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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第3章 転生王女と王位継承権
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第40話:その名は“空”

「気晴らしにはなりましたか?」

「うん」


 冒険者ギルドからの帰り道、私とユフィはゆっくりと並んで歩いていた。

 時折擦れ違う子供達が元気よく駆け抜けていく。少しだけ足を止めてその背を見送る。前を向けば、一歩先に進んでいたユフィが振り返って私を見ていた。

 するとユフィが笑いかけながら私に手を差し出して来た。一瞬、首を傾げそうになった所でユフィの手が伸びて私の手を取った。そのまま手を繋がれ、隣に並ぶユフィを少し恨めしげに見てしまう。


「……もう」

「嫌ですか?」

「知りませんっ」


 手は離さず、そのまま2人で歩いて行く。少し遠回りの道、ぐるりと街を巡るように。


「……お忍びといっても城下町の全部が回れる訳じゃないんだよね」

「というと?」

「治安の悪い所には流石に近づかないよ。……悪人はどこにでもいるからね」


 人の集まる所にはどうしても犯罪の影がある。平和に見える城下町でも場所によってはならず者達の溜まり場になっている所だってある。

 冒険者ギルドにいる時には自然とそういう話も入ってきてしまう。一度、国から指名手配されてた犯罪者の一団の情報を聞いて、父上に報告して騎士団を派遣した事もあったっけ。

 国の動きが速かった事から、私が姫だと知って逆恨みしてきた人もいたなぁ。返り討ちにはしたけど。


「貧富の差だって無い訳じゃない。それを全部どうにかしたい、とまでは思ってないけど……抜け出す機会を用意出来れば良いね」

「救うのは難しいですか?」

「自業自得で貧しくなる人だっている。法があれば抜け道を探す人もいる。全部なんて言ってたらキリがないよ。減らす事は出来てもね」


 私は万能な神様じゃない。なれても王様で、例え魔法使いになっても世界の全てを救えるだなんて思える程、自惚れてはいない。


「私が幸せに出来る人はそんなに多くない。皆が幸せになれるように助けになる事は出来るけどね」

「アニス様はお優しいですね」

「……そうかな」

「えぇ。だから危うくも見えます。だから私が貴方を守りますね」

「……ど、どうも」


 真っ直ぐに言われると困るんだってば! ちょっとだけ掴む力が強くなった手を握り返しながら私は顔を背けた。

 戻ったらまた資料と格闘の時間が始まる。それを思えば少しだけ気が憂鬱だから。少しだけゆっくり帰ろう。この穏やかな時間を感じていたいから。



 * * *



 さて、お忍びで英気を養ってから日が経過したのだけど。資料の読み込みは私の提案でユフィと作業を分担する事にした。

 私がやった事は、まず私が求める情報をまず項目化する事。ユフィが困らない程度に分類項目を作って、資料を読み込むユフィが該当の項目の情報を記入する。それを私が資料からどの情報を得られたのかを纏めて情報を整理していく。

 類例が多い項目をピックアップして、そこに派生例がないか調べる。読み込んで、整理して、纏めて、集めた情報から推測の材料を集めていく。


「……気が長い作業になりそうね」

「えぇ、まったく」

「精霊契約って一体何なのよ……ちゃんと情報を残して置いて欲しい……」

「儀式の一つでもありそうなんですけどね……。一番多い類例文が“偉大なる王は精霊と語り合い、友となった。これがパレッティア王国の始まりである”。……こればかりですからね」

「どう友になったのよ! あぁ、もう! 精霊契約者に直接話を聞くのが早い気がしてきたわ。やめやめ! 資料の整理はいつかやらなきゃいけないとしても今じゃないわ!」


 私かユフィが王になったら魔法省には責任を取って貰って資料庫の整理を押し付けよう。そうしよう、絶対にそうしよう。好きなだけ精霊や神への理解を深めて欲しい。私はもう遠慮したい。

