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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第3章:王姉殿下と魔剣開発
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第25話:明日を見据えて

 トマスの了承を得られた私は、早速いつもの面子にトマスを紹介する事にした。場所をサロンに移して、離宮で待機してくれてた皆を呼んでトマスとの顔合わせを行った。

 私とトマス、ユフィ、イリア、レイニに加えて、ガッくん、ナヴル、シャルネ、プリシラ。これだけの人数がサロンに集まるというのは珍しい気もして、なんだか新鮮な気分になったりする。


「さて、と。皆、今度から私の専属の鍛冶師になってくれるトマス・ガナだよ。ちょっと無愛想で厳ついけど悪い人じゃないからよろしくね!」

「……その紹介はやめろ、いや、やめてください……。えぇっと、ご紹介に与りましたトマス・ガナです」


 私の紹介が気に入らなかったのか、トマスは溜息を吐いてぼやく。けれどすぐに貴族の前だからなのか、口調を正して静かに頭を下げた。

 その一連の会話の流れで私の事をよく知るナヴル達は空気を察してくれたのか、トマスに向ける視線がどことなく温かい。


「トマス・ガナ……彼が王姉殿下が重用していた鍛冶師ですか」

「あぁ、この人だろ? アニス様のセレスティアルや女王陛下のアルカンシェルを打ったの」

「えっ!? この方がそうなんですか!?」


 ナヴルが興味深そうにトマスを見て頷き、ガッくんが補足を入れる。シャルネはトマスの事は知らなかったのか、素直に驚いた様子を見せている。

 プリシラはいつもの微笑を浮かべているだけだ。ただ、いつも細めた目はトマスをじっくりと見つめているようだった。

 皆からの視線が集まった事で、トマスが居心地が悪そうに身を捩っている。


「……見ての通り、しがない町工房の鍛冶師です。礼儀作法に関しては疎いので、何かあれば仰ってください」

「あまりそう恐縮すんなって。公の場じゃなかったらアニス様も口うるさく言わないだろ」

「ガーク。……必要とあらばこちらから指摘する。あまり気負わないでくれ、王姉殿下の個人の付き合いだと言う事は把握している。この方の気質もな。あまり気を張らないようにな」

「……ナヴル・スプラウト様でしたね。そう言って頂けて本当に助かります。その時はどうか、ご指導お願いします」


 ガッくんが気楽な調子で言うけれど、そこはお堅く真面目なナヴルが許さない。それでもまだ柔軟にトマスに対応してくれてると思う。

 そんなナヴルに何かシンパシーでも感じたのか、トマスが思ったよりも早く打ち解けそうな雰囲気を出し始めた。ナヴルもその反応で何かを感じたのか、トマスを見る目がどうにも優しいような気がする。


「さて、皆にトマスを紹介した事、どうしてまたトマスに専属になって貰ったのか? その説明をしっかりとしないとね。正直言って、ここからかなり機密の話になるから、覚悟して聞いて欲しい」


 私の前置きにその場にいた誰もが顔を引き締めた。皆が話を聞く姿勢を取ったのを確認してから私は話し始めた。


「先日、皆も知っての通りアーイレン帝国と新たな条約が結ばれる事になった。魔学都市が完成した暁には平民・貴族問わずに魔学を学びたい人に門戸を開く学院を建てる予定だ。ここに帝国からの留学生も招く事になる。つまり、魔道具の技術が帝国に流出する事になる。まずここまではいいね?」


 皆を見渡して、一人一人の顔を確認する。私と視線が合えば皆、小さく頷く。


「可能性は低いけれども、技術を教える事によって魔道具が戦の道具に仕立てられる可能性は否定出来ない。現皇帝であるルークハイム皇帝はパレッティア王国に対して友好的な姿勢を見せているけれど、今後どうなるかわからない。その為に備えはしておきたい」

「備えですか。それがトマス・ガナを再び専属鍛冶師として迎えた理由ですか?」


 ナヴルからの確認に私は頷いて肯定する。ここまでは予想していたんだろう、ナヴルに驚きの様子はない。一番緊張してしまっているのはシャルネだろう。今も強張る寸前の表情を浮かべている。


「ルークハイム皇帝から条約の締結の条件として魔剣を所望されてたという理由もあるんだけどね。何しろ、トマスは私が一番信頼をおいている鍛冶師だ。だからこそ、備える為の一手としてトマスの力を借りたかった」

