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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
後日談 アニスフィアの生誕祭
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After Days:アニスフィアの生誕祭 01

後日談を更新します。ちょっと長めの後日談になりそうなので独立した章として分けます。

「いい加減、腹を括って貰おうか」


 その声は、停滞していた場を動かすのには十分過ぎるほどの力を秘めていた。

 ここは会議の場だ。幾人が顔を突き合わせ、一つのお題目に対して決定する会議を行う。しかし、その会議は進まず誰もが顔を見合わせていた所だった。

 だからこそ、その一言が強く響いたのだ。停滞する会議の空気を切り裂いた者に誰もが視線を向ける。同意するように頷く者もいれば、難色を示すように顔を歪める者もいる。


「……君が言いたい事もわかる。だが、しかしだな」

「しかし、なんだ? 貴様は随分と小心者になったではないか」

「今の世情を考えて発言してくれないか!」

「考えた上で、このまま手をこまねいても何も意味がないと言っているのだ」


 苛立ちから声を荒らげる者に対して、切り開いた者は突きつけるように言葉を返した。声を荒らげた者だけではなく、彼と同じ考えを持つ者も顔を歪めている。


「確かに我等は以前の力を失った。だが、だからといって背を丸めて生きる事が我等の為す事か? 違うだろう? 我等にとて誇りはある。これは我々の誇りを取り戻す為に必要な事なのだ」

「しかし……」

「くどい! 何の為の席だ、譲られただけの席ではない。この席は引き継がれた席なのだぞ! それならばその責任と誇りを持って私が納得するだけの反論をしてみせろ!」


 その声に反論の声を上げる者はいない。静まり返った会議場は、既に彼の独擅場となっていた。


「既に時期は過ぎているのだ。間が空けば空く程、この策は効力を失うだろう。立ち上がる時は今なのだ」

「……それで、失敗をした時はお前が責任を取ってくれるのだろうな?」


 悔し紛れと言うように、誰かが呟いた。その呟きに鼻で笑うように鳴らして見せる。


「もちろんだ。我が名を、ヴォルテール家の名にかけてやろう」


 そう言って男、ラング・ヴォルテールは鋭い視線をそのままに、決意を秘めた眼差しでそう言い切るのであった。



 * * *




「一、二、三……っと」


 離宮の中庭で私は素振りをしていた。いつ母上の強襲があるかもわからないし、やる事がないからって怠けている訳にもいかないからね。

 うーん、でもこうして暇を持て余すなら冒険者に復帰したくもなるんだけど、流石にユフィが許さないかなぁ? 今なら研究したい、って言えば予算はユフィが出すとか言いそうだし。

 いつかが来るまで待て、という話ではあると思うんだけどなぁ。まぁ、備えておく事しか出来ないし、体が鈍らないようにする事も大事だよね。鍛錬、鍛錬っと。


「あ、アニス様。こちらでしたか」

「あれ、レイニ? どうしたの?」


 中庭で鍛錬をしていると、レイニが声をかけてきた。今日も王城でのお勤めだった筈なのに、どうしてレイニがここにいるんだろ?


「ユフィリア様がお呼びでしたので、登城をお願いします」

「え? 私に登城しろって? それは珍しいね」


 政務から遠ざけられている私は登城する予定なんて滅多にない。父上が国王をやっていた時も、そんなに呼び出される事もなかったし、必要もなければ寄りつかなかったから逆に新鮮な気持ちになる。

 しかし、私を呼び出しって何かあったのかな? レイニの様子を見ても緊急の案件って訳じゃないだろうけど。


「ちなみに登城って、これからすぐに?」

「いえ、二刻ほど後で執務室に来て欲しいそうです」

「ん。わかったよ、汗を流して着替えてからかな。イリアに頼むからレイニは戻っていいよ」

「はい。それでは失礼致しますね」


 レイニは笑みを浮かべて、見事な一礼をして去っていた。王城に行くようになってからレイニも動作が洗練されてきたなぁ。まだレイニが侍女見習いだった頃を思い出してしまう。時の流れは早いなぁ。

