表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第4章:王姉殿下と魔学降誕祭
144/207

第36話:迫る祭りの日

 ――魔学降誕祭。

 それはアニスフィア・ウィン・パレッティア王姉殿下によって提唱された魔学を祝っての祝祭。この祭りの準備にパレッティア王国の王都サーラテリアでは民達が忙しなく準備に奔走していた。

 民達にとっても魔学降誕祭は特別な祭りである。アニスフィアが民達の為に奔走してはいたが、長らく不遇の時代が続いた事に対しての思いは深い。ユフィリア女王陛下の即位を機にして再評価されたとはいえ、アニスフィアが民に齎した恩恵は大きい。

 祭りが迫る中で国民の笑顔は明るいものだ。恩返しの気持ちもあるが、大きな商機として、何より素直に祭りを楽しみにしている為だ。

 祭りへの熱気が高まる王都、その余波は離れた地である魔学都市にまで影響していた……。



 * * *



「――ようやく、終わった……!」

「お疲れ様です、アニスフィア王姉殿下」


 魔学都市の都庁、その執務室で私は机に突っ伏すように倒れた。そんな私を労るようにすかさずプリシラがお茶を淹れてくれる。

 私と同じように執務机に座っていたのはナヴルだ。彼も固まった体を伸ばしている。ずっと書類と格闘していたから、首や肩を回せば骨がいい音を立てた。


「……結局、余裕がない進行になっちゃったね」

「仕方ありません。終わった事を素直に喜びましょう」


 私達が片付けていたのは王都に持ち込む書類だ。近々、王都で行われる魔学降誕祭。本来であれば私が直接関わる事は少ないはずだった。

 しかし、状況が変わった。この魔学降誕祭に隣国のアーイレン帝国の現皇帝、ルークハイム皇帝が参加を希望した。

 今後の事も考えれば受けない手はないという事で、ルークハイム皇帝の招待が決まった訳だけど、アーイレン帝国との正式な和平は未だになっていない。

 その和平の為に必要なのが、ルークハイム皇帝から所望されて魔巧局で開発していた〝魔剣〟だった。その開発を急がせるのと同時に、その魔剣の仕様書やら、とにかく王都の行政に通さなければいけない書類を山ほど仕上げなければいけなかった。

 なんとか事務処理が出来るメンバーで片付けたのだけど、それもようやく一段落だ。


「あー……本当、手続きって面倒……書類、書類、出しても終わらない……」

「王族が言ってはいけませんよ、そんな台詞……」

「そういうナヴルだって普段の切れ味が無いわよ……」

「……今回は流石に堪えましたね」


 魔巧局で書類仕事に対応出来るのは現在、四人。私、ナヴル、プリシラ、ティルティの四名だ。

 この内、ティルティは書類仕事なんてやってられるかと離脱。こればかりはティルティの気質だから仕方ないので、逆に開発関係を一手に引き受けて貰った。

 トマスは平民でこういった書類仕事は出来ないし、元より職人なのでティルティと一緒に開発を進めるのは当然。書類関係の処理ではガッくんとシャルネは戦力外。

 二人にはティルティの補佐を頼んでいたので、事務と開発で魔巧局の人員が半分に分かたれた状況だった。

 元々進めていた計画ではあったけれど、事実上の前倒しである。間に合うという見込みがあったけど、かといって余裕があるという訳でもなかった。おかげで疲労困憊だ。


「間に合うとは思ってたけど、余裕はやっぱり無かったわ……」

「それでも間に合って良かったですね。これで心置きなく王都に向かえます」

「最近、魔学都市を離れてばっかりでシアン伯爵には申し訳ないけどね」

「都市運営は伯爵の仕事ですから。それでも気にされるようでしたら、都市開発が一段落したら労いの場を用意するのが良いかと」

「うん。そのつもりでいるよ」


 シアン伯爵だけじゃなくて、魔学都市を開発してくれてる人達にもだけど。都市開発も私達が慌ただしく過ごしている間に着実に進んでいる。

 工房の完成も出来たし、そろそろ軌道に乗り始めそうだ。そう思えば楽しみで仕方ない。その前に魔学降誕祭という大きなイベントを片付けないといけないんだけど。


「入るわよ、アニス様」


 ドアがノックされて、ティルティが入って来た。その後ろにはトマス、ガッくん、シャルネも続いている。


「あら、開発組が揃ってどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、アニス様が急かすからこっちも準備を整えてきたに決まってるでしょ?」

