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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第5章 日常、そしてある予兆へ
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第49話:休暇の提案

 ナヴルとサランが再会するという予想外の出来事もありながら、ベリエ商会と冒険ギルド支部の受け入れは滞りなく進んだ。

 ベリエ商会を通じて入ってきた商人たちによって物流が盛んになって、騎士団や建設現場の人たちも大喜びで買い物に興じている。

 ドラグス伯からはそろそろ外からも移住希望者を募っても良い頃だろうという話がされ、工事もより一層力を入れて完成に向けて進んでいる。

 冒険者ギルドの支部が出来たことによって、魔学都市を中継点に帝国方面へ旅立つ人や、逆に王都に戻ろうする人たちも訪れるようになった。

 その中には、一足早く住民になることを希望して訪れた人もいると言うのだから驚きだ。こうして都市に根を下ろす人もいるのだと思えば感慨深い。


「……そんな良いことが続いてた筈なんだけど、これにはどうしたものかな?」

「さぁ……?」


 今日の私は雑務のお片付け。お供はプリシラ。そんな私たちの目の前でソファーに突っ伏しているのはガッくんだ。

 突っ伏した状態でどんよりとした空気を撒き散らしていて、正直言って鬱陶しいことこの上ない。一応、職務の最中なんだけど?

 でも、ちょっとお馬鹿で抜けてて失敗をやらかすガッくんだけど、護衛の仕事には手を抜くことはなかった。そう思えばガッくんが落ち込むあまり、仕事を疎かにしているというのは余程落ち込むことがあったのではないかと思う。


「ねぇ、ガッくん。何かあったの?」

「……聞いてくれます?」


 顔を上げないまま喋ったので、声がくぐもっている。これはかなりの重症だと思いつつ、会話を続けてみる。


「聞くから、もうちょっとシャキッとしなって。ナヴルに見られたら怒られるよ?」

「そのナヴル様ですよ!」


 ナヴルの名前を出した途端、唐突に跳ね上がるようにして身を起こしてガッくんは叫んだ。


「ナヴルと何かあったの?」

「…………ました」

「……ん?」

「手合わせで負けました! しかも連続で! 初めてですよ、二連敗!」


 ぐぁー! と頭を抱えてガッくんが叫びながらまた突っ伏す体勢に戻ってしまった。私は思わずプリシラを見たけれど、プリシラは興味なさそうに自分の仕事を始めていた。……逃げたな!?

 というか、ナヴルがガッくんに連勝したんだ。それは凄い。魔法ありならともかく、純粋な剣の手合わせならガッくんがいつも勝っていた筈だ。それなのに連勝を重ねたという快挙は素直に凄いと思った。


「それでショックで呻いてたの?」

「……いやぁ、なんていうか。凄い衝撃を受けまして」

「だったら落ち込んでる所を見られたら益々怒られるよ?」

「そりゃそうなんですけど……」


 はぁ、と起き上がってソファーの上に胡座をかいたガッくんが肩を落として溜息を吐く。


「……ナヴル様、何かあったんですか? いや、劇的に剣の腕前が伸びたとかではないんですけど、なんかここ最近、雰囲気が違うなって思ったんですよ」

「んー……この前、古い知り合いと会ったから気合いが入ってたんじゃない?」

「それがキッカケでしょうかねぇ。なんというか、今までのナヴル様って型に嵌まってれば強くても、型以上の動きとか、型から外れると崩しやすい印象があったんですけどね」

「それが変わったの?」

「自分の色って言えばいいんでしょうかね? そういうのを出せるようになってきたって感じです。基本に忠実ながら、必要な部分をぶち破ってくる判断が出来るようになったというか。あれですね、殻を破った、みたいな感じです。ナヴル様って今まで自分を型に押し込めてたような感じがあったんで」


 ガッくんの説明を聞いて、私は思わず納得してしまった。確かにナヴルは騎士であることや、伯爵子息として恥じない振る舞いを心がけようという意識が強かったように思う。

 それは過去のユフィの婚約破棄騒動での失敗が起因なんだと思う。自分を必要以上に戒め、型通りのままだった。けれど、その型通りに嵌まっていたことで抑え付けられていたものが芽を出し始めたのかもしれない。


