第31話 実験
「それじゃあ、いまから実験アル!」
不定形のためいまいちよくわからないけれど、それでもテンション上がりまくってるのが伝わってくる。
って、
「ちょ、ちょっと待ってください。
さすがに今からは……」
「螢子ちゃんは逃げないから、落ち着きなさい」
「二人とも何いってるアルか?
夜はまだまだこれからアルよ?」
時計の針は21時を指しているので、確かにまだまだと言えなくはないけど。
「今からご飯食べに行って、帰ってお風呂入って……ってしてたら、寝る時間がなくなっちゃいますって」
護身術の稽古は、いつも仕事が終わってからやることになっている。
ご飯を食べてから稽古だとさすがに気持ち悪くなるので、終わってからご飯に行くんだけど、今日はそのままここに来たのでまだ夕飯を食べられていない。
時間的に、食べないという選択肢もあるにはあるけど……体を動かした後だし空腹で倒れてしまいそうだ。
汗をかいたから、ちゃんとお風呂にも入りたいし。
そんなこんなする時間を考えたら、もう十分に遅い。
「それなら心配いらないある!
仮眠室ならたくさんあるアル!
シャワー室だって完備アルよ!」
「いや、そういうことじゃな……あー……」
なるほど、どおりで仮眠室だらけなわけだ。
さっきファラスさんが『研究バカばっかり』って言ってたけど、なんてことはない、その筆頭がファラスさんなのだ。
研究班ではそれが普通なのだろう。
「ファラス? 螢子ちゃんの都合も考えてあげないなら、この話はなかったことに……」
「むぅ……しょうがないアルね……」
ひとまず、週に2回、仕事終わりにミルティ先輩と一緒に立ち寄る、ということで落ち着いた。
「ミル、お前は来なくていいアルよ?」
「あのね。
ファラスと螢子ちゃん二人にさせたら、何するかわかったものじゃないでしょう?」
「なにを言うアルか!
いたって普通のことしかしないアル!
安心するアル!」
普通……普通かぁ……。
……ここの『普通』をさっき見たばかりなので、とてもじゃないけど安心できそうにないなぁ……。
「そうそう、もう一つ」
さて帰ろう、とドアをくぐりかけた時、ふとミルティ先輩が立ち止まる。
「ん? 人払いアルか?
それなら、問題ないアルヨ。
というか今日も完璧にやってあるアル!」
ん? 人払い?
「どういうことですか?」
「共同研究をするにあたってね。
螢子ちゃんの身の安全を守るために、人払いの結界を張ってもらうことになっているのよ。
できるだけ、ここで研究をしていることは秘密にしておきたいから。
ほら、この間も襲撃があったでしょ?」
「そういえば……」
『研究バカ』で『仮眠室に住んじゃう』くらいの人たちだというのに、ここに来てから誰一人として顔を合わせていない。
人払いの結界、か。
そんなことまで気を回してくれるなんて、いつもいつもミルティ先輩にはお世話になりっぱなしだ。
翌日。
どうしても! とのファラスさんの要望により、ご飯会の予定を変更して研究班へやってきていた。
「待ってたアル!
来なかったらどうしようかと思ってたアル!」
入るなり飛びついてくるファラスさん。
傍から見たら、ただ雲がまとわりついているだけにしか見えないけれど。
こうして『触れ』ることができるのは、なんだか面白い。
「お約束しましたからね。
今日からよろしくおねがいします」
「こちらこそヨロシクアル!」
◇
真っ暗で何も見えないせいで、つい思い出に浸ってしまった。
拉致した『能力課』の人も、すぐに何かしらしようという感じでもなかったし。
しかし、そうか。
もうあれから1年も経つんだ。
その間、ファラスさんとミルティ先輩とは本当に色々な実験をした。
ついぞ眼のレベルアップ条件はわからなかったけれど。
新しいスキルの開発や、体への負担を軽減する方法など、たくさんのことがわかった。
その中の一つに『紫翡翠の眼の力が発動するための条件』があり、それがこの『拉致犯』に漏れてしまったみたいだけど。
真っ暗になってから、結構な時間が経った、と思う。
暗闇っていうのは時間の感覚がおかしくなるので、なんとも言えないけど。
視界を奪ったことで犯人は満足したみたいで、ちょっと前にどこかへ行ってしまった。
全然使いこなせていないとはいえ、元々は弥勒さまの力。
どこまでの情報を見たのかはわからないけれど、ちょっと紫翡翠の眼を軽く見すぎじゃないだろうか。
目が見えていることと、眼の力を使うことは、必ずしも同じ意味ではない。
見えていなくても使えるスキルだってあるのだ。
それに。
今日は、週に2回のファラスさんとの実験日。
最近ではすっかり仲良くなったので、今日みたくミルティ先輩抜きになる日もあるが、連絡なしで『すっぽかした』ことは一度もない。
これだけ時間に遅れても連絡がなければ、何かしら動いてくれるはず。
『ホタルコ!?
どうしたアルか?
もう、いつもの時間から30分も過ぎているアルよ!?』
あまりにも狙ったかのようなタイミングで頭の中に響いた声に、思わず笑いがこぼれそうになる。
『ごめんなさい、ちょっと拉致られちゃいまして』
心の中で返事をする。
そういえば、最初に拉致られたときも、こんな風に弥勒さまと心の中で話をしたなぁ……。
弥勒さま、元気にしてるかな?
『拉致、って……スキル使わなかったアルか?』
『使う間もなく、って感じですね。
というか、今、視界を封じられてしまって真っ暗なんですよ。
どうやら能力課の職員っぽくて、少しは詳しいみたいです』
『データを見られたアルか……かなり厳重にロックをかけていたアルのに……』
『それなりのスキルを持った人がいるんでしょう』
『すまないアル』
『気にしないでください、悪いのはあいつらです。
それに、こうして連絡してきてくれたおかげで、対策もとれますし』
『そうアルね!
ミルも呼び出して、助けに行くアル!』
『ありがとうございます!!』
さぁ、反撃開始だ。
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