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転生王女と天才令嬢の魔法革命【Web版】  作者: 鴉ぴえろ
第2部 第1章:王姉殿下と魔学都市
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第1話:新たな兆し

今回の投稿から前々から考えていた第二部を連載しようと思います。ここまでお付き合い頂いた皆様にまず感謝を。

後日談・外伝を含めてから少しだけの先の未来。アニスフィアの新しい物語が始まります。

良ければ、またお付き合いを頂ければ嬉しく思います。

 馬車が街道を進んで行く。馬車に揺られながら私は窓から外を見つめていた。

 窓から見える景色はゆっくりと流れていく。代わり映えのない景色を見つめてどれだけ経過しただろう。気を抜いた所で思わず欠伸が出てしまう。


「王姉殿下、間もなく到着致しますよ」

「あ、もうすぐか。馬車の移動だとやっぱり時間がかかるね」


 馬車の中で一緒に同乗していた侍女に相槌を返して、私はずっと座って固まっていた体を解す。馬車の移動はどうしても時間がかかってしまうのが難点だ。


「エアバイクではまだ大量の物資を運ぶ段階までは進んでいませんからね。従来の馬車での移動となってしまうのは致し方ありません」

「そうだね、でも物は使いようだよ。……お、見えて来た。あそこが予定地だね」

「はい。あれが王姉殿下が責任者を務める事となる“新造都市”の建設予定地となります。先んじて先遣隊が到着しておりまして、作業を進めている所です」


 窓から見えるのは騎士団が逗留の為に建てたテントや、たくさんの人達が建物の土台を建てたり、見るからに老朽化した建物を崩している光景。

 工事現場を護衛するように騎士達が配備されたり、巡回をしている。工事現場で働く人達は誰もが忙しなく動き回り、作業の手は流れるように進んで行く。その光景を見て私は口元に笑みを浮かべた。


「久しぶりの大仕事になるからね、頑張らないとね」



 * * *



 パレッティア王国史初となる女王、ユフィリア・フェズ・パレッティアが即位して早一年と半年が経過した。

 ユフィリアの義姉であるアニスフィア・ウィン・パレッティアの提唱した魔学という新たな概念が広められるようになった新時代の幕開け。

 魔学の研究によって開発された魔道具は王都の近衛騎士団を始め、各地に配備された各騎士団にも魔道具の普及が進んでいた。

 そして魔道具の普及は騎士団だけに留まらず、民の間にも生活の助けとなる魔道具が置かれるようになり始めていた。

 誰もが感じる新時代の訪れ。そして、新しい時代の幕開けから更なる次のステージへと進む為に。彼女達の新しい挑戦が始まろうとしていた。

 物語は、アニスフィアが“新造都市”の建設予定地を訪れる日より遡った所から始まる。



 * * *



「新造都市計画?」


 私は目を丸くして、伝えられた計画の名前を繰り返すように呟いた。

 ここは王城の会議室の一つ。今日はパレッティア王国の政策を話し合う会議が執り行われている。

 ユフィの即位から色々な事があって、それを切っ掛けにして私も控えがちだった活動を再開していた。今は魔学省の顧問として技術開発の協力や相談役としての仕事を請け負っている。

 魔学省は新しい体制が始まってから待望の新人達を迎え、新人達を現場で成長させる為に次々と仕事が割り振られている。こなしても減らない仕事に悲鳴を上げる人もたくさんいたけれど、なんとか組織として大きく動き出していた。

 私の役割は魔学省のサポートだ。まだ私が表立って大きな計画を動かしてはいない。活動を再開したとは言え、私自身もまだ時期尚早だと思って裏方に回る日々を送っていた。最初の頃にハルフィスやマリオンに拝み倒されたのはちょっと思い出深い話だ。

