第5話 ラビエンローズ
「どうしたんだい?」
「あ、局長!」
「もふもふ!!!!!」
どうにもこうにも行き詰まった、とミルティさんと二人でお通夜状態にあったところに、さっきのもふもふがやってきた。
カウンターの上にちょこんと乗って、なんとも可愛い……。
もふもふしたらダメかな……。
…ん? あれ? 待って?
今、ミルティさん『局長』って言った?
「え? その人……じゃない、うさぎさん、局長???」
「ええ、転生管理局の局長よ」
「はじめまして、ではないか。
さっきぶりだね、ラビエンローズと申します、お見知りおきを」
後ろ足だけで起用に立ち上がり、深々と礼をする。
帽子はかぶっていないけど、実に紳士らしい。
「La Vie en rose??
フランスじ…うさぎ?」
「ノンノン。
Rabbit and Rose、世界一バラの似合うウサギさ」
「えーっと……」
これはどういう反応が正解なんだろうか。
ウサギと話したことなんてないから、なかなか難しい。
「局長はね、なんと地球出身なのよ?」
小さな卓上の椅子を出しながらミルティさんが言う。
って、地球産!!
「へーーー!!
なんか親近感!」
「はっはっはー。
うっかり、宿敵に捕まってミートパイにされてしまったがなー!」
「は、はぁ……?」
「ジョークだよジョーク!
ラビエンジョークさ!!
笑ってくれていいんだよ?」
そんなアメリカンジョーク、みたく言われても…。
だから難しいってば!
しかし『地球出身』とは。
優雅に椅子の腰を掛け足を組むうさぎさん…こと、ラビエン局長を見ながら考える。
……うさぎの足って、組めるんだ……じゃなくって。
ここの職員さんたちって、どういう経緯で働いているんだろうか。
『転生者』や『転移者』ってのは、ここから別の世界に行くんだよね?
もしかして転生先が『ここ』、っていう人がいるんだろうか。
「で、何があったんだい?」
「ああ、すみません。
実はですね――」
ミルティさんが状況の説明をする。
さっきのYさんと話してわかったことも追加して。
まぁ、まとめてしまえば
『リストにない人がやってきて、どうしたものやら』
ってだけなんだけど。
「ふむ、なるほど。
天界の坊やにも困ったものだな。
しかし、そうなると……連絡が来るまではなにもしようがないね」
「どのくらいで連絡が来るものなんですか?」
待つにしても、せめて目安くらいは欲しい。
「うーん、そうだなぁ……。
前回の脱走の時は見つかるまで2年くらいかかったんだっけか」
「確かそうですね。
その間も通常業務はなんとか回してくれましたけど、余計な調査までは手が回らないでしょうね」
「最低限の人数以外は全部捜索に取られてしまうからなぁ」
2年!?
……え、ここで2年放置とか……勘弁して欲しい……。
「ふぅむ。
今の君は、いわゆる幽霊みたいなものだからね。
そのままでも歳を取ることもなければお腹がすくこともない。
とはいえ……『退屈は死ぬより苦痛だ』という話もある」
「ただ何もせず2年待つのはイヤです……」
……同僚の恵美子は「休みの日は何もしないで1日ぼーっとしてる」って言ってたから、きっと彼女なら「2年ぼーっとしてて」って言われても大丈夫なんだろうけど。
……私には無理だ。
どこかで気が狂ってしまう。
「で、だ。
君さえよければ、だけど。
ここで働いてみる気はないかい?」
「ここ、って、ここ!?
え?そんなことできるの!?」
「イレギュラーではあるけどね。
そもそも天界があんな状態だ。
暫定的な処置、としてなら許されるだろう」
生前私が働いていた環境と似てるっちゃ似てるし。
問題なく仕事はできる、と思う。
何より2年ぼーっとしてるのに比べたら、遥かにいい。
とは、思うけど――
「見た所、面白い眼を持っているようだし」
う、また『眼』か……。
さっきも言われたけど、役に立つとも思えないんだけどな。
「私にとっての『不利益』とかないですよね?」
「不利益、か。
転生に関しては――天界次第ではあるが――少なくとも悪いことは起こらないはずだ。
ただ、働くためには仮に肉体を与える必要があるので、さっきの話ではないが『お腹が空いたり疲れたりする』ってのはあるかな」
「仮の肉体、ですか……」
さっき『幽霊みたいな状態』って言ってたけど。
そうか、今って肉体がない状態なのか。
透けてるわけでもないし、物にも触れるから自覚してなかったけど。
どうせなら『壁を通り抜ける』とか『空を飛ぶ』とかできたらよかったのに。
残念。
「あれ?
その場合って、『あとから転生』ってなった時にその仮の肉体ってのはどうなるんですか?」
「破棄されるだけだよ」
「……もう一回死ぬ?」
痛いのはやだなぁ……。
「いや、本人には影響がないものさ。
言っても仮だからね」
「ならいいです」
よかったよかった。
「じゃあ、その方向でいいかな?
ちょっと手続きとかしてくるから待っててくれ」
「はい、よろしくおねがいします」
「ふふふ、ということは私とも同僚になるのね。
よろしくね」
「はい、よろしくおねがいします!
先輩!」
第1章はここまでです。
主要なキャラはおおよそ出揃った感じですかね。
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