第16話 スカウト大作戦
「え?」
「だーかーらー。
転移局へ転属しなさい、ってのよ!
異動よ異動!!」
嵐のようにやってきたと思ったら、突然の異動宣言。
これって――
「もしかして転属辞令でも出たんですか?
でも私、そもそもがイレギュラーな臨時採用だったはずでは……?」
最近すっかり馴染んでしまって忘れがちだけど、元はと言えば私はこちら側の人間じゃない。
本来は『転生適正』を持った人間で、転生『される』側なのだ。
それが何故か『転生者リスト』から漏れてるわ、事情を知ってそうな『天界』へ問い合わせてもゴタゴタしてて(弥勒さまがフラフラしてるせいで!)返答がないわ、で、やむなく臨時職員をやっているだけに過ぎない。
そんな私に転属辞令?
「違うわよ!
辞令じゃなくて、スカウト!」
「スカウト??」
「そう!
ここんとこ、そこのもふもふが急に成績がよくなって、なにかと思ったら『紫翡翠の目』の持ち主を囲ってるっていうじゃない!
ズルよズル!
聞けば臨時職員だっていうし、だったら転生局である必要はないでしょう!?
もふもふなんかより良い待遇を約束するわよ!!」
「なるほど……」
「ちょ、ちょっと螢子くん!?
まさか、誘いに乗るつもりじゃないだろうね!?」
確かに、ちびっ子局長の言うことも一理ある。
臨時職員として働くのであれば、別に転生局にこだわる必要はない。
天界のゴタゴタはしばらく収まる気配もないし、状況がわかり次第連絡してもらえばいいわけだ。
とはいえ、ミルティ先輩やラビエン局長と一緒に働くのは楽しい。
既に半年くらいは働いて人間(?)関係ができあがっているわけだし、新しい所でやり直すのもめんどくさい。
それに。
ちびっ子フーちゃんは可愛いけど、あの人の下で働くのは疲れそうだよなぁ……。
「えっと……スカウトってことは、断ってもいいんですよね?」
「そうだけど……なんで!?
もふもふに弱みでも握られてるの!?」
「いえ、単にめんどくさいってだけで……」
「なにその理由!!」
そうは言うけど、現状不満がないのだ。
いつまでここにいるかもわからないし、いろんな所に行ってもめんどくさいじゃない。
「じゃ、じゃあせめて3日だけでも体験! ってことでどう!?」
「フランちゃん……転移局のルールは『スカウトを断られたら潔く引く』じゃなかったのかい?」
「ぐ……」
なおも食い下がるフーちゃん局長をもふもふ局長がたしなめる。
すごいほのぼのとした絵面だなぁ。
「あの……なぜそこまで私にこだわるんですか?」
「そうだよ。
ついこの間、学校を主席で卒業した子が入ったばかりじゃないか?」
「あの子は……ちょっとスランプで。
って、それは関係なくて。
紫翡翠の目持ちなんて、私じゃなくてもスカウトに来るわよ」
「そんなにすごいものでもないですよー?」
相手の適正が見えるだけなんて、言うほどのものじゃないと思うんだけど。
もっとレベルアップすれば少しは違うのかもしれないけど。
「はぁ!?
ホタルコ、あなた何言ってんの?
紫翡翠の目って言ったら、弥勒さまの失われたスキルの1つじゃない!?」
「え?
ええええええええええ!?」
弥勒さまの力!?
なにそれ!? 本人からは何も聞いてない!
「……フランちゃん、どういうことだい?
ボクもそんな話は聞いたことないよ?」
「なんであんたが知らないのよ!?
