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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第3章 転生王女と王位継承権
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第36話:父と娘、王と王女

 私が切り出して、ユフィが語るのは自身が抱えている願い。私を王にすべきではないという思いと、自分が王位を得られた場合の利点。勿論、王になれなかった時の事も考えて思う限りの事を語っていく。

 ユフィの話を聞いている父上は終始難しい顔をしていた。母上は呆気に取られながらも、それでも話を聞こうと表情を引き締めている。スプラウト騎士団長は困惑を見せながらも沈黙を保っていて、グランツ公は相変わらずの無表情。


「……成る程、な」


 ユフィが話し終えてから、少し間を空けてから父上は背もたれに身体を預けるようにして深々と息を吐いた。そして少しだけ天井を仰ぎ見て、目を閉じる。

 どれだけそうしていただろうか。沈黙の時間が長く感じた。父上は何も言わず、ただ目を閉じたまま動かない。


「……グランツよ」

「何でしょうか、陛下」

「余は、不甲斐なく思うぞ」


 身を起こし、立ち上がった父上は背後に控えていたグランツ公へと向き直る。私達に背を向けてしまった為にその顔は見えない。


「……陛下。我等、公爵家一同、その身を王国へ捧げる覚悟は出来ております」

「わかっておる。……許せ、グランツ。余は、私はいつもお前の献身をふいにする」

「馬鹿な事を仰られるな。陛下の治世があっての結果です。喜ばしくは思おうとも、不甲斐ないと思うなどありえませぬ」

「若い子供というのは、幾つになってもわからんものだな……」


 力なくグランツ公に言葉を返した父上が振り返る。その顔には諦めたような、疲れ切ったような表情が浮かんでいた。


「……ユフィリアよ。お前の進言、しかと受けとった」

「陛下……」

「しかし、だ。それを認めるのはまだ時期尚早と言えよう。精霊契約、確かにそれは初代国王が為した偉業。そなたの王位への道の正当性に繋げる事は出来よう。だが、それがお前でなくてはならない理由もない」


 そこで父上は私へと視線を移す。私は父上の視線を真っ直ぐに受け止める。


「……アニスよ」

「はい」

「余を恨むか。魔法を持たざる者として産んだ余を」

「いえ、そのような事は毛頭も」

「ならば、“その可能性”を描きながらも……お前を精霊契約から遠ざけた余を恨むか?」


 それには、私も言葉を止めざるを得なかった。父上が、私から精霊契約を遠ざけていた。そうと口にされれば心当たりはない訳ではないけど。


「ユフィリアでなくても良い。お前が“精霊契約”を為せば同じ事よ。そうすればお前を誰もが認めよう」

「……しかし、父上。私の研究結果では、私に精霊契約は恐らく不可能かと」

「お前らしくもない! それをお前は実証したのか?」

「……いえ」


 実際に試した訳でもない。実例から調べた事もない。私が現時点で不可能と推測しているだけであって、それが本当に不可能なのかは検証が足りているかといえば足りていない。

 興味がなかったとは言わない。けれど、それでも精霊契約に固執しなかったのは父上の強固な反対があったからだと思えば、自分でも納得が出来る。

 諦める理由を自分でも見つけてしまった。だから、普通に魔法が使えるようになるかもしれない手段に私は目を向ける事はなかった。


「余は、お前を王位から遠ざけたかった」

「……父上」

「元より男児が産まれた時点で王となるのはアルガルドよ。お前が賢しければ賢しい程に国が荒れる事を余は恐れた。例えば、お前が有力な貴族と結びついて、王を狙うなどと言う事も有り得ただろう。その前に国を出す事も考えた。余は……私は、お前を恐れていたのだ、アニスフィア。だから万が一があっても、お前がまともに魔法を使えるようになっては困ると。そう思っていた」


 ……思わず、息が震えた。

 自然と拳を握っていた事に気付いて、私も驚いた。


「それでもお前が娘だと愛おしく思えたのは、お前が聡明であったからだ。お前は自ら王位を遠ざけ、力を持ちすぎないよう、しかも私の治世を助けた。民の声をお前が届けてくれた事、それは誰でも出来る訳ではない。お前だったからこそ民の声を受け、私に為すべき事を示した」

