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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第1章:王姉殿下と魔学都市
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第3話:護衛と侍女の選定

「失礼します。ナヴル・スプラウト、入ります」


 ガッくんがナヴルくんを呼びに行って少しした後、久しぶりに聞くナヴルくんの声で意識が扉に向いた。

 扉を開いて執務室にナヴルくんが入ってきたけれど、私は思わず目を見張ってしまった。ナヴルくんの髪が驚く程に短くなっていたからだ。前は美形の好青年といった印象だったのが、前世で言うスポーツ刈りのせいで一変してしまっている。

 ナヴルくんは私を見ると目礼をして、直立不動で立ち尽くした。その後ろからガッくんが戻ってきて、二人が並ぶ。


「よく来た、ナヴル。楽にして良い。ガークから呼び出された内容は聞いているか?」

「はいっ! この度はアニスフィア王姉殿下の新造都市計画の護衛任務に推薦を受けたとお聞きしました! 未だ未熟な身なれど、王姉殿下が望むのであれば粉骨砕身の覚悟で役目を果たす所存でございます!」


 う、うん。……見ない間に好青年から熱血漢にでも変わった? 前より筋肉も付いて、貫禄が増したような気がするし。一体何があったんだろ……?


「王姉殿下、如何でしょうか?」

「如何ですかも何も……その、ナヴルくん。随分と印象が変わったね?」

「ご無沙汰しております! あれから我が身の未熟を恥じ、鍛え直した次第でございます!」


 楽にして良いって言うのにキビキビとした返事をされて、ちょっと困った顔を浮かべてしまう。緊張してるのはわかるんだけど、もうちょっとこう、楽にして欲しいな……。

 気を取り直して咳払いをする。ナヴルくんが私相手に緊張するのは仕方ない事だし。


「話はガッくんから聞いての通りだけど、私の護衛を引き受ける気はある?」

「それがご命令であれば従います」

「じゃあ、命令じゃなくて拒否権があるお願いだったら?」


 私の問いかけにナヴルくんが一瞬黙り込んで、スプラウト騎士団長へと視線を向ける。ナヴルくんから視線を向けられたスプラウト騎士団長は静かに無言で頷くだけだった。

 ナヴルくんが一度、目を閉じてゆっくりと息を吐き出す。強張っていたのか、随分と体の力が抜けて自然体になる。


「アニスフィア王姉殿下、恐らく私の心境に配慮してそのように仰って頂けているのかと思います。まずお心遣いに感謝致します。その上で答えを返すのであれば、機会を頂けるならば是非とも私を護衛として任命して頂ければと思っております」

「……それでいいんだね?」

「我が忠誠はパレッティア王国に、そして王家に誓っております」


 握った拳を胸に当てて言うナヴルくんの表情は真剣そのものだ。ここまでしてくれたんだから信じるべきだと思えた。


「わかった。ナヴル・スプラウト、貴方を新造都市の責任者として赴く私の護衛に任命します。その忠誠、確かに私が預かりました。良き働きを期待します」

「我が身に代えましても」


 私の任命にナヴルくんが騎士の礼で返す。まだナヴルくんを信じ切った訳じゃないけど、確かに新天地で心機一転出来れば、このどこか固いナヴルくんとも会話する機会があるかもしれない。

 その時にユフィとかレイニに今はどう思ってるのとか聞けば良いかな。何はともあれ、これで護衛はガッくんとナヴルくんで決定だ。

 すると、恨めしい目でどんよりと暗い雰囲気を纏ったガッくんに睨まれていた。ぎりぎりと歯ぎしりまでしている。ちょっと怖い。


「……俺の時と扱いが違う……恨めしい……恨めしや……」


 君も面倒な奴だね、ガッくん! だって、改めてガッくんに礼儀正しく接するのが気恥ずかしいんだよ! 冒険者時代の素の自分を見せすぎたから!