 背もたれによりかかりながら私は不満を吐き出して目を閉じた。ずっと資料と格闘していたせいで目がしょぼしょぼする。


「私は読書が好きですので苦ではないのですが……」

「私だって嫌いじゃない……筈だったわ。今はちょっと自信がない……」

「……お疲れ様です」


 恐るべし神学。神様は私がきっと嫌いなんだと思う。それは精霊契約も無理ですよね、あははは! ……しんど。

 そのまま椅子にもたれかかってぼんやりしてるとユフィが手招きをするのが見えた。何かと思って席を立って歩み寄ると頭を撫でられた。


「……子供扱い?」

「いえ。良い子ですね、良い子、良い子」

「子供扱いじゃん……」


 あ、でもユフィの手の感触が気持ちいい。……もうこのままダメになってしまいたい。頑張りたくない。魔学の研究がしたい、新しい技術を開発したい。お役目なんか気にせずに自由に生きたい。

 いつの間にか気付いたらソファーに誘導されて膝枕の姿勢になっていた。ユフィ、いつの間に私を膝枕の体勢に……あ、なんかもう疲れてどうでも良い。そのままユフィの膝と掌の感触を堪能しながら虚空を眺める。


「失礼します。……随分とお疲れのようですね」

「えぇ、お茶を淹れて貰えるかしら? イリア」

「畏まりました、ユフィリア様」


 私の醜態を見て色々と察したような顔をしたイリアが苦笑を浮かべてお茶の用意を始めてくれた。……ユフィに膝枕されてる所、思いっきり見られた。でも、今はもうなんか疲れすぎて頭が働かない。このまま眠っても良いぐらいだ。


「……父上に資料整理と項目分類と索引の重要性を訴えてやる……」

「そうですね」


 目録を作って欲しい。切実に。というか私が王様になったら魔法省に絶対やらせてやる。絶対だ……!

 本当に魔法省とは相性が悪すぎて笑えてきた。あそこは私にとって鬼門か何かなのか。あぁ、頭が痛い……ユフィの手が気持ちいい……。


「アニス様、そういえばお手紙が届いていましたよ」

「手紙? どこから?」

「ガナ工房からだそうです。アニス様が懇意にしていた工房ですよね?」

「トマスから? 何かしら」


 膝枕の体勢から抜け出して、私はレイニからトマスから来たという手紙を受けとる。彼らしい簡潔な手紙だった。

 その内容を確認して、私はソファーから勢い良く立ち上がった。すぐさまユフィへと振り向く。


「ユフィ! 城下町に行こう!」

「え?」

「出来たって、私の剣!」


 憂鬱な気分が一気に吹き飛んだ。もう今すぐに飛び出したくて仕方が無い。うずうずとした私の様子を見て、ユフィは困った子を見るように微笑んでからイリアとレイニに視線を移す。

 イリアは溜息を吐きながら頷いて、レイニは苦笑するばかりだった。何よ、気が滅入ってた所に朗報が飛び込んできたから喜ぶに決まってるじゃない!

 そのままの勢いでお忍びの支度を調えて、私はユフィの手を引っ張るように城下町へと飛び出した。


「おや、アニス様。どこに行くのですか?」

「おばさん、こんにちわ! トマスの所に行くの!」

「あら、そうなの。お気を付けて!」


 擦れ違う人から声をかけられながら私はユフィと手を繋いで駆け抜けていく。

 見慣れたガナ工房の扉を蹴り開けんばかりの勢いで開ければ、カウンターに座っていたトマスが目を丸くした後、それは大きな溜息を吐いてくれた。


「……扉は静かに開けろ」

「ごめん! 手紙、見たよ!」

「姫様の役目はどうしたんだか……相変わらずだな、本当に」


 呆れたように、けれど穏やかに笑ってトマスはカウンターから席を立って1本の剣を手に取って戻ってきた。鞘に収められた剣を見て、私は目を丸くした。


「……これが?」

「あぁ。これが、今の俺が打てる最高傑作だ」


 手を伸ばして、剣を持ち上げる。……短い。そう、刀身が短い。どこからどう見ても短剣だった。思っていたものとちょっと違って困惑する。

 てっきりユフィのアルカンシェルみたいなレイピアか、ロングソードかと勝手に思ってたので短剣が出てくるとは思わなかった。

 でも、短剣にしては持ち手の柄の部分が長い。刀身に対して柄が長めなので不釣り合いに思えてしまう程だ。そして、刀身の鍔の部分も複雑な細工が施されていて。……細工?


