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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第7章 そして、語り継がれていく物語
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第80話:〝アニスフィア〟(1)

――ある王国に、とあるお姫様がいました。

これは語り継がれていく、そんな御伽話。

さぁ、カーテンコールを始めましょう。

「王姉殿下、こちらに確認のサインを」

「ちょ、ちょっと待って。さっきの書類の確認がまだ……」

「アニス様、式典用の魔道具の確認終わったわよ。目を通してサインをお願い」

「だ、だから……」

「失礼します、王姉殿下。確認の必要がある案件があったのですが……」

「あぁーーーーーっ! 何もかもが終わらないーーーーーっ!」


 魔学都市アニスフィアの都庁、その執務室で私は迫り来る執務に追われていた。

 どうしてこんなにも忙しいのか? それは魔学都市が正式に完成したので完成式典をしなければいけない。私が追われているのは、その準備のためだ。

 式典の準備で何故、こんなにも忙しさに追われているのか? それもこれも、全てはあの憎きカンバス王国の崩壊があったせいだ。


 カンバス王国の崩壊というか、正確にはカンバス王国が崩壊していた事が判明してから既に二ヶ月の時が経過した。

 人為的な災害と言っても過言ではない異例なスタンピードは、その原因であるライラナが倒れたことで収束した。問題なのはその後処理だった。


 カンバス王国が実は崩壊してました、と言うのは簡単だけど、中身を開いてみればパレッティア王国の首脳陣、王族を始めとした重役たちは頭を抱えることになった。

 カンバス王国の真実、ヴァンパイアや亜人たちの存在から、ライラナの齎して残った悪影響。崩壊したカンバス王国の状況の不透明さ。

 もう、どうしたらいいの、これ? って父上が真顔で言っていたのが一番、印象的だった。


 崩壊したと言われても、元々カンバス王国がどんな国だったのかも定かではないので、何から手を付けたら良いのかわからない。生き残りはいるのか? いたとして、その人たちをどうするべきなのか。

 勿論、議論は紛糾した。ただ、そのどれもが案としてなかなか採用されず、当事者である私も魔学都市に戻ることが出来ずに後始末に追われる事になった。


 もう手のつけようがないというか、問題が起きるまでは放置でいいんじゃないかと言う意見もあれば、どんなに苦労があっても危険な芽は潰すべきだと言う意見が日々飛び交うも、決定には至らない。

 ヴァンパイアの生き残り、それもパレッティア王国への復讐や野心に燃えている者が生き残っていれば厄介だ。調査をした方が良いという意見もあったけれど、じゃあどうやって調査をするつもりだ、と言われれば口を閉ざす。


 懸念は大きいけれど、実行に移せる手段が浮かばない。いつ誰が匙を投げかねない状況を動かしたのは――なんと、アルくんだった。


 アルくんは自分がカンバス王国崩壊後の影響の調査、及びヴァンパイアや亜人の生き残りを探して自ら保護や交渉、或いは捕縛を一手に引き受けると手紙で提案してきたのだ。

 この提案に皆は飛びつかんばかりに乗ろうとしたのだけど、流石にアルくんの立場に問題があった。廃嫡された王子という肩書きは流石に重い。


 でも今回の一件でアルくんはスタンピードの被害を減らすのに多大なる貢献をした。ユフィもアルくんの働きを強調したことで、アルくんの罪に対して恩赦が与えられる事になった。

 おまけと言わんばかりにアルくんが望むように動けるように支援をしよう、という事でアルくんを完全に王族籍から除籍させて独立。そして辺境の支援を受けて元カンバス王国の領土の調査に赴けるように調整をした。


 元々、アルくんは辺境に居を移した後、辺境開拓のための活動を積極的に行っていた。その中には辺境伯との交渉もあり、辺境伯は快くアルくんの後ろ盾となってくれたのだとか。

 辺境伯は毒にも薬にもならない、極めて平凡な人柄だった。目覚ましい活躍も望めないけれど、悪党になれる程の毒もない。

 辺境の開拓には頭を悩ませていたので、アルくんが進んで問題を引き受けてくれるのなら、とビジネスライクな付き合いをしてくれていた。


 けれど、そこにカンバス王国崩壊の報せとその真実である。これには辺境伯も自分の手には余ると白目を剥いてしまった。

 後継となる息子さんもいたけれど、そちらも自分の手に余るということで家族揃って爵位の返上を希望していた。

 辺境伯といっても名ばかり貴族と言われる程で、家族も含めて辺境伯一家は貴族を降りることには抵抗はなかったのが幸いと言えば幸いだった。


 なら辺境伯が返上した爵位をそのままアルくんの新しい爵位として挿げ替えれば良いんじゃないか? という話になり、アルくんは新たな辺境伯として生まれ変わることになった。

 アルくんの名前は、アルガルド・グリーンヘイズと改められ、辺境伯領の名前もアルくんが辺境伯になることが正式に発表されてグリーンヘイズ辺境伯領と名前を改められた。

 とはいえ、カンバス王国の調査に自ら赴くアルくんは名ばかり領主で、実際の領地の運営は部下に任せるという方針を採ることになった。


 なんとかそこまで漕ぎ着けて、ようやく一息を吐いたと思っていた私を待ち受けていたのは、魔学都市の完成式典だった。


 私がいない間に出来るだけ準備は進めてくれていたけれど、この式典は私が主役。つまり私がやらなきゃいけない仕事だけが山積みになっていた。

 最初に見せられた書類の山に回れ右をしようとした私をティルティとプリシラが捕獲してくれたのは記憶に新しい。絶対に許さない。


「うぎぎぎぎぎ……指がつる……目が疲れる……頭が痛い……」

「あ、あともう少しですから……」

「……シャルネ、私の代わりにサインしない?」

「ダメですって! ほら、頑張ってください!」

「あぁぁぁあ~、いい、それいい……肩に効くぅ……!」


 シャルネが肩を揉みながら電気マッサージをしてくれる。最初にお願いしたらドン引きされたけれど、割とデスクワーク組の皆に好評なのでシャルネ本人が一番不思議そうな顔をしていた。

