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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第2章:狙われた王姉殿下
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第22話:紅蓮の皇帝

 カルリーゼ。城塞都市と言うだけあって城壁の背は高く、堅牢な印象を与える。

 城壁の中に築かれた街は複雑な構造になっていて、住み慣れていなければ迷子になってしまいそうだ。恐らくは戦を想定したものなんだろうけど、その街並みがある種芸術的な仕上がりになってしまっている。

 アーイレン帝国の皇帝との会談の日、その日に余裕を持って備えられるように私とユフィはやってきた。私はいつものナヴル、ガッくん、シャルネ、そしてプリシラを連れて。ユフィはレイニとイリアを、そして近衛騎士団から精鋭とされる部隊が同行していた。

 人数も人数だから流石に飛んで行く訳にもいかない。中継地点の街で休むなどをして辿り着いたカルリーゼ。カルリーゼを治める領主に顔合わせの挨拶などしていると、あっという間に会談の日を迎える事になった。


「……来たようですね」


 私の護衛として傍に控えていたナヴルが声をかけてくる。会談はカルリーゼの領主館で行われる予定で、その館に護衛を引き連れた一団が近づいて来た。

 パレッティア王国と比べると随分物々しい武装だ。その護衛に守られるように歩いている一団の中にファルガーナの姿を見つける事が出来た。そして、その隣には父上と同じぐらいの年齢の男が悠然と歩いている。


「……あれがアーイレン帝国現皇帝、ルークハイム・ヴァン・アーイレン」


 ルークハイム・ヴァン・アーイレン。現在の帝国を治める皇帝、先代皇帝を追い落とすような格好で即位し、帝国を引き締めにかかったと言われる皇帝だ。

 事前に改めて聞いた所、賢帝とも呼ばれているとか。先代皇帝の侵略路線から国内の情勢安定に努めて、という経緯を聞くと父上と似たような経緯で王座についたように思える。

 ファルガーナも鮮烈な赤髪だったけれど、ルークハイム皇帝も負けず劣らずだ。紅の為、明るさではファルガーナに劣るけれども、その分深みを増した色が落ち着きを感じさせる。

 美形の度合いで言えば、ユフィの生みの親であるグランツ公と良い勝負だ。目付きの鋭さも含めて、ね。


「王姉殿下」

「えぇ、行きましょうか」


 今日の装いはしっかりとしたドレスにこれでもかと化粧が施されている。流石にセレスティアルは帯剣出来ないからガッくんに代わりに帯剣して貰っている。

 一応、使わないとは思うけれど太股にはマナ・ブレイドを予備で備えているけれど。


「……そろそろピンク色のドレスを着るような年でもないと思うんだけどな」

「王姉殿下?」

「なんでもない」


 どぎついピンクという訳じゃないけど、白を主体にしつつふんわりと桜色がグラデーションを描くようなドレスだ。流石に刻印があるから背中は晒せないのだけど、その所為なのか装飾が過多のように思える。

 歩く度にひらひらと揺れるドレスの裾に落ち着かないまま会談場所へと向かうと、先に到着していたユフィが私に目を向ける。ユフィも今日は女王様といった出で立ちだ。

 私のドレスと対になるようなデザインで、こちらは逆に深い青から空色にグラデーションを描いている。私のドレスに比べれば装飾は少なく、背中も開いているので大人っぽい仕上がりだ。

 ユフィの傍にはレイニとイリアが控えている。そして、その後ろには近衛騎士団の護衛がいる。ユフィは私に視線を向けると、無言で小さく頷いた。私も無言で頷きを返して息を吐く。


「失礼致します、女王陛下。皇帝陛下をお連れ致しました」

「どうぞ」


 ノックの音と共にカルリーゼの領主の声が聞こえる。ノックの音と共に、どこか軍人と言うような体格と顔立ちをしたカルリーゼの領主がドアを開き、中にルークハイム皇帝とファルガーナ、そしてお付きの貴族と護衛の騎士が入室してくる。