(それはサランと話したことで心境の変化があったからなんだろうなぁ……)


 ナヴルの成長は素直に歓迎できることなので、今度実際に手合わせをしている所を見てみるか、私が相手になっても良いかもしれない。

 けれどガッくんがそれで落ち込んでしまっているのは頂けない。今も情けない表情を浮かべながら溜息を吐いている。


「今までずっと勝ち越してきたんだから、そんなに落ち込むこともないでしょう?」

「そりゃ、こんなことで落ち込んでたらナヴル様だって怒るのはわかってますよ。……ただなぁ、ここで一気にナヴル様も変わって、シャルネも成果を出してて、俺だけ何も出来てないなぁ、って思っちゃうんですよ」


 ガッくんは少し途方にくれた様子でそう言った。どうにも茶化すような雰囲気じゃなかったので、私も居住まいを正してしまう。プリシラもその様子には流石に気が引かれたのか、視線をガッくんに向けた。


「トマスとか、ティルティ様とか、新しい人も増えて、滅茶苦茶仕事出来てるじゃないですか。俺だけなんかパッとしないなぁ……って。だからせめて剣の腕ぐらいはって思ってたらナヴル様が急成長してきて、焦ってしまうって言うか……」

「……気持ちは理解出来るよ」

「俺だってわかってるつもりです。比べたってどうしようもないし、それに連続で負けたからって、次も勝たせるつもりはないですし。何をー! って気持ちはそりゃありますよ。ただ、それとは別で、俺それ以外で何も活躍出来てないのはどうなのかなぁ、って」


 はぁ、と溜息を吐きながら肩を落とすガッくんに私も思わず腕を組んでしまう。

 私としては別にガッくんの働きに不満を感じたことはない。でも、ガッくんは魔巧局の一員であり、私の護衛を担っている。魔法の腕前が冴えないガッくんにとって、剣の腕前というのは自分を鼓舞する強みだったと考えるのが自然だ。

 その強みにナヴルが喰らい付いてきた、ということがガッくんにどれだけの衝撃を与えたことだろうか。また、分野が違えどもシャルネやトマス、ティルティは目覚ましい実績を残しつつある。

 そんな中でガッくんが取り残されてしまっている、という風に感じてしまうのも仕方ないのかもしれない。


(かといって、今すぐガッくんに何か自信をつけさせるような仕事もないしなぁ……)


 元々、魔巧局は必要に迫られて出来た急造の集まりであって、本来予定されていた仕事とは少し異なっている。

 本来であればガッくんは護衛の仕事を果たしていれば、それで十分な筈だった。でも魔巧局が結成されてしまった。シャルネは成果を出して、ナヴルもまた成長を見せている。

 事務処理はプリシラが一手に引き受けて処理を手助けしてくれてるし、トマスやティルティは魔石を魔道具に組み込むことに成功してる。確かに横を見れば自分の活躍なんてかすんで見えてしまうのも仕方ない。


「でも、アニス様の言う通りです。落ち込んでたら余計にナヴル様に申し訳ない。また今度の手合わせで勝てるように努力しますよ」


 ガッくんはそう言って微笑んだけれど、それがどうにも誤魔化すような笑顔に見えてしまって私はもどかしい気持ちを抱えることになってしまった。



 * * *



「という訳で、何か良い案ない? トマス」

「まず困った時の俺頼みをやめろ」


 魔巧局直属の工房、その一室で資料を纏めていたトマス。作業の邪魔ならないように隅に座りながら、私は問いかける。

 部屋にいるのはお邪魔しに来た私と、工房にいたトマスとティルティだ。ティルティは最近、工房にいる事が多いのでトマスと一緒にいるのをよく見かける。

 開発に携わる二人だから一緒に行動することが増えてるけれど、二人の相性はそう悪くない……というよりは、互いに踏み込む気質じゃないから実に静かな関係が築かれてるように見える。仲が良いとは言わないけれど、悪い訳でもないといった所だ。