「父上……」

「嗤うが良い、アニスフィア。私はお前を恐れながら、何よりもお前を利用していた。父という名は飾りの、ただの王だ。私は王でしかなかった。お前が魔学に傾倒していれば、その価値を私が認めればお前はそこに浸った。都合が、良かったのだ」


 ……あぁ、そっか。だから、家族としては壁を感じて、上司としては都合が良く感じたのね。

 ずっとそうだったんじゃない。私が思っていたままだった。父上はあくまで国王だった。私に対してずっと、ずっと国王様だった。


「都合が悪くなれば、王族の名の下にお前の自由を奪う事を良しとした。それまで捨て置きながらな」

「王としては、必要な事でございました。その判断を讃えはしても、恨むなどと。それに父として薄情などと思って貰っては困ります、父上」

「……何?」

「誰が国王にツッコミをやらせる馬鹿がおりますか! 私をそこまでの稀代の馬鹿にしないで頂きたい!」


 ……場が凍った。

 父上は何言ってんだコイツ? って顔してるし、ユフィは額に手を当てて溜息を吐いている。スプラウト騎士団長は思いっきり吹き出して、グランツ公に肘で小突かれて慌てて表情を引き締め直している。

 後ろでレイニも吹き出して、慌てて取り繕うとしている気配を感じる。母上は目を点にして口を開けている程だ。私は場を取り繕おうとするように咳払いをして続ける。


「あれは父上だったからなのです。それに国王をしている時にはちゃんと姫らしく対応していたではないですか?」

「それ本気で言っておる?」

「本気ですよ! だから父上、父上はちゃんと父親らしくしていました。それが見せかけのものだろうが、そう見られる事に意味があり、そう思う事に価値があるのです。私は国王陛下のツッコミを待つ為に振る舞っていたのではありません! 父上だからこそ、甘えていたのです!」


 それは私の本音だ。流石に私も国王を振り回すつもりはない。ちゃんとしなきゃいけない所はしていたつもり。そう、ただ、父上が国王だっただけで、父上が国王として振る舞っていたのだとしても、私を恐れていたのだとしても。それが一体何の問題なのか。

 ……正直に言えば、感情の面では納得してない。でも、納得していないのはたった一つだけ。


「私がお恨みするのだとすれば、私から魔法を取り上げた事だけでございます」

「しかし、それはお前が最も渇望していたものではないのか?」

「それは誤解です。私は“魔法が使える”ようになりたかったのではありません。“魔法使い”になりたかったのです」

「……意図が伝わらん。どう違うのだ」

「私にとって魔法は“目的”ではなく、“手段”なのです。私が思い描いた魔法は、空を飛ぶ事。誰もまだ成し遂げてない偉業、そして空を飛べるようになればどうなるか。その価値を私は父上に示してきたつもりです」

「……交通の利便性の向上、それに伴う物流の発展か」

「はい。私にとって魔法とは、誰かを笑顔にする手段なのです。魔法そのものを取り上げられた事は確かに不服でございます。ですが、それ故に私は魔学という道を進み、今の私がいます。それを私は……不幸にしたなどと思って貰っては困るのです」


 それだけは、そこだけは。怒らせてください、父上。


「貴方が、何より私の価値を認めてくださったのではないですか? 父上」

「……アニスフィア」

「王になんてなりたくなかった。国を荒らしたくなんてなかった。でも、それでも王にならなくても出来る事があって、貴方の助けに、民の助けになればと願って私は魔学で発明を続けました。その価値を、私が憧れた“魔法使い”達が否定する中で、貴方と母上が最初に認めてくださった。その意図までは問いませぬ。その本心までは聞きたくございませんでした」