600年前の! 天界大争乱!」
「んー……600年前だとボクがまだ地球で隣家の主とバトってた頃だねぇ」
「……ああ、そういえば転生組だったわね。
まぁ、私だって当時は子供だったし、詳しい話は教科書で見た程度だけど」
一気に重要ワードが飛び出てきて頭が追いつかない。
「あの、話が見えなさすぎるので、一つずつ教えてもらえませんか?」
◇
フーちゃん局長の話によると、こうだ。
天界大争乱。
言ってしまえば単なるお家騒動なんだけど、ただ、その『お家』が問題だった。
なんといっても、天界で一番偉いお家だったのだから。
天界の仕組みは、いわゆる王政と議会制の合いの子といった感じ。
天界王をトップに、50の貴族(これは定期的に入れ替えられるらしい)から選出された貴族院による合議制。
トップに権力が集中するわけではないけれど、それでもやはり王と貴族の間には明確な権力差があった。
とはいえ天界人は非常に長命なこともあり、ずっと同じ天界王が治めていて、問題らしい問題も起こらなかった。
……んだけど、その天界王がある日突然引退を宣言し――行方をくらませた。
それが600年前。
普段、あまり権力に執着のない貴族だったけれど(定期的な入れ替えを受け入れるくらいだしね)、『王』となると話は別だったらしく。
上へ下への大騒ぎだったそうだ。
どうあっても騒動が収まりそうにない、となった所で駆り出されたのが我らが弥勒さま。
どこにいっても結局最後は『神頼み』なんだなぁ……。
結果として、弥勒さまの手によって争乱は終わったんだけど、その時に7つのスキルが盗まれた。
今では『争乱の目的=スキルを盗むことだったのでは?』という説まであるくらい見事な手際だったそうだ。
「で、そのうちの一つが私の紫翡翠の眼ってことですか」
「ええ、そうよ。
どう? 重要性がわかった?」
「実感は全くないですけど……」
それにしても。
弥勒さまはなんでその話をしてくれないんだろうか?
言ったからって何が困るわけでもないだろうし、返してほしい、っていうならすぐにでも返すのに。
「この間の局長級ミーティングで、そこのもふもふがホタルコのことを話したものだから、今あなたは注目の的なのよ?」
「う……すまない、螢子くん。
まさかそんなことだとはつゆ知らず……」
「ほんと、迂闊よね」
「いえ、知らなかったものは仕方がないです……」
「うちはここと違って対面業務じゃないから、裏方に匿ってあげられるわよ?」
ふむ……。
「フーちゃん局長。
さっきの体験の話ですけど、お受けします」
「え!?
ほんと!!」
文字通りフーちゃんが飛び上がって喜んでいる。
ふわふわのフリルが舞う様子はとても愛らしい。
……さっき、600年前から生きているような話を聞いた気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
「ちょ、ちょっと螢子くん!?
さっきは『行かない』って言ってたじゃないか!」
逆にうちの局長は目を丸くして(元々丸いけど)驚いている。
「ええ、ですから『転属』ではなくて『体験』です。
いちいちスカウトの人を断るのもめんどくさいので、その間匿ってもらってきます。
なので、追い払うのはお願いします」
題して『いない間になんとかしてもらおう作戦』!!
「えーっと、つまり面倒ごとは任せる、ってことだね……?」
「いやいやー、違いますよー?
頼りになるもふも……ラビエン局長だから安心できるんですよー?」
「……こういう時だけちゃんと名前を呼ぶんだな……しかも、普通に『もふもふ』って言いかけてるし……」
細かいことは気にしない方向でお願いします。
「ま、様子を見ながらってことで、1週間くらいでいいわよね?
「さり気なく日数を伸ばさないでください」
さっきは3日って言ってたのに。
「でも、『匿う』ってのが目的なら3日じゃ短いんじゃない?」
う、確かにそうかも。
「じゃあ、その方向で」
「おっけー!
ふっふっふ、その1週間のうちに『転移局の方がいい!』って言わせてみせるわ!!」
「あー、まぁ、そうですねぇ……」
転属する気はさらさらないけど。
「覚悟してなさい! もふもふ!
このままホタルコはうちの子にしちゃうんだから!!」
ビシィッ! っとちびっ子がもふもふを指差す。
なんというか、どうにも緊迫感がなくなるな、この二人。
「あとはよろしくお願いします。
ミルティ先輩にも、迷惑かけてすいません、て言っておいてください」
「早く帰ってこれるようにこっちはなんとかしておくよ」
「頼りにしてます」
「そう言っていられるのも今のうちよ!
おーっほっほっほ!」
リアルな高笑いなんて初めて聞いたなぁ、と思いながら会議室を後にしたのだった。
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