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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第6章 永久に尊きものよ
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第59話:親子の語らい

 一時的な滞在だということで、王都に向かった私についてきたのはガッくんとナヴル、シャルネの三人だ。

 エアバイクを走らせて王城へと辿り着くと、シャルネは離宮に報告、ガッくんとナヴルはスプラウト騎士団長に挨拶と完成した魔剣のお披露目に向かった。

 ガッくんとナヴルはスプラウト騎士団長と積もる話もあるだろうからね。三人と別れた私はユフィと面会しようと思って、王城に勤めている侍女にユフィの予定を尋ねた。


「今日のユフィの予定は?」

「申し訳ありません、アニスフィア王姉殿下。ユフィリア女王陛下は現在、王都にはいらっしゃいません」

「え?」

「視察のご予定だということで、今は王城を空けています」

「あ、そうだったんだ……」


 思いっきり出鼻を挫かれてしまった。というか、視察かぁ。なんというか随分と急に思える。もしかしてフィルワッハの件をユフィも危険視して動いているんだろうか?

 ユフィの行き先を知っていそうなのは離宮にいるだろうイリアか、父上か母上か。誰にまず相談すべきか、と思っているとばったり母上と遭遇した。

 母上は私がいることに気付いて目を丸くした後、表情を引き締め直してから私に向かい合った。


「アニス? 王都に戻っていたのですか。何かあったのですか?」

「ちょっとユフィに相談があったんですけど……視察って今聞いて」

「あぁ……随分と急な話でしたからね。ところで、相談とは?」

「父上も暇があったらご一緒に相談しようかと思っていたんですけど」


 母上は私の言葉を聞いた後、顎に手を添えて少し何かを考えるように瞼を閉じる。少しの間を空けてから目を開いた母上は傍にいた侍女へと顔を向ける。


「オルファンスの予定は少し空けられた筈よね?」

「はい。急ぎの政務も入って来ておりません」

「なら、庭園にオルファンスを呼んで貰えるかしら? それからお茶の用意も」

「畏まりました、王太后様」


 恭しく頭を下げた後、母上についていた侍女が踵を返して廊下の向こうへと消えていく。それを見送った後、母上は私へと視線を向ける。


「それでは場所を移しましょう、アニス」

「ありがとうございます、母上」

「……ところで、今日の護衛は?」

「ガッくんとナヴルは騎士団に行ってます。例の魔剣がようやく完成したので、そちらの報告も兼ねて」

「あぁ、それは吉報ね。……後で私にも見せて貰えるのでしょうね?」

「……あげませんよ?」

「ふふ、私とてただ黙って座している訳ではないのですよ? アニス」


 庭園までの道すがら、人工魔剣に興味を示して情報を聞きだそうとする母上と、母上には出来ればあまり魔剣の詳細を話したくなくて濁そうとする私。

 内容に目を瞑れば、きっと穏やかな親子の会話だと思う。それに少しだけ頬を綻ばせながら、私は母上と一緒に王城の廊下を歩いていった。



   * * *



 母上と一緒に父上が来るまでの間、庭園を鑑賞することにした。父上が手がけた庭園は派手すぎず、どこか素朴さもあって落ち着く。王家の威光を知らしめると言うよりは、本当に憩いの場所となっているようで私は個人的に好きだ。

 ここは神出鬼没に姿を見せるリュミがよく出現するポイントでもある。母上とはよくお茶をしているらしいけれど、その習慣は今でも続いているんだろうか? あの自由人は気まぐれで姿を消したり現したりするので、正直普段何をしているのかは私も知らない。

