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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第4章:王姉殿下と魔学降誕祭
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第37話:皇帝、来訪

「アニス、魔学降誕祭についての段取りを確認させて頂いてもよろしいですか?」

「うん、勿論」


 四人でのお茶会、それから夕食と湯浴みを終えて私はユフィと私室で二人っきりになる。

 互いに肩を並べるようにして席についた所で、ユフィから切り出されたのは魔学降誕祭についてだった。


「魔学降誕祭という名前はついていますが、進行自体は大げさなものはありません。あくまで降誕祭の目的は魔学、ひいては魔道具の恩恵を感じる為にあるもの。魔道具そのものの販売や、魔道具を利用して作られた新商品を大々的にお披露目する事にあります」

「国が支援する大きな市場の展開って言うだけなら簡単なんだけどね」


 規模が規模だけに仕組みが簡単でも何事もなく進むものじゃない。人が増えればそれだけ動きを統率しなければならないし、根回しや下準備は必要になってしまう。


「主に王都の民達に向けた祭りではありますが、国全体に伝えているので各地から王都に足を運ぶ者もいるでしょう。祭りの警備には騎士団を動員していますが、冒険者ギルドにも国から正式な依頼を出して人手を集めています。これで人手は十分足りる試算になっています」


 冒険者ギルドにも依頼を出しているのは人手不足というよりも、雇用の需要を狙ってのことだ。

 国中に周知しているので、降誕祭に足を運ぶ際に護衛として雇われた冒険者も当然いる。往復で依頼を出している人もいるだろうけれど、片道で護衛を頼まれている冒険者もいると思う。

 この警備の依頼は、そんな冒険者達に狙いをつけたものだ。勿論、王都に留まっている冒険者も受けてくれるのを狙ってもいるけれど、降誕祭に足を運んだ冒険者に目をつけた理由がある。


「数日に分けて降誕祭が開かれるから、警備の仕事に就く日と市場を巡る日で分けられる。特にまだまだ稼ぎが少ない新米冒険者には良い収入になると思うよ。その稼ぎで魔道具を購入してくれると良いんだけど」

「元冒険者ならではの発想ですね」


 クスクスとユフィが笑う。冒険者の事情も魔道具の普及で変わってきてるから、遠征に向かうなら魔道具を一式揃えたいという人は多い。けど、魔道具はそれなりに高値だ。そう簡単に手が伸びない人もいる。

 今回は、そんなまだ稼ぎの少ない冒険者に向けた依頼になる。警備の仕事なら命の危険も少ないし、稼ぎも見込める。そのお金が祭りで使われて還元されるならこちらとしても願ったり叶ったりだし、冒険者が稼いだお金で魔道具や装備を調える為に使ってくれるなら、それは本人の命を守る事にも繋がる。

 長く生き残れる冒険者は貴重な人材だ。仮に本人が大成する事は無くても、その経験を後続の冒険者達に伝えられるなら、冒険者全体の生存率や質を上げられるかもしれない。そんな願いも込めて、冒険者ギルドに国から仕事を依頼して貰った訳だ。

 これは私がユフィに提案したことだ。大金とは言わないけれど国の予算を使っているので、それでも少なくない額の報酬は払える見込み。日雇いの仕事なら良い金額だと思う。


「降誕祭は魔道具の普及、広告が主な祭りの出し物ではあります。今回、貴族は運営に徹していますが、精霊省が最終日に公開コンサートを開く予定となっていますね」

「あぁ、魔楽器を用いた演奏団による公開演奏だね?」

「えぇ、その後は夜会ですね。運営に携わった者達にとっては慰労会とも言えますが」


 今回、貴族は運営者側だ。特に官僚職についている人達は心置きなく祭りを楽しんで貰えるようにと、忙しなく駆け回っている。なので彼等自身が祭りを楽しむ機会というのは少なかったりする。

 なので夜会とは銘打ってるものの、中身はユフィの言う通り慰労会だ。最終日まで気の抜けない日を過ごす事になるので、この日は大いに疲れを癒して欲しいと思っている。


「ここにルークハイム皇帝陛下の訪問かぁ、忙しいねぇ」

「えぇ。饗宴の準備、進行もありますから。夜会まで恙なく進めば一息は吐けると思うのですが」


 祭りが始まってしまえば当日の運営や、警備などは騎士団の管轄になる。そこで一息を吐く予定もあったけど、ルークハイム皇帝の訪問が決まったからこちらの歓迎もしなくてはならない。


