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【完結】こちら異世界転生管理局  作者: ただみかえで
第2章 転生業務は苦労がいっぱい
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第10話 レベルアップ

「おはようございまーす!」

 翌朝。

 残ったらヤダなぁ……と思っていた頭痛もすっかりよくなり、元気に出勤である。

「おはよう、蛍子ちゃん。

 もう大丈夫?」

「おはようございますミルティ先輩。

 頭痛やらなんやらはもうすっかり大丈夫です。

 結局のところ、何も変わってはないんですけど」

 弥勒さまと出会ったことで、何かが変わればよかったんだけど。

 置き土産のような頭痛も消えたし、新しい何かを思い出すこともなかったし。

 通常営業に戻ったわけだ。


「ほんと、あのまま戻ってくれればよかったのにね」

「ですねぇ……。

 次はいつになるのやら、です」

「私としては、このまま螢子ちゃんにいてもらいたいから戻ってこなくてもいいけど」

「えー!

 先輩酷いですよー!」

「なーんて、ウソよ。

 あ、このままいて欲しい、ってのは本当だけどね」

 ぱちんとウィンク。

 うん、私もここが気に入ったし、このままいたいという気持ちは同じだ。

「ここに残るかどうかはともかく。

 この、よくわからないまま(・・・・・・・・・)、ってのは気持ち悪いので」

「何があったのかくらいは知りたいわね」

「はい」


 よっし。

 今日もお仕事頑張りま――


ガタッ!!

ドンッ!!!!

「んだとこの野郎!!!」


「うわわ、何事ですか?」

 いつもどおりにお仕事しよう、と椅子に座りかけた時、突然隣から大きな音と怒鳴り声が聞こえてきた。

 そっと覗き込むと、特に慌てた様子のないミルティ先輩の背中と、カウンターの向こう側で顔を真っ赤にしたチンピラっぽい金髪のおにーちゃんが見えた。

 顔立ちだけ見ると、日本人ぽいなぁ…。


「あらあら、野郎だなんて、こんな美人を捕まえて何を言うのかしら?」

「そーいうことじゃねーよ!!!

 転生ってなんだそりゃ!

 俺が死んだ!? ワケわかんねーこと言ってねーで、とっとと帰らせろよ!!!」

「ごめんねボク?

 信じられないかもしれないけど、あなたは死んでしまったの。

 だから……帰ることはできないのよ」

「て、てめぇ!!!

 なめてんのか!!!」

 もう、ミルティ先輩ってばわざわざ煽るような言い方して。

 そんなんじゃ……あ、やっぱり。

 真っ赤を通り越して赤黒くなった顔になった金髪のにーちゃんが拳を振りかぶる。


ガイーーーーン!!!


「いっっっってええええええ!!!」

 ただ、その拳は届くことはなく、見えない壁に阻まれてしまった。

「あ、ごめんなさい。

 言ってなかったけど、あなた方から私たちへは危害を加えることができないようになっているのよ」

 あー、楽しそうにしてる……。

 一緒に働いてわかったけど、ミルティ先輩って結構Sっ気あるんだよなぁ……。


 初日にラビエン(もふもふ)局長から説明された話では、どうやらこういったトラブルはそこまで珍しいものでもないらしい。

 むしろ、私みたく死んだことをすぐに受け入れられる方がよっぽどレアケースだ、って。

 とは言っても、暴れるほどってのはそうそうなくて、私も遭遇したのは今回が初めてだった。


 で、そういった時に私たちを守ってくれるのが『見えない壁』だ。

 ……イメージはすごく悪いけど、囚人との面会の時に透明なガラス越しに話している感じ、と言ったらわかりやすいかな。

 ただ、常に壁があるわけえはなく、|害意がない限りは遮ることがない《・・・・・・・・・・・・・・・》という魔法のような……じゃない、まさに魔法の装置なのだそうだ。

 純粋に感謝の気持ちだけならば握手はできるけど、今回みたく殴りかかろうとしたら弾かれる、って感じ。

 ……魔法ってすごいなぁ。


「ってめー! 卑怯だぞ!」

 がいんがいんと弾かれながらも、金髪にーちゃんはまだずっと殴りかかってる。

 殴り方もなんかサマになってるし、生きている頃は結構強かったんだろうか。

 そう考えると、確かに『適正者』なのかもしれない。

「卑怯もなにも、いきなり女の子に殴りかかる方がどうかしてませんか?」

「あぁ?

 てめーのどこが、女の『子』だってんd…ひっ」

 あ、ダメ!

「……何か、おっしゃいました?」

 心の底から冷えつくような、そんな声。

 普段とトーンが違うわけでもないんだけど、蛇に睨まれた蛙のように、一瞬で射すくめられてしまう。

 私は後ろからだから大丈夫だけど、あれ、目が本当にヤバイ。

 ミルティ先輩に年齢の話はしたらいけない。

 一度聞いてみた時に、『あ、私死んだな』って既に死んでる身なのに人生諦めかけたからなぁ。


「……落ち着きましたか?」

 散々暴れてスッキリしたのか、先輩に逆らうことの危険性に気がついたのか、金髪にーちゃんはおとなしく席についた。

「……悪かったな、おば……おねーさん」

 おい君!

 今おばさんて言いかけたろ!

 その辺のネタが危険なのは学習しようね!

 表情が見えないってのに、空気が凍りつく音が聞こえてきたよ……。


「俺、さ。

 こんなナリしてるせいでさ、よく色んな連中から絡まれてよ。

 つっても、雑魚ばっかりだから全部返り討ちにしてたんだけどさ。

 でもよ、そのせいで『あいつ』が攫われて!!

