プロローグ+第1章 1話 幕開け
プロローグ
俺はただただ立ち尽くしていた。辺り一面に転がる人の手足、足元には赤い水たまりができている。家は焼け落ち、ここが自分の故郷だなんて思いもしないほど悲惨な様子だった。俺は目を閉じた。(これは何かの間違いだ…。きっと悪い夢なんだ…。)そんな事をひとしきり考え終えたあともう一度目を開ける。そこにあるのはやはりただの死体だけ。俺は絶望した。誰も救えなかった自分の無力さに…。
第1話 幕開け
「…き….るき…」
(誰かが呼んでる…?)
「ハルキ!!」
ドン!
「うぉっ!!」
机を思い切り叩かれて顔を上げた。
「やっと起きたァ~。マジでいつまで寝てんだよ。」
俺の机の前で親友のトモキが愚痴をこぼす。
「今何時…?」
「5時だけど」
「そんなに寝てたのか…」
「そんなことより言うことあるだろーが」
頭を軽く殴られた。
「いってぇ~。悪かったよ。」
「ったく。さっさと荷物まとめろ。俺は先帰るからな。」
「わかった。ほんとありがとな。フォースと共にあらんことを。」
「またそんな事いいやがって。じゃーな。」
トモキはさっさと行ってしまった。
(俺も帰るかぁ~)
俺も荷物をまとめて学校を出た。
(時間も時間だし裏道通るか。)
学校から家までそこそこ長いが裏道を通ると長さが半分くらいになる。帰り道の途中何度かつけられている気がして後ろを振り返ったが何もいなかった。だが、裏道に足を踏み入れた瞬間、リュック越しに強い衝撃を感じ盛大に転んだ。
「ってぇ…」
直ぐに後ろを振り返ると、なんだか分からないままさっきよりも強い衝撃が腹を直撃しそのまま10メートルくらい飛ばされた。建物の壁に激突し前を見た時、初めて殺気を感じた。俺を襲っているのは人の形はしているが、顔には趣味の悪い仮面を付けていて手が異常に長い人ではないもので、表情は分からないが俺を殺そうとしていることだけは雰囲気で分かった。唖然としていると人ではない何かが長い腕を振り上げて突進してきた。
「うわぁぁぉああぁぁああああぁぁ!!!」
死んだ…そう思って目を瞑った時、
ガキーン!!
斬撃音が響いた。
そっと目を開けて見ると白いローブを着た黒髪の男が剣を振りかざしていた。人ではない何かが怯んだ隙に腹を一突きし、その剣をそのまま上に振り上げた。
人間ではない何かは上半身が縦に二つに裂け、黒い液体を撒き散らしながら頭から地面に激突した。
「怪我はありませんか?」
白いローブの男に手を差し伸べられて俺は立ち上がりもう一度得体の知れない生き物をよく見た。
人間ではない何かはゴポ…ゴポゴポ…と音を立てながら地面に沈んで行った。
「助けてくれてありがとうございます。あの、お名前は…?」
「失礼、私はアビゲイル・ロマノフです。」
「ロマノフさんありがとうございます。何かお礼をしたいのですが…」
「とんでもございません!私は陛下の命令を守ったまで、お礼をいただくことなんて出来ません。」
「陛下?」
「はい。私は陛下の命令でここにいます。陛下はあなたの魔力を見てみたいとおっしゃっております。」
「あの…それ俺じゃないんじゃ…?助けてくれた恩人にこのようなことを言うのは無礼だと思うのですが…人違いでは…?」
「いえ、人違いではございません。私は魔法を少し使ってあなたを見ていましたので。」
アビゲイルが手の平を俺に向けて目をつぶると俺の体から3つの青い玉が出てきた。その玉はアビゲイルの手のひらの上に集まりひとつになってスっと消えた。
「信じていただけましたか?」
「信じるけど…」
「どうしました?」
「俺はどうしたらいいんですか?」
「私と一緒に来てください。王都へお連れします。」
「王都ってここから近いんですか?」
「ミラーワールドにあるので移動魔法で飛びます。」
「ミラーワールド???」
「説明しましょうか?」
「…お願いします…。」
「ミラーワールドとはこの世界にそっくりの世界で、この世界とは地形が鏡写しになっているんです。」
「てことは大陸とかの形は同じってことですか?」
「そう言うことになります。なので魔法を使わないと行けないのです。それと、もうそろそろタメ口でもいいですよ。」
「なら…タメ口で。そのミラーワールドに行けばいいんだな。」
「そうです。」
「なら親とかに許可を…」
アビゲイルは呆れた様子で
「心配いりません。戻ってくる時はこの時間に戻ってくるので。」
「…なら行きましょうか。」
「ふぅ…やっと行くと言ってくれましたか。では早速行くので私に掴まってください。」
アビゲイルが俺に手を差し伸べる。俺はその手を取りアビゲイルの隣に並んだ。
「では行きますよ。」
アビゲイルは持っていた剣を地面に突き刺した。するとその剣を中心に白い魔法陣が出てきた。
「目を瞑ってしっかり捕まっていてくださいね!」
そう言うとアビゲイルは光に包まれた。俺も目を瞑りアビゲイルと一緒に光の中に消えた…。