「その備えって、具体的に何をするんですか?」

「そこが本題だね、ガッくん。帝国に魔道具の技術は教える、けれど帝国には渡さない王国独自の新たな技術を確立させたい。私の構想が実現すればパレッティア王国で持て余している資源を有効活用する事が出来るからね」

「活用されてない資源、ですか?」


 シャルネが不思議そうに首を傾げている。心当たりがない、と言うような顔だ。私はシャルネの反応に笑みを浮かべつつ、話を続けた。


「活用されていない資源、それは魔石だよ」

「魔石……!」

「えっ、良いんすか?!」


 ナヴルが予想外だ、と言うように戦いている。その一方でガッくんが驚いたように目を見開いて私を見る。そのままユフィやレイニを見て、困惑を露わにしている。ガッくんは刻印紋の事を知っているし、この反応は当然だ。


「ガッくんは既に知ってるけど、私は魔石を活用する為の技術を試してる。ただ、今の形では私ぐらいしか使えない、というより使わせる事を推奨出来ないものでしかないんだ」

「……えっと、魔石なんてどんな風に活用するんですか?」

「魔石は魔物の体内で変質した精霊が魔石になったものである、という話は聞いた事があります。しかし、精霊石のように利用する事は出来ないと聞いていましたが……」


 シャルネとナヴルが難しそうな顔をして問いかけて来る。魔石は精霊石が変質した亜種と言うべきもの、この認識は既に知る人ならば知っている事となっている。

 同時に亜種だからと言っても精霊石のように活用する事は出来ないという事も常識だ。だからこそ二人の疑問は尤もなものだ。


「うん。まぁ、これから皆と一緒に秘密を共有する事になるからね。これを良い機会として話そうか」


 私は改めて、魔石を活用して己の身に刻印を刻んだ刻印紋の事について説明した。シャルネやプリシラは私の着付けを担当する事もあるので、私の背中に刻まれてる刻印の事は知っていたけれど、まさかその刻印がそんなものだとは思わなかったのか驚いていた。

 ドラゴンの魔石を用いて、ドラゴンの魔力を身に宿す。刻印紋の説明を聞いたナヴルは目を驚きに見開いたが、同時に納得したようだった。魔法が使えないと言われている私が身体強化を使える事に納得がいったんだろう。その強化が凄まじい理由も、ドラゴンが由来ならばと納得してくれた。


「……確かにそのような技術を流出させる訳には行きませんね。特に帝国には渡してはいけない技術かと思います」

「そう。色々と問題があったから、今まで魔石の活用方法は研究されて来なかった。先に研究しなきゃいけなかった事がたくさんあったからね」


 それは精霊石の活用方法であったり、魔法の再検証、再定義であったりと魔学の新たな技術を研究する魔学省でも、優先されるべき研究対象はそっちだった。私が刻印紋の技術は表に出すべきじゃない、と考えていたからでもあるけど。


「精霊石の研究を隠れ蓑にする、と言えば言い方は悪いけれどね。帝国に流す技術も現行の魔道具に類する技術は教えて良いと思えたのは、あっちは日常生活にも使える技術だからだ。だからこそ戦にばかりにその技術を使う事はない、という見込みもある」

「ですが、魔石は違うと」


 険しい顔を浮かべてナヴルが私にそう指摘する。その意見は私も同意見なので頷いて返す。


「まだ魔物の素材だけだったら活用方法はあるんだけどね、魔石は違う。あれは精霊石に近しいものでありながら、その性質は力に通ずる使い方しか出来ない。研究が進めば、とは思うんだけど、それでも最初の取っ掛かりは力を行使するという点から始めないといけない」

「……それで私達が研究のお手伝いをすると? でも、何をすれば……?」

「ガッくん、ナヴル、シャルネの三人には魔石を用いて生み出した〝発明品〟の試験者になって貰う。発明が上手く行けば、その発明品は貴方達に下賜する事になる。私専属の護衛の証明としてね」


 私の宣言に名前を挙げられた三人は驚きに目を見張った。

 私は王姉という立場で政治に関わるようになってから、特定の誰かを贔屓して魔道具を開発する事を躊躇っていた。私の発明に周りが付いて来る事が出来ないという理由もあったけど、私が誰かを特別にしてしまえば要らぬ面倒事を呼び寄せそうだったから。

