第12話 ご褒美
「じゃ、気をつけて行ってきてね~」
「お疲れ様でした」
「うっす!頑張るっす!」
今日3人目の転生者を見送る。
きっと彼はいい錬金術師になることだろう。
ミルティ先輩とペアを組むようになって1ヶ月。
最初はやっぱり戸惑うことも多かったけど、少しずつ慣れてきた。
慣れてきてわかったことは、翡翠のプレートで見られる情報に意外と抜けや間違いが多い、ってこと。
私の『眼』と同じように、魔法的な何かだと思ってたんだけどそういうものではないんだそうだ。
全く魔法的なものが使われていないわけじゃないんだけど、情報を呼び出すのに使われているだけで、呼び出された情報自体は調査課で調べた内容に天界でコメントを付け足したもの、なんだとか。
思った以上にアナログ……。
だから、私の『眼』のように『見通す』ことはできないので、人によっては表面上の内容で終わってしまうことも多いみたい。
そのせい? で、最近では『スライム』や『剣』や『杖』、果ては『温泉の水』へ転生することもあるらしい。
……なんだかんだで1日に数人×カウンター数の転生者がいるわけだから、一人ひとりじっくりやってられないのはわかるんだけど。
もう少し精査してあげてほしいな、と転生予定者な私としては思う……まぁ本人が納得しているんならいいけど。
そう言う意味では『眼』を使って細かくフォローしてあげられるのはいいことなんだろう。
「螢子ちゃん、休憩しましょうか」
「はーい」
「頭痛は大丈夫?」
「そうですね、今の所は」
『眼』を連続で酷使し続けると頭痛がするのは変わらずだ。
だいぶ使い慣れてきたので、こまめに休憩をしていれば大丈夫なんだけど。
「すみません、私のせいで業務が遅れちゃってますよね」
「あら、そんなこと気にしてたの?
大丈夫よ。
逆に質は上がっているから。
局長も『量より質だからね!!!』って言ってたもの」
バラを片手にドヤ顔をしているラビエン局長の顔が浮かぶ。
……うん、可愛い。
じゃ、なくて。
「でも、質がどうかなんてわかるものなんですか?」
「え?わかるわよ?
……あれ、言ってなかったかしら?
転生後に彼らがどう活躍するか、って天界の方で追跡調査するのよ。
で、その結果が局長の成績になるの」
「へぇー。
って、でもまだ1ヶ月ですよね?
『転生』は『転移』と違うから、まだ生まれたての赤ん坊なのでは……?」
「天界の中には『予知』に近い能力を持った人がいてね。
といっても、よく当たる占い、くらいなものなんだけど。
その予知によって得られた結果がどの程度変わるか、で判断するみたい」
「なるほど……」
「能力の発現状況と相性、も見るらしいがね!
なんにせよ、ボクの成績はうさぎ登り……もとい、うなぎ登りというわけだ!」
「あ、局長。
お疲れ様です」
気がつくと、カウンターの上で局長がポーズを取っていた。
今日は、紫のバラなんだ。
「お、おう、お疲れ様……。
むぅ……螢子くん、最近リアクションが小さくないかね?」
「もう慣れましたので」
「……ミルティくん、君の後輩はなんというか……少し冷めてないか??」
「局長がふざけすぎてるだけです」
「……ま、まぁそういう意見もないことはないな」
「はいはい」
「まぁ、そんなわけでだ。
君のおかげで天界からお褒めの言葉を頂いたよ。
ありがとう螢子くん」
ポーズをときながら持っていたバラを鼻先に差し出してくる。
「いい匂いですね、これ……」
紫のバラってなんだか不思議な色。
確か花言葉は……「誇り」「気品」「尊敬」「エレガント」とかそんな感じだったはず。
「君の働きに敬意を表して、今日は紫にしてみたよ」
「ありがとうございます」
「それとな。
さすがにそれだけではカッコつかないのでな。
何かご褒美をあげようと思って。
ボクにできる範囲でなら、なんでも言ってごらん?」
「え……!?
なん……でも…………!?」
「や!ま、まて!!!
な、なんでも、とはいっても、げ、限度はあるぞ!!!」
「えーーーー、言って即撤回とかカッコ悪い!!
別に変なことを言わないですよー!?」
「ほ、本当だろうな!?
目が怖いぞ、目が!!」
じりじりと後ずさる局長だけど。
狭いカウンターの上だ。
すぐに行き詰まる。
「思う存分もふもふさせてください!!!」
◇
ああ、なんて至福の時間だったんだろう。
柔らかい毛並み、適度に押し返してくる弾力。
いつまで触っていても全く飽きない心地よさ。
ここが天国だったのか……。
「も、もう、オムコに行けない……」
「局長……えっと、その……。
今後、蛍子ちゃんに『なんでも』は禁句ですね……」
「……うむ……」
「まさか……5時間も触り続けるなんて……恐ろしい子」
「局長!
私、もっともっとがんばりますね!!!!!!」
「た、頼んだよ……はは、はははは……」
いつも応援ありがとうございます。
紫のバラの人、ならぬ、うさぎでした(笑)
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