 さて、私ものんびりしてたらユフィに指定された時間に遅れちゃうから準備をしないと。



 * * *



「お待ちしておりました、アニスフィア王姉殿下」


 支度を終えてから登城すると王城の侍女達の出迎えを受ける。王女様って呼ばれてた頃に比べると、なんというか私もしっかりと王族として扱われてる感じがする。

 だからって訳じゃないんだけど、なんとなく身が引き締まるというか。流石に私もいい加減、子供のままじゃいられないって思うしね。

 王姉殿下、そう呼ばれるのに相応しいと思って貰えるぐらいにはしっかりしないと。


「ご苦労様、通らせて貰うわね」


 さて、ユフィは何の用事かな? 執務室の扉を開けて貰いながら中へと入る。

 執務室の来客用のソファーにはユフィと父上が座っていた。その対面の席にいたのは、なんとミゲルだった。

 思っていなかった顔を見た私は思わず目を丸くしてしまう。何してんの、ミゲル。


「アニス、呼びつけてしまって申し訳ありません」

「いいよ。それにしてもなんでミゲルが?」

「ははは、今回の一件を預かっているのが私だからですね」


 いつもの掴み所のない笑顔を浮かべて言うミゲル。相変わらずだなぁ、と思いながら私も来客用のソファーに腰かける。

 私が腰を下ろした事を確認してから、父上がユフィに目配せをする。ユフィも応じるように頷いてから、話し始める前に咳払いをする。


「アニスを呼んだのは、実は相談があったからです」

「相談? もしかして急な話?」


 相談って言うなら離宮に戻ってからでも出来ると思ったけど、ミゲルもいると言う事は何か急ぎの案件なのかもしれないと思って問いかけると、答えたのはユフィじゃなくてミゲルだった。


「詳しい内容は私から。まず今回の一件は、私に女王陛下、そして王姉殿下への取り次ぎを頼まれたからなんですよ」

「頼まれた? 誰に?」

「精霊省です」

「……精霊省が? ユフィはともかくとして、私に?」


 私は信じられない、という顔でユフィと父上の顔を見る。ユフィは悩ましげな表情を浮かべて小さく頷いてくれた。父上は仏頂面に近い表情のままで黙っている。

 ミゲルを通してって事は、本気で話がしたいと思ってるって事かな。でも、あの精霊省が? ユフィに何か話があるというならともかく、私に? なんで?


「困惑されるのは今までの事を思えば当然の反応なんですが、私の話を聞いて貰って良いですか?」

「う、うん。精霊省が私とユフィに取り次ぎたいってどんな話なの?」

「女王陛下にも認可を頂かないといけない話ではありますが、本命は貴方なんですよ。アニスフィア王姉殿下」

「……はぁ?」


 ミゲルの言葉に私は呆気に取られてしまって、気の抜けた声を出してしまった。いや、ますます意味がわからない。精霊省が私と交渉する事が目的って事?

 自分で言うのもなんだけど、私は精霊省とは良い関係を築けていない。こうして交渉を持ち込まれても、何を考えているかわからない。想像も出来ない。

 私の反応に当然だ、と言うようにミゲルが頷いている。ミゲルは両手を組み合わせるように握って、膝の上に肘を乗せた姿勢で話を続ける。


「王姉殿下の困惑もご尤もなんですが、そもそも精霊省と王姉殿下の関係がよろしくない事が発端とも言えるんですよね」

「お世辞にも仲が良いとは言えないけどさ……何か問題でも起きたの?」

「いえ、そういう話じゃないんですよ。さて、王姉殿下。そもそもの話、元魔法省であった精霊省が設立された経緯は覚えていらっしゃいますね?」

「覚えてるも何も、私が言い出した事でしょ。精霊省に望んだのは旧魔法省の魔学を受け入れてくれた人達との仕事を分ける為、そして魔法省時代に記録されていた資料の編纂や保管、今後の文化保存を担って貰う為だよ」


 元々魔法省という大きな組織だったのを分けたのは私とユフィだ。魔学を受け入れて意欲的に働いてくれる人材を魔学省へ、そして従来の精霊信仰に篤い貴族や魔学を受け入れづらい人材を業務はそのままに看板だけを新しくした。

 その業務内容は元々、魔法省で請け負っていた業務を更に専任、そして専門業務に移行させていく為の施策だった。勿論、政治派閥としての発言力は落ちる事になったから受け入れてない人は当然いるとは思ってたけど。


「えぇ、今の精霊省の役割としては王姉殿下の仰る通りです。そして、私が仲介を引き受けたのも彼等の業務の為に王姉殿下の協力を求めたいという話なのです」

「私に? いや、なんでそうなったの……? というか精霊省は何をするつもりなの?」

「アニス。精霊省はお前の生誕祭を主導したいと言っているのだ」


 口を挟んだのは父上だ。仏頂面のままの父上から言われた言葉に私は顎が外れそうな程、口を開けて呆然としてしまった。

 は? あの精霊省が? 私の生誕祭を主導したい? 何それ、本気で言ってるの?


「待って待って。はぁ? そもそも、私の誕生日はもう過ぎたよ? それに生誕祭って……そんなのアルくんはやってたけど、私なんて王位継承権を一度放棄した時からやってもらってないよ?」


 そう。私は一度、王位継承権を放棄している。それから王族としては籍を残してはいたけれど、実質いない人扱いだった。だから生誕祭なんてその頃からやって貰った事なんてない。

 そりゃ王族の誕生日っていうのは貴族の社交会の一つとして挙げられたりするし、アルくんがいた頃は祝われたのは知ってる。だけど、私には正直、もう関係ないって思ってたんだけど……。


「だから、なんですよ」

「だから?」

「精霊省は王姉殿下との関係を改善したいと、その為に王姉殿下の生誕祭を改めて開くべきだと企画を女王陛下に提出したんですよ。で、その意図の説明にいきなり精霊省が出向いても話すら聞いて貰えないんじゃないか、って事で私に話が来たんです」

「私との関係改善~~~?」


 思わず変な声が出てしまった。今更という思いが私の中でふつふつと湧き上がる。

 いや、もう名前も変わったし、ユフィが女王になった事で彼等も大分痛い目を見たと思うから、そんな何かしてやろうなんて気持ちにはならないんだけどさ。私が問題児だったのも事実だしね?

