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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第2章:狙われた王姉殿下
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第15話:黒装束の襲撃者

「こうなったら特訓しかねぇ! 行くぞ、シャルネ!」

「はい! ガーク様!」


 元気良く部屋を飛び出していったガッくんとシャルネを見送って、私は思わず苦笑する。今日は彼等の当番ではないし、プリシラとナヴルがいれば十分か。そのナヴルだって、今日は休みではあるけど。


「王姉殿下、お代わりは如何ですか?」

「うん、お願い」


 問いかけてきたプリシラに、私は空になっていたカップを差し出す。私からカップを受けとりつつ、不意にプリシラが問いかけてきた。


「……興味深いお話でしたが、私からも一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「王姉殿下は身体強化を魔法ではない、と言いましたよね? それはつまり……身体強化に限定すれば平民も使用する事が出来るのですか?」


 慌ただしく去っていったガッくん達に難しい顔をしていたナヴルも、プリシラの問いかけにハッとしたように顔を上げてから私を見つめる。

 プリシラは普段は細めている目をうっすらと開いて私を見つめていた。プリシラに視線を返しながら、私はそっと息を吐く。


「出来なくはないよ。勿論、今すぐには無理だろうし、自力で身体強化に辿り着く人は稀だと思うけど」

「可能性そのものは否定されないんですね」

「まぁ、ね」


 身体強化は厳密に言えば魔法ではなく、魔力を身体に巡らせる事で魂の中に宿る精霊に働きかけて得られる副次効果によるものだ。

 その技術は魔法の前段階の技術なので、確かに魔法と誤認されていても仕方ないけれど。今の学説的に言う、魔法は外部の精霊が姿を変える事で成る、という定義からは外れたものになっている。


「平民が魔法を使えないのは精霊契約の名残がないから。つまり血統によって受け継がれた鍵がないんだよ」

「鍵ですか?」

「なかなか良い表現が見つからなくてね。鍵っていうのが一番近いかな」


 前世的に言えば〝スイッチ〟がない、が正しいんだけど。平民には魔法を扱う為に必要な精霊の活性化の為の流路、つまりオンとオフを切り替えるものがない。

 スイッチというものがこの世界にはないから、鍵という表現を使った方が感覚的には近い。つまり自分自身の片割れである精霊とコンタクトを取る手段がないから、平民には魔法を使えないという事になる。


「その鍵さえあれば、平民は魔法を使えるようになるのですか?」

「なるけど、そもそも鍵を作るって言う事そのものが難しい。それは精霊契約を成し遂げるって事だからね。確かに精霊契約は平民にも出来る。眠ってる才能が豊かであれば、新しい精霊契約者として名を連ねる事も不可能じゃない。だけど、それはよっぽどの天運と才能に恵まれた一握りだけだよ」

「……血統によって受け継いだ奇跡はかくも偉大という事ですね」

「そうだね。現状では、と頭にはつくけど」


 魔学によって精霊契約の全容や、精霊契約者が何者なのかは解明されつつある。契約に至る手段もユフィによって記録が取れた前例となり、私達の理解は更に深まった。


「未来はわからない。これから魔道具の普及で平民と貴族の距離が近づくかもしれない。いつか魔法の鍵を持たない人間はいなくなるのかもしれない。でも、もしかしたら鍵を受け継ぐ事が出来なくて、魔法を使える人がいなくなって衰退するかもしれない。或いは、魔道具で鍵に代わるものが発明されて、鍵を持たなくても魔法が自在に使える日が来るかもしれない」


 私にも未来を見通す事は出来ない。精霊契約に至る道も、魔学によって文明が発達する道も、またそれ以外の道も等しく私達の前に開かれている。いつかの日、ユフィが語ってくれたように、誰もが道を選べる未来を私達は拓きつつある。

 魔法の深奥に迫る道も、魔学で探究に進む道も。どの未来も可能性に満ち溢れている。何を選ぶのかはその人次第だけど、想像すれば今よりも明るい。何か一つに固執するのではなく、皆で選びたい道を選べる時代。


「私達はそんな時代の先駆けになってる。それが嬉しいよ」

「素晴らしい考えかと思います」


 プリシラは目を細めて、感心したと言うようにそっと言葉を呟く。


「パレッティア王国の繁栄は約束されたも同然ですね」

「それは、どうかな? 改革が上手く行けば良いんだけど」

「……御身は今、大事な時期を迎えています。どうか大事にしてくださいませ」

「うん? まぁ、気をつけるけど」


 なんか妙に引っかかるような物言いに私はプリシラの顔を見つめてしまう。彼女が何を考えているかは、やっぱり読む事は出来なかった。



 * * *  



 そして、日は過ぎて王都に帰還する日となった。

 皆、もう手慣れたようにエアバイクに乗って王都への道を進んでいた。シャルネだけはまだ幼いので、安全の為にプリシラと同乗して貰ってるけど。


(一段落してきて、落ち着いて帰れるようになったのはありがたいね)


 早く離宮に戻ってユフィに会いたい。魔学都市の仕事が嫌な訳じゃないけど、ユフィが傍にいないのはやっぱり寂しい。

 急かす気持ちを宥めつつ、道を進んでいた時だった。――私は、空気の変化を察知して唇を引き結んだ。

 この辺りは穏やかな平原地帯だ。人の手も入れられ、街道も整備されている。普段はこんな空気を感じる事はない。何か嫌な予感がする……!


