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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第3章:王姉殿下と魔剣開発
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第26話:魔巧局、始動

 魔巧局の設立が決まったけど、正式な発表は後日という事になった。正式な発表までの政治的な手続きはユフィにお願いして、私はトマスを加えたいつものメンバーを引き連れて魔学都市へと戻ってきた。

 但し、今回は離宮にある私の工房から持ち出した素材などがあるので、エアバイクではなく馬車での移動だ。馬車に揺られながらの旅を終え、私達は魔学都市へと到着した。


「……わぁ、結構工事が進んでるなぁ」


 魔学都市に戻って来るのも随分と久しぶりだったから、戻って来るともう〝街〟の形が朧気ながら見えてくる事に凄く驚いてしまった。


「そんなに空けてた訳じゃないんだけど、随分と早くない?」

「それだけ熱が入ってるのでしょう。それにモニカがいますからね」

「まぁ、そうだけど。モニカに後で顔見せないとなぁ、まずはドラグス伯に挨拶だけど」


 ここまで工事が早く進んでいるのはやっぱりモニカの働きが大きいんだと思う。彼女も元気にしてると良いんだけど。

 まず私達は都庁に向かい、馬車で積んできた荷物を降ろすのに残るメンバーと、ドラグス伯に会いに行くメンバーとの二手に分かれた。ドラグス伯に会いに行く私のお供はプリシラだ。

 プリシラを連れてシアン伯爵邸に向かうとドラグス伯が出迎える為に待っていてくれた。私はドラグス伯に歩み寄り、笑みを浮かべながら再会の挨拶を交わす。


「ドラグス伯。長い間、不在にして申し訳ないわ」

「いえ、王姉殿下。事情は把握しております。こうしてご健勝な姿を見られた事を嬉しく思います」

「ありがとう。それで戻って早々なんだけど、ドラグス伯には幾つか話を通さなきゃいけない事があって……」

「畏まりました。まずはお茶の用意をさせましょう」


 ドラグス伯と共に場所を移して、私はアーイレン帝国の会談の結果や、新しく結ばれた条約、今後の魔学都市の運営。それから私を中心とする開発集団として設立された魔巧局の概要を説明していく。

 私の説明で足りない点は都度、プリシラが補足してくれた。そうして私が伝えるべき内容を話し終えると、ドラグス伯は表情を引き締めて腕を組んだ。


「成る程、帝国との会談はそのように落ち着きましたか。……しかし、本当にそれでよろしかったのですか? 帝国は本当に信用できると?」

「帝国というより、ルークハイム皇帝への信頼かな。だからルークハイム皇帝が望む魔剣は王国と帝国の架け橋となる一品を用意させたい。その為にセレスティアルやアルカンシェルを打ったトマスを専属鍛冶師として再雇用したんだ」

「……王姉殿下がそのように仰るのであれば、家臣としては複雑な心境ではございますが呑むしかありませんな」


 どこか不服そうにドラグス伯は低く呟いた。ドラグス伯は私に恩義を感じてくれているし、娘のレイニの面倒を見ているから私をとても気にかけてくれる。だから私が暗殺されかかったという事に腹を立てているのはよくわかった。

 けれど、私はそこまで強く帝国に追及も要求もしなかった。その分、皇帝には今後の帝国の引き締めを頑張って貰うしかない。


「何も悪い事ばかりじゃないよ、おかげで私も色々と踏ん切りがついた。魔巧局の立ち上げは良い機会だと思ってる。必要だって思われたなら私の好きにやるしかないしね?」

「……それはまた、頼もしくも恐ろしい」

「ドラグス伯にはまた色々と抱え込ませちゃう事になるけど……」

「いえ、それが私の役目ならば。……しかし、一介の冒険者だった私が来る所まで来たと思うばかりですな」


 誇らしげな、それでいて困ったように笑うドラグス伯。ドラグス伯が今の地位にいるのはレイニがいるからこそという点もある。だからドラグス伯としてもどう受け止めて良いのか複雑な心境なのかもしれない。

