表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第5章 転生王女と“ハジマリ”の魔法
69/207

第64話:歯車は噛み合った

「……ユフィとレイニ、大丈夫かなぁ」

「そんなに心配ですか?」


 私の呟きにイリアが溜息交じりに返す。私は机に肘をついて顎を支えながらイリアへとジト目で視線を向ける。


「心配だよ、そりゃ」

「あの2人なら問題は起きませんよ。無茶はする子達ですが、自分の限界はわかっています。アニスフィア様と違って」

「耳が痛い。……レイニにも驚いたけど、ユフィも凄い事を言い出したものだよね」

「例の計画ですか?」


 “例の計画”。それはユフィにとって魔法省での自分の立場を確立させる切り札だ。ユフィが示した切り札には私も驚きを隠せなかった。

 あの計画が実現すれば、今後の魔法の在り方も、魔法省そのものの在り方にも大きく影響を与える計画なのは間違いない。


「確かにこれから魔道具が浸透していけば、魔法は今の立場から方針や立ち位置を見直して切り替えないと不味い。魔道具の利点は誰でも使える事、安定した性能を提供出来る事。この2点は大きい」

「魔法の手を借りなければいけない問題が民の手で解決出来るようになれば、貴族の優位性を揺るがしてしまう問題ですね」


 イリアの返答に私は頷く。貴族を貴族たらしめる要因の1つとして、魔法が使える事で貴族にしか解決出来ない問題があるから、という理由がある。

 それは今まで領地の開拓や領地の防衛などにも必要とされてきた。力ある者が担う責務としては当然の行いだ。

 だけど国が大きくなれば守るべき者も増える。力だけが強くても成り立たないのが貴族であり、領地の経営というものだ。

 平民には貴族のように魔法という絶大な力が無かった。貴族が魔法という奇跡で領民を守る事が出来ていたからこそ、貴族と平民の関係は成り立っていた。


 魔学はそんな貴族の優位性の1つ、自衛の為の戦力を覆せる。魔道具は貴族でなくても使える。そして騎士や冒険者という職に就くものだっている。絶対数が大きくなれば、例え魔道具が魔法を越える事が出来なくても数で勝る事が出来る。

 自衛出来ない領民が自分達で自身を守れるようになれば、貴族からの守護を受けずに済ませる事が出来るかもしれない。それは貴族が担ってきた役割の1つを失う事に繋がる。勿論、完全に無くなるとは思っていないけど。


「それでも影響は出ると思う。貴族に頭を下げていた理由の1つが、その価値を減らす訳だからね」

「魔法を使える事で果たせる役割を見直す時期が来ている、と」

「これまでの事もそうだし、新しい事だって増やせるなら増やして良い。出来れば魔学や魔道具とは別の面での活躍が望ましい」


 貴族の優位性としての魔法の価値が薄れても、魔法そのものの価値が揺らぐ訳じゃない。貴族の権威として魔法を誇りたいのなら、魔法を使う人も変化を受け止めなければならない。

 その意味ではユフィの“方策”は現状を見直す良い方策になると思う。けど、その内容は……正直、判断し難い。それは確かに“魔道具”には不可能で、“魔法”でしか出来ない事だ。それが出来れば魔法そのものに革命を起こせると思う。

 では何が問題なのかと言うと、それは本質的に“魔学”と似たデメリットを抱える事になる。それも諸刃の剣的な意味で。ユフィから提唱された話を思い出して、溜息交じりに呟きを零す。



「――“精霊顕現”、か」



 * * *



 ――アニスフィアが呟いていた、その頃。

 魔法省では一部、ユフィリアが集めた者達によって講義が開かれていた。

 それは後に魔学と並ぶ、歴史の流れを変えうる“概念”が世に広められた瞬間の日であった。


「……“精霊顕現”ですか?」

「はい。それが私が魔法省の皆様に提案したい新たな魔法の姿であり、精霊との新たな関係を構築するのに繋がるものと考えています」


 ユフィリアは自分が集めた貴族達へ視線を向けながら頷く。その中にはマリオンの姿もある。ここに集められた貴族はユフィリアが見込みがあると自分の陣営に引き込む為に声をかけ、ユフィリアに同意した者達だ。