 ギョッとしてナヴルくんが私とガッくんを見比べているけれど、私は恨めしい視線を向けるガッくんから逃れるように視線を逸らし続けた。

 スプラウト騎士団長が遂には頬杖を突きながら、大丈夫なのだろうか、みたいな顔で私を見てたのが酷く印象に残った。



 * * * 



 ガッくんの恨めしい視線から逃げるようにして離宮に帰って来れば、イリアが出迎えてくれた。そのまま体を休める為にサロンへと向かって、ふかふかのソファーにぐったりともたれ掛かった。

 私が疲れていると察してくれたのか、イリアがお茶を用意して戻ってきた。だけど私がだらしない格好でソファーに座っているのを見れば、すっと目を細めた。


「アニスフィア様、だらしないですよ」

「だって疲れたんだもの……はぁ、引き継ぎも護衛を選ぶのもなんですんなり行かないかなぁ……」

「それだけ大きな事を成し遂げてきた証なのではないですか?」

「そうかなぁ……」


 ガッくんとナヴルくんに関しては私がやってきた事とはそう関係ないんじゃないかな。ちょっと二人には過去に説教した事があるぐらいだし。そう思えば護衛に選ばれた二人の妙な共通点に気付いてしまう。

 魔学省は単純に私がいなくなると影響力が私が思ってたよりも大きかったからだ。こればかりは私が自分で動く事になったから、いつまでも彼等の面倒を見てあげる事は出来ない。


「お疲れかと思いますが、アニスフィア様。今回、同行させる専属侍女を私から二名選出しました」

「あ、決まったんだ。二人なんだね」

「アニスフィア様は大人数は好まないかと思いましたので、交代の必要性など鑑みて二名としました」

「うん、助かるよ。顔合わせはいつすれば良い?」

「よろしければ今からお呼びしますが」

「今、離宮にいるの? それなら会おうかな」

「畏まりました」


 イリアが一礼をしてサロンを出て行く。さて、どんな人達が選ばれたのかな? そんな想像を膨らませながらイリアが淹れてくれたお茶に口をつける。

 暫くして、イリアが二人の侍女を連れて戻ってきた。一人は私と同年代ぐらいの少女だ。髪色は群青色で、編み込んだ髪を後ろで纏めている。その立ち振る舞いはとても自然体で、細めた目のせいか常に笑みを浮かべているように見える。

 もう一人はまだ幼い少女だ、大凡見積もっても十二歳ぐらい。隣に立つ群青色の髪の少女に比べればガチガチに緊張していて、動作がぎこちない。髪色は淡く金色がかった朱色で、瞳はアメジストのように綺麗な紫だ。その瞳も緊張のせいか、僅かに涙に潤んでいる。


「お待たせしました、アニスフィア様。新たにアニスフィア様の専属となる侍女をご紹介します。プリシラ、シャルネ、ご挨拶を」


 イリアが自己紹介を促せば、緊張気味の幼い少女を気遣ってか自然体にしている群青色の髪の少女、プリシラが一歩前に出て一礼をする。

 よく見れば、プリシラが離宮に出入りしている侍女の一人だった事にようやく気付いた。彼女は微笑を浮かべたまま私に向き直る。


「王姉殿下とこうしてお話させて頂くのは初めてになりますね。プリシラ・ソーサラーと申します。かつて旧魔法省に勤めていたソーサラー伯爵の娘となります」

「旧魔法省の……?」


 プリシラの自己紹介に私は訝しげな表情を浮かべてしまった。今は和解が進んでいたとはいえ、魔法省の名前をわざわざ出してくる事に眉を顰めてしまった。

 そんな私の反応にプリシラは笑みを崩す事はなく、細めた目で私を見つめている。


「はい。父は今では精霊省の相談役に収まっており、後釜として兄が精霊省で尽力しております。ヴォルテール伯爵様とも懇意にさせて頂いております」

「ヴォルテール伯爵……あぁ、ラングか」


 ラングは私の生誕祭の少しした後に正式に家督を継いで若き伯爵となった。ほぼ同時期にアンティ伯爵家を継いだマリオンと揃えて噂されている。

 ラングと懇意にしてるって事は私への心証もそう悪くないのかな? どうにも考えが読めない相手で、なんだかミゲルを思い出してしまった。


「元魔法省って聞くと私への印象を心配してしまうんだけど、そこはどうなの?」

「はい。それにつきましてはまず最初から私の本心を打ち明けておこうかと思いまして」

「本心?」

「私、将来の夢はユフィリア女王陛下の愛人志望なのです」


 …………ん? んん? こいつは何を言った?


