第17話 転移局体験
翌朝、目が覚めて外を見ると雲ひとつない快晴。
夏真っ盛り、といった感じだ。
そういえば夏休みがあるか聞くのを忘れていた。
転移局体験が終わったら改めて聞いてみよう。
「よし、行きますか」
朝ごはんを食べて出勤。
宿舎の部屋を出て、いつもの廊下を歩く。
T字路をいつもと逆の右へ。
いつもは気にせず左へ曲がっていたけど、右に行くと転移局になっているらしい。
「おはようございます」
「お! 来たわねホタルコ!!」
扉を開けると、眼の前にフーちゃん局長が腰に手を当てた仁王立ちで待ち構えていた。
この間もこのポーズだったけど、好きなんだろうか。
まぁ似合ってるし可愛いからいいけど。
「今日はとりあえずここでの仕事を覚えてもらうわ!
といっても、難しいことはなんにもないから安心してちょうだい!」
「はい」
「細かいことはこいつに頼んであるから、なにかあったら何でも聞いてちょうだい。
じゃ、私は行くから! またね!」
そう言うだけ言って、フーちゃん局長は行ってしまった。
あれで局長だしね、きっと忙しいんだろう。
「えと、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくていいですよ?」
フーちゃん局長から『こいつ』と言われていた方は、ものすごい美形だった。
男の人? だよね、たぶん。
中性的で整った顔立ち、サラサラの金髪で目もきれいな青色、背は高くて……耳が長い!?
「エルフ!?」
「あれ、よくご存知ですね。
確か地球にはいない種族だと思いましたが」
「物語の中にはよく出てくるんです」
「なるほど……我が同胞が過去に転移したことがあるのかもしれないですね」
この超絶美形のエルフさんは、クレィァメントフィツルスドゥルフさんという発音するだけで舌を噛みそうなお名前だった。
「『クレィ』と呼んでください」
とのことなので、遠慮なくそう呼ばせてもらうことにした。
「では早速、こちらでの業務について説明させて頂きますね」
転生局と転移局の業務の大きな違いは、簡単に言ってしまうと対象となる人が『生きている』か『死んでいるか』だと言えるだろう。
『生きたまま別の世界に連れて行く』には、元の世界での整合性を取らないといけないため、色んな手続きが必要なのだとか。
死んだ人間がその世界にいないことは普通だけど、生きた人間が突然いなくなる、というのはやはり問題が起こりやすいらしい。
じゃあ、あまり世間と関わりがなく、いなくなっても周りに影響の少ない人を選べばいいのでは? と思うのだけど、そう簡単なものでもないようだ。
誰でもいいってわけにもいかないだろうし、そりゃそうなのかもしれない。
そういうわけだから、そもそもの業務の流れからして全く違う。
・調査・調整課から上がってきたリストから、諸々の条件を吟味して次に転移させる候補者を選ぶ。
・転移官が候補者と接触、交渉。
・本人の同意が得られ次第、能力付与を行い転移させる(付与する能力は適正に合わせるが、基本的に本人の希望を反映する)。
・事後処理を行う。
という感じ。
クレィさんは『オペレーター』で、候補者選定と事後処理が担当。
実働は『転移官』と呼ばれる人たちで、原則『天界』出身者でなければいけないらしい。
そうそう、あともう一つ。
手続きとは別に大きく異なっていることがあって、
「転移の場合、転生よりは状況が逼迫している事が多いんだ」
「すぐに活躍できるからですか?」
「そう。
どうしても転生だと、ある程度の年齢に達するまで時間がかかるし、そもそもの問題としてこちらの望むタイミングで転生局にやってくるとは限らないからね。
逆に、生まれ直す転生と違って世界に馴染むのに時間がかかる、って欠点もあるんだけどね」
「なるほど」
それぞれに得意不得意があって、うまいこと棲み分けがされている感じだ。
フーちゃん局長も、うちのもふもふ局長に対抗することもなさそうだけどなぁ。
「じゃあ、早速で悪いんだけどこれを見てもらえるかい?」
クレィさんが映し出した画面を覗き込む。
転移候補者のプロフィールが映し出されている。
『クランド・ディスフェルズ。
いわゆる『引きこもり』と言われる人で、しかし頭の回転はとてつもなく早い天才肌。
世界との関わりを極端に嫌うが、自殺願望があるわけではない。
コミュニケーション力は低いが、研究をする分には困らないだろう。
魔導適正が非常に高く、その能力から新たな理論の構築が可能と思われる。
停滞し、滅びに向かおうとしている文明を救うことができるのではないか』
他にも細かいデータがびっしり並んでいる。
……これ、私の手伝いなんていらないんじゃ?
念の為『視』てみるけど。
「どうですか?」
「んー……もう、このまんまですね。
特に私が言うことはなにもないです」
転生局では適正者が送り込まれてくるタイミングをこっちで選ぶことはできなかったけど、ここではじっくり吟味してから交渉に入るために、情報の精度も濃さも全く違う。
私の『眼』で見た所で、ほぼ情報に狂いはなかったし、じっくり見ない限りは気づかないような細かい点まで網羅されていた(データにあるので見てみたら本当にそうだった、っていうのがいくつかあった)。
そう考えると、私の――紫翡翠の眼の適正は転生局のかもしれない。
まぁ、最初の一人だけ、の可能性もあるのでもうちょっと様子を見てみるかな。
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