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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第3章:王姉殿下と魔剣開発
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第35話:祭りの兆し

 思い立ったら吉日とは言うもので、私とティルティは行動するのが早い。とにかく工房が建たないと何も進まないという事に気付いた私達は、その日から工房設立の為に働きに働いた。

 例えば……。


『貴方がモニカね?』

『はい? あの、王姉殿下、こちらの方は……?』

『ティルティ・クラーレットよ。えぇと……今日から貴方のお師匠様の人?』

『……え?』


 最初は自分も建設に参加すると言ってたけど、魔法を使うとすぐにハイになるティルティに参加させる訳もいかず、それなら建設を担当している魔法使いを鍛えると言って聞かないものだから、ティルティとモニカを引き合わせたり。

 ティルティがやりすぎないように魔巧局の誰か一人を監督役に送ったけれども、ティルティの求める基準は高く、最初はモニカも半泣きだった。けれど、そこはシャルトルーズの血が目覚めつつあったモニカが食らい付き、ティルティも育て甲斐のあるモニカを随分と気に入ったようだった。

 モニカがティルティの指導によって元々上がりつつあった魔法の腕を更に向上させる中、私も工房の予定図をトマスとダールマさんと相談して決めて、工期の短縮が出来るように働きかけたりした。

 嬉しい誤算だったのは、騎士団の一部が、訓練の一環として建設現場に人手を回してくれたこと。都庁の宿舎を騎士団に解放した事によほど恩義を感じてくれていたのか、彼等は工事を急ぐことを聞きつけて力になりたいと申し出てくれたのだ。

 そうして人の縁に助けられながらも、とにかくやる事が尽きない日々が過ぎていった。主に日中は雑務を片付けて、各業務が円滑に回るように根回しをする。夜になったら集まれるメンバーが揃って、今後開発していく魔道具の案を出し合ったりする。

 ――そんな生活が当たり前になって来た頃、私は珍しく王都から呼び出しを受けたのだった。


「王都からですか?」

「うん、ユフィが呼んでるみたいなんだ。という訳で、私は王都に戻るつもりなんだけど……」

「私は残るわよ。もう少しで工房の目処が立つもの」

「……同じ理由で俺も残らせて貰いたい」


 まず真っ先に残ると宣言したのはティルティだった。その理由が工房の完成が間近だという事なので、同じ理由でトマスも残ると言い出した。


「私の心配はいらないわよ。私の従者もいるし、ここには騎士団も逗留してるでしょ? いつもの護衛を連れて王都に行って来なさいよ。出来そうな業務は私が代わってあげるわ」

「……心配だからプリシラ、残って貰って良い?」

「畏まりました」


 ティルティ、やる気がある事は大いにありがたい限りなんだけども、おかげでいつ無理や無茶をしでかすかわからないから目を離せない。

 ティルティの後を追うようにして到着した従者達も気を張ってくれているけれども、それでも不安は拭えないのでプリシラに残って貰ってカバーしてもらおう。

 そうして、私はナヴルとガッくん、シャルネを連れて王都に向かう事になった。



 * * *



 王都につくなり、私は王城に上がってくださいと要請を受けた。王城なのだから、ナヴル達を連れていく必要はないと休みを言いつけた。突然連れ出す事になっちゃったしね。

 三人に指示を出してから、旅の汚れを流し王城へと向かう。私が登城すればすぐ王宮付の侍女が案内をしてくれた。そうして侍女に案内された先はユフィの執務室だった。


「女王陛下、王姉殿下をお連れ致しました」

「入ってください」


 ノックの後、侍女が確認を取ってからユフィの執務室に通してくれる。中ではユフィとレイニが待っていた。ユフィは手をつけていた書類を机の上に置いて、私を案内してくれた侍女へと視線を向けた。


「ご苦労様です、貴方はそのままお客人をお連れしてきてください」

「客?」


 私を案内した侍女にユフィが続けて指示をすると、一礼して執務室を退室していった。案内してくれた侍女を見送ってから、私はユフィに尋ねる。客って誰か来てるのかな?