 魔学都市に行ってからリュミと顔を合わせる機会も減っているので、果たして彼女は今どこで何をしているのかと、真意が読みづらい先祖様のことを思った。


「待たせたな、シルフィーヌ、アニス」

「父上、お疲れ様です」


 母上と近況報告のような雑談をしていると、父上が姿を見せた。一時期は激務でゲッソリしていたけれど、今は状況も落ち着いているからなのか顔色は良い。


「うむ。ユフィが不在だから代理をしているが、今はそう忙しい訳ではない。それもわかってユフィも視察に向かった訳だしな」

「……視察って、ユフィはどこに行ったんですか?」


 聞いていいのかちょっと悩んだけれども、ユフィはどこに視察に向かったんだろう? まだ王都の情勢だって完全に落ち着いた訳ではないと思うし、暫くは新しい取り組みに対応出来るように組織の再編を進めるつもりだと思ってたんだけど。

 私の問いかけに父上と母上は顔を見合わせる。一瞬だけ難しそうに眉を寄せたけれども、二人の間で合意が取れたのか父上が咳払いをしてから告げた。


「ユフィは辺境に視察に行っている」

「辺境……? なんで、また……?」


 辺境と聞くと私は思わずドキッとしてしまう。辺境と聞くとどうしてもアルくんの顔が浮かんでしまうからだ。

 でも、ユフィはどうしていきなり辺境に視察になんて行ったんだろう……?


「フィルワッハでの一件は私たちも聞いているわ。それで気になることがあるから、とユフィは辺境に向かったのよ」

「……まさか、この一件にアルくんが絡んでるんじゃないかと疑ってる訳じゃないですよね!?」


 思わずヴァンパイアの繋がりで、あの怪物の裏にアルくんがいる可能性があると疑っているのかと思って口にしてしまったけれど、父上と母上が揃って半目になって私を見た。


「……アニス。前から思ってたけれど、貴方って実はアルガルドには甘いわよね?」

「本当にどうしてこうなってしまったのだろうなぁ……やはり私の力不足が祟ったか……はぁ……」

「い、いや、だって……ヴァンパイアが関わってる可能性があったから、てっきりアルくんを疑ったんじゃないかって……」

「ユフィリアが聞いたら不機嫌になりそうなことを言うのは止めなさい。……アルガルドはちゃんと王国のために務めを果たしています。ユフィリアがちゃんとそう保証しているのですから、無用の心配というものです」

「うむ。それに無関係とは言い切れない、と言うのが正確な所らしいからな」

「それはどういう事ですか? 父上」


 アルくんが疑われている訳ではないけれど、無関係とは言い切れないと聞いて私は眉を寄せてしまった。

 辺境に行ってからアルくんに差出人の名前は書かないで手紙を出してたことはあったけれど、結局顔を合わせてはいない。たまにユフィから近況を聞き出さない限りは、アルくんが今何をしているのか私は詳しく知らない。


「実は……アルガルドの所にはカンバス王国から亡命してきた者が保護されているそうでな」

「はぁ!? そうだったんですか!?」

「うむ。詳細はユフィリアもあまり口にしないのでな、全容を知っているのはユフィリアぐらいだ。あと知っているとすればレイニだな」

「……だから無関係ではない、と?」

「うむ。私たちも詳しい話はユフィリアから聞いていない。確証が取れるまでは伏せておきたいとユフィリアが言っていたからな、なかなか厄介な案件なのだろうな」


 カンバス王国からの亡命者か……。それは珍しいというか、亡命してくるような人がいたんだ。

 それだけ普段はカンバス王国の人たちはパレッティア王国とは付かず離れずの距離感で接してきたと思うのだけど、改めて亡命者がいると言われるとビックリしてしまう。


「でも、なんでアルくんの所で保護されてるんですか?」

「それはわからん」

「わからんって……」

「アルガルドがそうすると決めたのか、ユフィリアがそう指示したのか。それは私にも報されておらんのだ。推測するのにも限界がある」


 父上に言われて私は唇を尖らせてしまった。それは、確かにそうだけど。なんでわざわざアルくんの所で亡命者の保護なんてやってるんだろ、あそこはそこまで人材が豊富ではない筈なのに。

 それにユフィもなんで私に言ってくれなかったんだろ。父上たちにも言えないほど厄介な案件だったから? じゃあ、なんでその案件が厄介だったの?

