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 僕は今日、貴族の金持ち娘を誘拐する。

 確実に死刑にされそうな案件だけれども、それで病気の妹が助かるならいい。

 まあ、とにかくだ。誘拐するのだ。一応、僕、金持ち貴族の働く学校ではたらいてたから、入るのは簡単だ。ちなみに働いてたっていう過去形で正解だ。そう、すっごいムカつくことにこの間クビになったんだよね。理由は、こいつらシリペタ叩きまくって座れんようにしたろかって思うようなものだった。

 僕は庭師の方の仕事についてた。力仕事だし、若いのが欲しかったらしい。僕もちょうど金が欲しかったし、給金もいいから頭を地面に擦り付けて頼んで、一週間前まで働いてた。食べ物は出るし、給金もいいしで妹の薬代とか飯とかちゃんとできてたんだ。

 妹の病気は薬とちゃんとした栄養が取れれば治るものだ。ただし、それがないと確実に死ぬっていうやつ。お袋と親父は出て行って、僕しかいないわけで、妹は僕にとってたった一人の家族なのだ。だから、妹を失うわけにはいかない。そのためなら僕の飯は全部妹にやるし、なんだってしてやる。

 少し話がずれたけれど、その庭師見習い的な仕事はいちゃつく同年代がわがままにも「中庭でいちゃついている時に人がいるのがいや」っていう理由で減らされたわけ。そんで、僕にお鉢がまわってきたわけ。

 ふっざけんなって感じだ。

 てめえらが童貞みたいなキスかましてる時にこちとら仕事なんだよ! てめえらの童貞くさいあれこれなんざ興味も関心もねえし、勝手におっぱじめてろって感じ。ていうか、こっちは仕事、てめえはイチャイチャ。確実に僕らの方が迷惑してるじゃん? なんでそのわがまま通った? 爺さんたちにあんなクソでかい庭を管理させるとか鬼畜生かよ。

 やめる時に今までいた中で一番若い中年のおいさんが「お前がやめると誰か死んじゃうかも……」とか言ってたんだぞ。炎天下の中でも真冬のクソ寒い時でも外に出て、てめえらがムードとか綺麗だとかいう庭を管理してんの。

 ったく、同年代なのにお子ちゃますぎんだよ。

 とにかく、仕事を辞めてしまって、次のも探してるんだけど、中々いいのは見つからない。夜に帰れるようなのじゃないとちょっと困るんだよね。一応、やってないと食ってけないから、夜の仕事やってるけど。

 そんで、まあ、今までの貯蓄は薬代に吸われていったから、結局すぐになくなったわけ。ジリ貧。飯も食えないではないけれど、このままだと確実に快方に向かってた妹の病気がまた悪化する。今までの努力が水の泡だし、妹がまた苦しむのなんか許容できない。

 そんなわけで困り果てた僕は思ったわけさ。

 金持ち誘拐して金をゆすりとろう、と……。幸いにも、あの学校に預けてた荷物を取りに行かなきゃいけないので、犯行はバッチリできるわけだ。最後に……とか言ってうろちょろ回れるし。それに、何と言っても、荷物がそこそこあるから、荷車でいく。そう、荷車引いていくってことは、人を乗せれるってこと。

 完璧かよ〜〜〜〜! ってなるよね。

 ちなみに狙いはもちろんでかくだ。どうせ死ぬかもしれないならでかいとこ引き当てるよな。

 狙いは絞ってある。しかも、そのお嬢ちゃんは最近中庭で一人でやってきて、色々悪巧みしてる。その精神力、嫌いじゃないぜ。

 妹には誘拐の件は言ってないけど、家しか監禁できるところがないので、普通に家に連れて行く。絶対、妹に申し訳なさそうな表情されたり、めちゃくちゃに怒られるんだろうけれど、許せ、妹よ! 僕のためでもあり、お前のためでもあるのだ!

 僕がぐっと決意を固めていると、妹がそっと羽織をかけてくれた。天使。


「今日はちょっと寒いから。お兄ちゃん、気をつけていってらっしゃい」

「うん、お前もしっかり暖かくしておかなきゃいけないよ。それから、あんまり無理しないこと。それと、薬はちゃんと飲めよ。すぐに帰ってくるからね」

「うん、お兄ちゃん、ありがと」


 天使〜〜〜〜〜!!