「王姉殿下!」


 私の嫌な予感に合わせて、鋭い声で指摘をしてきたのはナヴルだった。ナヴルの指摘の声と同時に感じたのは、魔法の気配だった。

 次の瞬間、私達の進路の先に何かが放り込まれ、光を伴って爆発した。吹き荒れた風にエアバイクの制御を狂わせられそうになった私達はすぐさまエアバイクを停止させた。

 同時に姿を見せたのは黒装束で顔を隠した数十人の集団だった。その手には武器が握られ、私達に向けられている。


「――アニスフィア・ウィン・パレッティアを捕らえろ!」


 リーダー格と思わしき男が吼える。同時に統率された動きで私達を取り囲む黒装束達。ナヴルとガッくんは剣を抜き、シャルネもマナ・ブレイドを抜いて構えた。

 というか、今、私が名指しで呼ばれたよね。しかも捕らえろ?  私もセレスティアルを抜きながら、問いを投げかける。


「貴方達は何者かしら? 私が狙いみたいだけど?」

「……他の者は、捕縛が難しいなら――殺しても構わん!」


 私の問いには答えず、黒装束の集団が私達に襲いかかってくる。

 彼等に向かってまず真っ先に前に出たのはナヴルだ。ナヴルはその全身に風を纏い、疾風のごとき速さで先頭集団の出鼻を挫く。そのまま流れるようにして乱戦に持ち込み、黒装束を牽制している。

 ナヴルの魔法と剣技を合わせたようなスタイルは、どこか母上を思い出すけれども母上のように苛烈ではない。むしろ敵の注意を引きつけ、先に進ませまいとする守りの戦い方だ。


「〝ライトニングアロー〟ッ!」


 ナヴルに翻弄された黒装束の集団の動きを見て、的確に魔法を打ち込んだのはシャルネだ。元々、狩りが得意と言っていたけれども狙いが正確だ。矢のように放たれた雷が黒装束を打ち抜き、大地に転がす。

 しかし、ナヴルとシャルネでは到底止めきれない数がいる。ナヴルとシャルネの手を掻い潜って黒装束が私へと迫ろうとしてくる。その間に立ち塞がったのはガッくんだった。


「――させねぇよ」


 まるで大地を揺らすのではないかという強い踏み込みの後、ガッくんは低く態勢を沈ませながら黒装束の男に流れるように肩当てを叩き込む。

 肩当てで吹き飛ばした黒装束を別の黒装束へとぶつけ、態勢を崩す。そのまま剣だけでなく、手で相手の腕を掴んで投げ飛ばすわ、足で相手の武器を地に縫い止めたりと惚れ惚れする動きを見せている。


「近衛をなめんじゃねぇ!」


 大暴れするガッくん、翻弄し続けるナヴル、的確に雷の矢で敵を射貫くシャルネ。

 ……おや? これ、私の出番がないのでは? そう思っていると、仲間を囮にして私を狙えと言ったと思わしき黒装束が私に向かって来た。

 振り下ろされた剣をセレスティアルで受け止める。黒装束で顔まで隠された顔は至近距離でも目元しか見えない。


「何が目的で私を襲ったの? この罪、決して軽くないわよ?」

「――……さえ、……れば」

「……ん?」

「――貴様さえ、いなければッ!!」


 滲み出る怒りの声。剣を握る手とは逆の手が私に向けれられる。そこに精霊石が握られているのが見えた。その精霊石が発動の予兆である光を放った瞬間、私はその場から勢い良く飛び後退った。

 瞬間、吹き荒れるのは炎だ。私を焼こうと迫る炎をセレスティアルで切り払うと、炎を突き破るようにして黒装束の男が迫ってくる。


「やはりもっと早く手を打つべきだったのだ……! 手遅れになる前に! 貴様には今、この世から消えて頂く!!」

「なんでそこまで恨みを買ってるのか、私にはわからないね……!」


 振るわれた剣を弾き返しながら私は男を睨み付ける。ふと、彼の精霊石の使い方が気になった。さっきの使い方は〝旧式〟の使い方だ。それこそ私が実験を繰り返していた頃に使っていたような、そんな違和感を覚える。