「……これって」

「抜いて、確かめてみてくれ」


 トマスに言われるままに私は鞘から短剣を抜き放った。

 私の前に姿を見せた短剣の刃は片刃。その刀身は肉厚で重さを確かに伝えてくる。

 磨かれたように美しい刀身は私の顔を映してしまいそうだった。

 ……そして、よく手に馴染む。改めて握ればわかる。この柄の長さは片手で握っても、両手で握っても良い長さだ。不釣り合いなのは刀身の長さだけ。


「マナ・ブレイドを分解し、仕組みを見させて貰った。それにユフィ様のアルカンシェルからの経験を活かし、刀身に詰められるだけの精霊石を目一杯練り込んだ。おかげで刀身は分厚くなったが、それなら生半可な事では折れはしない。そして、その刀身が魔力の伝導体の役割を果たす。今まで以上に魔力を刀身に乗せやすく、刀身を形成しやすい媒体に出来る筈だ」

「……でも、これ剣って言うより、もう鉈とかじゃない?」

「“剣”だ。いや、“魔剣の雛形”だ。マナ・ブレイドの機能を活かす為の、それだけの剣だ。真っ当な剣じゃない。剣としては不格好だろう。刀身の長さと柄の長さは計算したが、多少は調整出来る。後で感想を聞かせてくれ」

「……“展開”しても良い?」

「あぁ、見せてくれ。俺も試したが……我ながら、かなりのじゃじゃ馬だ」


 トマスの言葉に頷きながら、私は2人から距離を取って両手で剣を握る。息をゆっくりと吐きながら剣に魔力を込めようと意識を向ける。

 ――深い。真っ先に感じたのはそんな感触だった。まず刀身への魔力の通りが良い。それ故に深い。どこまで魔力を込められるのだろうかと思う程に底が、限界値が見えない。一体どれだけの魔力を注ぎ込めるのか。

 いつもマナ・ブレイドを使う時よりも多く魔力を注ぎ込む。トマスがじゃじゃ馬と言うのはわかる。これはマナ・ブレイドよりも魔力を使うし、喰らっていける。

 注いだ魔力が一定の感覚を越えた時、柄から伸びるようにして魔力の刀身が形成されていく。ようやく刀身の長さと柄の長さが釣り合うような、片刃の光の刀身。


「そのまま使えば刀身は本体の刀身を伸張させるイメージで使える。両刃にしたい場合は魔力の注入の仕方を変えてくれ。手元の鍔の核とした精霊石の注入量を切り替えれば変形を補佐出来る」

「あ、だから3つもあるの」

「アニス様は魔力量は多いからな。それぐらい改造しても良いかと思ったが……不服か?」

「量産品としてはもうちょっとコストと限界値を下げても良いかな。でも、私の一品物としては……最高の魔剣だ」


 まず折れない。これなら私の全力どころか、竜の魔力を注ぎ込んでも壊れないと確信出来る粘りの強さと懐の深さを感じる。


「魔力を通さない時は護身用って感じかな。短いから抜きやすい。構えやすい。攻める事よりも、守る事を」

「そうだ。攻めの手には“魔法”があるんだろう? なら、道具ぐらいはあんたを守って良い。その剣は絶対に折れない。アンタが諦めず握り続ける限り、アンタの力になる。魔力が切れても盾代わりに、そして攻撃を弾くには都合が良いと思った。……これがアンタに送る俺の最高傑作だ」