「皇帝陛下に贈る〝魔剣〟もバッチリですよ!」


 溜息交じりに言うティルティの横で、満面の笑顔を浮かべるガッくん。ティルティが少しだけ鬱陶しそうに眉を寄せた。そんなティルティの様子に気付いたのか、トマスとシャルネが微妙な表情を浮かべている。


「算段がついてたとはいえ、完成が間に合って良かった。これで憂い無く、魔巧局としても魔学降誕祭を迎えられるよ。皆、とりあえずお疲れ様」

「明日には王都ですけどね」

「エアバイクが出来て移動の手間が省けたのは良いけれど、その所為で忙しなさが上がってたら意味がないわね」


 ぼやくように言うナヴルに、肩の凝りを気にするように頭を揺らしながらティルティが言う。皆、作業に疲れて体が固まってるのは同じみたいだ。思わず苦笑を浮かべてしまう。


「ガッくんとナヴルは休みって訳にはいかないかもしれないけれど、ティルティ達は降誕祭の間はのんびりしてて良いよ。祭りに参加するなり、ゆっくり休むなり自由だね」

「アニス様、それなら俺は魔学都市に残ろうと思う。手をつけたい開発もあるからな」

「あら、それなら私も残ろうかしら? 王都に帰ってもやる事ないし」

「そう?」


 トマスとティルティは魔学都市に残るつもりみたいだ。トマスは開発者として付いて来て貰おうかとも思ったけど、本人が嫌がりそうだ。ティルティは元々、人嫌いの気があるから祭りになんて顔を出さないだろうし。


「私は休みと言ってもする事はないのですよね……」

「折角だし、侍女で暇のある人でも誘って見物だけでもしてくれば良いじゃない?」

「そうですよ! 良ければ私と一緒に行ってみませんか? プリシラ様」

「……シャルネがいるのなら、吝かではありませんが」


 プリシラとシャルネが和気藹々としながら降誕祭の予定を話し出している。となると、一番最初のメンバーで王都に向かう事になるのかな?

 魔巧局が発足する前の、専属の護衛や侍女として付いて来たはずの皆も立場が変わってしまった。少なくとも私にとっては歓迎している事なんだけどね。


「しかし、魔学降誕祭かぁ。王都での大きな祭りも増えたよな」


 ふと、ガッくんが感心したような声で話題を切り出した。ガッくんの呟きにナヴルが大きく頷く。


「あぁ、ユフィリア女王陛下が即位する前の祭りから随分と機会が増えた」

「祭りは人を集める良い機会だからね。商人には商機になるし、民には目新しいものに触れる機会になる。魔道具を広める必要もあるし、やっぱり定期的にお祭りは開けたら良いなって思うよ」


 実際、私がそうなったら良いなって思ってるだけで何もしてないようなものなんだけど。計画の調整はユフィが担ってくれているから、私はこうして自由にさせて貰っている。

 実感する度にわかるユフィのありがたみに感謝をしつつ、ちょっと私は唇の端を上げてしまった。

 今回の魔学降誕祭は、私はユフィと行動を共にする事が決まっていたからだ。今回は王族として祭りの視察にも向かう事になるだろうから、それが楽しみと言えば楽しみだ。


「さぁ、明日に疲れを引き摺らないようにしよう。今日は解散、皆、改めてお疲れ様!」



 * * *



「お帰りなさいませ、アニスフィア様」

「ただいま、イリア」


 離宮に戻るなり、最早恒例となった帰還の挨拶をイリアと交わす。私がいない間に特に何か変化があった訳でもなく、離宮の様子に変わりはないようだった。

 ナヴルとガッくんはいつも通り、騎士団長の所へ報告に。プリシラとシャルネは離宮に用意した彼女達の部屋に向かった。魔巧局の一員になった以上、離宮に一室を与えた方が良いという事で二人にも離宮にて部屋が宛がわれる事になった。

 離宮まで一緒だったプリシラとシャルネと別れ、イリアがいるというサロンへと来た所だ。今日は私が帰って来る日だから、その日はイリアはサロンで掃除をしたりしながら時間を潰しているらしい。

