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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第7章 そして、語り継がれていく物語
191/207

第83話:〝アニスフィア〟(4)

本日、三回目の更新となります。(2/3)

三回目の更新は三話同時更新となっておりますので、見逃しのないようにお気をつけください。

「姉上、頼みがある」

「ん? 私に……頼み?」


 シアン伯爵邸での楽しい食事が終わり、思い思いに談笑してから解散した後、アルくんが退出間際の私を捕まえて話しかけて来た。

 それに少し驚きつつも、アルくんに頼みがあると言われて断れる私じゃない。すぐに頷いて話を聞こうとする。


「許されるなら、明日魔学都市を案内してくれないか?」

「……私が?」

「あぁ、ユフィリアとアクリルには話をしてある。姉上の時間が取れるなら、どうだろうか?」

「なんでまた……?」

「姉上が作った街を、姉上と一緒に歩いてみたい。……それじゃダメか?」


 真っ直ぐに私に視線を向けながら言うアルくんに、心臓がドキリと跳ねた。

 そんな事を言われると、どんな顔をすれば良いのかわからないんだけど。いきなりな話で戸惑いはあるけれど、でも嫌じゃない。仕事は今日で片付けてあるし、時間は取れると思う。よし、問題なし。


「わかった。魔学都市を案内するよ。ユフィとアクリルちゃんも一緒だよね?」

「あぁ。幾ら恩赦が出たとはいえ、な。二人でというのは立場的にもおかしな話だろう。……本来であれば、姉上と呼ぶのも控えるべきなのかもしれないが」

「そんなの知ったことじゃないよ、公の場でもなければね。アルくんはずっと私の弟だ。これからもね」

「……そうか。なら、明日によろしく頼む。俺たちはシアン伯爵邸にいるから」

「わかったよ。じゃあ、また明日ね。アルくん」


 そう言い合って私たちは別れた。アルくんが私から離れていくと、影に控えていたのかアクリルちゃんが顔を見せてアルくんと一緒に廊下の角へと消えていく。

 それを見送ってから、私は逸る気持ちを抑えるようにユフィの泊まっている部屋へと向かうのだった。ユフィに話したら驚くかな? そんな反応を想像して、私は笑ってしまった。



   * * *



 そうして迎えた次の日。仕事は終わらせてあるから、最終確認だけして私はシアン伯爵邸に向かった。そこであまり目立たないようにお忍び用の格好に着替えて、ユフィ、アルくん、アクリルちゃんと一緒にシアン伯爵邸の玄関で待ち合わせる。


「お待たせ!」

「あぁ、じゃあ案内を頼む。姉上」

「私もまだしっかりと歩いた訳ではないので楽しみですね」


 ユフィはアルくんの提案を快く受け止めてくれた。ユフィも魔学都市を私と回ってみたかったそうなのだけど、私が激務に追われていたから遠慮してくれてたらしい。

 アクリルちゃんは狼の耳を隠すように大きな帽子を被っている。ぶかぶかの帽子が可愛くて思わず帽子ごと頭を撫でようとすると睨まれて手を払われた。あぅ、相変わらず冷たい……。


「何をやってるんだ、あまりアクリルにちょっかいをかけるな」

「だってぇ……いいなぁ、アルくんは。こんな可愛い婚約者がいて」

「……おい、ユフィリアの目が穏やかじゃなくなっているから、今すぐ止めろ」

「アニス?」

「はい、ごめんなさい!」


 お仕置きしますよ? という声なき声が聞こえたので、背筋を伸ばして力強く宣言する。アクリルちゃんもユフィを見て、少しだけ震えていた。最近、恋人の嫉妬力が上がっていて命の危険を感じることが増えました。

 それから気を取り直して、私たちは街へと繰り出していった。


「魔学都市は円形状に作られているのだったか」

「そうだよ。都庁や神殿といった重要施設を中央に起点として、半円を住宅区、もう半円を魔学の研究施設や騎士団の詰め所といった重要施設がある行政区に分けてる。流石に行政区の案内はプライベートじゃ出来ないから、今日は住宅区、その中でも市場通りをメインに紹介するよ」


 ベリエ商会を誘致してから市場通りと呼ばれるようになった商店や宿屋が建ち並ぶ区画。ここには許可を取った露天商や旅芸人が集まるスポットもあるので、今最も魔学都市で賑やかになっている区画だった。

 魔学都市は今後、新しい都市を建設する際、魔道具を積極的に配置していく為に魔道具の配布が進められていて、お店もなるべく最新設備が整えられている。国から支援金も出したこともあって、店の種類は様々で目新しいものが多い。

