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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
後日談 アニスフィアの生誕祭
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After Days:アニスフィアの生誕祭 03

「まず、問題を整理しようか」


 私の切り出しにユフィとラング、そして遅れて慌てたようにラングの秘書くんが頷く。


「まずこの問題の争点になるのは精霊石の在庫と今後の行く末についてだ。魔学の普及が認められて、今後は魔道具が広く民の間に渡っていく事になる。この魔道具の開発には精霊石が必要になる。これが精霊石の価格高騰を招いている。そうだね? ユフィ」

「はい。精霊石の採掘自体は前年よりも活発になる事が予想されています。しかし、それでも魔道具の普及を広めるに当たっては幾らあっても足りないと思われます」


 私の確認にユフィが頷く。魔法が使えなかった私の為に生み出された魔道具は魔法を使えない平民にも使う事が出来る。そして魔道具があれば生活の水準は上がっていくのは間違いない。

 それを誰もが理解しているからこそ、魔道具の開発が進むようにと願っている。自分達の生活が楽になるならば、求めるようになるのが自然の流れで。


「でも、ラングはこれに待ったをかけたい。魔道具の普及が進むのは女王であるユフィが望むなら異論はない。だけど魔道具の開発ばかりに精霊石を持って行かれれば、今度は精霊省の責務の一つである文化の保存・継承が廃れてしまう可能性がある」

「はい」

「この機会を奪ってしまうと精霊省は女王であるユフィ、というかユフィと懇意にしている私との関係が険悪になっていく一方。その所為で精霊省に対する風向きが余計に悪いものとなってしまう。こうなると将来的に精霊省という組織が先細りしてしまう、それでは精霊省の業務も縮小をせざるを得なくなってしまう。これがラングの抱いている危機感だね?」

「仰るとおりでございます」


 大元の問題は精霊石の在庫を巡る問題。ユフィは民の生活向上の為に魔道具の普及を進めたいけれど、そればかりに傾倒してしまえばラング達、精霊省の存続に疑念を抱かれてしまう可能性がある。

 例えば、このまま魔道具が優先されていけば、従来の精霊石の活用方法であった祭事などでの使い切りの精霊石の使用に疑問が生まれてしまう。結果、それは精霊省への反発に繋がりかねない。

 ただでさえ魔法省時代との因縁がある私とはこれ以上、揉めたくないというのが彼等の本音だろう。だけど何もせずにいたら、このまま衰退を待つだけになってしまう。だからこそラングは声を上げなければならなかった、と。


「でも、だからと言って従来の精霊石の使用は認められない。結構派手に使うもんね、アレ」

「えぇ、特に今回予定されているアニスフィア王姉殿下の生誕祭は今まで祝う事も出来なかった年の事も考え、大々的に行いたいと考えています」

「であれば見栄えは大事だけど、かといって精霊石の大量消費は反感を買いかねないか。でもだからといって手を抜けば、結局形だけの関係改善がしたいと言われるかもしれないしねぇ……」


 膝に頬杖を突きながら私は溜息を吐いた。これは思ったよりも面倒な話だね?

 でも言われなければ精霊省が私達が望まぬ程に弱体化していたかもしれないし、こればかりは忠言をしてくれたラングに感謝をしなければならない。そのラングも代案がある訳ではないと言った上でこの話を持ってきたのだから、覚悟の上なんだろうなぁ。

 このまま目に見えてわかる衰退があったとしても、私を刺激する事は精霊省にとって恐ろしい事なんだろうね。ユフィの女王即位、そして精霊省と魔学省の分裂と独立、その際の人事刷新。うん、これは動きづらいなんて話じゃないよね! 下手に動けないよ!


「じゃあ、どうしようか、って話に戻って来る訳だ」

「難しい問題ですね……」


 ユフィも顎に手を添えて悩ましげに呟いている。これは生半可に解決出来るような事じゃないよね。


「やっぱり私の今年の生誕祭には間に合わせたい?」

「可能であれば。時間を置けば置くほど我等の中でも萎縮したまま、このように意見をしても動けなくなってしまう可能性があります」

「かなり瀬戸際って事か……」

「閑職であるならば、アニスフィア王姉殿下を刺激せずに済むなら、という妥協した者もまた多いのです」

「随分と恐れられてるねぇ、私」

「それだけ貴方が恐ろしいという事ですよ。正確に言えば、貴方にしてしまった事が、ですが。それで報復ともなれば眠れぬ夜もある事でしょう」

「それは自業自得……って言い切るのには難しい問題だ」


 少なくとも私が疎まれていた時期は、その考えこそが正しいんだから。今となって引っ繰り返ってしまった常識だけどね。人も、物も、決して価値は一定のものじゃない。今は私に天秤が偏っているという状況な訳で。

 そうなると私と精霊省はさっさと仲直りをした方が良いんだけど、下手に和解をしてしまうと精霊省の立場が微妙になってしまうリスクもある。それなら精霊省には頑張って貰いたいんだけど、問題はどういう方向に頑張ろうか良案がないという事だ。