 ファルガーナは澄ました顔をしていて、私に視線を少し向けただけで何も言わなかった。それを確認してから、私は改めてルークハイム皇帝へと視線を移した。ルークハイム皇帝の空色の瞳はユフィへと一心に向けられていた。


「貴方がパレッティア王国の女王、ユフィリア・フェズ・パレッティアか。こうして直に対面出来たのは初となるな」

「こちらこそ。即位の際の祝辞を頂いて以来でしょうか。改めて、ユフィリア・フェズ・パレッティアです。こうして対面する機会に恵まれた事を精霊に感謝を」


 ユフィリアがルークハイム皇帝と距離を詰め、握手を求める。ルークハイム皇帝も難なく応じて、互いの握手が交わされる。

 互いの握手が終わった所で着席を促されたので、私達は机を挟んで対面に向き直る。私はユフィの隣へ、ユフィの正面にはルークハイム皇帝、私の正面にはファルガーナが席に座った。


「では、改めて。アーイレン帝国皇帝、ルークハイム・ヴァン・アーイレンだ。この会談の場を提供して頂き、パレッティア王国には感謝する」

「会談を望んだのはこちらです。この会談が実りあるものとなる事を切に祈っております」

「うむ。――では、早速本題か?」


 皇帝というには、やや粗野な態度でルークハイム皇帝は流し目で私を見つめた。見つめられると自然と背筋が伸びてしまう。


「成る程、貴方がアニスフィア・ウィン・パレッティア。シルフィーヌ王太后によく似ているな」

「アニスフィア・ウィン・パレッティアと申します。皇帝陛下にお会いする機会に恵まれ、大変光栄でございます」

「そちらが望むのは、アニスフィア姫の身柄を狙った賊についての釈明だったか」


 ぴりっと空気に緊張が走ったような気がする。けれど、誰も表情を動かすような事はしない。


「先日、アーイレン帝国の国民がアニスを襲撃しました。その目的は拉致ないし殺害。これについてアーイレン帝国としてはどのようにお考えかお聞かせ願いたい」

「私は知らぬ、と言うのは簡単だな。しかし、それでは罷り通らん事も承知している。そも、今回の襲撃が起きたのは以前から帝国ではパレッティア王国の情勢に気を張っていたからだ」


 不貞不貞しくも腕を組み、背もたれに背を預けながらルークハイム皇帝は言葉を続ける。


「次期国王と思われていたアルガルド・ボナ・パレッティア王太子の廃嫡、そして突如養子入りを果たし、精霊契約者として名を連ねると同時に歴史上初となる女王となったユフィリア女王。それから、パレッティア王国が誇る魔法の恩恵を民の手にも授けたアニスフィア姫の台頭による技術革新……たった二年ほどの期間で、パレッティア王国の情勢は大きく様変わりした」

「それが帝国の危機感を刺激した、と?」

「あぁ、そうだ。パレッティア王国の軍備が整えられ、今までは貴族という限られた特権階級が独占していた魔法が民の手にも普及を始めた。今までない程に精霊資源の採取の為、配備が進められる魔道具という技術。これが我が身に向けられると思えば、なるほど、背筋に薄ら寒いものが走るというものだ」


 好戦的な笑みを浮かべてルークハイム皇帝は値踏みするように私とユフィを見つめる。まるで肉食獣みたいだ、隣でファルガーナは静かに澄ましているだけだ。……本当にこの皇帝、友好的なの?


「全ての発端はアニスフィア姫だ。しかし、アニスフィア姫の前評判ははっきり言って最悪だった。それでも先代国王、オルファンス先王が手放さない姫が表舞台に上がった事で劇的な変化が訪れた。ならば、その身柄を欲するというのは至極当然の摂理だとは思わないか?」

「だから、襲撃が起きたのだと? それは帝国の総意なのですか?」


 すぅ、とユフィが目を細めてルークハイム皇帝を見据えた。一気に部屋の温度が下がったような気がするけど、多分隣に座っているユフィのせいだ。

 気配ではなくて、実際に冷気を放っているのかもしれないユフィに帝国側のお付きの貴族が顔色を変え始めた。


「恥を晒すようなものだが、我が帝国は先代皇帝の国土拡大の為の思想によって戦功が何よりも重視されていた。今でもその風潮は強く根付き、武力に手が伸びるのが些か早い。此度の一件はそうして私が諫めきれなかった者達による暴走と言えよう」

