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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第4章:王姉殿下と魔学降誕祭
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第38話:魔学降誕祭、開催

「久しいな、オルファンス王! いや、もう先王だったな! まさか、こんなに早く勇退するとは! いやはや、恐れ入ったぞ!」

「う、うむ……ルークハイム皇帝も息災なようで何よりだ……」

「シルフィーヌ殿も久しいな! 何かと年に一度は顔を合わせていたものだが……」

「ご無沙汰しております、ルークハイム皇帝。私は既に外交官から身を退いた身でございますので、帝国に足を運ぶ機会も少なくなりました」

「うむ、後任の者達もまたよくやっているぞ。優秀な人材が揃っているパレッティア王国が羨ましい限りだ」


 挨拶もそこそこに、歓待の為の部屋へと通すとルークハイム皇帝は破顔して父上と母上に絡み出した。父上は少し顔色が悪い仏頂面を浮かべているけれど、母上は特に変わりがない。

 父上と母上に積極的に話しかけているルークハイム皇帝は随分と上機嫌だ。というか、私達が絡みに行く隙がない。


「どーも、アニスフィア王女。兄上が苦労をかけるな」

「ファルガーナ様。そちらも使者たちの護衛に案内、お疲れ様です」


 私に声をかけたのは正装したファルガーナ様だった。苦笑を浮かべながら軽く一礼するものの、私に話しかける態度は砕けたものだった。


「おかげで王国と帝国の行き来ばかりだよ。俺も是非ともエアバイクが欲しいと思うほどだ」

「残念ですが、エアバイクは国外への販売は予定しておりません」

「ちぇー、だよな。あれだけのものを輸出できるならそっちの方が怖ぇよ」


 ファルガーナ様は苦笑してそう言った。肩を竦めている様は本気でそう思っているのか、それとも演技なのかはわからない。

 確かにエアバイクで移動できれば帝国への行き来も少しは楽になるかもしれないけれど、エアバイクは国外に出すつもりはない。国内でも、あれは民の手に渡すのは早すぎるしね。暫くは国の管理下に置かれる予定だ。

 ふと、ファルガーナ様の視線が私ではなくルークハイム皇帝へと向けられているのに気付いた。視線の先のルークハイム皇帝は上機嫌で父上と母上と会話を続けている。むしろ父上と母上が困惑しているように見える。


「いや、本当なんか申し訳ない……。兄上は随分と今日という日を待ち望んでいたんだ、少し大目に見てくれ。何せ正式に友好関係を結ぼうとしている訳だからな、先王夫妻とも会話が出来ると楽しみにしていたんだよ。まったく、あれだといい歳してはしゃぐ子供だよ」

「王国と帝国は今までは微妙な関係だったから、ああして話すことはなかったでしょうしね……」

「あぁ、これもアニスフィア王女とユフィリア女王陛下のおかげだな」


 明るく微笑みながら言うファルガーナ様に私は肩を竦めてしまう。私達が切っ掛けとなって同盟も結ばれようとしている。それで笑顔が生まれるなら、悪い気はしない。


「ご歓談の所、失礼致します。ファルガーナ皇弟殿下、僭越ながらこの後のご予定について確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、グランツ公。兄上があれでは俺が代わりに聞いておいた方が良いな。すまないがよろしく頼む」


 私がファルガーナ様と話しているとグランツ公が歩み寄り、ファルガーナ様を連れて行ってしまった。まだルークハイム皇帝は嬉々とした様子で父上と母上に話題を振っているようだった。