「私の生誕祭という祭事を主導して私との関係を改善して、なおかつ精霊省の華やかな活躍を印象づけたい。でも従来の方法であれば精霊石が求められる昨今、妙な反感を買いかねない。でもやらないという選択肢も無い。困ったから私達に泣きついたって事でいいのかな?」

「……そう取られてもやむを得ないでしょうね」


 自嘲するように笑みを浮かべてラングが頷いた。彼も難しい立場にいるんだなぁ、と改めて実感してしまった。以前、ちらっと会話を交わした事もあったけど、その時のラングともまた変わったなぁ、と感じる。

 さて、話し合うべきはこの問題をどう解決するかだ。私の生誕祭は出来れば盛り上げたく、精霊省の華々しい活躍の一歩としたい。だけど精霊省は従来のやり方を抜かした祭事の手法に悩んでいる。ここには国民感情が絡む以上、慎重に事を進めたい。

 だからこそミゲルと通じてこの場を取り付けた。この悩みを共有する為に。そして私には何が出来るのかを考える。


「生誕祭の流れは、国民へのパレードと披露会。大きく分けるとこの二つかな」

「披露会に祝辞の祭事があると含めた上でなら、この二つでしょう」

「国民向けのパレードはユフィの女王即位の時の流れを少し縮小したり、基本そのままにアレンジを加えるので良いと思うのよね。だから変革の一手を打つなら披露会の方だね」


 パレードが平民向けの催しだとするのなら、披露会は貴族向けの催しだ。メインでもあるのと同時に王族の意向を貴族に知らしめる事が出来る機会の一つだ。

 けれど、だから下手な事が出来ない。規模を小さくすれば結局私との改善にはなっていないんじゃないかと噂されてしまい意味がない。何か人の目を引くようなインパクトが必要だ。

 言っちゃなんだけど、精霊省には古い考えの人間が多い。そしてそこから変わる事が出来ない者も。だからこそかつての上層部は軒並み、相談役という後方に押しやられてしまったんだろうけど。

 そこに折角ラングが交渉にまで来てくれたんだ。これを大きな一歩として私も成功させたいと思ってる。自分の生誕祭ではあるんだけどさ! そう思えば奇妙な気持ちにはなるけれど、国の祭事としてはやらなきゃいけない事だ。


「何が問題って、従来の方法だと精霊石が大量に消費されちゃうのがダメなんだよね」

「えぇ。ですが、それは王族の権威を示すものでもあります。幾ら今の政策の風向きが魔道具に向いているとはいえ、我等が主導する以上は精霊石を規定の数よりも減らすというのは付け入る隙になりかねません」

「うぅん、そもそも精霊石を大量にするのは権威の象徴だったり、精霊の祝福を示すように、だよね?」


 確認するようにラングに視線を向けると、隣に座っていて黙っていた秘書らしき青年が驚いたように私を見ている。その視線に目をきょとんとさせると、青年は慌てたように視線を逸らしてしまった。


「し、失礼しました!」

「いや、別に良いんだけど……何か変な事を言ったかな?」

「……その、王姉殿下は精霊信仰や王族の務めに関心がないと聞いていたもので、そのように意見を口にされるのが、失礼ながら予想していなかったもので……」

「……あー。そうだ、ラング。一つ確認したいんだけど」

「その前に。連れがご無礼を。申し訳ございません」

「も、申し訳ございませんでした!」


 少しだけ眉を顰めたラングが隣にいた青年の頭を掴んで下げさせる。青年も慌てたようにラングに下げられるように頭を下げた。


「いいよ、無礼だなんて思ってないから。私が聞きたいのはそこなんだ。ねぇ、もしかして私って精霊信仰を嫌ってるとか、無関心だと思われてる?」

「……失礼ながら、そう取られても仕方ないかと思っております」

「うん。いや、誤解って言っても通じないだろうしなぁ……私は精霊信仰を疎んでる訳じゃないよ。熱心ではないけれど、精霊への敬意は持ち合わせてるつもりだよ」

「でなければ精霊省の設立を提案する事もないでしょうしな。その点は疑っておりません」

「あはは、ありがと。それならやっぱり私の生誕祭は精霊省主導でやって欲しいね。私との関係改善だけじゃなくて、私も精霊信仰の信徒である事を証明して貰った方が良い。精霊省の人が必要以上に怯えてるのは、私の不信心な態度も無関係ではないんでしょ?」


 ラングも、ラングの秘書の青年も答える事はなかったけれど、それこそが答えだった。

 私には精霊は見えてなかったしなぁ。実在は知っていても、それを信仰するかと言われると深く考えた事がなかったのは認める所だ。

 でも、ユフィが精霊契約者になって、リュミとも出会えた。実体化した精霊も見る事も出来た。その存在は以前よりも身近だ。だからこそ、以前よりももっと祈りを捧げる事が出来ると思う。実体験って大事だよね!