 だからナヴル達を私の専属にしても、あくまで彼等が与えられた役割以上の関係から先に踏み込むつもりはなかった。この考えが変わったのは帝国との情勢が変わったのもあるけれど、何よりあの襲撃が切っ掛けだった。


「こう言うのもなんだけど、私は自分の価値を軽んじてた。私はもっと慎重になるべきで、もっと身辺に警戒しなきゃいけなかった。それをこの前の襲撃で思い知ったんだ」

「それは……自身の価値をご理解頂ける事はこちらも望む事ですが、王姉殿下が責任を感じるような事では」

「いいや、責任を感じないと駄目だったんだ。私の為に貴方達は護衛や侍女という立場に就いている。私の立ち位置はとても特殊だ、だから踏み込むべきじゃないって思ってた。でも私が私である以上、皆を巻き込んでしまう」


 今回は皆、助かった。だけど、もし何か一つでもボタンを掛け違えていたら私は誰かを失っていたかもしれない。そう考えれば、私はどうしようもなく怖くなってしまった。

 自分が傷つくのは良い。でも、私の為に誰かが傷つくのはやっぱり嫌なんだ。だったら私は私の出来る事を尽くすべきだったんだ。彼等が自分の身を守れるほどに強くなれるように。

 でも、才能なんて誰にでも恵まれている訳じゃないし、努力ですぐ埋まるようなものでもない。人間にはどうしても限界があって、極めるのにだって時間がかかる。それを待っていられる程、私は我慢強くない。

 最近は分別を弁えようと思っていた。王姉という立場なんだから、と。でも、私は自分の立場なんかよりも大事なものがある。私は、私の夢を守りたい。私の夢を応援してくれて、守ってくれる人達の力になりたい。


「私は、ここにいる者は一人でも欠けさせたくない。その為に私が出来る事をやりたい。だから私の夢に付き合って欲しい。それが私の夢だから」


 不可能を可能に、出来ない事を出来るように。そして可能性がもっと皆に広がるように。

 空に焦がれたあの日から、私の根幹は何一つだって変わってない。ただ、弁えようと思っただけ。けど、やっぱりダメだ。どんなに取り繕っても私は〝キテレツ王女〟である自分を矯正する事は出来そうにない。


「私からも良いですか?」


 今まで静かに私達の会話を見守っていたユフィが声を上げた。私に集まっていた視線がユフィへと集中した。


「ガーク、ナヴル、シャルネ、プリシラ。貴方達にはアニスの護衛、侍女として従事して貰いました。ですが、アニスも言う通り状況が変わりました。将来の備えとしてアニスの提案は私としても望む所であります。ですから女王として貴方達に提案があります」

「提案、ですか?」

「貴方達をただの護衛、侍女とするのではなく、アニスを頂点とした一つの組織として独立させたいと考えています」


 ユフィの提案に、ナヴル達の表情が驚き一色に変わってしまう。動じてないのはプリシラぐらいだった。ガッくんは今にも顎が外れてしまいそうだし、シャルネは気絶してしまいそうだ。まだ比較的落ち着いたように見えるナヴルでさえ、声が出ないようだった。

 驚きに固まってしまうナヴル達を敢えて気にせず、ユフィは言葉を続ける。


「貴方達はアニスの護衛を務め、傍に控え、その支えとなる。そしてアニスの発明を助ける。アニスの発明を助ける開発集団として組織を結成させようかと思っています。規模こそ小さなものですが、各省の官僚に相当する権限を与えたいと考えています」

「官僚って……嘘でしょう?」


 ガッくんが信じられないと言うように呟く。ガッくんとナヴルはあくまで私の専属護衛であって、騎士としては誉れある地位だけど、個人が持つ権限としては強くない。

 それは貴族の子息であっても同じだ。官僚と同等の権限を得る、というのはそれだけ彼等にとっても衝撃な訳だ。

 一般的に各省の官僚、代表的なのは魔学省や精霊省、国防省だけど、官僚としての権限を得るという事は各種資料の閲覧権限を得たり、政治的な発言権を得る事が出来る。もっと簡単に言えば王家公認の権力を持てるという事だ。

 つまりは、一昔前であればエリートの称号そのものと言って良い。ナヴル達でこれほど驚いているのだから、侍女でしかないシャルネは今にも目を回してしまいそうになっていて、プリシラに支えられていた。