「……それで?」

「まぁ、そう結論を急くものではないぞ若き女王よ。アーイレン帝国から見て、パレッティア王国の情勢の変化は見過ごせないもの。正攻法でもアニスフィア姫を離したがらない、次点の望みである魔道具の流通を交渉しようにも拒否の一点張り。確かに非はこちらにあるが、そもそもの原因を除かねば同じ事は繰り返される。違うか?」

「……魔道具の流通を帝国に許していないのは、お互いの国の情勢も含め、何より技術的な観点で帝国に流通させる事が出来ないから言っているのです」


 私は思わず、皇帝の言い分に気が障って言い返してしまった。ほう、と興味深そうにルークハイム皇帝が声を出し、自らの顎を撫でた。


「つまり、技術的な問題が解消されれば帝国に魔道具を流通させる事もあり得るという事か?」

「今すぐに、というのは無理です。お互いの国勢も含め、解決しなければならない問題は多い事でしょう。……それに、今の帝国には信用が置けません」

「当然の事だろうな。だが、その頑なな心を互いに開かなければ国交は成り立たない。まずは、改めて此度の我が国の不祥事に巻き込んだ事について皇帝より詫びの言葉をアニスフィア姫に受けとって頂きたい」

「皇帝陛下!」

「非は非だ。そして、それを理由に失われた信頼があり、望むものが遠退くというのならば謝罪の言葉一つぐらい安かろう?」


 帝国貴族のお付き達が色めきたったけれども、それ以上に威圧感を発したルークハイム皇帝によって黙らされている。

 ……参ったな、この人、母上並に強そうだ。まさか、とは思ったけど武芸も嗜む皇帝だったか。けれど魔法の気配は感じない。あくまで武人だ、ただの武人が母上に迫る気迫を放っている。その事実が少なからず私を驚嘆させる。


「アニスフィア姫の御身に何かあれば互いの国の損失だと私も考えている。貴方が生き延びた事を喜び、またこの場にて謝罪する」

「……謝罪を受けます」

「うむ。では――このような事が二度と起きないよう、両国の関係を密にしていきたいと考えている。その案を幾つかこちらから提示させて頂きたい」

「腹案がある、と?」


 私に代わるようにユフィが問いかけた。ユフィの問いかけにルークハイム皇帝は頷いてみせる。


「まず大前提として、帝国と王国の足並みを揃えなければならないだろう。その為に今まで以上の密なる国交が必要だと私は考えている」

「……それはこちらとしても願ってもない事ですが、具体的には?」

「まずは……ユフィリア女王陛下には未だ、王配が不在だと聞いている」

「……は?」


 思わず低い声が出てしまった。視線が私に集中し、そこで私は自分が威圧する為の声を出してしまった事に気付いた。


「……失礼しました。続きをどうぞ」

「うむ。そこで私の子を王配として迎える、というのはどうだろうと問うつもりだったのだがな……」

「私は女王として即位しましたが、些か特殊な例となります。故に王配も含め、この問題は王国でも慎重に取り扱っております。仮に私が王配を迎えるとして、それは恐らく国内からとなる事でしょう。私自身が婿を取るつもりは一切ございません」

「その返答は予想していた。あくまでこちら側の理想の一つ、という事だったからな」


 ……ゴリ押しをしてくるような事はない、と。そこで私は尖りそうだった気を落ち着かせる事が出来た。


「次に……アニスフィア姫」

「えっ、私?」

「ファルガーナからの婚約の打診も袖にされていると聞いている。貴方の恋愛観に関してもな、ファルガーナや王子がダメならば、王女を輿入れするのはどうだろうか? 見合いの場所はこちらで見繕うが……」

