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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第3章:王姉殿下と魔剣開発
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第34話:雷光の閃き

 試してみない事には実際に闇魔法で魔石の力を抑制出来るのかわからないという事で、早速シャルネが再びフェンリルの魔石を起動する事になった。

 サロンを出て、全員でシャルネがフェンリルの魔石に魔力を注ぐのを見守っている。何度か深呼吸をした後、シャルネが私へと視線を向けて頷く。私はシャルネの準備が出来た事を確認して、セレスティアルを預けた。


「ティルティ、こっちはいつでも行けるわよ」


 ティルティに声をかけると、ティルティは胸に手を当てて深呼吸をしていた。ヴェール越しのティルティの視線を感じて、ティルティの準備も整った事を確認した。


「アニス様。パーシモンが魔石を起動させたら魔石の活動を抑制するわ。それでパーシモンが制御出来るか試させて」

「わかった。シャルネ、始めて」

「はい」


 ごくり、と喉を鳴らしてシャルネが身体強化を発動させて、魔石に魔力を注ぎ込む。

 小さく雷鳴のような音が響き始めたのを確認して、ティルティがシャルネと魔石に向けて手を翳す。


「安寧なる闇の(かいな)に抱かれなさい――〝レスト〟!」


 ティルティの掌から紫色の淡い光がモヤのように現れ、それがまるで紐のように魔石へと絡みついていく。

 以前との違いは一目瞭然だった。シャルネに伝播していく雷光は以前よりも弱々しくなる。見て分かる程に魔石側の出力が落ちている。


「……いけそう?」

「まだよ。――パーシモン!」

「は、はいッ!」

「扱いは魔法と同じ、魔石から流れてくる魔力を体内に流して掌握しなさい」

「えっ、あ、でも、どうやって!?」

「身体強化と同じ要領よ!」


 ティルティの鋭い叱責に、シャルネが小さく頷いて目を再び閉じる。シャルネが大きく深呼吸をしていると、雷光がぼんやりと以前のように耳と尻尾を象っていく。けれど、やはり以前よりも朧気で弱々しい。


「……ッ……ダメ……!」


 しかし、シャルネが苦悶に歪んだ顔へと変わると一気に光が増大した。雷鳴の音が強くなっていき、完全に前の起動実験と同じ状態になってしまった。


「シャルネ!」

「チッ……! パーシモン、魔力をセレスティアルに注入しなさい!」


 シャルネは飛んで来た指示に応えるようにセレスティアルへと魔力を集中させていく。以前、空に昇った雷鳴ほどの出力は無さそうだけれど、セレスティアルは破裂寸前といったように雷を纏っている。

 響き渡る雷鳴が、まるで唸り声を上げているかのようにも聞こえる。私は魔力を放出させなければと、シャルネに指示を出す。


「シャルネ、空に――」

「まだよ! パーシモン、意地でもその状態を保ちなさい! セレスティアルから拡散しようとする魔力を自分の魔力で覆うの!」


 空に魔力を放出させようとした私の声を遮ってティルティが指示を出す。シャルネはセレスティアルを握ったまま、汗を浮かべながら意識を集中させていく。

 雷光はシャルネの魔力によって作られた膜で抑え込まれようとしているけれど、漏れ出すように雷がすり抜ける。それが周囲に奔り、その一部がシャルネの肩を掠めた。


「痛っ……!? ――あっ」


 シャルネがその一瞬に気を緩めた瞬間、雷光が一気に放出されて地を焼いた。シャルネはセレスティアルを手から離して、衝撃を受けたように後ろへと吹っ飛ぶ。

 控えていたガッくんがすかさずシャルネを抱き留めて、同じようにナヴルが駆け寄る。雷光が奔った地面は、雷光の影響で燃え広がりそうだったのをプリシラが水魔法で消火している。


「シャルネ! 大丈夫!?」

「王姉殿下……はい、大丈夫です。ちょっと肩がぴりっと痺れただけで……」

「……そう」


 私も慌ててシャルネに駆け寄って様子を窺う。ガッくんの腕の中にいるシャルネは怪我らしい怪我はしてないみたいだ。安堵に私は思わず胸を撫で下ろした。


「ちょっとティルティ! あんまりシャルネに無茶をさせるんじゃないわよ!」


 ティルティは私の声が聞こえているのか、いないのか。シャルネが取り落としたセレスティアルを拾い上げている。


「ティルティ!」

「聞こえてるわよ。……収穫はあったわ、お手柄よ。パーシモン」

「へ?」


 シャルネが何の事かと首を傾げている。ティルティは拾い上げたセレスティアルの柄を私へと差し出す。私はセレスティアルを受けとって、鞘に戻す。


「収穫って、何がよ?」

「魔石の活用方法に光明があったわ」

「光明?」

「えぇ。そもそもの発想からして間違ってたわ」


 ふぅ、と悩ましげに溜息を吐いてティルティは腕を組んだ。


「貴方という前例があったせいで、つい拘ってたけれど……魔石の魔力を魔石本体や刻印紋無しに制御するのは無理ね。魔石や刻印紋が無いと魔石によって生み出された魔力は制御が利かない。本来、魔力を制御する為の精霊も機能不全になるんだもの。だから発想を変えた方が良いわね」