 この場にいる誰もが、ユフィリアの言葉を聞き逃すまいと集中力を見せている。その姿勢はエリートと言われた魔法省に務める者達として相応しい姿と言える。


「精霊顕現とは、精霊契約とは異なるものなのですか?」

「はい。似て異なるものと言えましょう。精霊顕現とは名付けましたが、これを私は“魔法”の延長線上に存在するものと定義します。今一度、概要をご説明させて頂きます」


 未だに理解が追いついていない者達が見受けられるのを確認して、ユフィリアは再度、自分が提唱する概念の解説を始める。


「前提として。精霊契約とは、世界に存在する精霊と己の魂の内にある精霊を共鳴させる事で己の半身となる精霊を象り、自らの魂を引き換えに魂を交換する事で大精霊へと存在が昇華されます。では、これに対して精霊顕現とは何か? 精霊顕現とは共鳴ではなく、魔法を使うように精霊に魔力や意志を投影させて独立させます」

「精霊を独立ですか? その、それがどう魔法の延長線上にあるのか繋がりが見えないのですが?」

「言ってしまえば魔法も精霊が姿形を変えた“現象”です。その現象を起こしているのは人の意志、祈り、願い。更に供給源となる魔力を得て存在を変化させるのが魔法です」


 ユフィリアが全員を見渡して反応を窺う。誰もが悩ましげに眉を寄せたり、額に指を当てたり、各々の反応で思考に没頭している。


「魔法も精霊の姿の形の1つとお考えください。そして精霊顕現が魔法の延長線上にあるというのは情報量が違うからです。これが魔法と魔道具を分ける大きな分岐点となるでしょう。道具である以上、魔道具はシンプルな設計が求められますが、魔法はこれとは逆に多くの情報量を詰め込み、独立させる事が出来ます」

「それが強みとなるのですか?」

「魔道具はあくまで“誰にでも使える”という点をアニスは意識しています。使う者が平民や、魔法を得意としてない者達に向けていますからね。勿論、魔法を得意とする者にも恩恵を与える事が出来ますが、足並みが揃っていない限り優先される事はないでしょう。だからこそ魔法は狭く、深く、そして専門的に在り方を切り替えるべきだと考えます」

「それが精霊顕現……?」

「はい。言うなれば“己の望んだ役割を果たす精霊”を生み出します。究極的には意志を持つ魔法、つまり“精霊”を従える事が出来れば理想と言えましょう」


 ごくり、と誰かが唾を飲み込む音を立てた。声が震えたのを隠せずに、問いかけの声がユフィリアに投げかけられる。


「それは、つまり、……言うなれば、自らの手で“精霊”を、“神”を形にする行いと言えるのではないでしょうか?」

「はい。まさしくその通りです。そして魔法省の皆様だからこそ、この計画を共に進めたいと私は考えています。……ですが」


 ユフィリアは沸き立つ寸前と言う空気に水を差すように冷たい声を場に響かせる。


「自ら神を作り出す。確かに“精霊顕現”の行き着く究極形はそこにあるのかもしれません。ですが、忘れてはならないのです。精霊は我等、人の意志の映し鏡。その神が真に世に求められているのか、生み出し世界に送り出す者として責任を持てるのか。それこそが皆様がしなければならない“覚悟”です」

「覚悟……」

「精霊顕現は魔学と同様、周囲に与える影響が大きくなります。もし、精霊を顕現させて友とする事が出来ても、その友を同胞へ向けるものとして生み出すのは断固として禁じなければなりません。自らと違う考えを淘汰するようではダメなのです。わかりますね?」


 ユフィリアが釘を刺すように言えば、場は静まり返る。誰もが浮かれたような表情をする事はなく、引き締めた表情でユフィリアへと視線を返す。


「それに、精霊顕現の技術が確立すれば魔学と手を取り合う事も夢ではありません」

「そう、なのですか?」

「魔道具の核は精霊石です。そしてアニスの理論で言えば、精霊石は精霊が寄り集まり、意志を持たずに固まってしまった死骸のようなものです。この核となる動力を精霊顕現で生み出した精霊に置き換える、或いは共存させる事が出来ると私は考えています。実現すれば、アニスは快く受け入れてくれる事でしょう」