「……はい?」

「ユフィリア女王陛下の愛人志望です。よろしくお願いします」

「その紹介のどこによろしくする要素が!? いやいや、ちょっとイリア! どういう規準でこの子を選んだの!?」

「侍女としては仕事が出来ます。伯爵令嬢だけあって教養も十分ですし、アニスフィア様が苦手とする社交の補佐が出来る望ましい人材でした。難があるとすれば、見ての通りでございます」

「見ての通りじゃないよ!? えっ、よくこの離宮に入り込めたね!?」

「頑張りました」


 良い笑顔で言い切ったわよ、こいつ。てへ、って小さく言っても可愛くないからね?


「愛人は言葉の綾です、失礼しました。私はユフィリア女王陛下を崇拝しており、あわよくば足下に傅きたいと思っているだけですので。もっと言えば足蹴にされて、あの冷ややかな目で見下されたい……」

「ごめん。色々と思考の処理が追いつかないんだけど、それでなんで私の侍女に?」

「なまじ優秀なせいで、ユフィリア様から引き離すにはアニスフィア様に押し付けるのが一番楽だと……」

「ただの厄介払いじゃない!?」


 イリアに抗議してみるけど、イリアはどこ吹く風だ。


「勿論、アニスフィア王姉殿下にも心よりお仕えしたいと思っております。貴方様はユフィリア女王陛下に何よりお心を砕かれている方ですからね。ユフィリア女王陛下の大事な方であれば、この命をかけて御身をお守りすると誓います」

「忠誠の向き方が斜め上なんだけど……」

「お二人の邪魔をする気はございませんので。どうぞ、下僕のように扱って頂ければそれで満足です」


 濃い。このプリシラって子、とにかくキャラが濃い。ちょっとげんなりしてきた。


「……本当に優秀なのは事実ですので。性格と言動に目を瞑ればよく働きます」

「優秀だからって、この濃いのを預かるの私なんだけど?」

「では、ユフィリア様の傍に置きますか? アニスフィア様が連れていかなければ、恐らくレイニに次いでユフィリア様のお側に置かれる可能性が高いですよ? ユフィリア様の前では猫を被ってますので」

「にゃん」


 …………ここに置いていけない奴だと言うのはよくわかった。


「……わかったよ。優秀だって言うなら働かせるからね? 変な気を起こすんじゃないわよ?」

「勿論です。私の働きがユフィリア女王陛下の栄華に繋がるのであれば、どのような役目でもこなしましょう」

「本性は伏せておいて欲しかったわ……」

「アニスフィア王姉殿下に打ち明けたのは、後でバレた時の方が揉めそうだと思ったからです。常に擬態しているのも疲れますから」


 ふぅ、と溜息をついて頬に手を添えるプリシラに深々と溜息が零れた。イリアがその上で推して来たって事は使える人材なのは間違いないし。

 ……別にユフィが愛人とか作る訳ないって思ってるし。でも、それとこれは別。この変態をユフィの傍に置いておけない。後で色々と個人的に問い詰めないと。


「それでは私は下がらせて頂きます。これからよろしくお願い致します、王姉殿下」

「あぁ、うん……えっと、じゃあそっちの子も自己紹介してくれる?」

「は、はい! お、お初にお目にかかります、アニスフィア王姉殿下! シャルネ・パーシモンと申します! パーシモン子爵家の娘です!」


 不貞不貞しいまでに自然体だったプリシラとは打って変わって、シャルネの初々しい挨拶に頬が綻びそうになる。癒しかな?

 しかし、パーシモン子爵家? あまり耳にした事がない家名だ。


「パーシモン子爵家……ごめん、聞いた事がない名前だ」

「はい、それは仕方ないかと。私の実家は辺境の領土で、最近まで没落寸前だったのです。王都の社交会への参加もままならず、お父様も爵位返上を考えていた所でして……」


 思ったよりも崖っぷちだった。自分の実家の事を語るシャルネはちょっと影がかかっていた。悪い事を聞いちゃったな……。


「で、でも! アニスフィア王姉殿下のお陰で我が家は持ち直す事が出来たんです! お会い出来たら、是非ともそのお礼をお伝えしたくて私、王城務めの侍女になったんです!」

「え?」

「アニスフィア王姉殿下が発明してくれた魔道具のお陰で、領地の問題も家族の問題も一気に解決したんです。アニスフィア王姉殿下はパーシモン子爵家にとって救世主なんです!」


 シャルネが興奮したように目をキラキラさせて私を見つめる。無垢な好意に押されて、ちょっと仰け反ってしまう。魔道具のお陰で没落を免れた? あと、家族の問題?

