陣ばかりだが、魔法具を作ることもある。 何がある? 聞かせてくれ」
カルバンが羊皮紙を取り出して読み上げていく。
「では、そうですね。 グールの布切れは?」
「死霊術はしないな」
ジャスハンは興味なさげに肩を竦める。
「オーガの皮と角は?」
「筋力上昇のマジックアイテムが作れるな、見せてみろ」
カルバンが鞄から物を出す。
それを取り上げてしげしげと眺める。
「ほう、悪くない」
「はい、中々に良い品物ばかりです。 こちらなんですが」
カルバンが鞄から大きな爪を出した。
「ソレはなんの爪だ?」
「荒野の迷宮の特産とも言えるシャドウウルフの爪です」
「珍しくはないな、あそこはシャドウウルフが大量に出る」
「はい、今はまだ珍しくありません」
「どういう意味だ?」
魔法使いジャスハンが眉を顰める。
「実はですね、荒野の迷宮が踏破されたのです」
「なんと!? 凄いニュースじゃないか! それで? それなら当分はこれの値段は下がるはずだ」
迷宮が踏破されると内部の魔物は全てが依代、つまり、魔法素材だけを遺して消える。
それが全て市場に出回るのでその迷宮の素材は値が下がる。
それでも、迷宮を踏破した者はその膨大な量の素材と迷宮の遺物によって巨万の富を得られる。
「はい、ただ踏破されただけなら下がりますが。 踏破された時に迷宮が崩落してしまったそうです、ですから、この素材はもうそうそう手に入らないでしょう」
「その話は誠か? 今は魔王が攻め入ってきてもいない、ということは、だ、迷宮を踏破した者は時の大神の加護を受けた勇者ではないという事だ。 魔将殺しのゲルハルト以来の偉業だぞ、まだ情報も入ってきていない。 にわかには信じられんな」
ジャスハンは疑惑に満ちた目を向ける。
「間違いありません、踏破したのはパーティ名勇者のケツを蹴れ。 後ろの3人がそのメンバーです。 そして、知らないのも無理は無いでしょう。 踏破してから1週間と経っていませんからね」
ジャスハンの顔がさらに訝しげに歪んだ。
「勇者のケツを蹴れか、随分とふざけたパーティ名だな」
「後ろのエルフの男性がパーティリーダーのバンです」
「ほう、なら、冒険者ライセンスを見せてみろ」
「あー、分かった」
何事かを言いかけたバーンダーバだが、首からライセンスを外してジャスハンに手渡した。
ライセンスを見たジャスハンの顔がまた訝しげに歪む。
「私は魔族とエルフの混血なのだ、だからそれが正常に機能しないらしい」
ジャスハンの表情を見たバーンダーバが先回りして答える。
「魔族だと!? なぜ魔族が現界にいるのだ!」
「恐らくだが、混血のせいで次元の大神オルパターンの結界を抜けられたのだろう」
バーンダーバの言葉を聞いたジャスハンは「馬鹿な」とか「混血、それなら半分は結界が作用するはず」「たかが混血で次元の大神の結界をレジスト出来るのか?」などとぶつぶつと喋っている。
「あー、それだけじゃないんですよ。 こちらはレッドドラゴンの王・赤い鱗の王様です」
「なに!? イスラン火山のか! そんな大物がここにいるはずないだろう、読めたぞ、貴様ら詐欺師だな。 話を大袈裟にして信じ込ませる、中々に上手い手だが相手が私では運が悪かったな」
「うるさいねアンタは、魔法使いなら変身魔法くらい知ってんだろ? なんならここで龍に姿を変えてやろうか?」
ジャスハンの態度にイラッとしたロゼが睨む。
「ほう、面白い出来るものならやってみるがいい」
ジャスハンの挑発にロゼが姿を変えようとした時。
『まぁまて、ジャスハンよ。 貴様が今描いている魔法陣だが、我が完成させてやろうか?』
変身しようとするロゼをフェムノが止める。
フェムノの声を聞いたジャスハンが困惑した顔になり、また訝しげな顔になる。
「随分と手が混んでいるな、今度はなんだ?」
「あー、この剣が喋ってるんです。 一応聖剣なんですけど」
背中のフェムノを指差しながらフェイが言う。
『一応とはなんだフェイよ』
「ふん、最初は魔族、龍、その次は聖剣の腹話術か。 くだらんな」
『くだらんかどうかはお主の魔法陣を完成させてからでも遅くはあるまい? 見たところ、自動追尾で手こずっているようだが』
それを聞いたジャスハンの顔色が変わった。
「馬鹿な、どこで知った!? この魔法陣は誰にも教えていない!」
『見れば分かる、光球を頭上で維持する魔法陣を描こうとしているのだろう?』
「・・・ ほう、多少の造詣があるようだな。 確かにそうだ、これは光を生み出して頭上で維持させる魔法陣だ。 これが完成すれば冒険者は松明を持って迷宮に入らなくて済むようになる、些細だが素晴らしい発明だ。 私の名は後世まで残るだろう」
それを聞いたセルカが「そういえば前にフェムノが迷宮でそんなの出してたな」、と思い出した。
『我ならその魔法陣を完成させられる、どうだ?』
「面白い、やってみろ」
ジャスハンは鼻で笑って机の上の描きかけの魔法陣を突き出した。
『まず、全体的に魔力を使いすぎだ。 光を生成する陣を小さくしろ、それから自動追尾は動きを感知するのではなく相手の魔力に反応するようにすればいい』
「どうやると言うのだ、魔力を感知させようとしたらさらに大きな魔法陣にしなければならなくなる」
『感知の対象を限定すればいい、それには・・・』
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「凄い! 完成したぞ!!」
数十分後、歓声を上げるジャスハンの頭上にはジャスハンの動きに合わせて移動する光の球が浮かんでいる。
先程までの威厳に満ちた雰囲気は無く、自分を追いかけてくる光を見ながら嬉しそうにジャスハンは室内を走り回っている。
「それで、その、素材は買い取って頂けるのかな?」
ずっと待っていたカルバンが声をかける。
「おぉ、勿論だ! いや、私も聖剣様について行こう! 無限の叡智を受けられるなら金などいくらでも出すぞ!」
ジャスハンの言葉に皆が顔を見合わせた。