 魔法を使ってくる気配もないし、まさか平民? でも、それなら尚更わからない。私が平民に恨まれるような事をした? 自慢ではないけど、魔道具の普及で私の地位と名声は不動のものとなりつつある現実を私は知っている。だから、どうにもこの襲撃の発端が読めない。


(情報は欲しいから生け捕りにしたいんだけど……)


 そう思いながら警戒していると、また男が懐に手を入れたのを見て目を細める。どうにも、まだ精霊石は持ってそうだね。純粋な魔法に比べれば大した脅威ではないんだけど。


「無駄遣いを見せられるのも気分が良いものじゃない……!」


 精霊石は消耗品だ。そして精霊石の需要が高まる中、その価値は上がり続ける一方だ。だから、こんな襲撃で精霊石が消費されていくのは我慢がならない!


「貴方達が何の恨みがあって私を捕らえたり、殺そうとするのかはわからないけど! 私の目の前で精霊石を粗末に扱う奴は例え精霊が許そうとも、この私が許さない!」

「ぬぅっ!?」


 出し惜しみなんかしてやらない。セレスティアルの魔力刃を形成し、私は黒装束の男へと斬りかかる。黒装束の男はセレスティアルを受け止めようとするけれど、剣を合わせた瞬間に男の身体が沈む。


「なん……だと! 何なのだ、この馬鹿力は……! これが、これが……!」

「――命までは取らない! 沈みなさいッ!」

「ッ、お、の、れぇ! おのれ、ドラゴン殺しぃぃいい!!」


 忌まわしい、と言わんばかりに叫んだのは私の異名の一つだ。やっぱり明確に私を狙っての犯行か。

 私は身体強化に物を言わせて相手の防御ごと、セレスティアルで相手を斬り裂く。斬り裂くといっても、魔力刃は刃が立たないようにしてあるから実質殴ったようなものだけど。

 衝撃と共に地に叩き伏せた黒装束の男、その意識が落ちたのを確認して私はそのまま跳躍した。ナヴルが未だに乱戦の中で踊るように牽制している中に私も飛び込む。


「王姉殿下!?」

「合わせるから止まらないで!」

「ッ、あぁもう!」


 一瞬、目を見開かせたナヴルだったけど、すぐに一喝するように指示を飛ばす。ナヴルが私の指示を受けて止めかけた動きを再開させる。そのナヴルに合わせて私も黒装束の男達に向かっていく。

 ナヴルが足を止めた黒装束に向かって剣で叩き伏せ、殴って沈めて、時には蹴り飛ばす。そこまでやって私は確信した事があったけど、口には出さずに鎮圧に集中する。

 それからはあっという間だった。黒装束の襲撃者達は全員沈められ、私が倒した者達のほとんどは息が残っているけれど、ナヴル達が相手にしていた襲撃者達は事切れているか、もう立てない程の重傷を負わされている。

 収束の気配を感じて一息吐いていると、目を吊り上げたナヴルが私の肩を掴んだ。その形相に思わず一歩下がりそうになってしまう。


「王姉殿下! あまり無茶をなさらないでください!」

「え、あ、ぅ、その……お、お小言は後! まずは生存者を縛り上げよう、あと精霊石を所持してる可能性が高いから身ぐるみは剥いでね。隠し持ってるものがあれば不味いから」

「それは私とガークがやりますから! 王姉殿下はシャルネとプリシラと一緒にお下がりください!」


 そんな仕事までさせてたまるか、という強い意志を感じるナヴルの勢いに押されて、私は何度も頷いて逃げるようにシャルネの下へとやってきた。

 シャルネはどこか緊張した様子で息を吐いていたけれど、その隣に立つプリシラは平然とした様子だった。


「プリシラ、無事?」

「えぇ、シャルネが牽制してくれましたので」

「そっか、良かった。シャルネもありがとう、助かったよ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 私が労いの言葉をかけると、そこでようやくシャルネも緊張が解けたのかそっと息を吐いていた。

 そんなシャルネの様子を見つつ、彼女の手が震えているのに気付いてしまった。……よくよく考えれば、まだシャルネは子供だ。幾ら領地の経営が厳しいからって、貴族の子として育てられたシャルネがこんな戦場に身を置いた事なんてない筈。


「……プリシラ、お願いがあるんだけど」

「はい、何でしょうか?」

「一足先に王都に向かってくれないかな? 護衛にはシャルネをつけるから。こいつらを運ぶのにしても、エアバイクもあるから難しいでしょ? だから人手を呼んで来て欲しい」

「畏まりました。シャルネ、お願い出来ますか?」

「わ、わかりました!」


 プリシラに促されて、シャルネは放り出されていたエアバイクの下へと向かって行った。

 その背を見送りながら、私はナヴルとガッくんによって縛り上げられている襲撃者達を見て、そっと息を吐く。


「……面倒な事にならなきゃいいんだけど」

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