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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第3章:王姉殿下と魔剣開発
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第28話:第一回魔石起動実験

 翌日、私との会話で何かを掴んだのか、トマスは精力的に動き始めた。

 魔石を用いた武器を作る上で、その試作品の試験者となるナヴル、ガーク、シャルネに色々と話を聞き始めたのだと、私はシャルネから聞いていた。


「トマスさん、凄いですね。私達に色々と熱心に聞き取ってましたよ」

「ふぅん? どんな事を聞いて来たの?」

「得意な魔法とか、普段使っている武器の間合いから、今の武器への不満点、あとどんな武器がいいのか希望を確認したりとか……あとは実際に模擬戦している所が見たいという事で、ナヴル様とガークさんとで色々な組み合わせで模擬戦したりですね」

「まぁ、トマスだからね。一度火がついたらしっかり成果を出してくれるよ」


 私も後でトマスのところに顔を出そう、と思っていると、その話題のトマスがノックをした後で入って来た。その手には書類が握られていて、私の様子を窺うように視線を向けてくる。


「アニス様、後で時間を貰いたいんだが……」

「今でもいいよ? 急ぎの仕事は終わらせて、書類をプリシラに届けて貰ってる所だから」

「なら、時間を貰いたい。まずはこれを見てくれ」


 トマスが渡してきたのは、今後のナヴル達の武器の製造計画だった。まず、三人にそれぞれトマスが希望を聞き取って考えた武器構想が練られている。


「本人達の希望や、今の武器の使い方や消耗の仕方を見て、癖などを読み取ろうと思ったんだがな。俺は別に騎士って訳でもない、実際にどう動きに影響するのかまでは読み切れない。それでアニス様に一度、仮想敵として実際に立ち会って貰って三人の動きを見たい」

「ほう」


 トマスの提案に私は思わずそんな声が出てしまった。私を仮想敵として三人の実力を測る、か。ガッくんと稽古はした事あるけど、多分トマスが言うのは実戦形式なんだろうな。


「アニス様なら三人の限界も引き出せるだろ? あと、本人達が実際に本当にその武器を持って大丈夫そうか確認して貰いたい。俺はあくまで技術者としての意見しか出せないからな。実際に作った武器が合わないなら本末転倒だ」

「成る程ね。高く評価して貰って嬉しいね、でも私を仮想敵に使おうだなんて随分と太っ腹だね?」

「魔巧局の局員としての、正式な局長への申請だからな。ダメならダメで構わないが」

「冗談だって。あ、トマスに局長って言われるの良いね、なんかしっくり来るよ」

「そうか? ……あぁ、そうだ。アニス様。許可が出ればなんだが、まずは魔石に魔力を通す実験から始めたいんだが。今まで魔石に魔力を通した事があるのはアニス様以外にいるか?」

「……イリアぐらいしかいないね」


 レイニもいるけれど、レイニの例は迂闊に口にする訳にもいかない。

 私の返答を聞いたトマスは腕を組んで、難しい顔をしている。


「それじゃあサンプルが少なすぎる。魔石が精霊石の亜種なら、魔力を通す事で完全に無反応って事はない筈だ。適切な器が必要だと言うなら、その器を作らないといけない訳だが……人工魔石を作る事が可能なら魔石を加工する事も出来るんじゃないかと思ってな」

「成る程、魔石の方を加工しちゃうか……大胆だねぇ」


 私だと、魔石が勿体なくて出来なかった方法だ。砕いて薬に使う魔薬だって、流石に稀少な魔物の魔石を使うのは躊躇ったからね。だから私は器の方を魔石とどう合わせるのかという方向に注目していた。その結果に生まれたのが刻印紋の技術だ。

 でも魔石を加工するのは人工魔石の技術で応用が出来るかもしれない。そうと考えれば、そちらの方が自然な発想なのかもしれない。


「だから最初は無加工の状態で様子を見るつもりだ。三人は魔法適性の属性もばらけてるからな、それで反応の違いがないか探るつもりだ。後は、アニス様が良いならシャルネ様に使わせて欲しい魔石がある」

「え? 私ですか?」


 長話になりそうだと悟ったのか、お茶の用意を始めていたシャルネが突然、話題を向けられて肩を跳ねさせた。自分が名指しで話題に挙がると思ってなかったんだろう。


「あぁ。アニス様、覚えてるか? セレスティアルを渡した時の事を」

「……あぁ、〝アレ〟だね。確かにシャルネとの相性は良さそうだ。私は構わないよ」

「あの、何の魔石なんですか? 私と相性が良いって……?」

「二年ほど前、王都にフェンリルが急接近した事があってな。その迎撃に出たのがアニス様だったんだ。……です」

「はぁ……えっ、って、フェンリル!? フェンリル種の魔石ですか!? それって大変貴重なものなんじゃないですか!?」


 フェンリルと聞いて最初はぼんやりしていたシャルネだったけれど、すぐに脳が理解したのか驚きに目を見開いて、あわあわと慌てだした。

 フェンリルはなかなかに厄介な魔物だ。討伐が厄介な魔物には、名前がつけられて〝名付き〟となるんだけど、このフェンリルが厄介なのは、侵攻速度が魔物の中でもトップクラスに早いからだ。

