第15話 属性盛り合わせ
「おはようございまーす」
よし、今日もがんばろう……ん?
珍しくちょっとやる気を出して職場に来たら、なんだか騒がしい。
バンッ!
うわっ、びっくりした。
ちょっと離れた所から机を叩く大きな音が聞こえた。
またこないだの金髪にーちゃんみたいな人が暴れてるんだろうか?
「あ、螢子ちゃん、おはよう」
「おはようございます、ミルティ先輩。
また暴れてる人でもいるんですか?」
「それがねぇ……」
「だーかーらー!
ホタルコ、ってのを出せって言ってんのよ!!」
「へ?
私!?」
何故か私の名前を呼ぶその声に、思わず大きな声を出してしまう。
それがまたちょうど静かになった瞬間に重なったものだから、とても良く響いたのだった……。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静まりかえる。
と、思ったら、何かが近づいてくる気配。
「止まってください!」との静止の声もちらほら聞こえるが、お構いなしのようだ。
バンッ!
「あんたが『ホタルコ』ね!?」
はたして、勢いよく現れたちっちゃな女の子が、カウンター越しに仁王立ちでこちらを指差したのだった。
いわゆる『萌えアニメ』と呼ばれるものがある。
ジャンルやストーリーは様々であるが、共通しているのは出てくる女の子たちにありとあらゆる『可愛い』が詰め込まれている所だろう。
『ホタルコ』なる人物(まぁ私のことだろうけど)を探してやってきたその子は、まさにソレだった。
背丈は140cmくらい。
フリルてんこ盛りの白と黒のゴスロリ衣装に金髪ツインテール、加えて髪と同じ金色の狐耳とフサフサのしっぽまで生えている。
目元はキッとツリ上がっているが、それがより可愛らしさを際立たせている。
その上、声は脳を蕩けさせるようなハイトーンボイス。
これで魔法のステッキをもたせたら、変身魔法少女として日曜朝の女の子向けアニメに出てきてもおかしくない。
持って帰って床の間に飾って置きたいくらいだ。
しかし……ちょっと属性盛りすぎじゃないだろうか。
「ふむ……なるほど、確かにあんたが『ホタルコ』で間違いなさそうね?」
じっ、と顔を覗き込まれる。
あ、まつげも長い。
「えーっと、どちら様?
私、お嬢ちゃんとは会ったことがないと思うんだけど?」
「はんっ、あんた私のこと知らないなんてモグリね!
いーい?
よく聞きなさいよ! 私は――」
「転移局局長のフラン、だよ」
「出たなもふもふ!
いつもいつも私の邪魔ばっかりしてーー!!」
「あっはっは!
フランちゃんはいつも元気だね~」
「フランちゃん言うなー!!!」
横からラビエン局長が割って入ってきて……もう収集がつかない。
なんだこれ。
ロリっ子とうさぎの取っ組み合いのケンカって、シュールすぎる……。
「あの、局長?」
「なによ?」
「なんだい?」
……ああ、両方局長なのか。
局長になる人はめんどくさい人じゃないといけないルールでもあるんだろうか……。
「えーっと、とりあえずもふもふした方の局長はちょっと黙っててもらえます?
で、ちびっ子局長の方は落ち着いて用件を話してください」
「ちょっと! 螢子くん、ボクの扱いが雑すぎやしないかい?」
「誰がちびっ子かー!」
ああもう!
バンッッッ!!!
「いいから!!!
話が進まないでしょう!!」
「あ、はい、すまない……」
「ひっ!ごめんなさいっ!!」
うーん、今日の被害者? はこの机クンだな。
あとで丁寧に拭き掃除をしてあげよう。
「ちょっとちょっと、あんたんとこの部下凶暴すぎない?
ちゃんと躾けておきなさいよ」
「いやー、彼女怒るとあんなに怖いんだねぇ」
あのね……もう少しヒソヒソ話す努力くらいしましょうよ。
丸聞こえですよ……。
◇
「改めて自己紹介をするわね!」
会議室に場所を移して開口一番。
ちびっ子局長が扉を背に高らかに宣言をする。
腰に手を当てて『えっへん』としたポーズがとても良く似合っている。
「異世界転移局局長フ・ラ・ンよ!
“ラ”の称号を与えられし、天界50貴族が一つ”ン”家の正当後継者よ。
特別に『偉大なるフ局長』と呼ぶことを許可するわ!
間違っても、そこのもふもふみたいに『フラン』なんて続けて呼ばないことね!!」
名札には見ると、ミミズののたくったような文字がびっしりと書かれている。
けど……確かに「フ」とだけ読める。
なるほど、ミルティ先輩と逆パターンか。
テストの時大変そうだなぁ。
「はぁ。
それで、そのフーちゃん局長がなんのご用事で?」
「ちゃん!?
あんたね……ひぃっ!」
……ちょっと机を叩く仕草をしただけでそこまで怖がらないでほしい(自分だってやってたクセに)。
おかしいなぁ、私そんなに怖くないと思うんだけど。
「螢子くんは表情を変えずにやるから――怖いよねぇ」
その、タップリためて言うのやめてもらえませんかね?
地味に傷つくんですけど。
「あーもう、話が進まないからいい加減にしてください。
用がないなら帰ってもらえます?
私こう見えて忙しいんですよ?」
「あのねぇ!
仮にも私は局ちょ……わかった!わかったから!」
涙目のちびっ子を見ながらそっと振り上げた平手を戻す。
だんだん楽しくなってきたな。
ミルティ先輩のことSっ気強いと思ってたけど、人のこと言えない。
そして、この子あれだ。
ツンツンしてるようでただのヘタレだ。
「単刀直入に言うわ!
ホタルコ、あなた転移局に来なさい!」
脳内ボイスは釘宮理恵さまで★
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