 規模こそまだ小さいけれど、王都サーラテリアにも負けない品揃えが揃っていると思う。


「出店の食べ物も見たことのないものが増えているな……」

「アルくんって視察に出る方だった?」

「いや、あまりな。出店での食べ物など食べたことも数えるほどだ……というか、今でも姉上は街に繰り出しているのか?」

「暇が出来たら見物がてらね。実際の意見も聞いてみたいし、発想はどこから沸いて来るかわからないから。見聞を広めるためだよ。あっ、あれ美味しそう! 四人分頼もうよ!」


 出店で買った軽食を四人で摘まみながら市場通りを歩いて行く。ユフィとアルくんは軽食を興味深そうに食べて、意見を交わしながら街の様子を眺めている。

 アクリルちゃんは見たことのない食べ物に訝しげにしていたけれども、一口食べると目を輝かせていた。隠れている尻尾がばたばたと揺れているのを幻視して、私は思わずほっこりしてしまった。


「アクリルちゃん、今日は私の奢りだから好きなだけ食べていいよ」

「えっ」


 私の提案にアクリルちゃんは一瞬、喜びに頬を緩ませた。でも私の顔を見て嫌そうに歯を見せる。でも唸っているあたり、お腹いっぱい色んなものが食べたい、という空気を振りまいていた。


「い、いらないっ」

「そう? じゃあ食べたくなったら言ってね? 私は買い食い大好きだから、アクリルちゃんにも色んなもの食べてほしかっただけなんだけどなぁ」


 食べることは元々好きだったし、今は魔石のお陰でいくら食べても入る。夢だった全品制覇も行けるかもしれない。そう思うと、今後の街巡りが楽しみで仕方ない。

 最初は葛藤するように唸っていたアクリルちゃんだったけれど、私がひょいひょいと買い食いしているのを見て、我慢が出来なくなったのか私に屈した。


「……た、食べ物に罪はないから……!」


 餌付け、成功。アクリルちゃんの見えない所で私は悪どい笑みを浮かべる。それをバッチリとユフィとアルくんに見られて、二人が思いっきり苦笑していた。

 それから四人で色んな店を巡った。旅商人の土産物だったり、まだまだ輸送頼みの食品売り場、武器から防具、更には魔道具も販売している店舗。

 その中でアクリルちゃんが興味を惹いたのは服屋だった。


「パレッティア王国の人は随分と複雑な服を好むんだね」

「カンバス王国は民族風の衣装っぽいよね。でも、着飾ったアクリルちゃんを見たらアルくんも喜ぶんじゃない?」

「……アルが?」


 服にはまったく興味なさそうなので、外で待ちながら議論をしているユフィとアルくんをちらりと見る。アクリルちゃんは動きやすさ重視で軽装な感じが多いけど、十分可愛い顔立ちしているから着飾らせるのは楽しそうだと思う。

 アルくんもアクリルちゃんのことを大事に思ってるのは、この短い時間でわかったからね。ただ、興味の分野がユフィと似たり寄ったりだから、つい二人で盛り上がってるみたいだけど。


「今度、母上にドレスを見立てて貰いなよ。私はセンスないって言われてるから」

「……お義母さんに」


 そう言って、アクリルちゃんは服を見比べながら何か考え込んでいるようだった。

 そんな風にお店を何件も巡っている内に市場通りは巡り終わってしまった。まだまだ規模としては小さいからね、じっくり案内してもあっという間だ。


「どうだった? アルくん。まぁ、私の紹介よりもユフィとの議論の方が楽しかったみたいだけど?」

「姉上の説明は食い物に重点を置きすぎているからな。ユフィと考察していた方が得になる」

「人に案内を頼んでおいてそれ?」

「それに、俺はこの街を案内してくれる姉上が見れただけで十分だよ」


 そう言ってアルくんが朗らかに笑ってみせた。その笑みが、大人びていたアルくんから過去のアルくんのように見えて、私は目を見張ってしまった。


「姉上と同じように物を見て、貴方がちっとも変わっていないのを見て……安心した」

「……昔はこんなに食い意地張ってなかったもん」

「そうじゃない。姉上は本当に好きなものには一生懸命だという話だ。そこは何も変わってない。ずっと昔からのままだ」


 アルくんは街を振り返るようにして視線を外した。遠くを見つめるアルくんの横顔は本当に満足そうで、心の底から喜びの色を見せている。

 どうしてそんな顔をするのかわからなくて、私はアルくんの横顔を眺めてしまう。


「姉上」

「何さ」

「貴方の夢が変わっていなくて、貴方の夢がここにあると実感出来て、本当に安心した。……俺がいなくても叶えるとは思っていたから、少し寂しいけれどな」

「……アルくん」

「俺も俺で夢を見つけたよ。俺が本当にやりたい事を。だから、カンバス王国のことは心配するな」


 そう言ってアルくんは私に視線を向ける。隣に並んでいたアクリルちゃんの肩に手を置いて、そっと自分の方へと抱き寄せる。


「アクリルを故郷に帰してやりたい。仲間が生きているなら見つけて保護してやりたい。パレッティア王国をこれ以上脅かされないように、今以上の資源を国に届けられるように。貴方の夢を支えられるように、俺は俺なりに自分の夢を叶えにいくよ」