「悩みそのものはわからんでもないが、俺にはどうとも出来ん」

「えー……なんかこう、男同士の語らいとかでどうにかならない?」

「俺に何を期待してるんだ。何でも屋じゃないんだぞ」

「わかってるけどさぁ……」

「だったらどうしようもないって貴方もわかってるでしょう?」


 トマスとの会話に割り込むようにティルティが煩そうに言ってきた。目を通していた本を閉じて、ティルティが私を睨み付けてくる。


「剣の腕前なんて私は知ったことじゃないけれど、魔道具に関して言うなら、たまたまシャルネの魔力と合致する魔石があったからに過ぎないでしょ。それこそ無いものねだりでしょうが」

「そうなんだよねぇ……」

「比べてもどうしようもないことに一喜一憂してる奴なんて放って置けばいいのよ」


 ティルティらしいバッサリと行く意見だった。それはそれで正しいとは思うんだけど、ガッくんが本調子じゃないとどうにも私も気になって仕方ないんだよ。

 普段はお調子者でお馬鹿な所があるガッくんがあんなに深刻そうに悩んでるんだから相当、苦しい思いをしてると思う。

 お節介なのはわかってるんだけど、何もせずにはいられないっていうか……。


「アンタもアンタで鬱陶しいわね……?」

「まぁ、落ち着けよ、ティルティ様。……アニス様、それなら少し気分転換したらどうだ?」

「気分転換?」

「この前、ドラグスさんと打ち合わせしてた時に言ってただろ? 降誕祭も終わって、ケラヴノスも完成した。だから少し休暇でも入れたらどうだって」

「言ってたけど……」


 そう、ドラグス伯がそんなことを言ってたのは事実だ。本来の予定であれば、私は魔学降誕祭の運営には関わらない筈だった。だから降誕祭の日には休みになる筈だったけど、帝国の介入があったことで事情が変わってしまう。

 魔巧局を立ち上げて、イデアーレやケラヴノスの開発に追われる日々。それが落ち着いたのだから、改めて休暇を取るべきじゃないか、と。

 元々、都市の運営はドラグス伯の仕事で、私が都庁でやってる仕事は、その内容の精査と、計画を把握した上でこちらからの企画や要望をドラグス伯に提出しつつ、国から認可が必要なものを週に一度、私が帰還する時に持っていくという流れを辿っている。

 都市の建設も順調で、新たに入って来た商会や冒険者ギルドの打ち合わせはあるけど、必ずしも私が参加しなければならない案件は減ってきている。

 次に私が忙しくなるとしたら、魔学都市が正式に完成した際の式典や、その後の開発計画が立ち上がってきてからだと思う。

 だからこそ、休むなら今しかないと言うことで、ドラグス伯も勧めてくれた。でも、私がいまいち休暇と言われても何をしていいのか迷ってしまったので、返答は保留したままだった。


「私が休みでもユフィは忙しいだろうから王都に帰ってもなぁ、って気はするし……皆が休みたいなら是非休んで貰っても良いんだけど……」

「それじゃあ示しがつかないでしょうが」

「あぁ。だから、そうだな。休暇ではなく、仕事ではあるが息抜きみたいなことをすると言えばいいのか……?」

「……つまり?」


 トマスも上手い言葉が見つからなかったのか、言葉に迷ってるようだった。いまいち私も何を言いたいのか汲み取りきれず、問い返してしまう。

 すると、私の問いに答えたのはトマスじゃなくてティルティだった。


「だから、魔石がないなら魔石を探しにいくって名目で森にでも行って遊んでくれば?」

「はぁ?」


 投げ遣りな調子で言ってきたティルティに、私は目を丸くしてしまうのだった。

   

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そして『転生王女と天才令嬢の魔法革命』の特設サイトでは書籍2巻の表紙が公開されました! よろしければご覧になって頂ければと思います!

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