「具体的には?」

「魔石から汲み上げた魔力を魔道具を通して放出させる。魔石の魔力が体内に残留していると魔力が置き換えられてしまう。制御も出来ない力を体内に残そうとしても無駄だったのよ。なら、さっさと体外に放出して魔道具で消費してしまうのが良いんじゃないかしら? 魔道具なら予め決められた魔法を使えるように細工出来るでしょう?」

「成る程……?」


 魔石の魔力は染色魔力に反応して、適合する魔力の持ち主の魔力を染めてしまう。その魔力は本来、魔石や刻印紋で制御する筈のもの。通常の魔法であれば精霊の共振によって制御出来るけれど、魔石の魔力では精霊がそもそも置き換えられるから制御が出来ない。

 なら、最初から体内で制御する事を考えない。魔力を体内に汲み上げて、汲み上げた魔力をそのまま直接、魔道具という形で放出して使用してしまう。そうすれば起動の為に使った魔力や魔石の魔力に置き換えられた分は消費するけれど、そもそも制御する必要がない。


「問題は、普通に魔法を使うよりも制御が難しい上に効率が悪すぎるって点だけど……それは使用者の慣れと放出させる魔道具の形態で幾らか補正出来る筈よ」

「成る程……じゃあ、マナ・ブレイドとかの形態よりは、魔杖とかにした方が良いかしら?」


 私の思い付いた案を言ってみるけれど、ティルティは首を左右に振った。

 魔杖は得意属性の精霊石を填め込み、魔法の使用を助ける為のものだけれど、ティルティはこの案には否定的なようだった。


「魔杖だと常に持ち歩かなきゃいけないし、短杖にしても片手が塞がるわ。他の魔法とは併用が難しい事を考えると理想的とも言えないわ。もっと……こう、瞬間的に魔力を込められて、即座に放出するようなものがあれば良いのだけど……」

「うーん、つまりあくまで人の身体を魔石の魔力の通り道として使用するって事だよね。そして、放出の瞬間に魔力を込めて、そして出来れば手放せるものが良い……」

「通り道という表現はいいわね。出来れば動作を意識するものがあればイメージも付きやすいわ。イメージの正確さは魔力の操作に大きく影響するもの」

「うーん……」


 私とティルティは互いに腕を組み、魔石を利用するのに適したイメージを考える。魔力を瞬間的に込められて、かつすぐ手放せるもの……。


「……投げるとか?」

「……イメージはしやすいけれど、魔石を一回一回投げるつもり?」

「ダメね。うーん、じゃあ投げ槍とかはダメね……」


 というか、それだと魔石が勿体ないか。投げ槍にしても、魔力を込めて相手に当てられたのだとしても槍を回収出来ないと失われてしまう。

 ティルティと一緒に悩みに悩んでいると、不意に呟きが零れた。何かに気付いた、と言うように顔を上げたのはシャルネだった。


「……あの、王姉殿下。それなら私、思い付いたかもしれません」

「えっ!? 本当!?」

「は、はい。それだったら私でも使えると思います」

「聞かせなさい、パーシモン」


 ずい、とティルティがシャルネとの距離を詰めながら問いかける。ティルティに詰め寄られたシャルネは小さくなるように肩を竦めながら言った。


「――ゆ、弓です!」

「……弓?」

「は、はい。魔石を弓に組み込んで、弓から汲み上げた魔力を矢に込めて放てば……その、王姉殿下とティルティ様の言う条件を満たすんじゃないかと思ったんですけど……」

「「――それよッ!!」」


 弓矢! なるほど、それなら魔石から汲み上げた魔力を矢という形で放出出来るし、弓に魔石を組み込めば手放さなくても済む!

 ティルティも私と同じ結論に至ったのか、私と声が被る。私達はすぐに互いの顔を見合わせる。


「どう? 行けると思う?」

「現状、制御出来る範囲内での理想的な形状に近いと思うわ。弓に魔石を組み込むというのも面白い発想ね。弓を引く、という動作も魔力を込めるタイミングとしてイメージしやすいと思うわ。問題は矢をどうするかね……魔力を含める素材が理想だわ」

「矢尻の鉄に精霊石を組み込めないかしら? 原理としてはセレスティアルと同じだけど」

「それだと結局、精霊石の使い捨てになるわよ?」

「あっ、そうか。……なら、塗料は? あれなら精霊石の消費量を抑えられるし、何より刻印紋にも魔道具にも使われてる。実績があるわ。それで矢尻を塗装して魔力伝導率を上げれば……」

「……いけるわ。理論上は問題ないわね! でも、パーシモン。貴方、弓は使えるの?」

「えっと、はい。領内でよく狩りをしていたので……」


 ティルティの食い気味の質問に引きながらしっかりと答えるシャルネ。そういえば弓が得意だって聞いた事があるような気がする。

 シャルネの返答にティルティが満足げに頷いた。


「どうせ今はこの子しか使えないだろうし、この子に合わせちゃって良いわね。じゃあ、早速――」

「……無理だぞ」


 嬉々とした様子で動きだそうとした私とティルティだったけど、私達を止めたのは呆れたように溜息を吐いたトマスだった。


「トマス、何でよ!? 何が無理だって言うの!?」

「……あのなぁ、アニス様。――工房がまだ出来てないだろうが」

「あっ」


 忘れてた。そうだ、工房がまだ出来てないじゃない!?


