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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第3章 転生王女と王位継承権
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第31話:誰が為の王(中編)

「トマスに何か言われた?」


 顔を覗き込むようにアニス様が私に問いかける声が聞こえてきました。どこか遠くに飛んでいた意識が戻ってくるのを感じて、私は肩を跳ねさせてしまいました。

 あの後、トマスとは微妙な空気になってしまった所にアニス様が戻ってきて、ガナ工房を後にしました。アニス様が買って来た馴染みのない食べ物を、これまた食べ慣れない手づかみで食べるという経験をしました。

 これが平民が食べる味なのだと。普段から食べているものに比べれば雑で大味でしょう。それでも妙に食欲をそそる味。好きかと言われれば違うのでしょう、あまりにも今まで食べたものと違うのですから。だから新鮮な楽しみと言えば、それに近いのです。

 町へと視線を向ければ活気ある人々の声がしました。その生活の風景を歩いて眺める事も初めてで、目を奪われていたのです。そこに先程のアニス様の問いかけが飛んで来たので、肩が跳ねてしまったのです。


「……ただの世間話でしたよ」

「ふーん。それにしては心ここにあらずって感じだったから」

「それは……」


 トマスと話した事で思ってしまったのです。アニス様に王になれ、というのは呪いだと。

 王族だから、と。そう言ってしまう事はとても簡単で。だからと言って他に王を肩代わり出来るものはいないのです。アニス様が諦めて婿を迎えるとなれば、また話は違うのでしょうが。

 ……いいえ、きっとそれも本質的には同じなのでしょう。アニス様にかけられた呪いというのは“自由への束縛”。人は大小なり束縛があって然りですが、アニス様の才能に対して、王族という束縛はあまりにも重すぎる。国を導き、民を守る。その責務があまりにも……。


「……アニス様が来られなかった事で心配していたそうですよ」

「ふーん。あと、様ついてる」

「……ご容赦くださいませ」

「だーめ」


 楽しそうに笑うアニス様の顔をぼんやりと眺めてしまいます。最近は本当に忙しかったでしょうに。魔学の研究を進める時間も減りました。貴族達と相対する時間も延び続けています。

 この笑みは、本当の笑みなのでしょうか。裏では何か大きな不安を抱えているのではないか、辛い思いをされているのではないかと。それが私にはわからない。かつて、アルガルド様の苦悩を理解する事が出来なかったように……。


「ユーフィー?」

「……も、申し訳ありません」

「口調が硬い」

「ほ、頬を掴むのは……むむ……!」


 顔を両手で挟まれて揉みほぐされる。往来に行き交う人々がいるのでとても恥ずかしいのです。

 なんとか逃れたものの、どっと疲れてしまいました。慣れない事は本当に疲れるものですね……。


「まぁ、魔学の事は仕方ないよ。アルくんがいなくなったんだから仕様が無い」

「……アニス様」


 思わず足を止めてしまいました。何故気付かれてしまったのかと、そんなに私は顔に出していたのでしょうか。

 アニス様はいつもの自然体で、どこか困ったように苦笑を浮かべました。


「様はいらないってば。ほら、仕方がないんだ、昔から慣れてるって。文句言ったって何も変わらない。それに次の王様が誰か決めておかないと大変でしょ? 国も、人もさ」

「……それで良いのですか? 本当に」


 どうしても耐えられずにその問いを口にしてしまいました。それに何と答えるのか予想はついていたのに、それがアニス様にとって呪いを深めてしまう事だって、わかっていたのに。