 僕の妹、ほんと天使〜〜〜〜〜!!! 僕は妹のおでこに僕が離れていても無事でありますようにっていうお祈りのキスを送って出て行った。玄関先では妹がぱたぱた手を振ってる。かわいいなあ! でも、寒いから、家の中に入ってなさい!

 でもかわいいし、お兄ちゃんのほっぺたでろんでろんになっちゃうよ〜。


 そう、僕の妹、超かわいいんだよね。まじで。ほんと。ドチャクソかわいい。天使。多分、大きくなったら女神になるぜ、僕の妹。

 もうねー、かわいいんだよ。ほんと、かわいい。もう、絵画で見る天使。まじめに天使。ほんと天使。妹を産んでくれたことに関しては、くたばりかけだろう呑んだくれのクソ親父とどこでくたばってんのか知らない奔放なお袋に感謝してる。妹、産んでくれてありがとう!!

 妹は、もう名前からして天使。ガブリエルっていうんだけどね、優しいし、気遣いはできるし、ご飯も14歳だけど作れるし、お手伝いしてくれるし、お兄ちゃん大好きって言ってくれるし、どこに行ってもかわいがられる愛されガールだし、もう最強。

 ほんと最強に可愛い。ここらの街の中で一番かわいい。これ、ほんと。たまーに余裕ができたら、同い年くらいの男の子たちがやってきてご飯差し入れてくれるし、近所のおばさんかおすそ分けしてもらったりするし、妹は本当に可愛がられてる。

 そりゃ、優しくて思いやりがあって、天使みたいにかわいい妹が可愛がられないはずはないんだけど、でも、やっぱり、こう優しくされるとありがと〜〜ってなる。僕の妹、最強なんです。最強にかわいいんです。マジ。

 妹の羽織のおかげで、木枯らし吹く中でも寒くなく仕事場までたどり着き、そこら中に溢れかえっているムカつく金持ち同年代にジロジロ見られながら、小さな荷車を押して庭師の詰所に向かう。あそこあったかいんだよなあ。


「おひさしぶりです」

「アーサー!」

「おいさん! また腰いわしてない?」

「いわせてねえよお! お前がいなくなってから、ほんと暗くってよう! 会いたかったぜ。ガブリエルちゃんの病気は大丈夫かい?」

「大丈夫だよ。まだまだ油断できないけどね」

「そっか、そんならよかったぜ。俺たち、お前らのこと、いつも心配でなあ」


 な! とおいさんが言うと、ほかのみんなも、そうさ、そうだ! と頷いてくれる。いい奴らだぜ、まったく!

「金の方は足りてんのか?」と聞かれ、僕は肩をすくめて笑って見せた。


「前より少ないけど、食うに困らずだよ。なんとかやってる。おいさんの方はどう? 赤ちゃん無事に生まれた?」

「生まれたよお〜」


 と、おいさんは破顔した。でろでろに鼻の下を伸ばしている。たしか四人目だ。


「も、かわいいの。女の子でなあ」

「そうなんだ、よかったね! これから、おいさんもどんどん稼がないとだね。奥さんの方のお手伝いとか必要だったら言ってよ? 僕、子守の仕事もしてたからさ」

「お、ほんとか? 母ちゃん、最近疲れ気味だからよ、早速頼めねえかな」

「いいよ。かわりにちゃんとバイト代くれよ?」

「おう、ひねり出すわ」

「明日いけばいい?」

「おう」


 やったぜ、臨時収入! 僕がガッツポーズを取ると、みんなが笑った。それから、僕がくるからと持ってきてくれたらしい選別とお弁当をくれた。僕はおいさんやじいちゃんたちにハグをしてお礼を言った。

 ここの人らがいい人たちばっかりでよかった!