「それに俺は弓なんて作った事ないぞ?」


 トマスはあくまで鍛冶師で、弓は作った事ないなんて言われたらそれもそうだ! パレッティア王国でも弓って言えば木製だし。

 でも、合金製の弓とかでしなりとかをちゃんと狙って作れるなら、魔石を構造自体に組み込んだ弓が作れるんじゃない!?


「弓を作るのは良いとしても魔石を組み込む設計や素材選びをしないといけないし、結局工房が出来てからになると思うぞ?」

「……あぁもう! なんで工房を完成させておかないのよ! アニス様!」

「こっちだって色々と忙しかったんですぅ!」


 私の肩を掴んで上下に揺さぶってくるティルティに私も抗議の声を上げる。こっちだって忙しかったのよ! 都市建設の監督とか、帝国への対処とかで! 後回しになるのは仕方ないでしょ!


「それに、弓を作るのは良いとしても……先に皇帝に贈る魔剣も作らないといけないんじゃないのか?」

「あっ」

「……おい、まさか忘れてたとか言わないよな?」

「ソ、ソンナコトナイヨ……?」


 忘れてました。だって、ほら、まずは天然魔石を使えるように研究してたし? それこそ、そっちも工房が出来ない事には作業が出来ないというか、アレですね……?


「……天然魔石の活用法が見えたのですから、先に人工魔石とルークハイム皇帝に贈る魔剣から手をつけましょうね? アニス様」

「はい……」


 ナヴルに窘められるように言われれば仕方ない。というか、それが正しいし。


「でも、この実験成果は今後の開発にかなり役に立つんじゃない?」

「あぁ、そりゃまぁな。かなり参考になったよ」

「ふぅん? 人工魔石に魔剣ね……そっちも面白そうじゃない。やっぱりアニス様の傍にいると退屈しなさそうね。なら、やっぱり工房よ! それが出来なきゃ進まないじゃないのよ!」

「いや、まぁそうなんだけど……。とはいえ、人手がねぇ。建設の計画だってあるだろうし」


 都庁だってモニカが来てくれて、建設に魔法が導入されたから着工を急ぐ事が出来たのであって、今はモニカが計画に含まれた上で進行してるだろうから工房を作るにしても人手を回して貰えるのかわからないんだよね。

 一応、相談はしたから優先的に工房は作って貰えるだろうけど。すると、ティルティが何かを考え込むように顎に手を当てていた。


「……確かここの建設って魔法も使ってるのよね?」

「え? あぁ、うん。そうだけど」

「なら私も加われば工房を優先的に建設して貰えない?」

「正気!? ……あっ、ティルティ、貴方もしかして魔力酔いを起こしてない!?」

「酔ってないわよ! ほら、私も手を貸してやるんだからさっさと責任者に話を通しに行きましょう!」

「あっ、ダメだこれ。皆、解散、解散ー! ちょっとティルティを落ち着かせてくるわ!」


 魔力の使いすぎか、それとも興奮してるのか。多分どっちもあるだろうけど、ティルティが昔の荒れてた頃の傍若無人になりつつある。これは良くない傾向だ。

 ティルティには頑張って貰ったし、強制的に休ませて落ち着かせるしかないか。私はティルティの手を引いて、都庁の中へと戻っていこうとする。とりあえず部屋で休ませて、ダメそうなら無理矢理寝かしつけよう。


「ほら、一回休むよ。ティルティ」

「何よ、疲れてないわよ! 離しなさいよ、離せーっ!」


 きゃんきゃん煩いけれど、貧弱なティルティを引っ張っていくのは苦でも無い。というかかなり言動も怪しくなってきてるから、本格的に魔力酔いを起こしてるわね。

 あぁ、元に戻ったらまた陰険ジメジメキノコになるのかな。それもそれで面倒ね……。


「……やっぱりあの二人、似た者同士だよな」

「あぁ、まったくな」


 後でプリシラから言われたけれど、私がティルティを連れて行く後ろで皆が顔を見合わせて、苦笑してそんな事を言いながら頷き合っていたらしい。だから、似てないって!!

気に入って頂けたらブックマークや評価ポイントを頂けたら嬉しいです。

書籍版の第一巻発売日は1/18日です! そちらもどうかよろしくお願い致します!

挿絵(By みてみん)

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