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【完結】こちら異世界転生管理局  作者: ただみかえで
第2章 転生業務は苦労がいっぱい
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第7話 外のない世界

 突然だけど、『ここ』には外がない。

 と言うと、なんだか監獄的なくらーーいイメージがついてきそうだけど、そういうわけでもなく。

 玄関がない、って言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 つまりは、ここ――異世界転生管理局の入った建物が『この世界』のすべてなのだ。


 そんなわけで、もちろん宿舎も建物内にある。

 一人で住むにはちょっと広めの2DKのお部屋。

 バストイレは別だし、フカフカのベッドもあるし。

 開かないけど大きな窓もある。

 窓の外では毎日朝日が昇り、夜には月と星も見える。

 眼下を見下ろせば、高層ビル群の明かりがとても綺麗な夜景となって広がる。

 ……繰り返しになるが、ここには『外がない』。

 けど、窓の外にはきれいな景色が見られる。

 なんなら四季もちゃんとある(ここの所雨続きに見えるのは、梅雨に入ったということなのだろうか)。


 ミルティ先輩によると、元々いた世界の景色が見えるようになっているんだとか。

 じゃあ先輩の部屋は?と聞いてみたが、丸っきり違う景色らしい。

 ただ、残念なことに私がお部屋にお邪魔したとしても『私の景色』しか見えないとのこと。

 見てみたかったなー。


 『景色』もさることながら。

 なぜか娯楽施設も充実している。

 ボーリング、カラオケ、映画館、などなど…。

 どうやらこれも出身地ごとに違っているらしい。

 ただ、景色と違って一緒に入れば同じように楽しむことはできる。

 地球の映画を見て他の国(世界)の人が楽しいかどうかはともかく。

 あ、でもボーリングはルール簡単だし、ミルティ先輩も楽しそうだったな。


 そうそう、『言葉』だけど、あれは職員に与えられるスキルによるものだった。


スキル:言語相互理解。


 喋り言葉だけでなく、文字も読めるようになるスキル。

 聞く相手にも強制的に理解させることができるとのこと。

 だから、ミルティ先輩やラビエン(もふもふ)局長が日本語を話しているわけではなかったのだ。

 私も働くようになってすぐにもらえた。

 もらってからミルティ先輩の名札を見たら、ちゃんとあの長い名前通り読めた……あれ、漢字覚えるより絶対大変だよね……。


「ふぅ……」

 そんなことを考えながら、長い長い廊下を食堂へ向かって歩く。

 本当に長い……あまりの長さに、自然とため息が出てしまうほどだ。

「どうしたの?螢子ちゃん。

 ため息なんてついて。

 お仕事で嫌なことでもあった?」

「あ、ミルティ先輩。

 いえ、仕事の方はなんの問題もないです」

「じゃあどうして?」

「単に廊下の長さにうんざりしていただけです」

「ああ……なるほど」

 そう言って、同じようにため息を漏らす。

 私よりもずっと長くここにいるミルティ先輩にすらため息を出させる廊下……いつか慣れるかな? と思っていたけど、これは希望がなさそうだ。


 ミルティ先輩にも言ったとおり、転生業務の方は比較的問題なくやれている……と思う。

 本当に『眼』が有効に活用できるようになるとは思わなかったけど。

 ああ、そう考えると転生局にとっては(・・・・・・・・)間違いなく恩恵なんだろうな。

 私にとっては……この状況がイレギュラーってことを考えなければ、少なくともマイナスではなさそうかな。

 ここの生活にも慣れてきたし、あとは弥勒さまさえ見つかってくれれば……。


「えーっと、とんかつ定食ください」

「あいよぅ!」

「んー、そしたら私はミラソテヌリアで」

「あー、悪い!

 ソテヌリが今切らしちゃってて、スルミナでもいいかい?」

「あら残念。

 じゃ、そっちで!」


 いつも思うんだけど、ここの食堂ってどういう仕組みなんだろうか。

 私とミルティさんはあからさまに違う世界出身なわけで、だからいつも聞いた事ない料理を注文してるんだけど(ミルティさんに言わせれば、私の頼んでるものがそうなんだろうけど)。

 基本的にどちらの世界の料理にも対応している。

 かといって、某青色ネコ型ロボットの道具のように言ったら言ったものがポンと出てくるわけでもなく、たまにこうして食材切れなんてことまで起こっている。

 考えても仕方ないとは思うけど、どうしても気になってしまう。


 ちなみに。

 ソテヌリ、と言うのは8本の足をグルグル回して空を飛ぶ生き物で、スルミナと言うのはその足が10本の生き物なのだそうだ。

 タコとイカみたいなもんだろうか。

 って考えれば、タコの代わりにイカ、ってのはありっちゃありか……。

 こちらも一度出てきた料理は元の世界関係なく食べられるので、今度一口もらってみよう。

 以前、サヌレープと言うスープらしきものをもらってみたけど、なかなか美味しかったし、味覚にはそう違いがなさそうだ。


「あ、Y先輩がいますね。

 混ぜてもらいましょうか」

「そうねー。

 Y〜、一緒していい〜?」

「おー、ミルティに螢子ちゃん。

 どうぞどうぞ」

 調整課のシステム担当で、ミルティさんの同期のトカゲ人間(リザードマン)

 地球出身ではないので厳密に言うとトカゲではないんだろうけど、よくファンタジーなんかで見かけるあのお姿である。

 初めて会った時、大変失礼にもすごく驚いてしまったが、「地球にはいないのよね」と言って優しく許してくれた。

 その後も、何度か電話で話したけど、本当に優しいお姉さん、って感じ。

 しかし、この馬鹿でかい食堂で別の部署の人に出会えるとは。


 この食堂も他の設備と同じようにひたすら広い。。

 端を見ようとしても霞んでしまっているほどだ。

 転生局のカウンターも果てが見えなかったし、全部署の職員が来るって考えたら当たり前な広さなんだけど。

 なんというか、何から何まで常識の通用しない建物だ。



 そんなある日。

 今日のお昼は何にしようかな、と廊下を歩いていると見知らぬ少年? に出くわした。

 Tシャツに短パン、頭には野球帽という、この場にひどく不釣り合いな出で立ち。

 帽子のツバが長いからか顔までは見えない。

 廊下の壁に背を預けて……誰かを待っているように見える。


 普段なら、まぁ色んな人がいるしね、で気にも止めなかったんだろうけど、何故かこの時は目が離せなかった。

 私にはこんな知り合いはいないし、待ち人は私ではない……はず。

 なんだけど……なんだけど……。


「お、やーっと来たね?

 桜坂螢子ちゃん」

 私の姿に気づいたその少年が、帽子を脱ぎながらにこやかに話しかけてきたのだった。


いつも応援ありがとうございます。

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