「突然戻ってきてもらってすみません、アニス」

「構わないけど、何かあった? お客さんが来てるみたいだけど」

「えぇ。緊急の案件ではないのですが、アニスの同席が必要な会議がありまして。会議は流石に後日なのですが、その前にパレッティア王国に滞在するお客人と顔合わせを、と思いまして。後日の会議に関わりますので、詳しくはお客人が来てから」

「わかったよ」


 何か問題が発生した訳ではなさそうで良かった。でも、私の同席が必要な会議って何だろう? もしかして、帝国が関わってるのかな? 直近で私も含めて会議しなきゃいけない案件と言えば帝国関連の議題だ。

 そう思っていると、執務室のドアがノックされた。私を連れて来た侍女が確認を入れてから入室すると、その後ろに案内されていたのはファルガーナだった。帝国との会談以来の顔に私は目を丸くした。


「ファルガーナ様?」

「あぁ、久しいなアニスフィア王姉殿下」

「客人ってファルガーナ様の事?」

「はい。ファルガーナ皇弟殿下は今後、帝国の親善大使としてパレッティア王国に滞在する事となりました。その正式な挨拶を踏まえて、後日に会議の場を設ける予定だったのです」

「そういう訳だ。まぁ、俺が帝国にいると火種になりかねんからな!」


 相変わらず不貞不貞しい態度で腕を組みながら言うファルガーナに何とも言えない表情を浮かべてしまう。それにしても親善大使ね、プリシラに報告したら喜ぶだろうか? 連れてきた方が良かったかな? いや、でもティルティを置いて行くのも怖かったし……。


「私が呼び出されたのはファルガーナ様が親善大使として来たから、その顔合わせ……ってだけじゃないよね?」

「はい。既にファルガーナ皇弟殿下もご存知の内容ですが、明日の議会で取り上げる内容についてです」

「ファルガーナ様も同席するって事は、帝国と関連があるの?」

「あぁ。実は、兄上が正式にパレッティア王国の視察をしたいと希望を出していてな」

「ルークハイム皇帝陛下が?」


 それはまた。同盟を結ぶって事は決まったけれども、皇帝が直々にパレッティア王国の視察に訪れたいとは大きな話だ。


「私としても王国と帝国の良好な関係の為にも前向きに検討しているのですが、一つ、ある行事と被りそうなので……だからアニスも交えて話さなければならないと思ったので、王都まで足を運んで貰ったのです」

「行事? えーっと、直近の行事だと何があったっけ……?」

「〝魔学降誕祭〟ですね、アニス様」

「……あぁっ! 忙しくて忘れてた!!」


 レイニの指摘で、私はつい忘れてしまっていた行事を思い出して掌に拳を置いた。

 〝魔学降誕祭〟は今まであった訳ではなく、今年から始めようと企画されたお祭りだ。そのお祭りが開催される事になった経緯は、魔学都市の建造が進んだ事にある。


「この祭は魔学都市アニスフィアの建設を祝い、魔学を讃えるという名目で開催予定の催しです。今後、魔学都市に誘致する商会などを見定めるなどの目的もあります。各宿屋や商会の売り上げ状況、参加者からの評判などから今後の参考にする。ついでに、王都に足を運ぶ者達が増えた今、経済の活性化も狙っての開催ですね」

「密かに今回の魔学祭での売り上げが良かったら、直々に声がかかるかもしれないって話をもうしてあるんだっけ?」

「えぇ、それに魔道具が導入された事で新たな目玉商品なども見られるのではないかという期待もあります。特に調理関係の魔道具が民からも好評で、魔道具の普及で新作料理など盛んに開発されているとの事ですからね」


 この二年の間で、王都の平民達には魔道具の普及が進んでいる。特に保温ポットや冷蔵庫など、調理関係や保存の為に使われる魔道具は好評であり、国が後押しした事もあって使う平民達が増えた。

 それによって料理のバリエーションも増え、今や王都は新しい商品開発の場として賑わっている。その影響で、王都への旅行者も増えて大盛況になっているとは耳にした事がある。


「この流れを活かして、王国の経済活性化の為にも魔学降誕祭は成功させたいのですが……」

「ウチの兄上がどこからかこの噂を聞きつけてだな。元々、パレッティア王国には視察に行こうとは思ってたらしく、折角パレッティア王国が栄える切っ掛けとなった魔学を祝う催しがあるなら是非とも参加したいという話になった訳だ」

「あー、なるほどね。だから私が呼ばれたのか」


 元々、魔学降誕祭の時には私も王都で過ごすつもりだった。けれどルークハイム皇帝も祭りに参加したいとなると、王族として予定など決めておかないといけない。

 魔学降誕祭は魔学を祝う為の催しだけど、私が主導して行うような事は一切無い。むしろ私は祝われる側だという事で、当日は楽しみにしていてくださいね、と言われる側だった。