 そんなある日の事、私はユフィに会議に参加するように要請を受けた。私が参加した会議の議題として上げられたのが“新造都市計画”。

 計画の名前を私に告げたのはユフィだ。女王に即位してから早一年半、すっかり女王としての貫禄が身についたユフィは更に女性らしく、そして美しく成長していた。


「はい。時期を窺っていたのですが、頃合いだろうと思ってアニスを呼んだのです。この新造都市計画の責任者としてアニスを指名したいのです」

「私を? えーと、その理由は?」


 新造都市を建造するのに私を責任者に指名する意図が読み切れない。どうして私なのか、とか。そもそもどうして都市を新造するという計画が必要になったのか、とか。ちょっといきなりで飲み込めてない。

 私の反応を見て、ユフィが少しだけ口元を微笑の形に緩めた。


「はい、ちゃんと説明しますね。まず、この計画の発端は精霊省及び魔学省の合同で私に報告された内容が発端です。内容の重要性を鑑みて、この計画が必要だと判断した為に立ち上げられました」

「魔学省と精霊省の合同の報告? その経緯は?」

「それは私からご説明致しましょう」


 精霊省の代表として参加していたラングが眼鏡を指で押し上げながらそう言った。この一年間で精霊省についた悪印象を払拭するのに力を注いでいたラングは、今となっては精霊省を牽引する若きリーダーとして活躍している。

 精霊省の前身である旧魔法省の頃に重役達がそうしていたように、ラングも政策に関する相談役として、ユフィから意見を求められる一人になっている。


「今回の計画の発端は、そもそも魔学の普及が進んだ事で生まれた問題が切っ掛けです。魔学の啓蒙と魔道具の普及が進み、我がパレッティア王国は新たな産業を手にしたと言っても過言ではありません」

「それはとても喜ばしい事だけど、何か問題が発生したんだね?」

「はい。魔学の啓蒙や魔道具の需要が上がった事は大変喜ばしい事です。精霊石も各地の騎士団の奮闘によって例年よりも多くの精霊石を獲得している為、開発や研究を行う事は問題はありません。ですが、今後も魔道具の需要は増える一方でしょう。そこで問題になるのが土地です」

「土地……あー、需要が増えれば魔道具を保管する施設とか増やさなきゃいけないから?」

「それもありますが、魔道具の試験の為の施設や大量生産の為の工房を設立するとなればかなりの規模となりましょう。そして現在、王都にはこれだけの施設を設立する余裕がこれ以上存在しません。……いえ、それは正確ではないですね。こちらの資料をご覧下さい」


 ラングは一度呼吸を整えるように息を吐いてから片手を上げた。ラングの隣に座っていた秘書が用意していた資料を配っていく。私も隣から回ってきた資料を受けとりながら目に通す。

 その内容を軽く流し読みをして概要だけ確認する。資料を読めばラングの言いたかった事が見えて来た。


「成る程。土地はない事はないけど、人口の増加や歴史的建造物などの文化保存の観点で王都にこれ以上の魔学関連の施設は増やしたくないって事だね?」

「はい。魔学を普及させる為の人材としてスラム街で難民となっていた者達にも職を与えるようになりました。この影響によって人口が増えたのは喜ばしい事ですが、今度は建物の老朽化が問題になってきたのです」

「新しい住居を作るにしても、住民達を一時的に疎開させるような施設も場所の余裕もないと。だから思い切って新造都市を建てようって話に?」

「はい、アニスの推測の通りです。そして新しい都市をただ建造するのではなく、魔学の研究及び魔道具の開発から整備、量産を見込んだ機能を有する新機軸の都市にしたいという狙いがあります」

「だから私が責任者に指名された訳か……なるほど、魔学の為の新しい都市かぁ」


 そう聞くと、ちょっと、いや、かなり興奮してきた。計画書には新造する都市に盛り込んで欲しい設備が書かれているけれど、ここから更に都市の計画を膨らませていくのは私の裁量で許されるみたいだ。


「今は近衛騎士団が請け負う事が多い魔道具のテストなども、新造都市が完成した暁にはそちらで専用の騎士団を設立して頂き、近衛騎士団から業務を分割させたいとも考えています」

