第65話 願い
「そもそもなこと聞きたいんですけど。
『王の証』ってなんなんですか?」
説明不足ブラザーズが二人で盛り上がってくれちゃってるのはいいんだけど(あんまりよくないけど)、私が絡んでくる所くらいはちゃんと説明してほしい。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「全くこれっぽっちも一切説明ないですね。
『見ればわかるから探して』しか言われてません」
「…………」
じっと黙って虚空を見つめる弥勒さま。
神様でも何かを思い出そうとする時って、ああいう仕草になるんだなぁ。
「あ、ほんとだ……どの『ミニ』も説明してないね……ごめん」
記憶の検索? が終わったらしい。
「いえ、謝ってほしいわけではないのでそれはいいんですけど。
探せだの作れだのは置いといて、説明してください」
「弥勒ちゃんたら何も言ってなかったのね★
じゃあワタシが説明してあげるわ★
『王の証』というのはね、今から遥か昔、まだ天界に10貴族しかいなかっ――」
「あ、そういうのいらないので、結論だけでお願いします」
長ったらしい歴史やら謂われやらは時間のある時でいい。
「ぶ、あはははは。
うんうん、螢子ちゃんだねぇ」
「……それ、褒めてます?」
「もちろんさ!」
とてもそうは思えないけど……まぁ、ツッコんでもしょうがないか。
弥勒さまだしね。
「今、とても失礼なこと考えたでしょ?」
「いいえ、ちっとも?」
「あんたたち、ワタシが説明してあげよう、ってのを遮った挙げ句漫才しないでちょうだい★
うっかり殺したくなっちゃうじゃない★」
……いやな笑みだ。
思わず背中に悪寒が走った。
これが殺気とでも言うのだろうか。
蛇に睨まれた蛙の気分だ。
「しっつれいな小娘にでもわかるように簡単に説明してあげると★
『王の証』っていうのは『世界を思うように作り変えることのできるもの』なのよ★
そうね、あなたの言葉でいえば『なんでも願いの叶う魔法の道具』と言った所かしら★?」
「無条件に無節操に叶えてしまうからね、使い方には注意が必要なんだけどね。
生命エネルギーを使って発動するから、あまり無茶なこともできないしね」
「ふむ……」
なんかのゲームで出てきた聖杯みたいなものだろうか。
生命エネルギー、ってことは、寿命を削るってこと?
あ、生贄とか?
……神様は寿命が長いから、自分のでなんとかなるのか。
しかし、世界を変える、か。
「それで。
えっと……クピ……クピ……んー、覚えづらいし言いづらいのでクピさんでいいや。
その『王の証』を使って何がしたいんですか?」
「クピュリレル、よ★
ホント失礼な小娘ね★」
「もう、そんな些細なことはどうでもいいじゃないですか」
「些細!?」
「あっはっは、クピュリレルよ。
だいたいわかったと思うけど、螢子ちゃん相手にそんなことで怒ったってしょうがないぞ?」
「そのようね★」
二人して失礼な……。
「『王の証』はね、本当に何でもできるのよ★
アレ自体に意思はないから、細かい指定は必要だけども★
それさえちゃんとしてしまえば簡単に世界を作り変えてしまえるの★
だからね、ワタシはワタシの思い描く通りの好きな世界に作り変え続けたいのよ★
それを、そこの弥勒ちゃんやら天界王やらが邪魔してくれちゃって、ほんと頭きちゃうわ★」
「当たり前だろう。
お前の好き放題に作り変えられたらたまらない」
「大丈夫よ★
どうせ、作り変えられたことになんて気づかないから★」
「そういう問題じゃない!」
「もう、弥勒ちゃんたら頑固ねぇ★」
…………。
なんか、口喧嘩が始まったけれど。
この二人の会話からわかったのは、今のこの事態の元凶がその『王の証』である、ということ。
そして、それを囲んでの色々な陰謀が巡り巡って今の私に繋がっているのだ、ということ。
なら、やることは一つだ。
会ったことのない天界王さん。
あなたの魂が私の中にあるというのであれば、力を貸してください。
7人の騎士、なんて大層な名前で呼ばれていたけれど。
ミルティ先輩、もふもふ局長、Yさん、フーちゃん局長、クレィさん、ファラスさん、千代ちゃん。
お願い、みんなも力を貸して。
心の中でみんなに語りかける。
弥勒さまのスキルがない今、通じる保証はないけれど。
なんとなく大丈夫な気がしている。
体が熱くなる。
みんなとの繋がりを感じる。
体の中から力を感じる。
神様二人の口喧嘩をどこか遠くの出来事のように聞きながら、その2つを合わせる。
混ざり、交わり、回って、廻る。
最初はふわふわした感じのものだったのが、段々と形を作っていく。
「これは……」
手のひらを開くと、小さなバッジのようなものがあった。
「できた……?」
「そうよそうよ、いいわよ小娘!!
ワタシのよ!!!よこしなさい!!!!」
「させないよ!」
ガイィィィィィィン!!!!!
今までの喋り方が嘘のように興奮した様子で襲いかかるクピさん。
「螢子ちゃん……なんで……?」
私に届く前に、弥勒さまが辛うじて守ってくれたけど、私が『王の証』を作るとは思わなかったんだろう。
一瞬動き出しが遅れたせいか、脇腹に爪が貫通してしまっている。
「クピさん。
自分の思い通りの世界って、楽しいですか?」
弥勒さまから爪を引き抜き、再び襲いかかろうとするクピさんに疑問を投げる。
「何を言っている?
そんなもの、当たり前だろう?」
荒ぶった口調のまま、でも疑問には答えてくれる。
遮る者は誰もいない、いつでも殺せる、いつでも奪える、と思っているからだろう。
「そうですか?
私なら絶対にゴメンですけどね」
「はん、小娘の意見なんてどうでもいいわ」
「別に、クピさんと議論したいわけじゃないんですよ。
でもね、これから起こることが全部わかっていたら、それは退屈でしょうがないと思うんですよ。
それに、気に入らない結論を全て変えていったら、きっと何も残らないですよ。
なんのために自分の好き勝手に世界を作りたいのかわかりませんけど、退屈したいわけじゃないんでしょう?」
「当たり前じゃない★
退屈なんて、死よりもよほど恐ろしいわよ★」
構えた爪をおろし、口調が戻る。
「だったら、望むことは一つ」
怪訝な顔をするクピさんの眼の前に『王の証』を掲げて、言う。
「王の証よ。
この世界にお前はいらない」
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