「忙しくはありますが、反対意見も消極的なものばかりですので。私がなんとか頑張れば回るでしょう」

「大丈夫?」

「えぇ、ルークハイム皇帝は腹の内を明かしてくれましたからね。だからといって油断するつもりはありませんが……」


 帝国との関係構築に関してはパレッティア王国としても急務だ。私の暗殺騒ぎもあったし、ユフィとしても早く帝国との良好な関係を内外問わずに広めたいと考えてる。

 私も帝国とのゴタゴタは終わらせて、魔学都市の開発と運営に集中したい。ここが勝負所とも言える。その為の準備もしてきたし、あとは当日を迎えるだけだ。


「ルークハイム皇帝の滞在中の予定は?」

「まずは王城での歓待ですね。それから降誕祭の様子を実際に見てみたいとの事ですので、これには私も同行する予定です。アニスも参加をお願いしますね」

「それについては了解」

「城下町の視察以外は義父上と義母上がルークハイム皇帝の相手をしてくださるとの事ですので、その次の日にはお忍びでアニスと出かけられますね」

「それが一番楽しみだよ」


 ユフィとお忍びで降誕祭を巡る、それが降誕祭での一番の楽しみだった。今、民の間で魔道具がどう使われるようになったのかも気になるけれど、それでも一番はユフィと一緒に城下町を巡れる事が嬉しい。

 離宮では一緒に過ごす時間は作るようにしてるけれど、こうして二人でお出かけとなるとなかなか時間を作るのが難しい立場になってしまった。不満がある訳じゃないけど、機会があるなら逃したくないというのが本音だ。


「……私も楽しみです」


 ユフィが微笑みながら私の手を取った。指を絡めてくるユフィの笑みに私も釣られて笑みを返す。自然とユフィが近づいて来て、触れるだけのキスをする。

 手を握るユフィの手の力が強くなって、甘えるように身をすり寄せて来る。そんな可愛い仕草に笑みが深くなる。


「頑張ったご褒美だね、今日はうーんと甘やかしてあげよう」

「……言いましたね?」

「言いましたけど?」


 ユフィが覗き込もうとするように距離を詰めて、悪戯っ子のように微笑む。それに私も同じような笑みを浮かべて返すと、互いに吹き出すように笑ってしまった。

 ベッドに移動したのは、この後すぐ。久しぶりに互いの温もりに触れ合う夜が来るのだった。



 * * *



 時はあっという間に過ぎて魔学降誕祭が前日に迫った頃、帝国からルークハイム皇帝が護衛を引き連れてやって来ると連絡が入った。

 予定されてた旅程は順調そうで、特に何か起きる事はなく帝国からの使者は王都サーラテリアへと到着した。


「アニス、身だしなみはきちんとしていますか?」

「真っ先に私に意識を向けるの止めません? 母上」


 いつも以上に凛々しい顔付きの母上がルークハイム皇帝を迎える為の場に現れた私に対して小言を飛ばす。流石に私もそろそろ場を弁えるようになったとは思うんだけど、母上にとってはまだ私はキテレツ娘のままなんだろうか。


「……相手はあのルークハイム皇帝ですからね、いつも以上に気を引き締めなければなりません」

「うむ……」


 凛々しく表情を引き締める母上、その隣にいる父上は微妙な表情を浮かべていた。父上の手がお腹をさすっているのを見て、父上も緊張しているのだな、と思った。


「……そういえば、父上はルークハイム皇帝とは面識は?」

「うむ、勿論あるぞ。…………正直に言うと、苦手なのだ」


 ぼそっ、と父上が私に近づいて小声で耳打ちをしてきた。父上がそんな小声で囁いてくるなんて思わなかったので驚いたけれど、確かにあの武闘派っぽいルークハイム皇帝と父上だとあまり相性が良くなさそうだ。

 でも、ルークハイム皇帝は父上の言葉に感銘を受けたから皇帝になって国を変えようと思ったんだっけ? でも、父上が直接言った訳じゃなくて、母上越しに父上の言葉を聞いたって言ってたよね。……もしかして父上、知らないんじゃ?