 フィルワッハで遭遇したキメラや、ガッくんに魔石を託した男のことを思うとどうしても落ち着かなくなってしまう。


「それで、お前は何か相談があるんだったか? なんだ? また何かやらかしたか?」

「どうして私がやらかす前提なんですか?」

「実際、その通りだからだろうが!」

「今回は不可抗力ですし、まだ何も起こしてませんー!」


 思わず父上と睨み合いになってしまったけれど、母上が咳払いをして威圧してきたので私たちは直立して、互いに引き攣った笑みを浮かべ合った。

 立ち話もなんだからと座って話すことになったんだけど、私の心配はフィルワッハの問題をこのまま人に任せて良いのか、という悩みだったんだけど……相談した二人の反応はこれまた呆れたものだった。

 父上は難しそうな顔を浮かべたまま腕を組んでいるし、母上は眉間に指を当てて深々と溜息を吐いた。


「……どうして貴方は、そんなにも両極端なのですか?」

「り、両極端ですか……?」

「いえ……貴方の中では一本の線で繋がってることなのかもしれませんね。結局、貴方は誰かのために役に立ちたい、そういう願いを抱えています。好き勝手やってるように見えて、それでも感謝する人が多いのは結果的にではなく、貴方がそう願っているからなのでしょうね」

「……その性格はお前の美点であり、同時に欠点でもあるな。アニスよ、お前も自分ではわかっているから悩んでいるのだろう? お前ばかりが出張ることが本当に良いとは思っていないのだろう?」

「……はい」

「結局の所、お前は他人をまだ信用しきれておらんのだよ。そして、自分が出来る力があるからと責任を背負いたがるのも今が幸せだからだろう。この数年で私たちも、お前が守りたいものへの理解が進んだと思っている」

「だからはっきり言うわよ。気が急いてるのよ、貴方は。まるで生き急いでいるようにも見えるわ。必死なのはわかるけれど、もっと余裕を持ちなさい」

「余裕……ですか」


 余裕って言われてもなぁ……。父上や母上が言う通り、私はまだ人を信じることが出来てないのかな。ユフィを始めとした身近な人はともかく、顔を見知らぬ人たちまでは信じ切れてない、と皆が言う。

 だったら、どうやったら信じられる? と問われても、私もわからない。案外大丈夫だったりするかもしれないし、過剰なお節介は良いことにならないのもわかってる。

 それでも、私がいてくれたら、なんて思われるのが……私は、怖いんだ。今、こんなにも幸せなのに、この幸せが翳るようなことが起きてしまうのが。


「……今ならユフィリアの言う通り、貴方を女王にしなくて良かったと思うわ」

「母上?」

「貴方は背負いすぎるわ。女王になってしまえば、貴方は自分の我を殺し尽くしたでしょうね。そう思えば、本当に今をこう過ごせて良かったと思いますし、ユフィにも感謝してしまうわ」

「……そんなに酷いですかね、私?」

「見てて心配になる位には、ね。……そういう所はオルファンスに似てるのね?」


 父上に似てる? そうなのかな、と思って父上に顔を向けて見ると苦虫を噛み潰したような苦い表情で父上が母上を睨み付けていた。


「なら無鉄砲な所はシルフィーヌによく似ておるではないか。あとは、そうだな。気丈に見えて実は繊細だったりするところとか……」

「誰が無鉄砲且つ繊細ですって?」

「図星を突かれたからって怒るでない! アイタタッ! 足を踏むのは止めないか!」


 机の下で足を踏まれているのか、父上が悲鳴を上げているのを見せられて、ふと思う。

 なんかこのやり取り、普段の私と父上だなって。結局、このやり取りは親子故なのかな、と思うと苦笑が込み上げて来るのだった。 

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