「それにしても、本当にこの学校も大変だよなあ。お前みたいないい子をやめさせちまうなんてさ」

「そうじゃ、そうじゃ! おかげで、また腰が悪くなるような場所をやるはめになった!」

「じいちゃん、今日は僕が変わってやるよ。せっかくきたんだしさ」

「おやまあ、働きもんだ」

「じいちゃんやおいさんがいいやつだから、僕もやろうって気になるんだよ」

「いいこと言う」

「はっはっはっは! でも、そういうもんじゃない? 前みたいにちょっくらやるよ。同い年のクソ貴族ちゃんたちに嫌な目で見られながら」

「まあ、彼らは坊ちゃん、嬢ちゃんだしなあ。ザ・下町のワイルド青年を見れば顔をしかめるわなあ」

「僕って言ってるのに?」

「僕が似合う顔でよかったな」

「妹には、世界一かっこいいお兄ちゃんって言われてます」

「はいはい、シスコン、シスコン。お前さんの荷物と作業道具はとってあるから、やっといで」


 僕は作業着に着替え、作業道具を持って、おいさんやじいちゃんたちが一番つらい箇所をやることにした。

 ちょうど中休みにはいったところで生徒たちがわらわらと出てくる。なにしに出てきやがった、中に入ってろよ。お前らの言うイチャコラのせいでやめさせられたんだぞ、僕ぁ。

 しげみのあたりでは、ちょうどお互いに見つめあっている男女がいた。たまーに同性とかあるけど、どうでもいいし、普通に邪魔。ねえ、そこ作業したいんだけど。

 僕はえへん、えへんと咳払いした。

 それにハッとした生徒はこちらを振り向き睨んできた。

 おいおい、確かにね、まあ野暮かもしれないよ? でもね、待った結果、給料減らされたり、おっぱじめたりするやつがいたからさあ……。こっちもね、できれば邪魔したくないよ、鬱陶しいし。でもなんだよ、君。でもなんだ。

 男子生徒は、女子生徒に「行こうアリス」と腕を引っ張って、どっかに行ってしまった。

 僕はいらない枝を切りそろえたりしながら、今日の計画をおさらいしていた。

 そういえば、さっきのアリスって子は僕の候補に入っていた一人だ。彼女自身は金持ちじゃないし、普通にさらう価値は金銭的に一ミリもない。

 だが、しかし! 彼女の周りにいる連中が金持ち! だから、僕は思ったんだよ。彼女さらって、彼らに金の交渉すれば結構いい額いくんじゃねえの? って。周りにいるやつらが、宰相の息子に将軍の息子、第二、三王子、お偉い学者の息子に金持ち公爵令息、どでかい商会の息子。もう、金を持ってれば、顔よし、頭よし、運動神経抜群とかいう羨ましいやつらだ。どうやって、彼らを取り込んだかは知らないが、そういう奴らに熱視線浴びてんだ。確実にいい交渉材料にはなる。

 でも、ここで一つ問題が出てくる。

 そう、恋愛してる男の執着心の面倒くささ。これな。

 これを考えた瞬間に、ねえなって思った。面倒くさいのは絶対にいやだし、彼女の家自体も貧乏貴族。僕の中では外れ。総合した結果、まじでない。こいつはさらわないでおこう。って思ったわけ。

 で、僕がさらう相手は誰になったかって言うと、宰相の息子と婚約してる公爵令嬢。周りにいかつい女子を連れて、時々さらわないことにした外れの方に意地悪したりしてた。僕はそういうの嫌いじゃないぜ。てめえのものが取られるかもってのにまごまごして見てるやつよりも、よっぽどいい。

 でだ、そんなご令嬢は大当たりも大当たり。当たり前だけどね。

 両親に可愛がられている上に、じいさんが残した莫大な財産もあるし、その一部くらいならさらっとよこしてくれそうだ。周りにいる女子は権力に怯える子リスちゃんたちだし、婚約者は別の女の外れの方に夢中。とくると、恋してるやろうはいない=とても楽=面倒くさくない=これしかない。

 そういうことね。

 この刈り取る作業をしながら、ターゲットを探す。そんでもって、あとは簡単。

 彼女はだいたい授業が始まる鐘がなってもいる場合が多い。見つけ終わったら、作業をやめおっちゃんたちに挨拶する。おいさんたちが作業するのは生徒が少なくなった夕方からだから、さらったとしてもわからない。

 いける。行くしかない!

 誘拐は犯罪だし、確実に首が吹っ飛ぶ可能性の方が高いけども、やるしかねえ。妹のため、我が天使のため! お兄ちゃんはやるぞ、やってやるからな!!

 そう拳を振り上げたところで、体良くターゲットを発見した。運のいいことに、学校の出入り口に近い。持ち物は点検される可能性はゼロだし、大丈夫だろう。なにせ、ここに盗めるものはなく、雇っていた従業員はきちんと審査されている。偉いぞ、学校!