 誰に認められなくても、両親が喜んでくれるなら私はそれで良かったのに。

 それすらも無かったなら、あんまりにも私が惨めだ。少なくとも認められてるとは思ってたのに。


「私の価値は、ただの同情だったのですか? それならば巫山戯るなとその横面をぶん殴るしかありませんが」

「……それで気が済むのであれば」

「お馬鹿ですか! 何故話し合おうとしないのですか! 話し合えば幾らでも、父上のお心のままにと、私は玉座など狙いませぬ、どうかアルくんを優先的にお育てくださいませとお伝えしましたのに! 私とて自己主張したではございませんか! その為に派手にも暴れましたが、諫めなかったのはそちらもではございませんか! なのにそちらが言わなかったからと、今更勝手に沈んで後悔していると?」

「む、むぅ……」

「それは怒ります! 怒っていますよ私は! 何も信用されていなかった事を! 納得していたのです! 全てを言われずとも察し、納得する事が娘として出来る事だと思っていた私を、そんなに惨めにしたいのですか!?」


 本当に惨めだよ! 確かに父上は国王だから本心も言い辛いだろうし、色々と私に言うのも辛いだろうな、って思って気を回したのに! いや、私も利用してたから怒るのは筋違いなのかもしれないけれど、それを言っちゃったら戦争ですよ父上!


「決して! 己の罪悪感で! 惑わぬように! 私達は言葉にせずとも確かに通じ合い、いや、ちょっと偶に意志不疎通でしたが、あ、割と? ちょっと判定が厳しいですが共に歩んで来たではありませんか!」

「もう良い。喋るな、馬鹿者が! 聞いてるだけで情けなくなるわ!」


 頭が痛むように額に手を添えながら父上が呻く。ふん! 馬鹿な事を言うからです!


「父上は最善を尽くしたのです。ただ、事態が予想外過ぎて対応する術を持っていなかっただけなのです。……そして、解決の術はたまたま私達の手の中にあった。それだけの事なのです。ならば父上、国王としてならば命ずるだけで良いのです。それでもお心が晴れぬと言うのならば父として私にお言葉を下さい」

「……王としてではく、父として?」

「私はどっちでも良いのですが、父上が気にするならば」


 私の言葉を受けて父上が押し黙る。それから深い溜息吐いてから、父上は疲れたような目を私に向けて来た。


「アニスよ、どうしてユフィリアなのだ……せめてユフィリアが相手でなければ余もここまで思い詰めなかったものを!」

「………………はい?」

「ユフィリアが王になるのはまだ良い。いや、むしろお前を王にしないという意味では最善どころか諸手を挙げて歓迎する! 元よりアルガルドとの婚約の意図もそこにあったわ! しかし、その為にはグランツからユフィリアを取り上げねばならん! 私がどれだけグランツに頭が上がらんのか知らんのか!?」

「知りませんよ!? え、なんでそっちに話が転がりました!?」


 流石に訳がわからない。どうしてそっちに話が流れたの!?


「戯け! 私とて禄に教育もしてやれなかったお前に王をやれと言うのは心苦しいわ! かといってグランツに頭が上がらなくなる私の心労を考えよ!」

「知りませんよそんなの!? そ、それに、なんですか!? その誤解を招く言い方は!」

「何が誤解か! 昔から恋をするなら女子と言うておったではないか!」


 …………言った。確かに言ったけど!


「いや、ちょ、えっ、違っ」

「は?」

「ユフィとはそういう関係じゃありません!」


 何を誤解されてるのですか、父上!?


「……ユフィリア?」

「……はぁ。まぁ、一生をお捧げする覚悟ではございますが。そうと言われれば違うかと」


 どこか困ったような表情でユフィリアが頬に手を当てながら言う。すると父上が目を見開かせた。


「何だと!? ……か、勘違いさせる事ばかりしおって! この馬鹿娘が!」

「今の私に怒られる要素あります!? ……ありましたね!!」


 普段からそう言ってたら確かにそう思われても仕方ないよね! うん!