 だけど、あっちから私と仲直りしたいって言われて来られても、その、正直困る……。


「精霊省の言い分としてはこうです。精霊省は文化の保存、伝統の継承を役割として担う。それならば、今まで蔑ろにしていた王姉殿下の生誕祭を改めて執り行うべきなのではないか、と」


 あぁ、父上が渋い顔をしているのはだからか。そんなの魔法省時代の頃に私にさんざんケチをつけられた事だって要因の一つなのにそんな事を言われても。

 でも話は見えて来た。確かに精霊省は正直、風評が良くないんだよね。私と仲が良いユフィが女王に就任したり、魔学が正式に国家事業として始まろうとしてる今、かつて私に向けられていた蔑みは無くなっていき、代わりに精霊省へと悪感情が向かってる。

 自業自得だよ、って思う気持ちがない訳じゃないけどさ……。いや、でもだからって精霊省に協力って言われてもなぁ……。


「うーーーん、いや、うん。私としてはやった方がいいとは思うんだよ。やってくれるって言うなら精霊省の言い分もわからなくもないからさ」


 精霊省ははっきり言って閑職に追い込まれたと見られてる。だって実質やってる事が資料整理って言う地味な仕事が主になっちゃってるからね。

 でも仕方ないんだよ。これは私とユフィが相談して決めた方針だから。そもそも、魔法省が保管していた資料は抽象的な表現や内容の資料が大量に置かれていて、事実を元にした情報を得ようとすると役に立ってないのが現状だ。

 だから精霊省には現実を見て貰うという意味も込めて資料の編纂を仕事として押し付けたんだよね。私達が求める資料を彼等自身が作成する事で、その資料がどうして求められるのか、その意図を学んで欲しいと思ったからだ。

 文化の保存という観点では、その資料の全てが間違いだとは思わない。だけど用途によって分けるべきだとは思う。だから精霊省には資料や文化の保存、その役割で得た経験で国の文化面での仕事を担って欲しいと願ったんだよね。

 だから冷静に考えれば私の生誕祭を大々的にやろうっていうのは精霊省の仕事を周知する良い機会になると思う。そこに私との関係改善を見せる事で、王家との関係は良好である事をアピールしたい、と。

 わかるよ。わかるんだよ? でも、だけど素直に頷くには私と精霊省の因縁は浅くはない。どうしてもそんな思いが表情に出てしまうのを自覚する。


「だからお前を呼んだのじゃ。……引き受けろ、と言えばお前は頷くだろう。実際、様々な利はある。だが、お前の心情を無視する訳にもいかんだろう」

「父上……」

「お前の生誕祭の話を持ち出されては、余も何も言えん。その点では余も同罪だ」

「いや、でも断る理由がないじゃないですか。良い事ばかりですよ。それにミゲルが交渉に出てきてるって事は、私を嵌めようっていう思惑もないんでしょ?」


 仏頂面の父上に私は溜息を吐きながら返す。同罪とは言うけど、別に父上は間違った事はしてないと思うし。今は魔学が受け入れられるようになったから世論が引っ繰り返ってるだけで、当時は父上の対応が正しいと思うし。

 だからこそ、私の生誕祭を盛大に祝おうっていうのは効果を発揮するんだし。……そう考える事は出来るんだけどなぁ。頷くのは、なんだか胃の辺りが重くなりそうだ。


「精霊省は純粋に新たな役割を喧伝したいんですよ。そのお題目として今まで蔑ろにしていた王姉殿下の生誕祭を大々的にやる事で関係の改善を表明する。そして今後、催し事の主導を握る事で削がれてしまった発言力を取り戻して行きたい。そんな所です」

「今の所、魔学省に話題と名前を持って行かれてるからね。それは仕方ない事にせよ、このまま精霊省が閑職だと思われてしまうのも私は本意じゃない。……ま、前向きに、け、検討を……し、します……!」

「アニス……」


 歯をギリギリと鳴らしながら、引き攣った笑みを浮かべる。なんとか了承するといった私にユフィが呆れたように額に手を当てて溜息を吐いた。

 だって仕様が無いでしょ、理屈で感情が納得出来たら苦労はしないんだよ。まったく、とんでもない話が転がり込んで来たなぁ。


「そもそも誰さ、そんな事を言い出したの?」

「あぁ、ラングですよ」

「はぁ!?」


 ラングって、あのラングが? 私は思ってもみなかった名前に、目を見開いて驚愕するしかなかった。



 

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