33話〜ラビリンスマスター
フェムノの魔法でフェイの左腕の傷から流れ出す血はすぐに止まった。
痛みもほぼ無い。
『フェイ、油断するな。 アレは恐らくこの迷宮の迷宮の支配者とかいうヤツだろう、凄まじい圧力を感じる』
右手に握るフェムノからはいつもの余裕が感じられない。
運悪くフェイはあのゴーレムの眼前に転移してしまった。
フェイはゴクリと喉を鳴らした。
ゴーレムはズンっと地鳴りのような音をさせて踏み込み、こちらに襲いかかってくる!
身体強化したフェイからすれば速くは無い、だが、あの巨体を考えれば凄まじい速さだ。
『フェイ、先ずは距離を取って様子を見よう』
「分かりました」
地面を蹴って後ろに距離を取る、先程までフェイがいた場所に巨大な拳が振り下ろされるとドガァンっという轟音と共に3メートル程のクレーターが出来上がった。
『フェイ、後ろへ下がっては駄目だ。 距離を取りたくなる気持ちは分かるが、相手が人型なら左右に避けろ』
「はい」
また踏み込んで距離を詰めて大振りする拳をフェイは左に避ける。
風圧で吹き飛ばされそうな凄まじい拳だ。
フェムノはフェイが左右に避けたので少し安心した、フェイはまだ冷静に戦えている。
『フェイ、今度は攻撃の直後にヤツの拳を斬りつけてみてくれ』
「はい」
フェイは言われた通りにゴーレムの右拳を右に避けた拍子に体を旋回させて薙ぎ払う!
だが、聖剣の斬撃はガキンっという音と共にゴーレムの身体にかすり傷1つ付けることなく弾かれた。
一瞬体勢を崩したところにゴーレムの左拳が上から振り下ろされる!
咄嗟に後ろへ下がったが地面に拳がめり込んだ衝撃で打ち出された砂礫がまるで銃弾のようにフェイに襲いかかる!
砂礫を浴びたフェイの体のあちこちが切り傷となって血が流れた。
フェイは悲鳴1つ上げずに冷静に距離を取る。
『奴に切っ先を向けて魔力を込めてくれ』
フェムノが言うと同時にフェイが動く、魔力を込めた瞬間に銀色の光と共に魔力弾が無数に生まれ、ゴーレムに向かって飛んだ。
魔力弾がぶつかる度にドカンドカンと炸裂する!
だが、魔力弾の煙幕から何事も無かったようにゴーレムが突進してきた!
フェイはそれを右に避けて躱しながらもゴーレムの足を斬りつける!
が、やはり傷は付かない。
魔力弾でも堪えた様子は無い。
フェムノは内心で焦っていた、今の斬撃も悪くなかった、フェイの切り込みの角度も、自分の刀身への強化も。
それが全くの無傷。
今の魔力弾も加減はしていない。
フェイの魔力総量を考えて出来うる限りの威力で放った。
どうする?
フェムノはその他の作戦を考えたがフェイの強化魔法を切らすことは出来ない。
身体強化を外せばフェイは恐らく、すぐにあのゴーレムに捕まってしまうだろう。
そうなると攻撃魔法に集中して最大火力を出すことは無理だ。
ましてや、魔力が切れれば自分は何もフォロー出来なくなる。
では、今以上の斬撃で削り続けるしかない。
そこまで考えて取ったフェムノ選択は。
『フェイ、一旦ヤツを倒すのは保留しよう。 この迷宮内は我の魔力感知範囲が狭い、何処か出口を探すので壁伝いに走ってくれ』
「・・・ はい」
一瞬の間があったがフェイは返事をしてゴーレムから距離を取って広いドーム状の空間を壁伝いに走る。
ゴーレムは逃げに徹したフェイのスピードにはついてこれない。
すぐに1周して分かったことはこのフロアは完全孤立している事。
フェムノの魔力感知で10m先まで壁の外側に空間は見つけられなかった。
恐らくは、転移の魔法陣でしかここへは入ってこられないのだろう。
『フェイ、この空間からの逃げ道は無さそうだ。 ここからは逃げに徹するぞ、我の見立てでは逃げに徹すればフェイの魔力量なら10時間以上は逃げ続けられる。 それでバーンダーバ達の助けを待つのが得策だ』
セルカはこの迷宮は全部で6階層だと言っていた、はぐれたのは3階層の中ほど。
たしか、2階層のセーフポイントまでかかった時間は12時間と言っていた。
急げばバーンダーバ達ならもっと速くここまで来れるかもしれないが、まっすぐここへ来るとも限らない。
まっすぐ来たとしてもリミットはぎりぎり。
勝算のかなり低い賭けだった。
だが、フェイを生かすにはそれしか道は無い・・・
「・・・ 嫌です!」
答えてフェイはゴーレムに突っ込んだ!
真正面から飛んでくるゴーレムの拳を避けながらフェイはゴーレムの腕を斬り付ける!
それでも虚しく、ガキンっという音をさせただけで傷は付かない。
『戦うと言うのか?』
フェムノはフェイの取った選択、と言うよりも、フェイが自分の意見を主張した事が意外だった。
フェムノが見る限り、いつもフェイは流されるばかりだったからだ。
「誰かの荷物になるのはもう嫌なんです、私は戦いたい。 でも、1人じゃ勝てません。 フェムノ、力を貸してください」
片腕になったというのに、フェイは瞳に闘志をたたえていた。
それを見たフェムノは、いつかの自分の持ち主を思い出した。
『フェイ、私は魔力による強化しか出来ない。 フェイが闘気による強化もそこに付与する事が出来ればあるいはヤツを斬れるかもしれない』
フェムノの言葉を聞いてフェイは少し嬉しそうな顔をした。
「私の我儘に付き合ってもらってすみません」
フェイはギュッとフェムノを持つ手に力を込めた。
『我は聖剣、担い手はお主だ。 フェイよ。 担い手の力になるのが我の務めだ、お主が戦うと言うのなら我はお主が死ぬまで共に戦おう』
フェムノは嬉しかった。
命を賭して戦う選択を取ったフェイが。
フェムノにとって戦いは至上の快楽である。
その中でも特にフェムノが尊く思うところは自分よりも巨大な異形の敵に立ち向かう事。
それは想像を絶する恐怖が伴うものだ。
そこへ挑む気概のある者は少ない。
そこへ立ち向かう主に出会えた事も嬉しかったが、フェイがその選択を取ったことが驚きと喜びに満たされた。
何処かなし崩し的に担い手に選んだフェイを心から主と呼んだ瞬間だった。
『フェイ、闘気の扱いは可能なのか?』
「少しですが」
『お主はロゼの加護によって急激に魔力も闘気も上がっている、魔力の方は我が制御し、自在に戦いに転用しているが闘気は全く使えていないハズだ。 勝機があるとすれば、そこだろう』
「はいっ!」
そうは言ったものの、闘気はそうそう自在に操れるものでは無い。
本来なら長い鍛錬の果てにレベルが上がり、自然に扱える物がフェイは急激にレベルだけが上がったせいで全く扱えていない。
フェムノもそれは分かっている、簡単では無いことを。
それにフェイは元々戦いに関する才能は無い。
それを戦闘中に約20レベル分の闘気のコントロールをなし得なければならない。
それは絶望的な確率だが、フェムノはそれに喜んで賭けた。