 私の問いかけにアニス様の表情が崩れる事はない。ただゆったりと微笑んで言うのです。


「良くないけど、誰かがやらないといけない事だよ」


 いつもの調子でそう言われては、私にはもう何も言えません。言葉を紡げない事がこんなにも不自由で、不甲斐ない事だと思わされたのは初めての事でした。

 そもそも私はアニス様に何を言うべきなのか、その答えさえも自分の中になかったというのに。


「ほら、そんな事はどうでも良いから街巡りしよ」

「えっ、あの!」

「時間は限られてるんだよ。今のうちにやりたい事やっておかなきゃ!」


 アニス様が私の手を引いて駆け出す。手を引かれて走った事など、あまりにも慣れてなくて置いていかれないようにするのが精一杯で。

 この人はいつもこうだ。破天荒で、何でも好き勝手やって、そして越えていってしまう。辛いことも、悲しいことも。そして進んだ先で解決してしまうのです。

 手を引かれなければ置いていかれてしまいそうで。私は、ただその手を握ってアニス様について行く事しか出来ませんでした。



 * * *



 アニス様と城下町にお忍びで行った後日、私は王妃様のご招待を受けてお茶会に興じていました。アニス様も呼ばれるのかと思っていましたが、どうやら私1人のようでした。

 私の傍には侍女見習いのレイニが付いています。イリアからとりあえず半人前というレベルでしごかれたレイニは最低限の仕事は出来るようになったという事で、私やアニス様につく事が増えました。今日は私の担当だったようです。


「息災にしているかしら? ユフィリア」

「はい。恙なく日々を過ごしております」

「それは何より」


 満足そうに頷く王妃様ですが、どこか疲れが見えるように思います。アルガルド様の一件から王妃様は外交には向かわず陛下の内政の補佐を行っています。

 今、パレッティア王国の貴族達は色めき立っています。次の国王になる筈のアルガルド様が廃嫡となり、王位継承権が繰り上がった事でアニス様が第1位王位継承権を持つ事になりました。

 今までアニス様を冷遇していた者達は態度を決めかねていて、媚を売り始める者、静観している者、その動きは様々です。アニス様が王族として真面目に政務に参加するようになった事も大きいのかと思います。

 それでもアニス様は生涯結婚はしたくない、と宣言している身。世継ぎはどうされるつもりなのか、という声もやはり少なくありません。これからどうなるのか、という不安は誰の胸にも付いて回るものなのでしょう。


「アニスは、どうかしら?」

「……どう、とは?」


 王妃様から投げられた問いかけに私は一瞬返答に困り、意図を尋ねてしまいました。


「アニスは変わった事はないかしら」

「そうですね。いつものように思えますが、最近は政務に精を出されているかと思います」

「そうね。……その事について不満は無さそうかしら?」

「……それは、私からは何とも申し上げる事は出来ません」


 アニス様の心配をしているのか、それとも粗を探しているのか。どちらにせよ私に答えられる事は少ないのです。私もアニス様が不満を抱いているとは思っても、それがどこまでの不満なのかと問われると答えられないのですから。

 私の返答に王妃様は深い溜息を吐きました。疲れを隠さないように、気落ちした様子に御身を心配してしまいます。


「……結局、誰にもわからないのね。レイニ、貴方も座りなさい」

「えっ!? で、ですが私は……」

「貴方を呼んだのは口実です。どうかお座りになって。娘の傍にいる者達に話を聞きたいの」

「……はぁ」


 恐れ多いという表情でレイニがもう一つ用意されていた席に着席する。レイニが私につけられたのは王妃様の希望だったのですか?


「最近のアニスはよく頑張っているわ。今までが嘘のようにね。だけど、あまりの変わりぶりに……正直、戸惑っているのよ」

「戸惑うのは、今までを思えば頷けますが……」


 アニス様は良くも悪くも破天荒過ぎたので、真面目にしていると違和感を抱く気持ちは正直理解出来ます。


「私はあの子が自分の主張を押し通したその日から、あの子をただの娘として思わないようにしました。それがあの子を伸ばす事に繋がると、そう考えていました。……ですが、それが仇になって今、私にはあの子の事がわからないのです」