 アルくんの宣言に私は呆気を取られるように口を開けていたけれど、じわりと浮かぶ喜びが笑みを浮かべさせてくれた。

 本当に心から嬉しかった。アルくんは自分の夢を見つけたと、私の夢を応援したいと言ってくれた。もう昔のように一緒には歩めない道だけれど、互いに想い合っていると確かめられた。

 もうアルくんは大丈夫だ。それがハッキリと確信出来た。だから涙は浮かばない。私たちの向いている方向はもう違ってしまったけれど、その先の道がどこかで繋がっているとわかったから。


「うん。落ち着いたら遊びにおいで。私も、アルくんのように国を守る人たちが傷つかないように、守りたいものを守れるように力になるから」

「あぁ」

「お互い、頑張ろう」


 私が差し出した手をアルくんは繋いでくれた。握手は、私たちにとっては仲直りの合図。でも、この握手はそれぞれの道を行くお互いへの信頼と祈りを込めて。

 アルくんにはアクリルちゃんが、私にはユフィが寄り添っている。今日という道の交差は、明日への力になると。そんな確信を抱かせてくれた。



  * * *



 ――そして、日は過ぎる。

 私は鏡で自分の顔を覗き込んでいた。鏡には化粧とドレスで飾り立てられてた私が映っている。

 今日は魔学都市完成の式典の日。祭りは式典の私の挨拶を以て開催するのでまだ静かだけど、今にも爆発しそうな熱気が周囲から漂っている。

 式典の会場には来賓の貴族席と、一般客の傍聴席が用意されていて、一般客の席はもう溢れかえらんばかりの人が集まっていて、会場の外にも人が集まっている様子だった。


「王姉殿下、用意は大丈夫でしょうか?」

「えぇ、問題なく。それじゃあ行きましょうか」


 式典の護衛ということで正装したナヴルとガッくんが迎えに来てくれた。綺麗に飾り立ててくれたシャルネとプリシラに軽く手を振ってから、私は式典会場へと向かう。そして入場の演奏が始まるのに合わせて入場した。

 私が式典会場に姿を見せると一般客の傍聴席からは溢れかえらんばかりの歓声が聞こえてきた。鼓膜を震わせるような大歓声に少しだけ足が竦むけれど、そのまま胸を張って登壇する。

 貴族席を見れば、そこには私がお世話になった貴族の皆が集まっていた。その中には王族席もあり、こちらには父上と母上、そしてユフィとレイニ、イリアの姿が見えた。

 ハルフィスとマリオン、アンティ伯爵夫妻や、魔学省で私が面倒を見た後輩たち。それにまさかのティルティがモニカを傍に控えさせて出席していた。アイツ、絶対来ないと思ったのに。

 そして、アルくんとアクリルちゃんが貴族席にいるのも確認出来た。会場の中に見知った人たちの顔があるのを確認してから、私は一礼をした。


「ご機嫌よう、皆様。アニスフィア・ウィン・パレッティアです。本日は魔学都市アニスフィアの完成記念式典にご参列頂き、真に感謝申し上げます」


 一息を吐いてから、私は打ち合わせ通りに台詞を紡いでいく。私が入場した時には歓声を上げていた平民たちも今は静まり返って私の声を聞いてくれていた。



「――じゃあ、堅苦しいのは、ここまで!」



 私は、仰々しい空気に耐えきれなくて思いっきり叫んだ。ナヴルが私を二度見して、ガッくんが遠い目をし始めた。

 貴族席では父上と母上が頭を抱えて、ユフィたちが揃って苦笑している。貴族席で皆が項垂れるような気配が漂っている。

 一方で、静まり返っていた平民たちは笑い声を上げるようにして熱狂を取り戻す。その熱狂の声に負けないようにと、私は声を上げる。


「この街は、私の名前を付けられた都市! 魔学とは、皆に夢を見せる希望だ! 夢を見るのに! 希望を持つのに! 身分の貴賤は存在しない! 私は学び、進もうとする全ての人に約束する!」


 私は指を空へと指す。今日は式典日和の雲なしの快晴。その空を示しながら、私は叫ぶ。



「――皆! ここが! 夢と希望の始発点だよ!! 私は、この都市〝アニスフィア〟は! 貴方たちの背を押そう! さぁ、私と一緒に未来を革命する準備は出来てるかい!!」



 私の叫びに呼応するように、本日最大の熱狂が会場に響き渡った。繰り返される声は、アニスフィアと私の名前を呼んでいる。

 誰もが笑顔で、誰もが熱意を以て叫んでいる。未来に夢を、希望を持つ人たちがいる。私はそんな人たちに向けて、心からの笑顔を向けながら叫んだ。



 ――魔法に憧れた全ての人たちに、祝福あれ!!  

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