 サロンに私とイリア以外には誰もいない。ユフィとレイニはまだ王城に上がっているのか、その姿は見えない。


「王都は随分と賑わってたね、まだ祭りの当日じゃないって言うのに」

「その祭りに向けての準備で忙しいのでしょう。アニスフィア様も大変だったのでは?」

「まぁ、それなりに? でも、元々動かしてた計画だったからね。問題はなかったよ」

「それはなによりです」


 それからイリアと他愛のない話をしていると、ユフィとレイニが戻って来た。二人は私が帰ってきてるのを聞いていたのか、真っ直ぐサロンにやってきたみたいだ。


「アニス、お帰りなさい」

「ユフィ、レイニ、ただいま」

「はい、アニス様もお帰りなさいませ」


 ユフィとレイニにも帰ってきた挨拶をして、イリアが四人分のお茶を用意してくれる。私が魔学都市から通うようになってから定番になってきた報告も兼ねてのちょっとしたお茶会だ。


「アニス、ルークハイム皇帝に贈る〝魔剣〟は無事、間に合ったみたいですね」

「うん。資料も会議に通す為に用意して先に提出したけど、目は通した?」

「えぇ、問題ありませんでした。これで心置きなく当日を迎える事が出来ます」

「今回は流石に帝国の方々が来るという事で慌ただしかったですねぇ」


 すっかり秘書が板に付いてきたレイニが肩を竦める。ユフィも良く見れば少し疲労の色が隠せていないように思える。


「ふふ、ユフィリア様、本当に頑張りましたから。褒めてあげてくださいね、アニス様?」

「え?」

「……レイニ」


 珍しくレイニがユフィをからかうように言う。珍しいと思っていると、ユフィが咎めるようにレイニの名を呼んだ。良く見れば少しだけユフィの頬が赤い。


「今回のお祭りにはお忍びでの視察の時間がありますからね。あと、お忍びで城下町に出るのも許可が下りています。ここ最近、アニス様と一緒にゆっくりお出かけ出来る機会はめっきり減りましたから、時間を作る為に政務を片付けようと今日まで頑張ってたんですよ」

「……別に、そんなつもりでは。政務は女王として当然の務めなだけです。アニスとの時間を捻出したいが為に頑張っていたと言われるのは不服です」

「じゃあ、違うんですか?」

「……レイニ」

「ふふっ」


 おぉ……本当に珍しい。あのユフィがレイニに言い負かされてるなんて。確かにユフィは女王としての務めとして果たしていただけだろうけど、私と一緒に視察して回れる事を楽しみにしてたのも本心なんだろう。

 だから否定出来ない。それをレイニにからかわれてるんだから、この二人も本当に打ち解けたものだね。すっかり相棒って言っても過言じゃない気がする。……ちょっとだけ悔しいなんて思っちゃう。


「だって、少しはからかいたくもなりますよ。ユフィリア様は仕事を詰め込むと、途端に自分の事が雑になるんですから」

「……少し食事の手間を省いただけじゃないですか」


 少しジト目になったレイニに、バツが悪そうにユフィが視線を逸らしながら小声で呟いた。

 またやったの、ユフィ……。ちょっと悪癖になってるんじゃないの?


「レイニ。ユフィの雑は本当に雑だからしっかり見張ってね」

「はい、わかっています」

「アニスまで……それに、それを言ったらアニスだって同じじゃないですか?」

「まったくもって仰る通りですね。お二人とも、何故そのように駄目な所はそっくりなのですか?」


 不満げにユフィが言うとイリアが追撃を加えてきた。うぐ、イリアに言われると反論が出来ない。徹夜した時、お腹が空いたら片手で摘まめるものを作ったりして食べてた身だから前科がある。


「ユフィリア様はアニス様の影響を受けているのか、変な悪い所が似てきてますからね」

「えぇっ、なにそれ。私が悪いみたいじゃない?」

「成る程。つまり私がしっかりする為にもアニスにはしっかりして貰わないといけませんね?」

「理不尽ーっ! というかユフィも自覚があるなら自分でちゃんとしなよ!」


 私が抗議の声を上げると、三人が揃ってクスクスと笑い始めた。

 離宮に帰ってきたからこそ出来る、この気が抜けるお茶会の時間が私にとって本当に心安まる時間なのだと思い知らされる。

 ……だからって、からかわれるのは納得がいかないんだけどね!

 

「転生王女と天才令嬢の魔法革命」、なんと書籍版の二巻が決定されました!

web版も、書籍版もどちらも読んでいただけている方には本当に心からの感謝を!

これからも転天をよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