 それでも私はドラグス伯を信頼している。確かにドラグス伯個人だけの功績だけでは冒険者から男爵へ、そして一気に伯爵にまで上り詰めるなんてあり得なかったかもしれない。でも、その切っ掛けとなったレイニを支えたのは間違いなく父親としてのドラグス伯だと思う。


「身分や生まれがどうあれ、私は信頼を置ける人こそが宝だと思ってるよ。これからもどうか私を助けてね? ドラグス伯」

「……王姉殿下のお心のままに」


 私の言葉に目を瞑り、深々と頭を下げるドラグス伯。その礼を取る仕草は、かつて冒険者だったとは思えぬ程に堂々とした礼だった。

 それから私はドラグス伯と今後の打ち合わせの話を幾つかした後、シアン伯爵邸を後にするのだった。



 * * *



 シアン伯爵邸から都庁に戻ってきた私とプリシラは、荷下ろしが一段落したナヴル達を誘って都庁のサロンに集まった。

 都庁にあるサロンは流石に王城や離宮に比べれば小さく、装飾や調度品も控え目だ。勿論、それでも王族が使うという事で大工達が張り切ってくれたので立派ではあるのだけど。

 話し合いの前にお茶を用意してくれたのはシャルネだ。シャルネがせっせとお茶を用意してくれる姿を微笑ましく見守りながら、全員にお茶が行き渡ったのを確認して私は両手を叩いて合わせた。


「それじゃあ正式な発表はまだだけど、第一回魔巧局方針会議を始めようか!」

「随分とご機嫌ですね、アニス様」

「そりゃ勿論だよ、ガッくん! とはいえ方針を決めるのと、皆との認識の摺り合わせぐらいしか出来ないけどね。まだ工房だってない訳だし。あぁ、トマスは工房の設計の相談があるからその時には付き合ってね、責任者と打ち合わせをする予定だから」

「……わかっ……、了解致しました」


 トマスは私の言葉に小さく頷く。周りが貴族ばかりだからか、どうにも口が重たくなってしまっているようだ。早く慣れてくれれば良いんだけどね。


「実際に魔剣の試作品を開発していくのは工房が出来てからだけど、その前に魔石をどう加工していくか方針は決めていきたいね。並行してルークハイム皇帝の魔剣も作らないといけないけど」

「王姉殿下、質問をよろしいでしょうか?」

「はい、ナヴル。何かな?」

「その、どうしてルークハイム皇帝陛下に献上する魔剣の開発と、魔石の活用方法の研究を同時に進行するのですか? 何か理由あっての事でしょうか?」

「理由はあるよ。はっきり言うと、今までの魔剣だと皇帝に渡すのには不十分だと考えてるからだよ。その不十分な部分を埋めるのに魔石がヒントになると思ってるんだ」

「不十分ですか?」


 私の答えにシャルネがよくわからない、と言った顔で首を傾げる。シャルネの疑問は声に出さないだけで誰もが感じているようだった。

 ただ、その中でトマスは気付いたのか渋い顔をしていた。まぁ、トマスは開発者だから気付いちゃうか。


「じゃあ聞くけど、例えばユフィのアルカンシェルを持って使いこなせる人?」


 私の質問に誰も答えを返さなかった。ナヴルのように難しい顔をするか、ガッくんのように首を左右に振る反応と二分されている。


「……成る程。武器という意味でなら使いこなせない事もないと思いますが、アルカンシェルは魔杖としての機能も有していましたね。魔杖としての機能は魔法が使えない皇帝陛下には不要ですね」


 アルカンシェルはユフィ専用という事で、ユフィの規格外に対応した魔剣だ。ユフィ以外にあれを使いこなせる可能性があるとすれば、魔法適性の豊富さなどを鑑みてグランツ公ぐらいしか思い付かない。