 けれど、そこにルークハイム皇帝が絡んでくるなら私もお客様なだけではいられない。恐らくルークハイム皇帝の案内には私がついた方が良いだろうし。魔道具の解説なども求められるし、身分的にも知識的にも私が適任だ。


「ユフィ、ルークハイム皇帝が魔学降誕祭に参加する事については問題は無いの?」

「そうですね……問題がないとは言いませんが、良い機会だと思っているので参加して欲しいと思っています。魔道具によって生活がどのように変わるのか、パレッティア王国の国民がどんな姿で生活をしているのか見て頂けたらと思っています」

「そっか。じゃあ、私も否という理由はないかな。議会の方は?」

「半々といった所ですね。とはいえ、時期尚早なのではないかという声が大半でルークハイム皇帝を招く事自体が否という意見は聞かないですね。ただ、正式な同盟の発表が成されていないのを不安視している声が大きいので……」

「つまりルークハイム皇帝に贈呈する魔剣待ちって事?」

「まぁ、そうなる。正式に魔剣が贈呈されてから兄上も同盟を結んだ事を印象づけたいと思ってるみたいだからな」


 ふむふむ、成る程ね。ファルガーナの補足もあって、大体事情を把握する事が出来た。

 パレッティア王国で賛成に乗り切れないのは、まだ帝国とは同盟を結ぶよ! という話になってはいても、それが正式な発表ではないという点で不安視しているって所かな。

 ルークハイム皇帝も、自分がパレッティア王国からも支持を受けているという点を印象づける為に魔剣が完成するのを待っているのだろうし。


「つまり、魔学降誕祭までにルークハイム皇帝に贈呈する魔剣が間に合うか確認したい?」

「そうですね。どうですか?」

「んー……工房が間もなく完成するから、ほぼ間違いなく間に合わせられるよ」

「成る程。魔学降誕祭を踏まえた上で正式に祭りの最中で正式な同盟を結んだ事を発表するのが、両国にとって効果的かと思ったのですが」

「それなら尚更、間に合わせないとね。まだ猶予はあるけど、工事を急いで貰おうかな」


 余裕はあればある程良い。それに、魔学降誕祭という王国でも大きな祭りの中で、正式に帝国との同盟が結ばれたと公表する事は政治的なアピールにも有効だ。今後の両国の関係も踏まえて成功させたいというユフィの思いも理解出来る。

 そして帝国側も同じ思いであるのならば、懸念材料は私が払拭出来る。なら、このまま推し進めるべきだろう。


「いやぁ、それならこっちも嬉しいねぇ。俺が親善大使で送り込まれたのも、半ばそれを狙っての事だったからさ。最初は兄上も無茶を言うものだと思ってたんだが、パレッティア王国側で都合が良いなら是非ともこちらからも乗らせて欲しい」

「パレッティア王国とアーイレン帝国が再び絆を強めようという切っ掛けになったのも、魔学が発端ですからね。ある意味、今後の象徴として広めるのはこちらからも願ったり叶ったりです。その為に詰めなければいけない事は山ほどありますが……」


 うわぁ、これは魔学降誕祭は凄い盛り上がりになりそうだ。私が直接何かするって訳じゃないけれど、サーラテリアの皆には頑張って欲しいと願ってしまう。

 私も私で開発を頑張らないと。魔剣に関しては構想があるとはいえ、実際に作ってみなければ確かな事は言えない。でも魔学降誕祭がここまで話が大きくなるなら、私がいなくても開発をある程度進められるティルティとトマスに、魔学都市に残って貰ったのは正解だったかもしれない。

 伝言にナヴル達の誰かに魔学都市に行って貰って、私はこのまま王都で魔学降誕祭に関わる会議に参加した方が良いかな。後でユフィと相談しておこう。そう思って顔を上げると、ユフィと視線が合ってしまった。

 私と視線が合うと、ユフィは楽しそうに口元を綻ばせて笑った。


「忙しくなりそうですね? アニス」

「そうだね、ユフィ」


 あぁ、今日も世界は未来を明るく感じさせてくれる。来たる祭りが賑やかになりそうで、私は期待にそっと胸を弾ませた。

今回の投稿で二部三章の本編は終了となります。幕間などを投下する予定ではありますが、ひとまずここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。

二部四章は暫く間を空けてからの投稿となる予定ですので、本編の更新は暫くお待ち頂ければと思います。本作を気に入って頂けたらブックマークや評価ポイントを頂けたら嬉しいです。

そして、書籍版の第一巻発売日は1/18日です! 一週間を切りました! どうかよろしくお願い致します!

挿絵(By みてみん)

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