第2話 ミルティ
新連載第2話です。
プロローグからありますので、よかったら!
毎週月曜日更新です♪(暫くの間は木曜も更新予定です)
「はい、番号札お預かりしますね」
さっきのうさぎが言っていた通り、呼ばれたカウンターは目の前だった。
よかった。
見えないほど遠い所だったらどうしようかと思っていた所だ。
カウンターの向こうに座っていたのは、至って普通の人間……に見えた。
黒髪ロングで眼鏡の似合う美人さん。
猫耳人間やらリザードマンやら喋るうさぎやら、そんなのばかりが目に入っていたので少し拍子抜けした。
「えーっと、さっき通りすがりのうさぎに聞いたのですが。
ここって死後の世界なんですか?」
「ええ、そうよ。
あなたは、残念ですが……一度死んでしまったの」
「なるほど……」
やっぱりそうか。
しかし。
そうとなると、ここは結局何をする所なんだろうか。
「『死後の世界』って、閻魔さまがいて、現世の罪を……とかってやつだと思ってました」
「あなた日本人?」
「そうです。
って、日本を知ってるんですか?」
「ええ。
私、地球担当なの。
なので、いろんな文化圏での死生観を知ってるのよ」
「なるほど」
「それで。
えっと、閻魔さまはいないとして。
ここで何をするんです?」
「その件だけど、まず一つだけ訂正を」
「訂正?」
「ええ、ここは『あなたがいた世界』ではないけれど、厳密に言うと『死後の世界』とも違うの。
正式名称を『異世界転生管理局』といってね。
不慮の事故等で死んでしまった方を異世界へ転生させる場所なのよ」
異世界転生……って、小説なんかでよく見かける、あれ?
え? なに? 私がそれに選ばれたの??
「でも私、至って普通ですよ……?」
「ふふ、異世界転生される人自体に特別な能力は必要ないわ。
転生の際に付与するから『適正』さえあれば大丈夫」
「はぁ、そういうもんなんですねー」
「ここでは、『各世界の適正者』『付与する能力』『転生先』を管理しているのよ」
「つまり、私はその『適正者』だ、と」
「そう。
適正者が早くに死亡した際、ここへ自動的に転送されてくることになっているの」
「『早くに』ってことは、年齢制限があるんですか?」
「基本的には、だけどね。
例外もあるにはあけど、まぁあなたの場合は関係ないのでいいでしょ」
「ふむ、確かに」
もうちょっと聞いてみたかったけど。
「それでは、このパネルの上に手を乗せてもらえる?」
受付の方が出してきたのは、きれいな翡翠色の薄いプレートだった。
言われるがまま手を乗せる。
表面がすべすべしていて、ひんやり気持ちいい。
ボゥ……
しばらく手を乗せていると、ぼんやりと光り始める。
プレートと同じく、淡い緑色の光。
きれい……。
「そのまま、手を乗せておいてね」
カウンターの向こうでは、受付さんがパソコンのキーボードらしきものをカタカタと叩いている。
……そういえば名前聞いてないな。
名札には……読めない。
ヒエログリフ、だっけ?
なんかそんな感じのイラストっぽい文字が5個並んでる。
……たぶん、文字だと思うけど……。
「あの」
「はい?」
「お名前、聞いてもいいですか?」
「あら、言ってなかったかしら」
「はい。
あと、その名札の文字? も読めなくて……」
「ああ。
これ地球の文字ではないからね。
おほん、失礼いたしました。
改めまして、私。
今回担当します『ミルギリス・ティルディリス・フラリリス・ルナス・ファルセリス』と申します。
お気軽にミルティとお呼びくださいませ」
「長っ!
って、文字数おかしくないですか!?」
名札には5文字しか書いてない!
「1文字で1音節なのよ、この文字」
「おお、なんというか、すごいですね……」
「ふふふ、日本語とは全然違うからねー」
「ですねぇ。
あ、私は――」
「桜坂螢子さん、ね」
「はい」
あれ?
名前なんて言ったっけ?
「このプレートに手を乗せてもらうと、パーソナル情報が見られるのよ」
「え!?」
死後の世界には個人情報保護法は存在しないのか……。
「ふふふ、そんな顔しないで。
名前と能力適正などが見られるだけだから。
それをもとにリストと照合するのよ」
「はぁ、なるほど。
それならば、まぁしょうがないですね」
一瞬、閻魔様が持っている鏡(現世での出来事が見られるとかなんとか)なイメージが頭をよぎったので少しホッとした。
「あ、身体情報と健康状態もだわ」
「へ~、すごいで……いや、転生って新しい世界に生まれ直すんですよね??
今がとうか、なんていらなくないです!?」
どうせリセットされるんだよね?
「ほうほう、桜坂さん……」
「な、なんでしょう!?」
「意外とスタイルいいのね」
私の訴えなどお構いなしに、ミルティさんがにっこり笑ってそんなことを……
「ちょ、ちょっと!?」
身体情報ってそういうものも見られてるの!?
何そのセクハラシステム!
「な~んて、冗談よ。
身体情報は出ません」
「び、びっくりしました」
あんまり冗談とか言わなさそうに見えたのに、意外と意地悪なのかもしれない。
「桜坂さんが言ったとおり、転生後は新しい世界に生まれ直すので、記憶以外の引き継ぎは行われないわ。
ああ、でも。
|死してなお消えないタイプの呪い《・・・・・・・・・・・・・・・》がないかは確認するけど」
「呪い……ですか」
「呪いを新しい世界に持っていかれては困るので」
またまたー、って言いたい所だけど。
さっきの冗談とは違って妙な説得力があった。
きっと本当なんだろう。
「それと。
『特殊な能力』があればそれもわかるわ」
「……」
「桜坂さん――面白い『眼』を持っているのね」
「……ろくなもんじゃないですよ。
それは……呪いじゃ、ないんですか?」
「とんでもない。
むしろ恩恵よ」
「……恩恵なんて、なかったですけどね……」
その時だった。
手を乗せていた翡翠のプレートが突然赤い光を出し始めた。
最初はうっすら赤く、それがだんだんと強くなっていき、最後は手のひらの下から漏れ出ている分だけでも眼に痛いくらいだった。
ヴィーッ!!ヴィーッ!!!ヴィーッ!!!!
さらに警報音まで鳴り出した。
「な、なにこれ!?
どういうことなの!?」
「な、なにかまずいことでも!?」
さっきまで冷静ににこやかにお話してくれていたミルティさんが、一気に慌てた表情に変わる。
「と、とりあえず!
一旦、手を離してもらえる?!」
「は、はいっ!」
言われれるがまま、翡翠のプレートに触れていた手を引っ込める。
それと同時に警報音もおさまった。
赤く光るのは変わらないけど、とりあえず目を開けていられるくらいにはなったかな。
「えーっと……」
それから。
ミルティさんが機械と格闘すること30分。
ようやく赤い光が消え、元のきれいな翡翠色のプレートに戻っていた。
「桜坂さん、まっことに言いづらいんだけど。
どうやら転生候補者リストに名前が載っていないみたい……」
「……はい?!」
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