第43話 ミニ
目の前の大きな扉が左右に開いていく。
あ、そういう開き方するんだ。
一生懸命押していた私が馬鹿みたいじゃない。
といっても、取手らしきものがなく引っ掛かりも少ない巨大な石の扉を横に引いても(たとえカギがかかっていなくても)開けられる気がしないけど。
ゴゴォォォォォォン!!!!!
ようやく開ききった所で、地下空間に轟音が鳴り響く。
扉の先は、ここまでの道のりとは対象的に非常に明るく、どことなく転生局の廊下に似ている気がした。
……長さまで。
いやいや、ここは似せなくてもいいでしょう……。
明るく照らす細い道は真っ直ぐで、突き当たりが見えない。
やっぱり『長い通路は正義』の人が絶対いるんだと思う。
ていうか、その筆頭は弥勒さまで間違いないな。
「さて。
行ってきますね……って、どうしたんですか?」
振り返ると、百代さんと一代さんが妙に引きつった顔をしている。
漫画なんかだと、たらり、と冷や汗がたれてきそうな、そんな顔。
「どう、って、言われてもだな……」
「螢子……お前さんは、なんともないのかい?」
「なんとも……?
いや、特には。
あ、もしかして、扉が開いた瞬間なんか飛んできたりしたんですか?」
だとしたら危なかった。
忍者のお二人と違って、急な対応なんてできないから。
「いや、そういうわけではないが。
……そうか、なんともないのならいいのだ」
「はぁ……、えっと、よくわからないですけど、行ってきちゃいますね。
お二人も来ますか?」
「冗談はよしておくれ。
私らはここで待っているさ」
「ああ、行って来い」
「はい、出来るだけ早く戻ってきますね」
なんだろうかこの反応。
まぁでも、怪我とかしている感じではなかったし……いっか。
気にはなるけど、ううむ。
「なるほど、螢子が特別だというのはよくわかった」
「ああ、そうさな。
あの神気の中、平然としていられるとはな……」
「はは、情けないことに震えが止まらぬ」
「私もだ……」
◇
「ちょっと、弥勒さまー?
いい加減歩きたくないんですがねー」
さすがに文句を言わずにはいられない。
インドア派の私としては、動く床くらいは用意しておいてほしいくらいだ。
「やっ、蛍子ちゃん!」
「うわぁ!?」
返事が返って来るとは思っていなかったから、完全に油断していた。
しかもこのタイミングで真後ろから声をかけてくるとか……性格悪いったらない。
「あっはっは、ごめんごめん」
「もう、ごめんじゃないですよ」
「それにしても、蛍子ちゃんこのまま一番奥まで歩くつもりだったの?
いつまで経っても呼ばれないから、どうしようかと思ったよ」
「え? 呼ぶ?」
「中に入ったら呼んでねって……あれ、書いてなかったっけ?」
「書いてないですね……」
思い出してみても、入ってからのことは一切書かれていなかったはず。
「なーんてね。
ボクも書いた覚えがないけどね!」
……この人は……。
「そう怒らないで。
お茶目なジョークじゃないか」
「……まぁ、いちいち弥勒さま相手に怒ってもしょうがないですけど」
「さ、そんなことより本題に入ろうか」
「自分で『そんなことより』って言っちゃった……」
「そうそう。
まず最初に言っておかないといけないんだけどね。
このボクは本物の弥勒ではないんだよ」
「え?」
「残留思念というか、残存思念というか。
分身、の方が近いかな?
親機に対しての子機、とか?
……例えはなんでもいいか。
なんとなくそんな感じだと思っておいてよ。
だからね――」
ぽんっ!
言い終わるなり、軽い破裂音と共に弥勒さまの姿が煙の向こうに消える。
と、同時に現れる手のひらサイズの弥勒さま(ご丁寧に羽まで生えて、宙に浮いている)
「じゃーん! こんなこともできるんだよ。
どう? かわいいでしょ?」
うーん、転生局で仕事をしている中で、大抵のことには驚かなくなっていたけど、これはさすがに想定の範囲を軽く超えていくなぁ。
さすが弥勒さまだなー……。
「えーっと……。
で、ミニ弥勒さま――ミニろくさまはここで何を?」
「流れるように略したね……」
「あ、ダメでした?」
「いやいや、この愛らしい姿に合ってていいんじゃないかな?。
「愛らしい……そ、そうですね」
「何か?」
「いえ」
「で、わざわざ私を待ってたってことは、何かあるんですか?」
「んにゃ、特に何かがあるってわけではないよ。
ボクが姿を隠すことで、きっと蛍子ちゃんが大変な事になりそうだな、と思ってね。
ここ含めて6箇所、螢子ちゃんをサポートできるように手を打っておいた、ってとこさ」
6箇所――あのアパートの部屋にあった『6つの扉』はそこに繋がっているってことか。
「ありがとうございます。
でも、大丈夫なんですか?
こうやって私に会うことで、結局見つかっちゃいませんか?」
そのためにすべての繋がりを切ったんじゃなかったのだろうか。
私をサポートしてくれるのはすごく嬉しいし心強いけど、それで弥勒さまが見つかってしまうのは本末転倒だ。
「ああ、それは大丈夫。
少なくともこの『祠』の内側は外の一切から断絶されているし、この姿にしたって本体とのリンクは切ってあるから、ここから辿ることは不可能だよ。
今ボクの本体が何をしてどこにいるか、なんてのは、このボクにはわからないのさ」
えっへん、と胸を張るミニ弥勒さま。
「それよりも今は螢子ちゃんだよ。
その腕輪……あからさまに面倒事に巻き込まれているようだねぇ」
「ああ、これですね……」
浮かぶミニ弥勒さまに向かって腕輪を突き出す。
「ミニろくさまは、これが何か知ってるんですか?」
「もちろん。
というか、そもそもこれはボクが作ったものだよ」
「そうなんで……えええー!」
おかしいなぁ。
よほどのことでは驚かなくなったつもりでいたんだけど、弥勒さまと話してると全然だ。
「だからね――」
パチンッ
「こんな風に、外すこともできる」
指を鳴らすのに合わせて、何をしても外れなかった腕輪が真っ二つに割れて外れる!
こんな簡単に……。
落ちた腕輪を拾い上げるミニろくさま。
サイズ的にちょうど腕輪二個分の大きさなので、見た目にはなんかかわいい。
表面をなでたり、向きを変えて見たりしていたけど、不意に表情が曇る。
「これは……ほんっと面倒くさい連中だなぁ」
「どうしたんですか?」
「ちょっとね……。
とりあえず、ボクが消えてから今までの話を聞かせてよ。
少し確認したいこともあるからさ」
「はい。
そうですね、どこから話したらいいかな……」
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