 私の疑問を察したのか、興奮してしまった事に恥じたのか、少し照れくさそうにしながらも落ち着いたシャルネが事情を話してくれた。


「パーシモン子爵家はここ近年、領内の魔物の大量発生に悩まされていまして……そこに駄目押しの天災で作物に被害を受けてしまって、多額な借金をしていたんです。それでお金が無くなって領主を続けられそうにないと父も考えていたんです。でもアニスフィア王姉殿下が魔道具を広めてくれた事で精霊石の需要が高まって、支援を申し出てくれる家が増えたんです」

「支援?」

「領内に精霊石を産出する開拓地を抱えていまして、まだまだ未開拓だったんです。その開拓地を目当てに縁を繋ごうとしてくれた上位貴族様が支援を申し入れてくれて。あとマナ・ブレイドの普及で最前線の騎士や冒険者達の装備の消耗率が下がって、復興の兆しを見せた所なんです。その他の魔道具も最前線の方々に喜んで貰いまして、活気が戻ってきたんです」


 あぁ、武器だって消耗品だからね。その点、マナ・ブレイドは使い方さえ間違えなければ確かに消耗率を抑える事が出来る。そんな効果もあったんだなぁ、マナ・ブレイド。


「後、弟がいるんですが……魔力量が非常に低い子だったんです。ですから当主の立場を継いでも苦しい思いをさせると、父が爵位を諦めようとした理由の一つだったんです。そこに魔学が広まった事で、弟が勉学の方面で才能を発揮し始めまして」


 へぇ。なんかちょっと他人の話だとは思えないな、その弟くんのお話。

 貴族だからって必ず魔力に恵まれる訳じゃない。そしてちょっと前までなら魔力が低いって言うのは貴族にとって不利でしかなかった。

 けれど、今は私が広めた魔学がある。弟くんが勉学の方面、それも魔学に関する分野で才覚を見せてくれるなら将来の魔学省の人材として期待出来る。


「貴族学院も通うのも危ぶまれたのですが、私が学院に通わずに王城へお勤めに上がれば弟に学費が回せます。私もアニスフィア王姉殿下にお仕えしたいと思っていましたので、学院に行く道はすっぱり諦めたんです」


 貴族学院に通うのは当然の如く、お金がかかる。普通の貴族だったら通わせるけど、貧乏貴族で学費が払えない貴族の子供達は奉公に出て、自らお金を稼ぐ。

 その稼いだお金で家庭教師を雇ったりする事で学びを得ている子達は知っていたけど、貴族学院に通うというのは一つのステータスだ。それを得られないハンデはとても大きい。

 イリアみたいに後妻や愛人といった玉の輿狙いで貴族学院に通わなかった例もあるけど、イリアは特殊な例に入るから参考にならないだろう。


「成る程ね。シャルネの事情はわかったよ、それでイリアの目に適ったって事なのかな?」

「はい。シャルネは自らの身の回りの事も出来ますし、アニスフィア様の冒険者じみた調査などにも同行出来そうだと判断しました。なので半ば護衛と兼任という形になるでしょう。教育はこちらで施せば良いですし、アニスフィア様への忠誠心も高く、今後に期待出来るので彼女を選びました」

「はい! 魔物討伐の必要がありましたので私も領主の娘として最前線で戦っていました! 冒険者達の作法にも理解があります!」


 成る程、話を聞けば聞く程、シャルネは純粋に私好みの人材だってのがわかる。私のお陰で家の没落が免れたって事で私への忠誠心も高いし、イリアが選んだのもよくわかる。

 ちょっと性格や願望に難があるけれど侍女としては有能とされるプリシラと、私の行動に付き合えそうでかつ忠誠心が高いと見込めるシャルネ。うん、専属侍女として連れて歩くのには悪くないのかな?


「イリア、選抜ご苦労様。この二人を連れて行く事にするよ」

「畏まりました」

「プリシラ、シャルネ。特に前者には言いたい事はあるけど、よろしくね?」

「はい、王姉殿下」

「よ、よろしくお願いします!」


 優雅な一礼をするプリシラと、まだ動作が固くてプルプルとしているシャルネの一礼を見て私は苦笑を浮かべてしまう。

 護衛のガッくんやナヴルくんと合わせてみると、また随分と濃い面子が揃ったなんて。どうしてもそう思ってしまうのだった。

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