「いえ、それは、ちょっと……」

「ユフィリア女王陛下が特殊な例である為、断られるのは予想していた。しかし、それならばアニスフィア姫ならば自由が利くと思っての提案なのだが?」


 うっ。確かにそう言われると、ユフィよりは自由が利く身だけどさぁ……。


「……私は自分の価値観が特殊なのは自覚しております。立場もありますからね。だからこそ、そのような身でおいそれと他国の姫を預かる訳には参りません」

「これもダメか。成る程、手厳しいな……では、廃嫡されたとは言え、アルガルド王子ならどうだ? 彼を我が帝国に輿入れさせるというのは?」


 えっ、ここでアルくん!? 私とユフィについてはあっさりと諦めたけれど、まさかのアルくんまで矛先が向けられるの!?

 不意打ちのようにアルくんの名前に息を飲んでしまった私だけど、ユフィは淡々と冷静に返答する。


「……それもまた難しいですね。これはまだ国内の機密に関わる事故、事情を説明する事が出来ませんが、アルガルドを国外に出させるつもりはありません」

「ふむ……これもダメか。しかし、それでは余程、王国側が帝国との関係を密にしたくないと言われているようにも思えてしまうな? 私はどのように王国の真意を測れば良いのだろう? ユフィリア女王よ」


 ルークハイム皇帝の威圧感が静かに、けれど確かにこの場を支配せんと高まっていく。


「そこまで手を返されるというのならば……パレッティア王国は自国の戦力増強が狙いであり、その増強が整った暁には帝国に攻め入るかもしれない。そう考えてしまう不安を一体、どのように晴らしてくれるというのだろうか? その恐怖に怯えるぐらいならば、我等は勇ましく武を以てして唱える事を選択してしまうやもしれん。一体何を以て王国は帝国に保証してくれるというのだ?」


 その双眸に燃えるような光を灯しながら、ルークハイム皇帝が私達を見据える。

 沈黙が一瞬、場を包んでいく。その沈黙を切り裂いたのは他ならぬユフィだった。


「――お答えしましょう。私達、王国が帝国に信頼の為に提供出来るものは……〝夢〟と〝未来〟です」

「……何?」

「現在、我が国ではアニスの提唱した魔学、そして魔学の思想で開発された魔道具の研究の為の魔学都市を建設しております。いずれ、多くの魔道具の生産拠点となり、魔学を国民に啓蒙していく重要な拠点となるでしょう。そこには貴族・平民も問わずに学ぶ事が出来る学院も設立予定です。――ここに、帝国からの希望者の枠を設けようかと考えております」

「ほぅ……?」


 威圧感がゆっくりと消えていき、代わりに興味深いと言わんばかりにルークハイム皇帝がユフィを見つめた。


「魔道具を輸出する事が出来ないのは、魔道具生産の技術がまだ生み出されて間もなく、未熟だからです。安定した基盤を生み出し、安全性を確保する事。それが我等の間でも共通の認識となっています。その為には多くの民が学び、理解を深めなくてはなりません」

「そこに帝国の民を受け入れる枠を用意すると?」

「無論、無条件で受け入れる訳にはいきません。王国が抱いてる懸念として、魔道具そのものを帝国に流出すればその刃が向けられないとも限らないと考えてしまいます。故に輸出は認可出来ません。ですが、今まで通り精霊石の取引と、そして技術提供を行う事は出来ます」

「それで学院か!」

「はい。我が国で技術を学び、その技術を帝国で振るう。その教えが帝国で広まるならば、それも良いでしょう。帝国が独自で魔道具を開発する事も、それもまた良いでしょう。勿論、技術を外に持ち出す際には教えられる技術の制限などあるとは思いますが、これが王国側で出せる譲歩です」

「つまり、今までの貴族学院の留学生の枠とは別に、魔学都市で魔学、そして魔道具を開発する為の技術を教える事は構わないと? ……成る程」


 これは事前にユフィや、父上達も含めた国の重鎮と会議して決めていた事だった。

 まず第一に、帝国とは戦争なんてしたくはない。けれど、今まであったような婚姻などで関係を密にするには私達の状況は少しばかり特殊過ぎる為、前例のような効果が見込めない事。何より私達当人が乗り気どころか、提案ごと蹴りたいと思っていた事。