「あの頃は国王になって間もない頃だったからのぅ。舐められない為にも気を張っていたが……」

「王位を退いたからといって油断はなりませんよ、オルファンス」

「……うむ」


 ……父上、頑張って! 哀愁漂う父上からそっと距離を取って、ユフィの方へと向かう。ユフィの傍にはグランツ公がいて、二人で何かを喋っているようだった。

 対外的には親子じゃなくなったけど、それでも二人が親子なのは変わりない。会話を邪魔するのもどうかと思ったけど、母上の傍にいるのもなんとなく落ち着かない。なので思い切って二人の傍まで行く。

 私が近づいて行けばグランツ公が私に気付いて、恭しく一礼をしてくれた。


「アニスフィア王姉殿下、ご機嫌麗しゅう」

「グランツ公、ご無沙汰ですね。お元気そうで何よりです」

「王姉殿下もご健勝のようで何よりでございます。互いに多忙な身で、顔を合わせる機会も減りましたので」

「あはは、それもそうですねぇ」


 魔学都市に向かうようになってからグランツ公と会う事もめっきり減ってしまった。まだ魔学都市の建造が始まる前までは顔合わせの機会もあったんだけど。


「魔学都市の建設も順調と聞いております。しかし、なかなか忙しなく事が起きるものですな」

「えぇ、でも良い機会とも言えますから私は歓迎していますよ」

「そうですか。しかし、一段落した暁には王姉殿下だけでなく女王陛下にもご自愛を頂きたいものですな」

「……グランツ公爵? 何か含みがあるように聞こえますが?」


 やれやれ、と言いたげに肩を竦めながらグランツ公が横目でユフィを見ながら言った。それに素早く反応したのはユフィだ。

 ユフィは微笑を浮かべているけど、この微笑は威嚇の微笑だ。ユフィから威嚇を受けたグランツ公が不敵に笑う。


「いえ、単純に女王陛下が政務に根を詰めすぎなのではないかと懸念を抱いているだけでございます」

「……自己管理もまた女王の仕事ですので」

「それは素晴らしい。女王陛下も日々、成長されているという事ですな」

「……やはり、何か含みがあるのでは?」

「ただ御身を気遣っているだけでございます。ご自愛くださいませ、我等が女王陛下」


 煙に巻くようなグランツ公の言い方にユフィがこれでもかと眉を寄せた。そんなユフィの表情を見て、グランツ公が悪戯っぽく微笑する。

 ユフィが女王になってからグランツ公はユフィをからかうような発言をするようになったと思う。ユフィはどうにもそれが癪に触るのか、グランツ公が相手になるとちょっとだけ棘が鋭くなる。

 仲が良いのか、悪いのか。でも悪い変化だとは思わないので、温かく見守る事にする。


「ユフィリア女王陛下! 間もなくルークハイム皇帝陛下の一団が到着の予定とのことです!」

「心得ました。それでは皆様、お出迎えの用意を。整列をお願いします」


 騎士が一人、ユフィの傍までやってきてルークハイム皇帝の到着を知らせてくれた。

 その報告を受けたユフィが一つ頷き、この場にいる全員に指示を出した。それぞれ、所定の位置についてルークハイム皇帝を出迎える準備を整える。

 そして、それからそう間も置かずにルークハイム皇帝を先頭とした帝国からの使者たちが姿を現すのだった。威風堂々と入場してきたルークハイム皇帝は真っ先にユフィの前へと進み出る。


「ユフィリア女王陛下、手厚い歓迎痛み入る」

「ルークハイム皇帝陛下、ようこそパレッティア王国へ。心より歓迎致します」


 互いに進み出たユフィとルークハイム皇帝。ユフィは嫋やかな笑みを、ルークハイム皇帝陛下は好戦的な笑みをそれぞれ浮かべて、握手をしながら挨拶を交わした。

 後の歴史で、パレッティア王国とアーイレン帝国の関係が決定的に変わった瞬間だと伝えられる忙しない一日はここから始まった。

 

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