 豪快というか、肝が据わっている人だね、ルークハイム皇帝は。あの母上が押し切られそうになっているのはちょっと珍しい。今までと態度が違うからなのかもしれないけれど。


「アニス」

「ユフィ」


 ファルガーナ様がグランツ公に連れて行かれるのと入れ替わるようにユフィが私に歩み寄ってきた。その表情には苦笑が浮かんでいる。その視線は父上達に向けられている。


「……私の出番が無さそうですね」

「ははは……別に蔑ろにされてるって訳じゃないし、同年代の方が話しやすいんじゃないかな?」

「それはそうですが、一応私達も会話に混ざって来ましょうか。二人とも困っていらっしゃるようですし」

「それもそうだね、放っておいたら後で怒られそうだ」


 ユフィと頷き合ってから私達は歓談中の父上達に近づいて行く。まず気付いたのは父上だった。どこかホッとしたような気配を感じる。


「義父上、義母上、ルークハイム皇帝のお相手、ありがとうございます」

「おぉ、ユフィリア女王。改めてこの機会を頂けたことを感謝するぞ」

「えぇ、楽しんで頂いているようで何よりです」

「うむ。皇帝である私がこうも友好的に迎え入れられる事はなかったからな、オルファンス先王!」

「……それについては我が国の情勢が落ち着いていないという事もありましたからな。今はユフィリアに王位を譲ったことで王国も躍進の最中にあるので」

「うむ。ユフィリア女王は私の目から見ても優秀で、同時に末恐ろしい。アニスフィア姫も良人を得たではないか、収まる所に人は収まるというものだな」


 ぐぇっ、なんか私に飛び火したんですけど!? 良人って普通は伴侶とか、そういう意味だよね! ひ、否定はしないけど、他人から言われるのはむず痒い……。


「帝国からも婚姻を願い出たが、ユフィリア女王が相手となれば当て馬にしかならんな。いやはや、アニスフィア姫がアーイレン帝国に生まれてくれれば帝国と王国もまた違った関係を描けたのではないかと夢想してしまうよ」

「……この子が帝国に生まれていたらと考えると、頭が痛い限りですね」


 ルークハイム皇帝の冗談に母上が顔を顰めた。私が帝国に産まれてたら、か。今の私がいるのは良くも悪くもパレッティア王国の王女として父上と母上に育てられたからだと思ってる。

 もし王国で育たなかった自分なんて、ちょっと想像出来ないかも。それはあまりにも自分とは懸け離れた人になりそうだ。


「……時にルークハイム皇帝。個人的な興味なのですが、同性婚は帝国でも認められていた筈ですよね? その辺りの法整備についてもお聞きしたいのですが」

「うむ? あぁ、我が国は様々な国の領土を呑み込んできた故な、そういう文化や風習を残す地域は存在する。そうした文化を持っていた者たちに向けた折衝案と言うのが本音の所だが……」

「そうですか……アニスとユフィは良縁とはいえど、やはり同性婚というのはまだまだ王国には縁遠い文化ですので、手探りなのです」

「なるほどな……しかし、流石に王家ともなれば世継ぎの問題も絡むからな」

「そうなのですよ……」


 あれ、母上? どうしていきなりそんな話題を持ち出したのかな!? なんかさっきから私が話題に入りづらい話題ばっかりなんだけど!? というか、私、ここにいる意味ある!?

 私が微妙な表情をしている事に気付いたのか、父上が残念そうな目で私を見ている事に私も気付く。ユフィもそっと私の肩に手を置いてきたけど、視線があらぬ方向を向いていて笑いを堪えているのがわかった。

 くっ……! こういう時には自分の社交性の無さが恨めしい……! な、なんとか話題を変えないと!


「そ、そうです。ルークハイム皇帝、ご依頼の魔剣は無事に完成致しましたよ」

「おぉ! それは本当か、アニスフィア姫!」

「はい、魔剣のお渡しは魔学降誕祭の最終日……ルークハイム皇帝もお招きした夜会でお渡しする予定となっております。それまで楽しみにして頂ければ。きっとご満足頂けるかと」

「うむ! こちらに来るまで随分と気を揉んだのだ! 楽しみにしておこう、降誕祭の視察も含めてな! よし、今日は帝国と王国の架け橋となる初日だ! 思う存分、語り明かそうではないか!」


 上機嫌にルークハイム皇帝がそう言って、高らかに笑い始めた。あまりにも楽しそうに笑うものだから、私達も釣られて笑みが浮かんでしまう。

 こうして喋ってみるとファルガーナ様が自慢にするだけあって、良い兄なのだと思う。これでやり手の皇帝だと言うのだから付いて来る人も多いんだろうな、と私は思ったのだった。



 * * *



 そうして翌日、遂に魔学降誕祭の日がやってきた。

 王城から見下ろせる城下町は、既に遠くであっても祭の喧噪が聞こえてくる程だった。飾り付けられた街並みに立ち並ぶ屋台の数々。売り物だけでなく、一芸を披露する旅芸人の姿も小さく見えて、正に盛況そのものだった。