「……“魔法”がある、か。酷い殺し文句を聞いたなぁ、本当」


 思わず目頭が熱くなってしまった。これは確かに“私”の為の剣だ。魔剣を使う事を前提とした、護りの剣。マナ・ブレイドの弱点だった物理への耐久力を解消した、その分だけ魔力を使うじゃじゃ馬。

 普通の発想なら生み出されない剣。私だけの、私の為にある剣だ。この剣は折れない。だから私は“魔法”を使い続けられる。この魔力が尽きない限り、この意志が尽きない限り。魔道具を前提としない私の為の“魔法の杖”でもある“魔剣”。

 これが、ユフィリアのアルカンシェルと対になる私の“魔剣”。


「……トマス。この剣の名前は?」

「むっ。……俺には教養がない。気に入ったならアニス様が名前をつけてくれ」


 いや、それはそれで困るんだけど。名前、名前かぁ……。


「セレスティアル、というのは如何ですか?」

「ユフィ?」

「“空”を意味する名だったと思います。……私のアルカンシェルは“虹”なのですから」

「“虹”に“空”か。……姉妹剣なら、ぴったりだな」

「この世界で初めて空を飛ぼうと思った人にはぴったりの剣の名前だと思います」


 ……空、か。そうだ、私の始まりはいつもそこから始まってたんだ。

 あの日、空を見上げて私は“私”になった。その日から私の全部は始まってる。この命も、祈りも、願いも。私がこの世界に齎したものが生み出した私だけのもの。


「……堪らないなぁ」


 涙が自然と流れた。最近、泣かされる事が多い。でも、この涙を止めようとは思わなかった。この涙がトマスの作品に向ける何よりの賞賛だと思えたから。


「トマス・ガナ。貴方と会えて本当に良かった」


 魔力を収めて、セレスティアルと名前を授けられた剣を鞘に収めてから私はトマスに手を差し出した。握手を求めるように。

 トマスは少し戸惑いながらも私の手を握ってくれた。不器用な、ごつごつとした男の手だ。この手が生み出したものが私には愛おしくて、誇らしい。


「私は貴方と出会えた幸運を忘れない。王族だとか、平民だとか関係ない。君は私が認める最高の鍛冶職人だ。本当なら名誉だってあげたいぐらいだけど……」

「……いや、良い」


 トマスは今まで見た事がない程に穏やかに微笑んで私を見つめる。


「どんな宝石よりも価値のある涙を見せて貰った。……俺はそれで満足だ」

「……口説くならちょっと遅かったね」

「誰が口説くか」


 うん。私達はそれで良い。だから心の中で何度も言わせて欲しい、トマス。

 貴方は私の掛け替えのない友だって。何度でもありがとうを伝えたいって。



「――トマス! いるか!」



 そんな空気を割って壊すかのような怒声が飛び込んできた。中に入ってきたのは見慣れた冒険者のおじ様だった。


「……どうした?」

「手入れを頼んでた剣は出来てるか!? やべぇ案件だ……って!? うぉ、アニス様じゃねぇか!? 何でここに!?」

「私も用事で。何? やばい案件って」

「鳩が届いた! “魔狼”が出やがった! こっちに向かって来てるから防衛戦だよ!」

「魔狼って……フェンリル!? そりゃ珍しい!? というかこっちに来てる!?」


 フェンリルは狼種の魔物であり、同時に“名付きとなった狼種の魔物”が正式な名前が付けられるまでの暫定的な名称だ。ただ、この手の魔物に正式な名前がつけられる事は正直、少ない。

 何故かというと、その侵攻速度が魔物の中でトップクラスに速いからだ。名前をつける頃には甚大な被害が出ている、そんな魔物。だからこそ名前がつけられる前の“名付き級”の魔狼はフェンリルと統一された呼称で呼ばれる事が多いという訳だ。

 逆に言えば、“名付”になる前に被害を食い止めなければならない。そんな化物級が王都に向かってるって事!?