「お、おぉ……!?」


 誰もが隣の者達と顔を見合わせた。精霊顕現、それは精霊信仰を持つ者としては恐れ多くも“精霊”に実体を与え、この世に顕現させるという事だ。

 更にその先に魔学の先進者であるアニスと手を取り合う可能性もある。その可能性を示された者達の顔は一様に驚きに溢れ、そして次第に喜びが滲み出していく。


「精霊石を精霊の死骸と、そう言われて怒りや恐れを抱いた者は多くいるかと思います。私も否定はしません。ですが、変化によってその定説を覆すことも私達に出来るのではないでしょうか? 精霊石は死骸などではないと、そんな認識に変えてやりたいとは思わないですか? それこそが精霊を信じられぬ者達が、精霊と触れ合う事が出来ずに望めぬ者達が精霊と心を通わす道標になるとは思いませんか?」

「魔法を扱える事で我等が精霊に感じていた恩恵を、魔道具を通して感じる事が出来る……!」

「信仰を否定する訳でもない。ただ、その祈りの形を変えるだけなのだ。より深くを知り、より多くを学び、より良いものへと変わっていく」


 ようやく彼等は魔学を先導するアニスフィアと戦わずに済む未来が見えた。そして精霊信仰を根本から変えたり、捨てなくても良いと思えたのだ。これが何より大きな心の安寧に繋がった。

 どんなに真実が明かされようとも、今まで培ってきた心情や信仰ををすぐに捨てられる訳ではない。そして捨てる必要もないと示されたのだ。ユフィリアは精霊信仰を望む者達が魔学と手を取り合う道を示してくれたのだ。

 決して魔学と、そして魔学の先導者であるアニスフィアとは反目し合う必要はない。恭順の為に頭を下げる必要もない。ただ、お互いの足りない所を埋め合い、互いの領分で為すべき事を果たす。それが可能なのだと実感出来たのだ。


「貴方達は狭き門をくぐった、その才能を認められた者達です。今こそ、古き習わしからその先へ進む時なのです。私が貴方達を導きます。そして共に新しい時代を築きましょう」


 ――皆で、手を取り合って。

 口にせずに込めた願いの言葉は万雷の拍手を生み出す。ここにいる誰もが希望を胸に抱いていた。明日に夢を見ていた。そんな光景を見てユフィリアは満足げに唇を引き結び、目を閉じた。


 この日、ユフィリアからの薫陶を受けた一派は、元が日和見を決めていた中立派であったとは思えぬ程に精力的に動き出した。

 ユフィリアを中心とする魔法省の勢力は次第にその数を増やしていく事となる。まるで渇いた大地が水を吸い、瑞々しい緑を芽吹かせるかのように。

 それが新たな時代の流れを生み出すまで、そんなに時間はかからなかった。



 * * *



「……共同研究? 私と?」

「はい。是非ともアニスフィア王女の知恵をお借りしたく、この場を設けさせて頂きました」


 私はマリオンを含めた魔法省の人達に面会を求められて、そんな驚きの話をされていた。

 最近はすっかり国防省で用意されていた執務室にいる事が増えた私だけど、その国防省にわざわざ訪問してきた魔法省の面々に目を瞬かせてしまう。

 

「ユフィから何も聞いてないんだけど……?」


 私が困惑したのもそれが理由だった。魔法省側からの申し出に関して、ユフィからは一切話を聞いていない。離宮で共に生活をする身ではあるけど、まったくそんな素振りも見せていなかった。

 ……あぁ、でも最近、ユフィとレイニが楽しそうに言葉を濁す事はあったかも。最初こそ厳しい顔が多かったユフィとレイニだけど、順調なのか表情が柔らかくなっていた。先日は特に楽しそうにしていたから、話自体は聞いてたのかも。


「ユフィリア王女には相談はしましたが、交渉をするなら私達に一任するとの事でした。繋ぎをつけるのも自分達ですべきだと」

「……ふーん、ユフィがねぇ?」


 前回の、魔法省訪問の際に揉めた後、私は魔法省には興味ないと言うように意識して振る舞っていた。

 国防省で魔道具の普及に向けて、鍛冶師や商人と交渉を重ねないといけなくて忙しかったというのもあるけど。ただ私は意見を求められることが多く、実際の交渉はスプラウト騎士団長やグランツ公が担当してたりする。