 僕はこっそりとその場をあとにして詰所に行き、おいさんたちに挨拶して、荷車に荷物を詰め込んだ。もちろん彼女がいなければならない位置は確保してある。大きさは目測だけどいけると思うし、無理そうだったら、バケツかぶせる。


「みんな、じゃあね〜!」

「おう、明日よろしくな〜!」

「元気でな!」

「ガブリエルちゃんによろしくねえ!」


 僕はガッツポーズをして笑ってみせた。みんなはぐっとサムズアップしてくれた。

 彼らが見えなくなったあたりで、彼女がいるであろう茂み付近に行った。彼女はぶつぶつと生垣のそばに座り込んでなにごとかを言っていた。


「気に入りませんわ〜! このままでは、ディックがあの子にとられてしまう……。誰かにさらってもらうとか? あ、でも、そしたら、逆に心配しちゃうんじゃありません? むしろ、あたくしがさらわれる方がいいのでは……。いやいや、いけませんわ! それは愚策よ! うーん、いい方法はないかしら?」


 今からされるんだよねえ、ごめんねえ。

 僕は背後からさっと回り込み、頭を棒切れで殴ったあと、薬品を嗅がせて眠りこませた。そして荷車に彼女を放り込み、一目散に入り口に行き、平然とそこを通った。彼らに笑顔でサヨナラをいい、家まで向かう。今日の仕事は夜からだし。

 家にたどり着くと、妹がちょうどご飯を食べているところで、僕は偉いぞ、と天使の頭を撫でた。天使はにこにこ照れていた。ほんと僕の妹天使だし、癒しだわ。

 荷車を部屋に入れ、そうっと中を覗く。普通に眠ってるわ、この子。しかも、徹夜したんだろうなあ、隈ができてる。


「ギャビー、お兄ちゃん、大切な話があるんだ」

「なに? どうしたの? お仕事また首になったの?」

「違う。断じて違う。お兄ちゃんはお前に告白しなければならないことがあるんだ……」


  妹はこわばった顔で「なにしたの?」と聞いた。

  僕は荷車の布を取り払った。妹はキャッと短く悲鳴をあげた。


「誘拐したの!?」

「薬代が……」

「お兄ちゃん! そんな罪を犯しちゃいけないわ! 病気だってよくなってるし、薬がなくても」

「馬鹿言うな! 治りきってないんだぞ? 治りきってないのに、いらないだって? 馬鹿言うな。また、悪化させる気か? 食事だって、前よりも質が悪くなってるのに気が付いてるだろう」

「でも、いけないわ、こんなこと。この人のご両親だって、心配するし……。なによりかわいそうだわ」

「お前が生き抜けるなら、僕はなんだっていい」

「お兄ちゃん、ダメ。そんなこと言ってはダメ。これはとっても罪深いことよ」

「でも、お前は治りきってないし。それでまた悪化すると今度こそ……。僕を一人にしないでくれよギャビー。お兄ちゃん、お前がね、大好きなんだよ。頼むから、自分の命の方を取っておくれよ、お兄ちゃんのためにも」

「ダメよ、お兄ちゃん、ダメ」


 そう押し問答を続けていると、荷車の中にいたお嬢さんがうーんと唸った。僕らはピタッと体を固め、僕は彼女に近づき、妹はそうっとドアの前に立ち止まった。

 荷車のお嬢さんはぼうっとした顔でパチパチゆっくりと何度か瞬きをして、僕をしっかり見た。彼女はだんだんと驚いた顔をして、ついには悲鳴をあげようとした。もちろんすかさず、近くの布をとって口を塞いだ。お嬢さんは目を見開いて僕を見た。


「いいか、絶対に悲鳴をあげるなよ。あげたら、その顔面、ボコボコにしてやるからな」

「お兄ちゃん!」

「お前は黙ってなさい!」

「僕があんたを誘拐した犯人だ。要求は一つ。金だ。金のみ。お前は交渉材料だ。逃げ出したら、その鼻っ柱折ってやるからな。わかったら頷け」


 そう言うと、お嬢さんは頷いた。僕は恐る恐る布を外した。彼女は落ち着いていた。

 いやに落ち着いているな、と思うと彼女は急に喋り始めた。


「あたくし、さらわれるのには、多少は慣れてましてよ。よくわかりますわ。あたくし美人ですし? そうしてさらいたくなるくらいだって。でも、残念ながら、あたくしにはディックという婚約者がいますの」