「発生地域が近かったのか、偶然かわからん! 鳩でも奴より一歩程度速いって速度だ! 見立てで風! 或いは土! 亜種だった場合、目も当てられん!」

「今から防衛戦ってなると、王都の鼻先で迎え撃つつもり!?」

「それしかねぇ……! 避難も今からじゃ間に合うかどうかだぜ、ちくしょう!」


 冒険者のおじ様の話を聞いた私はユフィに視線を向ける。ユフィは私の視線を受けて、諦めたように溜息を吐いた。へへ、ごめんね。やっぱり私には“大人しく”なんて似合わないみたいだ!


「どこから来てるのかわかる? 直線で向かって来てるの?」

「ほぼ一直線だ! 進路上に主だった村はないし……おい、アニス様。お前さん、まさか?!」

「あははは、引退したっていうのにごめんねぇ? それでも私は“王女”で“魔法使い”なんだ! 冒険者ギルドに伝えて! 防衛戦の準備は任せるけれど、アニスが打って出るってね!」

「……なんだよ、コンチクショー! またおいしい所だけ持って行く気かよ! 確かにあんたの魔道具なら接敵が早く出来るもんなぁ!」

「それなら緊急の依頼としてギルドに叩き付けてきて! 私に続け、ってね!! 無事に狩ったら私の奢りで乾杯!」

「乗ったぜ、ちくしょうめ! 魔狼も運がねぇな! 侵攻進路は出させておく! 早くあの魔道具を持って来な! 遅れたら俺達が総取りだぜ! トマス! 剣出せ!」

「あいよ」


 トマスが持ってきた剣を手に抱えたままおじ様は駆け出していく。それを見届けてから、私もユフィへと向き直る。


「ユフィ! 私達も行くよ!」

「はい」


 まずは私達も王城へ行かないとね! 久しぶりのエアドラちゃんの出番だよ!



 * * *



 パレッティア王国へと続く道。幸か不幸か。風を切り裂きながら進む“ソレ”が気を惹かれるようなものはなかった。

 “ソレ”は餓えていた。どうしようもなく腹が、そして自身が存在する為の糧が減っていた。手当たり次第に獲物を仕留めては腹を満たしたが、餓えは留まるところを知らない。

 そして、それは見つけた。上質な肉だった。肉付きはばらばらで、肉そのものが多いとは言えない。しかし、狩りやすい上に群れている。中には上質な匂いを放つ者もいると。

 その獲物を捉える嗅覚は“ソレ”にとっても遠いが、獲物は獲物。見つけたのならば食らい付くまで。そして“ソレ”は疾走した。風を切り裂くかのように、地を蹴り砕くかのように。

 匂いが近づいて来る。餓えが強くなる。あぁ、早く腹いっぱいに、この存在を満たしてしまいたいと本能のままに駆け抜けたそれは妙な匂いと、異音をその耳に捉えた。


「――?」


 足を止める。まるで、それは何かの嘶きのようだった。自分と同じように空を切り裂きながら向かっている。それも、そう。

 ――“空”から。それは自身の眼前に立ち塞がるように姿を見せる。地を滑るようにして風を纏いながら減速した奇妙なものに跨がるのは2匹の獲物。

 上質な匂いを感じさせる獲物と、食い出はありそうだが味が薄そうな獲物。しかし、“ソレ”は勇んで獲物に飛びつく事はなかった。本能が警鐘を鳴らしていたからだ。

 ――奴等は、自身と同じく“狩る者”なのだと。


「わぁお、結構でかいじゃん」

「無事に進路上にぶつかる事が出来て良かったです。それでは、アニス様?」

「わかってるよ。さぁ、名も無きフェンリルくん」



 獲物の一匹が、理解も出来ない声を発する。しかし、意味は通じずとも理解が出来る。



「君の末路を定義しよう」



 ――生存競争が始まる。 

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