 他にも魔道具を実際に使う為の指導に飛び回ったりもしなきゃいけなくて、正直忙しくて魔法省に構ってる暇がなかった。

 だから今になって共同研究をしたいと言われても、あまり乗り気にはなれない。


「今まで魔法省がアニスフィア王女に取っていた態度を思えば、とても快諾していただけるとは思っていません。ですが、どうか我等の共同研究に価値があると思って頂ければ、是非とも共に肩を並べたいと思っています」

「……マリオン、君とは個人的な親交もある。けど私も今、魔道具の普及に携わる立場にある。個人的な感情を抜きにしても、ちょっと頷くのは難しい。それでも良ければ話を聞こうと思うけど」

「ありがとうございます」


 マリオンが率先して頭を下げれば、魔法省の面々も続いて頭を下げる。

 その真摯な態度がどうにも落ち着かない。今までは嘲るような目で見られたり、必要以上に恐れられたりしていたので、こんな態度を見せられると複雑な気分だ。


「共同研究と言っても私達がアニスフィア王女に望むのはご意見番としてです。私達が成果を上げた際、その評価や助言を賜りたいのです」

「なんでわざわざ私に? 魔法省の研究って言えば、最近は魔法の見直しを全面的に行ってるとは聞いてたけれど」


 最近はユフィを中心とするユフィリア王女派閥が魔法省で勢力を広げている。元々いた勢力を全て取り込む勢いで活気づいていて、実質的にユフィが魔法省を掌握していると言っても過言じゃない。いつの間に、って正直思った。

 というか本気出したら怖すぎるんだよ、ユフィ。私はご厚意に甘えて国防省の顧問という立場にいるけど、あっちは実力で築いた地位だ。ユフィの非凡さが留まる所を知らない。怖い。


「そちらはユフィリア王女が主導で推し進めています。私達は別の分野なので、あくまで私達が話を通すべきという事で本日、お時間を頂いております」

「別の分野?」

「はい。私達が研究しているのは精霊石なのです」

「ふぅん?」


 魔法そのものには意見を出す事は出来ないけど、精霊石となるとちょっと話は違う。


「具体的にどういった研究を?」

「はい。アニスフィア王女は精霊石に魔力を込める事で属性に対応した現象を起こしています。魔学の叡智を生かした疑似的な魔法、そこに着目したのです」

「……活用出来ない訳ではないと思うけど、そこまで重要視する必要ある?」


 ユフィのアルカンシェルのように魔法を補佐する媒体や増幅器としての機能なら精霊石は果たせるけれど、わざわざ魔法省が研究する分野とはちょっと思えない。

 それは確かに私向きの研究だ。でも、なんでわざわざ魔法省がその研究に手を出したのかがわからない。ましてや、私に意見や評価を求めようなどと思ったのか。


「アニスフィア王女は既にユフィリア王女から精霊顕現についてのお話はされておりますか?」

「概要は知ってるよ。ユフィの実現したい理想だね」


 着想の元はリュミエルの所で見た灯りの役割をこなしていた精霊達だと思う。あれは精霊契約者としての精霊との親和性と共鳴を利用して、灯りという器を与えた精霊と言える。ユフィはこれを魔法の延長線上として設定して、成し遂げたいと願っている。

 そこまでは私もユフィから実際に聞いた話だ。それがどうして精霊石の研究や、私を巻き込みたい理由に繋がるんだろう?


「精霊顕現は、魔法がただの現象ではなく、その先へ、もっと高次元での形を得る事を目標としています。対して、魔道具は魔法が起こす現象を限りなく簡易にし、道具という形に落とし込みます。その方向性は真逆と言えると思います」

「そうだね」

「それを踏まえた上で私達が目標としたのは、精霊と魔道具の融合なのです」

「…………へぇ?」


 自然と声が低くなった。それは昂ぶりかけた気持ちを表に出すのを抑える為だった。

 ぞわり、と背筋に悪寒が走る。自然と唇の端が持ち上がるような気がする。


「魔学は真実を紐解き、解明せし学問です。その解明した仕組みを以てして魔道具は生まれています。ならば、これは私達の“精霊顕現”にも有効になるのではないかと考えました」

「どう有効的に使う? あぁ、マリオン以外が答えて欲しいな。君達の考えが聞きたいんだ、私は。順番に、もしくは挙手で積極的に弁舌を振るって欲しい。イリア、彼等にお茶を改めてお出しして!」