 そんなシャルネだけど、なんとユフィから直々に勲章を贈られることになった。今回のスタンピードで活躍して女王の命を守り、事態を解決に導いたからだ。


 もちろんシャルネは大号泣。シャルネの実家であるパーシモン子爵領ではお祭り騒ぎ。勲章と一緒に出された報奨金で子爵領も潤ったそうだ。

 そんな彼女の最近の悩みは、お見合いの釣書が送られてくることだそうだ。これは私の傍にいるのだから、こちらでも選別するように手を貸している。その関係でレイニと仲良くなったそうだ。


「王姉殿下、式典の際の警護についてですが……」

「えー、そっちもまだあるのぉ……?」

「情けない声を出さないでください」


 シャルネと同じようにナヴルにも勲章が授けられることになった。

 本人はガークとシャルネに比べれば、とは口にしていたけれど、現場の指揮を取ったのは間違いなくナヴルだ。この活躍を機にナヴルの過去の汚名も完全に返上されたと言っても過言じゃないと思う。


 そしてナヴルも良い年齢だということでお見合いが勧められているらしい。本人は乗り気ではないものの、貴族として子を残すのは義務である。なので時折、お見合いのために家に戻っていたりする。


「まぁまぁ、アニス様。頑張ってください。俺も俺で当日は忙しいですけど……」

「ガッくんは気楽でいいよねぇ~?」

「そんなおっそろしい声を出さなくても……」


 そして、同じく勲章を授かったガッくん。勲章を授けられた三人の中でガッくんが一番、その後の対応に追われていたりする。

 勲章を授かるほどの功績を挙げたんだから、もう戻って家を継いで、そのまま親の騎士団も受け継ぐと良いんじゃないか、という親族からの要請が届くようになったのだとか。


 その上、親族からお嫁さんになりに来たと女の子が押しかけてきたり、お見合いの釣書が届くようになったり、果てには高位貴族から養子の打診まで来るという三重苦。本人はゲッソリした顔になって逃げ回っていた。


 まぁ、養子を打診した家の中にははガッくんというより、フラムゼーレが狙いの人もいたので、不埒なことを考えた家には少しばかりお灸を据えることになった。

 シャルネにも同様の打診が来ていたので、最近ではガッくんとシャルネをセットで保護することが多くなっていたりする。


「……まぁ、なんとか終わる目処はついてきましたからね。今日はここまでにしてあげましょう」

「プリシラぁ……」


 プリシラは相も変わらずだけど、最早彼女なしでは魔巧局は成り立たない。主に私が。

 彼女は目立ってはいないけれど、それでも十分な働きをしてくれている。今度こそ信頼関係も出来てきたんじゃないかと思う。

 その内、彼女の望みだったアーイレン帝国の訪問を何かしらの形で叶えてあげたいと思う。


「それに時間通り上がらないと、あちらにご迷惑がかかりますから」

「あ、うん。ごめんね」

「構いません。では、どうぞシアン伯爵邸へ向かってください」


 私はプリシラに促されるまま、都庁の執務室を後にした。今、私は都庁の自分の部屋で寝泊まりせず、シアン伯爵邸にお邪魔していた。

 その理由は――


「おかえりなさいませ、アニス様」

「おかえりなさい」

「ただいま、レイニ、イリア」


 私がシアン伯爵邸に入ると、最初に出迎えてくれたのはレイニだった。侍女服じゃなくて私服姿のレイニは非常にリラックスしているようだった。

 その隣には同じく私服姿のイリアがいる。なんでこの二人がシアン伯爵邸にいるのか? それについては理由がある。


「ユフィは?」

「部屋でお休みになっていますよ」

「ありがとう、そっちに向かうよ!」

「では、夕食の席でまた」


 そう、今シアン伯爵邸にはユフィが滞在しているからだ。

 スタンピードの際に溜まった疲労と、今までの政務で休みがなかったユフィに休養を取らせよう、という話になったのは最近のことだ。


 元々、父上と母上もユフィの働き過ぎを危惧していたので、ユフィ本人がスタンピードの件を理由に数日だけ休みを取りたいと言った瞬間、何故か長期予定の休暇となって戻って来てユフィが目を丸くしていた。

 最初は申し訳ない、と期間を短縮しようとしていたユフィだったけれど、ここで倒れられても逆にこちらに負担になるとまで言われてはユフィも引き下がるしかなかった。


 そしてユフィが休養先として希望したのが魔学都市。そこで逗留先として白羽の矢が立てられたのがシアン伯爵邸という訳だ。ユフィの休暇と合わせてレイニとイリアも付いてきた、という話の流れだったりする。


「ユフィ、入るよ」


 ユフィに宛がわれた客室の扉をノックすると、中から返事が返ってきた。それを確認してから、私は疲れが少し消えていくのを感じながら笑みを浮かべる。


「お帰りなさい、アニス。今日もお疲れ様です」

「ただいま、ユフィ!」


 リラックスしたラフな服装で私を出迎えてくれたユフィに、私は飛びつくようにして抱きついた。

   

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