「うひゃぁ……これ今までの祭りで一番賑やかなんじゃないのかな?」

「かもしれませんね」


 隣に並ぶユフィも私の呟きに同意してくれた。ユフィが即位してからというもの、王都の祭りは華々しさを増しているけれど、回数を重ねる度に祭りの規模が大きくなっていくような気がする。

 大変さも上がっているけれど、活性化という意味であれば歓迎するべき事なのだと思う。


「……はぁ、それにしても正装なんて息苦しいよ」

「今日は王族としての視察ですからね、我慢してください」


 今日の私の姿はドレス姿だ。白の布地をベースにピンク色のグラデーションが美しいドレスだ。私が着ているものじゃなかったら綺麗なドレスだと褒め称えられるんだけど、これがまた肩が凝る。

 ユフィも今日はドレス姿だ。その姿を見て、ふと不思議に思った。ユフィと言えば、いつもは青を基調とした色のドレスが多かった。でも今日は薄緑色がグラデーションで濃淡を描いているドレス姿だ。珍しいと言えば珍しい色だ。


「ユフィ、ドレスの色って変えた?」

「えぇ、今まであまり意識していなかったのですが、これを機に変えようと思いまして」

「何かあったっけ?」

「……元々、私が青いドレスを着ていた理由は、元婚約者の瞳の色が青だったからですよ」


 耳元に顔を近づけて、ユフィが吐息混じりに囁いた。ぞく、と背筋に悪寒に似た感覚が走って、その内容を理解した私は一気に顔を赤くしてしまった。

 ユフィが元々、青色のドレスを着ていたのはアルくんの元々の瞳の色だったからだ。それは婚約者の色だから、と言われれば納得してしまう。

 そのドレスの色が変わった。そして改めて言われれば、その色が何なのかに気付いた。ユフィのドレスの色は、私が鏡越しで何度も見た自分の瞳の色だ。


「……意外。ユフィってそういうの気にしないと思ってた」

「別に決まりがある訳ではないですからね、ただ自分に合う色なら愛しい人の色を纏いたいと思う気持ちは私にもありますよ」


 崩れそうな表情に力を込めて仏頂面を作る。これからルークハイム皇帝たちと視察に行かなきゃいけないって言うのに、そんな恥ずかしい事を平然と言うんだから……!


「ちなみに、アニスのドレスにピンクが多いのはそういう事ですよ」

「今度から私もドレスの発注に口出そうかな!」


 意識してなかったけど、そういう事だったの!? いや、そろそろ年齢的にピンクって子供っぽくないかな、とは思ってたんだけど。別に変えることでもないかってお任せにしていた報いを受けた気がする。

 歯噛みしていると、ユフィがおかしそうにクスクスと笑っている。……別に良いけどさ、ユフィが楽しそうなら。緊張も良い具合に解れたと思いたい。


「普段、離れてる分だけ願掛けに似た事を信じたくなってしまうのですよ。今までは一緒にいるのが当たり前でしたから」

「……そうだけど、改めて口にされると恥ずかしいって言うか」

「今度から王国内だけじゃなくて、帝国を始めとした他の国に私達の関係を知らしめていかないといけませんからね。……国内でアニスに声をかけようというものは牽制出来ますが、国外となるとなかなかそうも行きませんから」

「ユフィ、目が少し据わってる」


 ユフィの言うことは尤もだと思うけど、誰も好き好んで私という一個人を好きになった訳じゃないと思うし。魔学という利権を得たいだけの人たちがほとんどでしょ。私はそういうのが嫌だったから一度は逃げた訳だし。

 それに、それを言ったらユフィだって同じだ。ユフィの伴侶という立ち位置を狙いたい人なんて山ほどいると思う。ユフィの才覚を考えれば、そう思う方が自然だ。

 ……なら仲良しのアピールをするのも大事だよね。そう思いながら、私はユフィの手を取った。そのまま距離を近づけて、頬に触れるだけのキスを落とす。


「大丈夫だよ、目移りなんてする気がないから」

「……たまにアニスは狡いですね。えぇ、本当に」


 ユフィからのお返しのキスは唇に。触れ合うだけのキスを互いにして、くすぐったいような気持ちになって笑ってしまった。

 

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