 なので名付きになるフェンリルというのは、〝名付きになる頃には甚大な被害をもたらしている〟という事だ。だからフェンリルは名付きになってしまうような被害が出る前に狩らなければならない。

 それ故に悪名が高いフェンリルなのだけど、〝あのフェンリル〟は更に厄介だったからなぁ。


「稀少度は高いと思うよ、何せ風と雷の魔石持ちだったからね。だからシャルネとの相性は良いと思うよ?」

「わ、私がそんな畏れ多い物を……?」

「どんなに貴重な素材だろうと、適切に使える人材に渡れば問題はない。……ありません」


 トマス、シャルネと話そうとすると凄く話辛そうだな。さっきから言葉遣いを直そうとして、失敗している。

 そんなトマスが気の毒に思えてきたのか、シャルネが苦笑を浮かべながらトマスを見た。


「……トマスさん、その、私にも口調を改めなくて良いですよ?」

「いや、そういう訳にもな。……申し訳ない。つい、いつもの口がな」

「でも、トマスさんはその内爵位を授かるのですよね? そうなれば私はあくまで子爵家の娘でしかありません。むしろ私が敬語を使わなければならない立場になります。勿論、社交会などに出るのでしたら改めなければなりませんが、ここでは私はトマスさんと同じ立場にあると思います。むしろ教えを請う事もあるでしょう。でしたらどうか、年長者として振る舞っていただければと思います」

「……口調の方は、改めるように努力する。だが、その申し出はありがたく受けさせてくれ。すまない、正直助かる」

「そういう時はありがとうですよ! トマスさん!」


 シャルネの素直さに、トマスが鼻の頭を掻いてしまっている。こういう所は素直にシャルネの魅力だよね、私も時折眩しく感じるぐらいだ。


「じゃあ、早速フェンリルの魔石を持ってこようか」

「えっ!? もう試しちゃうんですか!?」

「今、空いてるのはシャルネだし、シャルネと相性が良さそうな魔石があるならさっさと試していこうよ」

「念の為、外に出るか」


 とんとん拍子に話が進んでいき、私はトマスと意見交換をしながら離宮から持ち込んだ備品が保管されている部屋へと向かった。慌てたように後ろからシャルネが付いて来る。


「おっ、あったあった」


 保管庫に入ると、目当てのものはすぐに見つかった。厳重に封を施した箱だ。この中にフェンリルの魔石を保管していた。

 私は封を解いて、厳重に保管していたフェンリルの魔石を取り出して見せる。淡い黄緑色の精霊石は、まだらに黄色の斑点のように光が閉じこめられている。

 その不思議な色合いは、そこらの宝石とは比べものにならない程の美しさだ。このままアクセサリーにしたらさぞ映えるんじゃないかな、と思ったりもする。

 改めてフェンリルの魔石を見せられたシャルネは、奇妙に身体を震わせていて、今にも白目を剥いてしまいそうになりながらフェンリルの魔石を凝視していた。


「それじゃあ、第一回魔石起動試験を開始するよ!」

「うぅ……畏れ多いです……」

「……それなら、まず俺から試すか?」

「あ、トマスのサンプルも取る?」

「あぁ、やってみよう」


 トマスは箱に収めたままのフェンリルの魔石に膝をついて触れる。そのまま目を閉じて、意識を集中させているようだけれど……何も反応ない。

 暫くそうしていたトマスだったけど、不意に目を開いて立ち上がる。そして首を左右に振った。


「……確かにうんともすんとも言わないな」

「でしょ?」

「精霊石は使った事があるから、同じ感覚でやってみたんだがな……」


 原因を考えているのか、トマスがぶつぶつ呟きながら思考に没頭してしまっている。

 やっぱり、ただ魔力を通しただけじゃ駄目か。じゃあ、次はシャルネにやってもらおうかな。


「さぁ、シャルネの番だよ」

「……わ、わかりました! 行きます!」


 シャルネが膝をついて、トマスがそうしていたようにフェンリルの魔石に手を当てて目を閉じる。……さぁ、と風が吹き、私達の髪を揺らす。

 シャルネが魔力を通した魔石は――やはり、何の変化も示さない。


「うぅ……だ、ダメです。反応はないです……」

「……シャルネ、魔力は減ってる感覚はあるか?」

「え? ……あれ? そういえば、そんなに減ってないような……」

「? トマス、何か気付いた?」

「精霊石を使えば魔力を吸い取られる。だが、魔石に魔力を込めても減ってないような気がしたんだ。……もう一度、試していいか?」

「はい、どうぞ」


 シャルネと交代するようにトマスが再び膝をついて、魔石に触れている。何度か触れ方を変えながら観察していたトマスがやがて眉を顰めた。


「……やはり吸われた感覚が薄いな。むしろ、これは注いだつもりになってるだけで、注がれてないような気がするな……」

「えっ。そうなんですか!?」

「えぇ……そうなの?」


 魔石って魔力を吸わないの? でも、魔石は魔力とは反応する筈なんだけど……どういう事?