 すると、今まで沈黙を保っていた母上が静かな問いかけを投げかけてきた。


「……それで、アニス。実際はどうなの?」

「はい? 母上?」

「貴方達の認識がどうなのかは置いておくとして、端から聞いてるとユフィが貴方の所に嫁ぎに来たようにしか思えないのだけど」


 ……………………。

 いや、ちょっと、待って。一気に顔に火がついたように熱い。咄嗟に顔を覆って蹲る。

 そう見え、見えるの!? いや、見え……見える!? 


「法では同性での婚姻というのは前例がないですしね。ですが、これは事実上の嫁入りではなくて? アニス」

「いや、まって、母上」

「何を待つのですか。確かに王妃としては貴方に精霊契約を成し遂げさせ、魔法を使えるようになってから王位について貰うのが筋とは言いましょう。ですが、それを補うだけの資質がユフィリアにはあると私は見ております。正直、貴方の気持ちで決めて良いとさえ思っていますよ」

「わ、私の、気持ちって」

「王に、なりたくないのでしょう?」


 母上の優しい声での問いかけに思わず口を閉ざしてしまう。

 ……なりたくはない。それはやっぱり変わらない本心だから。


「その為にユフィリアを我が王家に迎えるのは大胆な一手ではありますが、正当性さえ盾に出来れば個人としても歓迎します。その為にはマゼンタ公爵家からユフィリアを取り上げるという形になるのは心苦しくはありますが……だからこそ、貴方の気持ちを問うているのです」

「ど、どうして」

「貴方、ユフィリアを幸せにすると言ったのでしょう?」

「それは……言いました、けど」

「ユフィリアは貴方の隣にある事を幸せとして、家族との縁を切ってまでも尽くすと言っているのですよ? それがどのような想いであれど、それに報いる覚悟が貴方にあるの? アニス。王になるという重みを、誰よりも貴方が理解している筈よ」

「……それは、そうですが」

「貴方の気持ちがユフィリアに向いていないのであれば、ユフィリアが王家に入るなら私は婚約者を作るように進言しなければならないわ。貴方が王になっても、ユフィが王になっても世継ぎの問題は解決してないのですから」


 ユフィに、婚約者? また? そうだ、私がなってもユフィがなっても世継ぎの問題は解決してない。

 ……それは。


「嫌だ」

「……アニス様」

「ユフィは散々苦しんだんだ。私はユフィにもうそんな重荷から、傷つけられるような事から守るって決めた。ユフィが自分で選んだ相手なら、それが良い人なら良い。けどそうじゃないなら私が許さない。それがユフィに王家がしてしまった償いだし、償いなんかなくてもユフィにそんな思いはさせたくない」

「なら、問題ないわね」


 あっさりと母上が言い切る。……あれ、なんだろう、この嫌な予感は。


「ユフィが王家に入るという前例を作れば、貴方達が見込みある子を養子として取るのも手でしょう。精霊契約という前提こそ必要になりますが、それは貴方達が解明すべき課題とします。それを成し遂げられぬ時は相手を宛てがい、世継ぎを産んで貰います」

「……母上」

「もしくは、さっさと引退させてくれるのであれば……私も頑張ってみましょうかしら。弟であれば望ましいのですけどね」

「はい!?」

「何を言い出す、シルフィーヌ!?」


 私と父上の素っ頓狂な声が重なった。それは母上が今から子供を作るって事? いやいや、だって母上だってかなりの年齢になってきてるし、出来るかどうかもわからないんですよ? 無事に授かっても産む事が出来るのかだって問題ですよ!?


「オルファンス、腹を括りなさい。確かに私も老いましたが、今はアニスフィアがいます。私でも出産に耐えられるよう、方策を見出させるのも一手でしょう」

「いや、それは、だが」

「子供にばかり負担をかけて如何なさいますか! まずは親が親としての責任を果たしてこそでございます。私達は子供の教育を誤ったのです。その責任を親が取らねば誰が取りますか!」


 母上に一喝されて父上が悲しい程に肩を竦めてしまっている。いや、確かに方策を探せと言われたら探しますけど……!