「成る程ね。まぁ、確かに便利だからってお願いしてたけど、近衛騎士団はあくまで王都の防衛や治安維持がお仕事だからね。そっちが本業なんだから、本来の役割に影響を来す魔道具のテストとかの業務は分割した方がいいよね」

「はい。後は各騎士団の研修や演習先としても期待しており、かなり大規模な都市開発計画となります。エアバイクを使えばその日の間に王都と行き来する事が出来る距離に建造する予定ですので、王都の防衛都市としての役割も持たせたいと考えています」

「後は流通の中継地点でもいいかなぁ。今後、魔道具が普及していって運搬にも魔道具を使える機会が増えるかもしれない。その点検やメンテナンスを行う大きな工房を建てるのも面白いかも!」


 そう考えると、確かに元からある都市とかに新しく作るより狙って最初から都市を建造した方が早い気がする。何年もかかる計画にはなるだろうけど、やり甲斐は凄くあると思う。

 すっかりその気になった私が都市の建造計画について思考を巡らせていると、ユフィが少しだけ寂しそうに微笑を浮かべている事に気付いた。


「かなり大規模な計画になる為、王都から離れる事となるのが少しだけ懸念事項ですけど……」

「あぁ……そっか。飛行用魔道具を使えば往復出来る距離ではあるけど、基本新造都市の方に住む事になるのか」


 アルくんとユフィの婚約破棄騒動の一件から私はユフィと離宮で過ごしてきた。ユフィがまだ王家に養子に入る前はマゼンタ公爵家に帰っていた事もあるけど、私達は基本的にずっと一緒だった。

 ユフィが女王に即位して、仕事が忙しくなっても住む場所は一緒だった。だからそこまで離れてるという意識はなかったんだけど、私がこの新造都市の計画の責任者となるならそうも言ってられなくなる。


「んー。休日は離宮で過ごしたいと思うんだけど……都市の管理や、領地運営は誰が担当するの? これも私?」

「いえ、アニスにはあくまで魔学に関わる事業に専念して欲しいので、領地運営は別の方を派遣する予定です。領地の再配分の際にこの新造都市周辺の領地は王家の直轄地としていますので、この計画が動き出すのと同時に領主を任命する予定ですね」

「それって私の知り合い?」

「少々異例な事なのですが、シアン男爵にお願いしようかと思っています」

「え!? シアン男爵に!?」


 ちょっと予想外の名前が出て吃驚してしまった。私が大声をあげたので、ユフィが可笑しそうにくすくすと笑う。


「はい。そして任命と同時にシアン男爵には伯爵に爵位を格上げして頂く予定です」

「うわ、一気に爵位が上がるんだね」

「男爵のままでは色々と不都合なので。魔学の新造都市には冒険者も厚遇したいと考えていますので、元冒険者の経験があるシアン男爵が適任と判断した結果です。領地も広くなく、新造する都市が中心となる予定なのでシアン男爵でも問題なく治められると思っています。領主とは言っていますが、実質は新造都市の運営が主なお仕事になりますね」

「成る程……でも、それならレイニはどうするの?」

「出来ればこちらに残って欲しいですが……後で本人に確認ですね」


 レイニもこの一年半で成長したんだよねぇ。侍女としてだけじゃなくて、ご令嬢としても。イリアとの関係が変わってから良い方向でレイニも変わってくれてる。

 イリアもレイニと一緒にいると表情が柔らかくなった事が多くて、複雑な気もするけれど嬉しく思ってる。ずっと一緒だったから離れていくのが不思議だったけど、今はもうそんな複雑な感情も落ち着いてきた。

 んー、正直付いて来て欲しいって気持ちもない訳じゃないけど、ユフィが心配だから二人が残るって意志がありそうなら離宮に留まって貰おうかな。イリアは多分、レイニに付いて行くって言いそうだし……。