 それを踏まえて、私達が提供出来るのは〝技術〟だった。マナ・ブレイドなどの武器の輸出を許可してしまえば、それを手にした帝国が数に物を言わせて攻め込んで来る可能性があるから許可は出来ない。

 だったら、提供するなら魔学の教えと技術だ。あくまでパレッティア王国で学び、その技術を持ち帰って貰う。後はパレッティア王国から買い上げた精霊石などで、帝国で生産出来る分だけを生産して貰う。

 それなら直接、物を売ってしまうよりも良いと考えた。帝国でも精霊石はこちらの平民と同じように使われている。その精霊石を軍備の為に取り上げれば、民の反発も免れないだろうと予想を立てた。

 だから急に武器が揃えられ、いきなり開戦になるという事はないという考えだ。ルークハイム皇帝が、後の世はともかく自分の代ではパレッティア王国と事を構えるつもりはないという言葉を信じるなら、私達が期待するのは未来にだった。


「――面白い、面白いぞ! 成る程、それは愉快な話ではないか!」


 喜悦に満ちた笑みを浮かべて、ルークハイム皇帝は破顔した。まさか手を叩く程に喜びを露わにすると思っていなかった私は目を丸くしてしまう。


「これではパレッティア王国と事を構えるのは、かえって不利益になるな。そう思うだろう? お前達?」

「な……!? し、しかし! お、お待ちください、皇帝陛下!」

「私がお前達を連れてきた事で、私が開戦に舵を切ったかと思ったか? 正直、この会談次第ではそれも一興とは思ったがな。しかし、私は実りある方が好みだ。もう良い、拘束せよ」


 護衛として控えていた帝国の騎士達が、お付きの貴族達を拘束していく。貴族達は猿轡を噛まされるまでルークハイム皇帝に訴えていたけれども、黙らされてしまった。


「突然の事で困惑させてしまったな。改めてこちらの非礼を詫びよう。そして、この者達がアニスフィア姫の暗殺を企てた一味を主導した者達だ。詫びとして彼等の裁きは王国に一任しようと思うが、如何であろうか?」

「……そちらの法の下で裁いて頂けるのであれば、こちらからは強いて言う事はありません。強く厳罰を望みますが」

「承知した。アニスフィア姫は互いの国を超えた宝と言えよう。この宝が失われなかった事を私は心の底から喜びたいと思う。……連れて行け」


 ルークハイム皇帝が手を挙げると、護衛達が全員揃って拘束した貴族達を引き摺っていってしまった。えっ、護衛全員!? いいの!?


「……ぷはーっ、あー、息が詰まる……兄上。本当に勘弁してくださいよ」


 今まで黙っていたファルガーナが気が抜けたように息を吐き出して、表情を崩した。なるほど、ファルガーナは仕込み側だった訳ね……。


「気を揉ませたな、ファルガーナ。……改めてユフィリア女王、アニスフィア姫よ。我がアーイレン帝国はパレッティア王国との友好関係を深めたいと思っている。その上で先程の魅力的な提案に、一つ加えて貰いたいものがある」

「加えてもらいたいもの、ですか?」

「まず、アーイレン帝国はパレッティア王国との同盟関係の締結を希望する。パレッティア王国が技術と学びを我等に提供するならば、我が帝国はそなたらの剣となり、盾となる事で王国を守る事を誓う。如何であろうか?」

「……同盟。なるほど、王国と帝国で共に肩を並べ、歩んでいきたいという意思表明と受けとっても?」

「勿論だとも。その証としてアニスフィア姫よ」

「はい?」

「先程、魔道具は輸出する事が出来ない理由を述べてもらったが、こちらとしても納得に足る理由であった。ただ、そこに一つだけ例外を加えて貰えないだろうか」

「……例外、ですか?」


 私は思わず首を傾げてしまう。わざわざ私に求める、例外……?



「――〝ドラゴンキラー〟。その異名を讃える一助となった〝魔剣〟。これを友好国となった証明として我が皇族に授けて欲しいのだ」

  

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