「勿論、相当するものなので同等の権限がそっくり与えられる訳ではありません。当然、機密の情報を扱う事が多くなる為、制約もかなり増えるでしょう。ですが見合った報賞を貴方達に与える準備があります。貴方達はこの国の最先端技術を担う者達となるのです」

「……それは、大変名誉な事です」


 なんとか震える声でナヴルが礼を取りながらユフィに返答をした。ナヴルに釣られるようにしてガッくんも礼を取り、シャルネもプリシラに支えられながら礼を取ろうとする。

 そんな彼等にユフィは楽にするように、と伝えるように手を振って見せる。そして、その視線は私に向く。


「……アニスも折角大人しく出来るようになったんですけどね」

「仕方ないよ、備えあれば憂いなし。出来るのにやらないのは怠慢、そうでしょう?」


 私の返答にユフィが肩を竦めて見せる。私も肩の力を抜くように息を吐く。


「一応確認しておきますが、辞退を考える者はいますか?」

「……いえ、またとない名誉を賜れる機会となれば。このナヴル・スプラウト、この忠誠を改めて王家に捧げたく思います」

「俺……いえ、私もナヴルに同じく。アニス様の夢を叶える一助となれるなら力となりたく思います」


 即答したのはナヴルとガッくんだ。二人とも、表情を引き締めて騎士の礼を取る。


「……わ、私は……」


 即答出来なかったのはシャルネだ。彼女は今にも泣きそうな位に目に涙を溜めてしまっている。私はそんなシャルネの傍に寄り、彼女の肩を叩いた。


「シャルネも一員にはなって貰うけど、シャルネに矢面に立てとは言わないよ。それはシャルネがもう少し大きくなってからでも良いから」

「アニスフィア王姉殿下……」

「正直、ここまで話しちゃうとただでは解放してあげられないんだ。騙し討ちのような事をしたのは謝っておくよ、でもシャルネなら信頼出来るって話したんだ」

「私なんかが……王姉殿下のお役に立てますか?」

「貴方を信頼してる。この場に貴方を呼んだ。それがその質問に返す答えだよ」


 私の返答にシャルネは唇を強く引き結んだ。そして手の甲で涙を拭い、淑女の礼を取る。


「またとない名誉です! まだまだ未熟ですが、我が忠誠は王家に!」


 シャルネの力強い宣言に私は頷く。最後に残ったプリシラは、どこまでも自然体に礼をした。


「私も否と言う事はありません。どうぞ、この身を思うままにお使いください」

「プリシラには拒否権はないから」

「あらまぁ、それは仕方ないですね」


 プリシラには前科があるから、その償いも込めて。そして帝国の皇弟であるファルガーナと通じて貰わなきゃいけない。なのでプリシラにだけは拒否権はない。

 それもわかっている筈なのに、わざとらしくクスクスと笑うプリシラに私は溜息を吐いてしまう。ともあれ、これで私が動く為の準備が出来た。

 改めてここにいる人達を見渡す。ユフィ、イリア、レイニ。そして、トマス、ナヴル、ガッくん、シャルネ、プリシラ。私を含めて合計九人。

 実際に実働として動くのはユフィ、イリア、レイニを除いた五人だ。ユフィは言わずもがな、イリアとレイニは別の立場から私達をサポートする事になる。


「これで話は纏まったね!」

「そうですね」

「そういえば、組織になるって言うけど何か名前が付くの? 組織になる以上、わかりやすい名前でも冠しておかないと不便だよね?」

「それについては、既にこちらで名前を考えております」


 私の疑問にユフィは待っていました、と言わんばかりに笑みを浮かべた。


「アニスを頂点とし、アニスの開発を助ける組織として貴方達に与える名は……〝魔巧局(まこうきょく)〟です。正式な名称としては〝王室直轄魔巧局〟ですね。アニスを局長として、魔学に関する最先端の研究から魔道具の開発技術の洗練を行って貰うという名目で立ち上げるつもりです。なのでアニスの肩書きは今後、王姉及び魔巧局長となる訳ですね」

「魔巧局、かぁ……局長なんて、どんどん肩書きが増えていくなぁ」

「なんて呼べば良いかわからなくなりそうですね」

「もう好きに呼んでよ!」


 投げやり気味に叫んだ私に、皆が気が抜けたように笑い出す。特に笑ったガッくんには肘鉄を打ち込みながら、私は思いっきり唇を尖らせるのだった。

 

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