 それだけ専用に(あつら)えたものだからこそ、他の人が使う事を想定していない。あれはユフィの為だけの一振りだ。だからルークハイム皇帝に渡す魔剣に必要なものを考えると、アルカンシェルはそもそも参考にならない。


「じゃあ、アニス様のセレスティアルは?」

「……いや、ダメだ。セレスティアルもアルカンシェルとは違う意味でアニス様に合わせた専用品だ。アニス様以外が持つなら、まだマナ・ブレイドを持った方がマシだと言われるだろう」


 アルカンシェルがダメなら、セレスティアルはどうなのか。そんなガッくんの疑問に答えたのはトマスだった。トマスは腕を組み、難しい顔を浮かべながら首を左右に振っている。

 セレスティアルもまた、私に合わせた専用品だ。刀身だって剣というよりは鉈みたいだし、その刀身の厚みの分だけ魔力を込めても壊れない耐久性と魔力の伝導率を誇っている。

 それも私がドラゴンの魔力を用いるのだから必要な強度であって、普通に使うならこれもまた過剰な要素だ。つまり、現段階で開発されている魔剣はどれも皇帝に寄贈するには向いていないという事になる。


「……こうして改めて確認して思いますが、マナ・ブレイドに比べてお二人の魔剣は使用者に合わせたものになっているんですね」

「そうなんだよ。あくまでマナ・ブレイドは魔力刃を扱う事を目的にしてるから誰にでも使える程、構造も仕組みもシンプルなんだ。そこから派生したアルカンシェルとセレスティアルは使用者に合わせてるから汎用的な品じゃない。だからルークハイム皇帝に渡すものとしては不十分だと言う事になると」

「だから新しい魔剣を作る必要があると言う事ですね?」

「うん。それも出来れば皇室が受け継いでいけるようにしたい。代々受け継いで行ってくれればパレッティア王国とアーイレン帝国の同盟の象徴になってくれるからね」


 ルークハイム皇帝に寄贈する魔剣は、あくまで本人にも使えて、その剣を次の世代が受け継いでいけるようなものが望ましい。魔剣が寄贈された同盟の象徴としてだけでなく、その権力を証明する事が出来る実用品として開発したい。

 それはルークハイム皇帝が望んでいる事だし、寄贈する魔剣の価値が高くなればなる程、互いの国が同盟を結ぶ事への価値が上がる。


「うーん、でもなぁ……? じゃあどんな物が良いんでしょうね? マナ・ブレイドを、こう、そのまま強化した物とかじゃダメなんですか?」

「ダメって訳じゃないけど、それだと象徴にするには弱すぎるんだよ。ルークハイム皇帝に寄贈する魔剣はあまり人を選ぶ性能にはせず、それでいてパレッティア王国の存在感を見せ付けるような力の象徴となるものが望ましいんだけど……」

「……ルークハイム皇帝は魔法を使える訳じゃないんですよね?」

「そうだね。だからこれから皆で頭を悩ませよう! って話になる訳だね」


 私の言葉に、誰もが静まり返ってしまった。……正直、私も自分で口にして思わずこう思った。


「……難問だよね」

「……まったくもって」

「だけど、私も無策って訳じゃないよ。だからこそ、魔石の研究なんだよ!」


 沈みそうになった空気を打ち払うように、手を打ち鳴らして私は皆の注目を集める。


「……申し訳ありません。しかし、それでは本末転倒ではありませんか? まさかとは思いますが、皇帝陛下に寄贈する魔剣に魔石を使う訳ではありませんよね?」


 ナヴルが心配そうに指摘をしてくる。ナヴルの言わんとする事はわかる。帝国にはない王国独自の技術を用意する為の研究なのに、その技術を使った魔剣では結局、流出してしまうのではないか? という心配だ。