「アニス様は正直、誰が理解出来るのかという所があると思いますが」

「貴方達にもそうなら、意図的なのかしら」

「……意図的、ですか?」

「あの子自身が理解に苦しむのもありますが、あの子はそれを理解していて印象操作をしているようにしか思えないのです」


 印象操作、アニス様が自分を理解されないように振る舞っている、と。

 それに関しては正直、そうだろうという気持ちが私にはあります。アルガルド様の王位への道を邪魔しないようにと立ち回っていると仰っていた事もありますし。


「それについては否定しません。アニス様は聡明ですし……」

「そう。……なら、少なくとも私よりも貴方達には素を見せてるのかしら?」

「それは、どうなのでしょうか。アニス様が王妃様を疎ましく思っていられるようには感じられませんが」

「あぁ、そうではないのよ。あの子はそういった好意はあまり隠そうとはしないわ。ただ、あの子自身がわからないのよ」

「アニス様自身が、ですか?」

「今回の一件、はっきり言えばあの子には不服の筈よ。あの子は王位を継ぎたくないと公言して憚らなかったのですから。だから、今あまりにも相応に振る舞うあの子を見ているとわからなくなるのよ。何を考えているのか。それがどうしても不安で、貴方達に話を聞いてみたかったのよ。オルファンスにも聞いて見たのですけどね……」

「陛下は、何と?」

「……そっとしておけ、と。私は関わるべきではない、と」


 陛下が王妃様にそう告げていたとは。正直、ちょっと驚きました。

 でも、そうだろうとは思います。……正直、“あの”状態になったアニス様は、恐ろしいですから。


「……王妃様はアニス様が本気で怒られた所を見た事はありますか?」

「……あの子が? ……いえ。恐らくないでしょう。ユフィリアはあるのかしら?」

「1度だけ。陛下とお父様がアニス様の王位継承権の復権を求めた時です」

「どんな風に怒るのかしら?」

「……氷です」

「氷?」

「感情が抜け落ちて、ただ淡々としているのです。心が凍り付いたように」


 アニス様は自分が独裁を敷く暴君にしかなれないとご自身の事を評価していました。

 心がある故に惑うならば、その心を凍てつかせてしまえば良いと。国に必要な事を、その為に自分という心を凍てつかせ、削ぎ落とす。それが出来てしまうのがアニス様だと私は知っています。


「……最近はよく仕方ないと口にしています。不満はあるのでしょう。けれどあの人はそれでも王になるでしょう。例え、心を凍てつかせてでも。それが必要ならば出来る……いえ、出来てしまう」

「…………そう」


 長く、重く。王妃様が吐き出した息は途切れずに零れ落ちる。


「……どうしようもなく私は子供の育て方を失敗したのだと痛感させられるわ」

「王妃様……」

「アルガルドは鬱屈し、危険な思想を抱くようになった。アニスフィアはその聡明さ故に心を殺す事を身につけてしまった。……いえ、アニスフィアのそれは王族として間違ってないわ。けれど、それはあの子として培ってきたものを壊してしまうのでしょうね」


 王であればある程、個の感情は不要とされる。王に求められるのは公平さ。民を導く為に王はいるのです。わかってはいるのですが、その事実がアニス様に重すぎるというのは私も同意します。


「……今更、あの子に何を言えば良いのかしら。私は王妃としてしかあの子に接せられなくなっていたのよ。笑って頂戴」

「そんな、笑うなどと。それにそれは王妃様の思い込みでございます。アニス様はそのようには思っていませんよ」

「ごめんなさい。……私も、流石に堪えているみたいね」


 弱くなったわ、と。そう疲れが見える笑顔を浮かべる王妃様に私は口を閉ざす。

 私は、この方にも何もしてやれないのだと。そう思っていると、隣に座っていたレイニが席を立つのが見えました。


「レイニ?」

「王妃様、失礼ながらこの後の予定は?」

「? そうね、執務に戻る予定ですよ」

「では、このお茶会のお時間の間だけでも少しお休みください。私の力をご覧に入れましょう」

「貴方の?」

「私の目をご覧ください。まだ試行錯誤の途中ですが、効果はアニス様のお墨付きです」


 レイニは王妃様の傍まで歩いて行き、王妃様と目線を合わせるように屈みます。

 その目は、ヴァンパイアである事を示す紅。その瞳の奥に何やら怪しい光が蠢いているのが私にもわかりました。魔力の流れも、何かの予兆を知らせるように肌を撫でて行きます。