「話を戻すけど、とにかく祭事を大々的にしようにも精霊石の使用が問題になる訳だ。まったく使わない訳にもいかないけど、従来の方法で使うのは悪手。かといって減らすのも問題。困った話だねぇ」

「……私共もそこが一番の悩みの種でした。そこでアニスフィア王姉殿下」

「ん?」

「貴方ならば、どうしますか?」


 私だったらどうするか? ラングの問いかけに私は目をきょとんとさせてから、目を閉じて自分の思考に篭もる。

 少しだけ自分の思考に潜って、答えはすぐに出た。でもそれを口に出して良いものかどうかはわからない。でも、口に出さなきゃ前に進まないとラングを真っ直ぐに見返す。


「私だったら――魔道具を使う」


 場の空気が冷え込むように下がった。ユフィは私に視線を向けて、ラングの秘書は窺うようにラングへと視線を向けた。

 そう、私だったら祭事用の魔道具を作る。でも、それはラングが避けたかった未来の筈だ。従来の文化を継承し、保存したかったんだから。本末転倒という奴だ。


「……私の意図はわかってるでしょう。それでも、そのお答えなのですね?」

「うん」

「何故ですか?」

「未来は、過去を受け継いでいけるから。だから、私だったら従来の方法を踏まえた上で不要なものを削ぎ、良きものだけを残す」


 この場合で言えば、精霊石を大量に消費する祭事という文化を不要として削ぎ落とすという事になる。そして良いものというのは祝福の形であったり、その思いや願いだ。

 私だったら魔道具として活用する事で精霊への感謝にも繋げられると思う。だって私がここまで来れたのは魔学で学び、考察した結果を持って、その過程で生み出された魔道具だからこそ。


「過去の中に未来はない。でも、過去をこの瞬間に思う事は出来るし、この思いを未来に連れて行く事は出来ると思う。でも、その全ては無理だよ。世界は変わっていくものだから。そのままじゃいられないものが絶対にある。それでも、その中で失っちゃいけないものを抱えていくんだ。その為に、私達は変わっていく事が出来るんだと思う」

「……古き信仰は、その新しき信仰の中に息づくと」

「……うん。だからね、今は、ラングの言う文化の保存をするべきだとは思う。でも、いつかは変わってしまうのなら、それも人々の答えだとも私は思う。それが私達が生きている間に変わっていくのか、その後の人に託されるのかはわからないけど」


 私は変わらなければ良いなんて思えない。だから無駄があるなら変えたいと思うし、そう願うよ。でも、その私の正しさだけが世界の正しさとも言えない。

 だから変えたくないものがあると言うラング達の、精霊省の存在を認めた。彼等の願いや考えを受け止めたいと思う。その上で、どう変わるのかを決めたい。変わらない為に変わるのか、変えさせたくないものの為に変わるのか。


「もう私の夢は、私一人の夢じゃないから。だから、私はそうする」


 姿勢を正して、背筋を伸ばして私は続ける。……ふと、私の膝の上に置いた手にユフィの手が重ねられた。ラングに向けていた視線をユフィへと向ければ、ユフィはまるで愛おしい者を見るように私を見ていた。

 その視線の熱に、一気に顔の熱が上がりそうだった。思わず手を振り解いて、そっぽを向いた。するとユフィがくすくす笑ったのが後ろから聞こえた。こ、こいつぅ……!


「……ごほん」


 場の空気を取り直すようにラングがわざとらしい咳払いをした。私はバネ仕掛けのように姿勢を戻す。頬の熱は戻らないままだけどさ!


「……アニスフィア王姉殿下のお言葉、この胸に響きました」

「え?」

「アニスフィア王姉殿下。どうか、我等に魔学の講座をして頂けないでしょうか?」

「……えぇっ!? そ、それって、精霊省に!?」

「何も精霊省全ての人員とは言いませぬ。教えを受ける者は私が責任を持って選びましょう」


 ラングの申し出に私は驚きのあまり、身を乗り出してしまった。ユフィだって驚きに目を見開いてラングを凝視してる。


「はっきり申し上げますが、アニスフィア王姉殿下のこれまでの魔道具の発明品は実用性が重視されているものばかりと見受けられます」

「……うん。そうだね。使う事が前提だからね」

「そして私が見るに、儀式の為に使う……言うなれば儀礼を目的とした魔道具は存在していない」


 それは否定出来ない。だって私の魔道具は魔法を再現して使う事が念頭に置かれていたから。それでも儀式に使用出来るような魔道具と言われても心当たりがない。


「……じゃあ、ラングはその為の魔道具を考案して作成したいと?」

「時間はあまりありませんが、かといってこのまま機を逃し続ける訳にはいかないのです。貴方のお言葉を聞き、心を固めました。どうか今一度、魔学の教えを授けて頂きたいのです」


 深々とラングが頭を下げるのを見て、私は彼の頭の天辺を見つめながら呆然とするしかなかった。

 え、えぇ!? ど、どうするのさ、この状況!


 

  

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