 いや、本当あの二人、離れるって気配がないんだよね。プライベートだとずっとべったりしてるし……。


「それでは、王姉殿下がこの新造都市計画の責任者を引き受けて頂くという事でよろしいですか?」

「えぇ、勿論。私向きの大仕事だからね、身を粉にして頑張るよ!」


 ラングからの確認に私は大きく頷いてみせた。

 こうして私は国の大きな事業となるだろう新造都市の責任者として現場に赴く事となった訳である。



 * * *



「魔学の為の新造都市計画ですか……! それもお父様が領主として行くなんて……しかも爵位まで上がるとか、かなり吃驚しちゃいますね」


 会議が終わったその日の夜、それぞれの業務が終わって私達は離宮で食事を取っていた。そして、今は食後の談笑の時間だ。

 離宮に料理人が入るようになってから、レイニやイリアも時間のゆとりが出来たので離宮での食事は私、ユフィ、イリア、レイニで食べるのが習慣化してきた。

 料理人の他にも新しい侍女達が入ってきたので、その研修の場として利用するようにしたら良いのではないかとイリアが進言した意見を採用して、離宮に戻ってからはイリアとレイニも令嬢扱いだ。そして、二人は先達として新人達の監督や採点を担当している。

 最初はレイニも恐れ多いといった表情を見せていたけれど、今ではすっかり令嬢として板についているので不安げな表情は随分と減っていた。

 そんなレイニは今日の会議で決まった計画を耳にして、最初は目を丸くして、次には父親の出世を喜ぶように顔を綻ばせていた。


「シアン男爵には色々と魔道具について意見を伺ってたりもしてたから、私としても相手にしやすいね。とても助かるよ」

「お父様が伯爵になるなんて、重圧で体調を崩さなければ良いのですが……」

「そこは私も助け合っていくよ。それで、レイニはどうしたい? 両親が王都から離れちゃう事になるけど……」

「元々、今のシアン男爵家は私の生家という訳ではないのであまり気にしないですね……その、出来れば私はこのまま王城で働かせて頂きたいと思ってます。今、場所を変えると中途半端になってしまいそうなので」


 少し悩むようにレイニが眉を寄せたけれど、すぐに表情を引き締めて自分の意見を口にした。はっきりと物を言えるようになってきて頼もしい。


「私もユフィが心配だったからね。レイニが残ってくれるなら嬉しい、イリアも残るでしょ?」

「……よろしいのですか?」


 イリアが私の言葉に眉を動かした。少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべているけれど、視線は私じゃなくてレイニに向いている。

 昔は私に向けられる事が多かった視線も、今はレイニに向いてる時の方が多いイリアだ。微笑ましいけれど、ちょっと過去を思うと感傷に耽ってしまう。

 まぁ、嬉しいのは事実だから笑みが浮かんじゃうんだけどね。


「私は大丈夫だよ、新しい人達と上手くやっていくさ。でも専属の侍女は一人ぐらい連れていかないとダメだよね?」

「そうですね。それでしたら今、離宮に研修に来ている侍女の中から選抜しておきましょう」

「アニス。専属の侍女もそうですが、護衛も選抜する必要がありますからスプラウト騎士団長にも話を通して下さいね?」

「うへぇ、行く前からなんか忙しくなりそうな予感……」

「当たり前です。何を言ってるんですか」


 イリアが呆れたように溜息交じりに言う。するとユフィもレイニもクスクスと笑っている。もうすっかりこの四人でいるのが当たり前になってきてしまった。家族みたいな感覚だ。

 でも、私が新造都市の建設の為に現地に向かってしまえば一緒に過ごす時間は減ってしまう。それはやっぱり、ちょっと寂しく思ってしまう。


「……だけど、止まる気にはなれないなぁ」


 皆に聞こえないように私は小さく呟いた。そっと胸に手を置けば、鼓動の感触が返ってくる。ワクワクして、ドキドキが止まらない。

 私が想い描いた夢を更に進める為に必要な事だってわかってる。嬉しくもあり、不安でもあり、寂しくもある。そんな複雑な思いを誤魔化すように、私は談笑を楽しむ皆の会話に混ざっていくのだった。


 

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