「……私の目を見て、心を安らかに。多少の暗示のようなものですが、気が楽になりますよ。後にも残りませんので安心して身を委ねてください」

「……そうは言っても」

「アニス様にも太鼓判を頂いております。少しだけ、心安らかになる夢を見るようなものです」

「……良いでしょう。貴方の力は確かめておく必要がありますから」


 意を決したのか、王妃様はレイニの瞳を真っ直ぐに見つめる。レイニは王妃様から視線を向けられれば、一瞬だけ緊張したように顔を強張らせましたが、すぐに微笑を浮かべて王妃様に視線を向け直します。


「王妃様、貴方の心を病ませるのはアニス様ですか?」

「そうね。あの子が心配よ」

「それは、あの方が何も本心を見せないからでしょうか」

「……そうね。あの子が何を考えているのか、何を思っているのか察せられないのが怖いわ」

「はい。では、私の目を見てください……それは、王妃様の杞憂なのです。あの方は王妃様を敬愛しております。王族としてやらねばならない、その心得は確かに王妃様より受け継いでおります。ただ、今までとは確かに勝手が違う為により一層、心を引き締めねばと思っているだけなのです……」

「……そう、ですか」


 王妃様の目がだんだんと下がり、とろんとしてくる。これは大丈夫なのだろうか、と腰を浮かせた所で、自分の口元に人差し指を当てるようにレイニが私を止めます。


「状況が落ち着いたら、きっと魔学を奨励する政策を提案する事を考えるでしょう。そうすればまたいつものアニスフィア様です。目を閉じてみれば想像が出来ると思いますよ」

「……そう、ね。あの子なら言いそうね」

「どこまでやっていいのか、その相談を貴方様にするアニスフィア様が浮かぶでしょう? 満面の笑みで突拍子もない事を言い出すのです」

「ふふ……本当に目に浮かぶようだわ……」

「はい。では、ぼんやりしていると思いますが、そこに疑問を抱かず……力を抜いてください。王妃様はアニス様にどのように答えますか?」

「そうね……まず……話を聞いて……あげて……何を、考えているのかしら、アニス……貴方は……私は、貴方まで……手が……届かない、のは……」


 つぅ、と。王妃様の閉じた目から涙が一滴こぼれ落ちました。そのまま椅子に身を預けて、すぅすぅ、と寝息を立ててしまいました。

 それを見届けたレイニが、肩で大きく息を吐いて脱力しています。思わずレイニに問いかけてしまいます。


「レイニ、何をしたのですか?」

「……心の痛みを鈍らせただけですよ。ただあまり強く鈍らせると暗示が深入りしすぎますから、夢を見るように促しただけです。後は夢が覚めれば暗示も覚めますが、少しでも幸せな夢を見て心も体も休めて頂こうかと。アニス様とイリア様のお墨付きですよ」


 ヴァンパイアとしての特性である精神干渉。それを使って心の痛みを和らげたと。そしてそのまま夢を見せた、と。これがアニス様が言っていたレイニの力の有効活用だったのでしょうか。

 それにアニス様とイリアのお墨付きと。……ん? それはつまり2人にも試したって事かしら。


「……もしかしてアニス様にも暗示を?」

「えぇ。あの人は竜の刻印が勝手に働くせいで、自分も暗示に沿うようにしないとかからないとは言っていましたが。暗示にかける事には成功してます」

「……」

「あぁ、安心してください。アニス様はどんなに暗示に沿っても意識しちゃうとすぐに破っちゃうので影響は残らないんですよ。効果は体感して貰いましたが。実際の実験体はイリア様にやって貰ってます」

「でも、最初はアニス様にやったのでしょう?」

「……まぁ、そうですね」

「どのような暗示を?」


 それがどうにも引っかかって私はレイニに問いを重ねてしまいます。レイニはどこか困ったような表情を浮かべてから、困ったように内緒ですよ? と前置きをして教えてくれた。


「魔学への関心を、減らせないかって」

「…………!」

「いや、でも無理でしたよ。あとは、王族の自覚とか促すような暗示とか、そういうのは試してみたのですが全部抵抗しちゃうみたいで、アニス様が自分はどれだけ頑固者なのかと頭を抱えていましたよ」