 だからっ、俺がどうなったって『あいつ』だけでも助けてやらなきゃいけないんだよ!!」

 『あいつ』ってのは、好きな女の子かなんかかな?

 よくある漫画とかだと、『世話焼き女房タイプの幼馴染』か『責任感の強い学級院長』あたりだろうか。

 いいなぁ……そんな青春送ってみたかったものだ。


「その辺はとりあえず後で。

 まず、このプレートに手をおいてくださいね」

「……チッ、死後の世界ってのは、やっぱりつめてーんだな……」


 そこからはいつもの流れ。

 金髪にーちゃんの情報を見て、適正スキルの選定、転生先の調整、などなど。

 当たり前だけど、先輩の仕事の流れはいつ見ても無駄がない。

 テキパキと手続きが進んでいく。

 参考になる。


 あとは転生官に引き継ぐための書類を作るだけ、って段階になって。

 ふと、『眼』で見てみよう、と思いたった。

 特に何があったわけでもないし、金髪にーちゃんの様子がおかしかったわけでもない。

 スキルも拳闘系のもので、さっきの様子からしても問題なさそうだったし、普段であれば見てみようとは思わないくらいなんだけど。

 なぜか唐突にそう思ってしまったのだ。


 『眼』に力を込める。


『近くを見るように全体を俯瞰する』


 ラビエン(もふもふ)局長のアドバイスに従って集中。

 次の瞬間、あの時のような情報の奔流が襲いかかる。

 ……でも、大丈夫だ、弥勒さまの時のような押し流される程ではない。

 とはいえ、この量は処理するだけでも大変だ。


ズキッ


 うっ、またあの頭痛……。

 左眼の奥の方が痛み、思わず眼を閉じそうになる。

 いけない! 集中が途切れてしまう。

 なんとか右だけでも、と無理やりにでも右『眼』を開く。


 あれ?

 片目を閉じたことで、入ってくる情報の量が減ったのか。

 煩雑で乱雑だった情報が見やすい。


・生まれつきの金髪、三白眼のせいで、小さい頃から周りから怖がられていたこと。

・降りかかる火の粉を振り払っていたら、いつの間にか強くなっていたこと。

・高校に入ってからはいい加減悪い連中との付き合いをやめようとしていたこと。

・けど、いわゆる番長(今どきいるんだ!)に目をつけられたせいで抜けるに抜けられなかったこと。

・拳闘系のスキルの適正が非常に高いこと。


 などなど。

 概ね本人が語った内容や翡翠のプレートが見せてくれた通りのものだった。


 目新しい情報、としては『あいつ』についてくらいかな。

 どうやら最近できた彼女みたいだ。

 ちょっとギャルっぽい感じではあるけど、意外と尽くすタイプで表情がくるくる変わる小動物みたいな可愛い子、らしい。

 お、すごい、ビジュアルまでわかる。

 あー、これはモテるだろうなぁ……。

 おっぱいも大きいし……え、逆ナンなんだ……最近の子って感じだなぁ。

 って私も5年前までは女子高生だったけど

 うちの周りはおとなしい子ばっかりだったからなー。


 なんて考えていると今度はその子の情報が入ってくる。

 え……これって……!


「はい、これで手続きはおしまい。

 この書類を持って転生官の所へ行ってね」

「あの……」

「どうしたの?

 『あいつ』がどうなったかだけでも、教えてもらうことはできないですか?」

「ああ、それくらいなら。

 えっと……」

「そ!それなら!

 無事だったみたいですよ!」

 つい割り込んでしまった。


「螢子ちゃん?

 自分の仕事はどうしたの?」

「す、すみません……」

 普通、こういう強い心残りがある場合、現世の様子をみることのできる装置(TVみたいなもの)で見せてあげるんだけど。

 ちょっと|アレを見られるわけにはいかない《・・・・・・・・・・・・・・・》。

「さらった連中も、『あなたが交通事故で死んだ』って聞いて特に乱暴するでもなく解放したみたいです。

 そこまでの外道ではなかったようですね」

「そうか……ありがとな、ねーちゃん。

 あの、おねーさんも、最初すんませんした!!」

「焦ってても女の子に手を上げちゃだめよ?

 いくら当たらないようにしてたからって」

「女の子……」

「何か?」

「いえっ!!!

 あの……はい!! 気をつけます!」

 そう言うと、最初とは打って変わったにこやかな表情で金髪にーちゃんは去っていった。


「で。

 何があったの?」

 彼が見えなくなったのを確認して、ミルティ先輩が聞いてくる。

「わざわざ割り込んでまで、TV(これ)を使わせなかったのには理由があるんでしょう?」

「はい……。

 実はですね、『眼』で、今のその『あいつ』の様子が見えてしまったんです」

「『眼』で?

 螢子ちゃんの『眼』って、そんなものも見えるのね」

「いえ、こんなの初めてです」


「ふぅむ、どうやら螢子くんの紫翡翠の眼(ラベンダーアイ)のレベルが上がっているようだねぇ」


「「局長!?」」

 一体どこから出てきたんだろう。

 いつの間にか、カウンターの上にはラビエン(もふもふ)局長が座っていた。

「び、びっくりするので、突然湧かないでください!」

「おいおいひどいな螢子くん。

 人を虫みたいに」

 人じゃなくてウサギだよね?

 て、それはいいとして。

「レベルアップ、ですか?」

「うん、そうだね。

 一般的なスキルと違って、そうそうレベルが上がるようなものでもないんだが。

 何か特別なことでもなければ……」


「あ!弥勒さま!!」

「ああ!そうね!」

「あー、そうか、それは、レベルアップしてもおかしくない、か」

 本人不在のくせに、ほんと、影響力すごいなぁ……。


いつも応援ありがとうございます。

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