「もし私がもう一子儲ける事が出来れば、アニスかユフィを中繋ぎの王とする案も生まれる事でしょう。ここはなりふりを構わず手段を用意する時です、オルファンス。もしくは今から貴方が妾を設けますか?」

「……そのつもりはない」

「であれば、お役目をお果たし下さいませ。私も我が子の可愛さに曇っていた目がまだ曇りが取れていなかったと自覚した所です」


 母上の言葉に父上が渋い顔をする。まぁ、父上は母上が大好きだからなぁ。今更妾って言われても嫌と言うなら気持ちは分からなくもないけど……。


「ユフィリアを王とするのは手を出し尽くしてからでも遅くはないでしょう。私とて子を親から取り上げたい訳ではございません。良いですね、グランツ!」

「はっ、王妃様のお心のままに」

「マシュー、貴方もですよ! これから近衛騎士団にも働いて貰います。城勤めで鈍ったなどと私に言わせないでくださいませ」

「はっ!」


 マシュー、と呼ばれたスプラウト騎士団長が背筋を伸ばす。

 一気に場の空気が母上に持って行かれてしまった。そこで戸惑っていると母上が席を立って私の傍まで歩み寄ってくる。


「親は子よりも先に旅立つもの。残される貴方達を思えば、と思っていましたが……まだまだ残すべき物は多そうですわね。楽に隠居などは出来そうにないわ」

「……母上」

「そう育てたのであれば、その責任を親が取る。……でもね、アニスフィア。貴方にも責任があるわ。それは王族としてよりも前に貴方が果たさなければならない責任。そして私が親として貴方に最初にすべきだった事よ」

「……それは、何でしょうか?」

「幸せにおなりなさい、と。そう教える事よ。私達は王族、象徴として祭り上げられ、縛られる事は逃れられない運命です。確かに私達は貴方に戒める事を教えましたが、貴方が自然と出来ていると思ってわざわざ教えませんでした。私達は、縛られる為に生きているのではなく、縛られながらもその中でこの手に幸せを掴む為に生きているのよ」


 母上の両手が私の頬を包む。母上は後悔を滲ませるような淡い笑みを浮かべている。

 それは……きっと私だけじゃなくて、アルくんにも伝えたかった筈の言葉だと思う。


「私達は貴方に愛されていました。そこまで気を使っていたとは、本当にわからなかったわ。だって素だと思ってたのだもの。貴方はうつけ者だけど、決して手のかかる子ではなかったと。違うのね、きっと、手をかけなければいけない子だったのでしょう」

「そのような事は……」


 だって、私は前世の記憶があった時から子供らしくない子供だったろうし。

 確かに出来すぎた子だったかもしれない。魔法が出来ないから、アルくんに王位を譲る為にって考えて、そのように振る舞っていた事は。


「貴方は縛り付けるべき子ではなかった。自由に見えて、許される中でそう見せていただけだったのね」

「いえ、素でもありましたが……」

「なら、その他人を思いやる優しさを気付けなかった私達の目が曇っていたのでしょう。思えば貴方は民の為に、私達の為に、アルガルドの為に、ずっとそうして生きてくれたのね。なのにこれ以上なんて、出来てないなんて縛り付けるのはあまりにも惨い仕打ちだわ」


 そんな風に思い詰めなくても良いのに。私は十分自由にやらせて貰ってたし、不幸だとは思ってなかった。確かに窮屈だとは思った事はあるけど、それは王族として当たり前だから。

 けれど反論の言葉が出てこない。上手く伝えられる自信がないのか、それとも私は、本当はただ、そう言って、認めてもらいたかったのか。……だって、自分が優しいって言える? 思わないよ、普通。他人に優しくなんて、当たり前の事だったから。


「だから、もうちょっとユフィリアと向き合って見なさい。……貴方は他人の気持ちにも、自分の気持ちにも鈍感みたいよ?」


 耳元でそう囁かれた母上の言葉に、また冷めかけていた頬の熱が急上昇した。

 ユフィと向き合う。そ、それはどういう意味で向き合えば良いんだろう。改めてその意味を考えさせられて、私は思わず悶絶した。




 

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