「アニス様はどうやって魔石を使ってたんだ?」

「私は細かく砕いて、体内に取り込んで……それに魔力を反応させて発動させてた感じかな。刻印紋だって同じような原理だよ、だから魔力に反応しないって事はないと思うけど」

「なら、魔石のサイズと魔力の量が見合ってないのか? アニス様は極小に砕いた魔石を使ってるんだろう?」

「……んー、直感的な意見だけど、それは違うと思う。何か理由があるとは思うんだけど、その何かが私には掴めないんだよね……」


 ただ、魔力を吸わせようとして吸い取って貰えてないというのは私にはなかった視点だ。今まで私はてっきり何も起きないって思ってたけど、そもそも魔力が入ってないから、現象を起こすことが出来てないんじゃないかと思った。

 でも、じゃあ精霊石と違うのは何だろう? 変質しているとは言え、魔石の大元は精霊石である事には変わらない筈。


(私が魔石を活用出来てる例は、一度砕いて体内に取り入れてるから。それを魔力と反応させて、魔石の特性を身体強化として反映させて……あれ?)


 何かが、私の脳裏に引っかかった。

 身体強化。私が魔石を活用して使えた魔法は身体強化だった。でも、近年の研究では身体強化は魂内部の精霊を活性化させているだけで、厳密には魔法ではなく、魔法を使う為の前身となる技術という見解がハルフィスによって発表されていた。

 私は身体強化は使えるけれど、魔法は使えないままだ。そもそも身体強化は魔法じゃない。あくまで精霊の活性化だ。でも、私は魂に精霊がいないって言われている。でも、魔石を素材とした魔薬や、刻印紋を使えば身体強化を限定的には使える。でも、普通の人は?


「……鍵」


 鍵。そうだ、鍵だ。私は魔法使いが魔法を使う為には精霊契約の名残である鍵、もっと言えばスイッチがないといけない、と結論を出した。

 そして、鍵がなければ精霊とのパスがない。パスがなければ精霊を励起させる事は出来ない。つまり身体強化は原則、魔法使いでなければ使えない。


「……魔力の性質……適切な器……」


 本人の魔力の性質は魂に宿る精霊によって決まってしまう。そして、身体強化は使用者の精霊の適性に大きな影響を受ける。

 魔石は、適切な器が無ければ効果が発揮出来ない。なら、それなら……!


「シャルネ!」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「今から指示する通りに魔石を起動させてみて。多分、ポイントは身体強化よ」

「はい? 身体強化……ですか?」

「そう。前に身体強化の仕方を教えたわよね? いつもより凄いって言ってた奴よ。その身体強化の為に作った魔力を、自分の身体の一部だと思いながら魔石に魔力を通してみて」

「……わかりました」


 私の指示にシャルネが真剣な表情を浮かべて、身体強化を発動させた。シャルネの気配が変わり、僅かに静電気が弾けた。

 そのままシャルネはゆっくりと魔石に触れる。目を閉じて、シャルネが意識を集中させているのを見守る。

 ……静電気の音が、いや、最早小さな雷鳴と言っても良い音が響きだした。シャルネと魔石が触れ合った所から弾けるような音が強くなっていく。やがて、シャルネと魔石の間に光が奔り、光が雷を纏ったように何かの形を作ろうとしていく。


「――えっ、なに、これ」

「シャルネ! 魔石から手を離して!」


 シャルネも変化に気付いたのか、目を開いて形を作ろうとしている電気を見つめる。私は咄嗟にシャルネの手を魔石から離れさせようと手を伸ばして、思いっきり雷で手を弾かれた。


「いったっ……!?」

「わぁぁぁああ!? お、王姉殿下、大丈夫ですかッ!?」

「待て、シャルネ! お前、なんかバチバチしてるぞ!?」

「ひ、ひぇぇええっ!?」


 シャルネの全身に、まるで雷を纏った光が膜を張っているようだった。それはバチバチと音を立てて、まるで周囲を威嚇しているかのようだった。

 薄らとオーラのように纏わり付いている光はシャルネの身体を覆っているけれど、奇妙な部分がある。それは頭部と背の部分だ。そこだけシャルネの身体に沿うような形をしておらず、まるで〝狼の耳〟と〝尻尾〟のように見える。


「……フェンリル」


 まるで、その姿はシャルネがフェンリルの形をした雷を纏っているかのようだった。

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