「ちょっと待て。あんた、話聞いてた?」

「え? 聞いてましたわ。さらったってことと、悲鳴をあげるなってこととお金だって。でも、わかってます。あたくしが欲しいって素直に言えなくて照れてらっしゃるんでしょう?」


 なに言ってんだ、この勘違い女。

 いやいやいや、なんでそうなった? なんでそうなったんだ? 自信過剰すぎるだろ。どう考えても違うってわかるだろ。


「それは、とっても自然なことですわ。あたくしが美しくたおやかで可愛く可憐だからって、そう緊張されることはなくてよ」

「いや、話し聞けって! あんたをさらったのはなあ! 金目当て! 妹の病気を治すための薬代とちゃんとした栄養の取れる飯が目当て! わかるか?!」

「まあ、ご病気なんですの?」

「だから、金がいるから、あんたを攫ったんだって言ってるだろ!」

「それはいけないわ、大変ですわ! お薬代と栄養のある食事としっかりした睡眠ですわね? うちにくればいいのよ。治るまでいていいですわよ」


 妹は驚きでこちらを見た。僕だって驚いてるからね、めちゃくちゃ。なんだこのお嬢さん、大丈夫かよ、色々と。ていうか、話しきいてんのか?

 僕は困惑とかで頭に手を持っていきながら、このお嬢さんに「その場限りじゃ意味ないんだって。その先も考えて、親切受けるより金の方が欲しいわけ。わかる?」と言った。彼女は少し考えて「よくわかりましたわ。あたくしと同じ家に住むのが緊張してしまうって話でしょう?」と答えた。


 話、聞け!!!!


「あんた、まじで話し聞こうぜ? 僕が言ってるのは、あんたを攫って、十年くらい働くてもなんとかなる金を、あんたの家から、あんたを交渉材料にしてもらおうって話。

あんたの家に、手紙で、貴公の令嬢を攫った。無事に返して欲しければ金を用意しろって出す。そんで、僕は、あんたに手紙を書かせて、生存確認させながら、脅して、金を、そう金だからな? あんたの見てくれとかどうでもいいし、僕はあんたに対して、一切! なんの劣情も抱いてないし、抱く予定もないから、普通にあんたの家と金であんたを攫ったわけ。

そんでもって、金を受け取ったあとは、別の街に越して、妹の病気を完治させて、普通に暮らす。そのために、あんたはさらわれたの」

「まあ」

「それだけかい! ちゃんと話、理解した? なんか頭ん中で変に改変されてない?」

「大丈夫ですわ。お金とあたくしが必要ってことでしょう?」

「あたくしって?」

「あたくしはあたくしよ。スザンヌ・ゴーシュですわ」

「いや、そうだけど。あんたが必要なのは、交渉のためってわかってる?」

「あら、わかってますわよ! そう言っといて、結局、あたくしの美しくたおやかで可愛く可憐な姿に心打たれてしまうって話でしょう?」


 なんでそうなるんだよ!! ジーザス! この女の頭は大丈夫かよ! これなら、ぎゃあすか騒ぐやつの方がましだったぞ! くっそ、失敗した! 失敗しちまったあああ!


 僕が頭を抱えていると、妹が慰めるように肩をさすってくれた。まじ天使……。


「お兄ちゃん。私、なんだか、どうでもよくなってきたかも……」

「ギャビー、お兄ちゃんもだよ。僕、失敗しちゃったかも」

「あら、なにがですの? 誘拐は大成功ではありませんか」


 誘拐じゃなくて、ターゲットにしたあんたがだよ!!!


「悪いけど、逃げ出さないように縄をつけさせてもらうから」

「縛るですって?! あなた、特殊性癖の持ち主? あたくしはもちろん、美しくたおやかで可愛く可憐だから、どうあがいてもその性癖に突き刺さってしまうけれど、大丈夫かしら? 鼻血出さない?」

「話きけよ!!!! さっき! あんたが! 逃げ出さないようにって! 言っただろ!!」

「まあ、恥ずかしがらなくていいのよ」

「違う……!!」


 彼女は手首に縄を巻かれながらも、あれこれと喋り倒した。僕、まじでさらう相手間違えたかも……。


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