「……そう。では、やはり今のアニス様は自分の意志でそうしているのですね」

「……夢の中だけでも、と暗示をかけてくれと言われる日はたまにあります。参ってると言えば参ってると思いますよ」


 そのお陰で夢を見せるように力を使う訓練になりましたけど、とレイニが困ったように笑います。

 それは逆に言えば、暗示に頼らないとやってられないと言っているようなものではないでしょうか。そう思えば自然と私の手にも力が篭もりました。


「……レイニでさえもアニス様に力になれているというのに、私は何をしているのでしょうか」

「えぇ……? うーん……確かにちょっとアニス様、ユフィリア様に過保護ですよねぇ」

「……レイニもそう思いますか?」

「私にもそうですから。でなければ私の精神干渉には抵抗出来るからって、そうそう力を使わせて心を操らせようとします? アニス様、身内には甘いんですよ」

「それは……そうですね」


 アニス様が身内に甘いというのはわかります。あの人は滅多に自分の懐に人を入れません。だからこそなのかもしれませんが……。


「政治関係のことは特にユフィリア様を避けさせてますからね。私は話題に入って行くだけの知識もないですし、侍女として覚える事がたくさんありますから……」

「……それを私に言っても良いのですか?」

「だって、アニス様を止められそうなのユフィリア様ぐらいですよ?」

「私が?」

「多分、アニス様が一番心を許してるのはユフィリア様です。陛下にも、王妃様にも、親愛の情はあっても一線引いている節がありますし……」

「でも付き合いが長いのはイリアでしょう?」

「イリア様は長く付き合い過ぎたから止められない事もある、って言ってましたよ」

「……それで、どうして私なのでしょう?」

「んんーーー、主観ですけど、対等だからだと思いますよ?」

「対等?」


 私と、アニス様が?


「私では立場で論外ですし、イリア様も長くお仕えした事で主従関係で纏まってる所がありますし、陛下と王妃様には家族だからなのか一線引いてますし。アニス様、対等に見てる相手って少ないんですよ。一番近いのはユフィリア様かと思います」

「……私は、アニス様に助けられてばかりです。対等だなんてとても」

「それは多分、ずっとユフィリア様がアニス様を助けてきたからだと思いますよ?」

「……私がアニス様と接するようになったのは最近の事ですよ?」

「えーと、実態はどうあれアニス様が王族の事を心配しないで好き勝手やれたのってユフィリア様のお陰だと思うんですよ。ユフィリア様ならばアルガルド様を支えていけると、そう思ったから何も心配してなかったって言ってましたから。だからきっと、本人の感覚では自分のせいで苦労をかけさせてしまったから楽をさせてあげたい、って感じなんだと思います」

「それは……でも、私は」

「結果がどうなったかは言わないでください。私が凄く傷つきます。あれはどうしようもなかったと思いなさいってアニス様に言われてます。それに結果がどうなってもそこまで努力した事が消える訳じゃないんだから、って。だからユフィリア様が次期王妃候補としてしっかりやっていたからこそ、今のアニス様がいるんだと思います。今度は自分の番だと思ってるんじゃないですか?」


 今まで自分が好き勝手やってきたのだから。その所為で私が苦しんだから、と?

 私が務めてきた事を認めてるからこそ、今度は自分が果たそうとしている?

 なら、私が今度は自由にすべきなのでしょうか。でも、私は自由がわからない。

 何をすればいいのか、私にはわからないのです。アニス様。私は……貴方のようにはなれないのです。

 今、私は何を理由に貴方と対等だと言えるのでしょうか。貴方に庇護されるばかりの私が、貴方に何を伝えれば良いのか。……私には、わからないままなのです。


 そのままお茶会は王妃様がゆっくりお休みになった事でお開きになりました。

 時間の終わりに王妃様を起こし、別れる間際に王妃様がまたお願いしても良いかとレイニに問いかけて、レイニが狼狽えているのが印象的でした。

 探さなければいけないのでしょう。私が今、何をすべきなのか。あの人に対等だと言って貰えて、自分が納得出来るだけの何かが。

 ただの魔法の才能だけでは足りない。培ってきた教育による知識だけでもまだ足りない。私が、私の理由だと胸を張って言える何かが。


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