「ナヴルは冴えてるね。確かにルークハイム皇帝に寄贈する魔剣には魔石を使おうと思ってる。けど、〝魔石そのもの〟は使わない、っていうのが正しいかな?」

「魔石を使うけれど、そのものは使わない……?」

「それ謎かけっすか?」


 シャルネが不思議そうに首を傾げ、ガッくんに至っては最早使い物にならなかった。


「皆、ユフィが即位前に私とやった余興の事を覚えてる?」

「あっ! 空中円舞の事ですか? お話には聞いた事があります!」


 はいっ! と勢い良く元気に手を上げながらシャルネが言う。けど、本人も自分が思ったよりも声が出ていた事に気付いて、すぐに手を下げて恥ずかしそうに身を縮ませている。


「そう。空中円舞だね、あの時に用意された装備は当時の技術の集大成とも言えるものでね。今は王城で保管されてるんだけど、あれに使われてる技術を応用するつもり。だから魔学省と精霊省には仕事を頼まないといけないかなぁ」

「失礼、その技術とは?」

「〝精霊顕現〟。名前ぐらいは聞いた事があるでしょ? ハルフィスが主導している魔法の再定義、魔法を簡略化して新たな技術体系を構築しようとしているのとは真逆の研究と言われてるアレだよ」


 〝精霊顕現〟。それは遡れば王位をどちらが継ぐのか競争していた当時、ユフィが魔道具の普及で支持を集めていた私に対抗する為に切った切り札だ。

 仕組みが解明された今、使用者の意志がその内に秘めた精霊と共鳴し、周囲の精霊を〝変化〟させる事で魔法となる事は周知されている。

 精霊顕現とは魔法を更に先鋭化させたものであり、最終的には疑似的な精霊を顕現させようという目的の下で行われている研究だ。


「あの飛行用魔道具……装束も含めてだね、あれは精霊と魔道具の融合を目的として研究していた技術の結晶だ。魔道具の用途に合わせる為に精霊石を〝加工〟するんだ」

「それが魔石の研究とどう関わってくるのですか?」

「――この技術の到達点が〝魔石〟だからだよ。人工魔石、と言うべきかな」


 元々、〝魔物に合わせて体内に形成された精霊石が魔石となる〟訳だ。つまり、意図的に精霊石を変化させれば魔石になる。

 問題はその魔石をどう作るかだけど、そのヒントは既にある。何せ、レイニがいる。レイニの魔石は〝人工魔石〟の完成品とも言える。ただ、世代が引き継がれている事で純粋な魔石とそう変わらなくなってしまっているけど。


「魔石は人の手で作れるのですか!?」

「現時点で補助程度のものなら開発に成功してるよ。ただ、魔学省も忙しいからね、そっちの研究は縮小されてるのが現状なんだよね……」


 まぁ、縮小せざるを得なかったとも言えるんだけど。まずは地盤を固めてからじゃないと精霊石の加工、〝人工魔石〟の研究なんて危なっかしくてやらせてやれない。

 元々、精霊顕現に関わる研究は魔道具の普及によって見込める平民達の地位向上に合わせて、更に専門的な領域に踏み込む事で貴族の希少価値を高める為の策だった。

 現状、平民が貴族に取って代わるという事が起きるような時期ではない。だから優先されるのは魔道具の研究で、精霊顕現の研究は細々としてしまっている。勿論、縮小しているとは言っても絶えさせる訳にもいかないのでユフィがしっかり予算を出してるけど。


「私達が研究するのは魔石でも〝天然魔石〟と呼ぶべき、魔物から取れる一品物。そしてその技術の研究が進めば〝人工魔石〟の方向性や製作技術にも応用する事が出来ると考えてる」

「成る程。では、ルークハイム皇帝に寄贈するのはあくまで人の手で作る事が出来る人工魔石を用いた魔剣という事なのですね?」

「そういう事!」


 プリシラの確認に私は大いに頷いてみせる。これが私のルークハイム皇帝に寄贈する魔剣製作の為のプロジェクトだ。 

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