 私が指示を飛ばせば、秘書の如く控えていたイリアがお茶を新しく用意し始める。

 イリアの準備が始まったのを確認しながら、私は身を乗り出すようにしながらマリオン達と向き直る。


「ユフィリア王女の先導で魔法の見直しを行った際、思ったのです。魔法というのはどこまでも複雑に描き出す事が出来ます。ですが、魔法を使えるからといって誰もが同じ感覚で魔法を使える訳ではありません。個人差が出てしまいます」

「うんうん。それで?」

「魔学によって生み出された魔道具は、この各個人の差で生まれる“ムラ”を押さえる事が出来るのではないかと考えました」

「その“ムラ”というのは、そこまでして消さないといけない?」

「はい、私はそう考えます」


 マリオンの隣に座っていた中年の貴族が引き締めた表情のまま、強く頷く。


「確かに間違った考え方じゃない。だから魔道具の核となる精霊石を研究して、“魔法”に合わせた魔道具を作り上げる為に精霊石を“加工”したい。その為に私の意見が欲しいって所かな?」

「仰る通りでございます」

「なるほど。魔法を使えない私から見ても素晴らしい研究だと思う。魔学の思想を取り入れた魔法的思想だって思うのは自惚れかな?」

「これもユフィリア王女による薫陶の賜物でございます。ユフィリア王女は魔法の基礎を見直し、更なる追求の為の土台作りに腐心していますが、私達の目標は全体で扱える魔法の基礎の向上です。その補助としての“補助具”を生み出したい」


 成る程。今や、魔法省は“魔法”にしか追求出来ない事をユフィが主導になって研究を始めている。その一方で、今日面会を希望してきたマリオン達が望むのは魔法の基礎そのものを改革する事が目的だ。

 つまり魔法そのものと言うよりは、ユフィの持つアルカンシェルのような魔道具を開発する、魔法の為の研究チームと言える。だから私がご意見番として求められたという流れなんだろうと思う。


「私は“核”や“動力源”として精霊石を扱ってきたから、流石に“加工”となるとどこまで力になれるかわからないよ?」

「はい、それでも構いません。普段の研究主導は私達で行い、アニスフィア王女にはあくまで評価や意見をしてくださるだけで良いのです。それならそこまでお手を煩わせる事にはならないかと思うのですが。そして、見返りもご提供出来るのではないかと思っております」

「……見返り?」

「はい。“魔法”の為の“魔道具”が生み出せるなら、逆に“魔道具”の為の“精霊石”を生み出す事も叶うのではないかと、私は考えているのです」


 どくん、と私の心臓が跳ねた。……あぁ、それは、私にとってあまりにも殺し文句だ。


「核となる精霊石に、例えば魔道具の魔法を補助する精霊を宿す事が出来たのなら? そういう“魔法”を研究する事も出来ると考えています」

「それも貴方達の研究範囲なの?」

「主題ではないですが、副産物として生まれて来る可能性はあると思いませんか?」


 魔学から魔道具が生まれたように、魔法から生まれた精霊が技術として確立されれば。

 そして、その2つが融合した先に目指す未来が彼等の中で描き出されていた。


「精霊石をただの核や動力としてではなく、精霊を宿す核として“仕立て直せれば”、それは魔学を新たな境地へ至らせる事が出来るとは思いませんか? アニスフィア王女。私達は今まで、互いの確執から手を取り合えずに来ました。その過去を覆す為の挑戦を、どうか見届けて欲しいのです。他でもない貴方様に」


 マリオンが代表するように手を差し出して来る。視線が私に集まる。僅かな身動ぎすらも見逃さないと言わんばかりの熱い視線だ。


「……本当にさぁ、魔法省はころころ掌返したり、口では良いことは言ってくれてもさ、どこまで本心かわからないんだよね。信用なんか出来ないよ、私に何をしたかなんて忘れさせないよ」

「……はい」

「それでも信じたいって思えた。手を取り合えるなら、私の魔法を認めて求めてくれるなら。……それなら私は断れないよ」


 自分でも少し苦笑してしまうけれど、でも、嬉しいと思う気持ちは隠せそうにない。

 マリオンが差し出した手に私も手を出して、しっかりと握手を交わした。握り返された手の強さに、込み上げて来るものが抑えられなくなりそうだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